もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら   作:リョーマ(S)

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81. 黄猿襲来

 

 

 

 

 

「おっおい、本屋! ホントにこっちでいいのか?」

「はい。佐倉さんからの情報では、魔法の警備システムを掻い潜るには、この階段を降りるのが一番と……」

 

 地下への入口を見つけた明日菜達は長い螺旋階段をひたすら降りていた。

 あまりの階段の長さに、道を間違えたのかと不安にもなったが、地下30階まで降りたところで終着点についた。

 

「やっと着いた!」

「ネギ先生はその先です!」

 

 のどかが降りた場所にあった通路を示し、皆は走って先を目指した。

 暗い通路を抜けると、不自然に光が射している広い空間に出る。そしてその先に人影を見つけ、明日菜達は警戒して足を止めた。

 

「あっ!」

「高畑先生!」

 

 その人影がタカミチ(と弐集院先生とその娘)だったことに気づき、彼女達は身構える。

 

「………」

「………」

 

 いつもの柔らかな表情をしているタカミチと緊張した面持ちの明日菜達。その場には今にも戦いが置きそうな張りつめた空気が流れた。

 だがそんな空気を無視するように、タカミチは「フッ」と笑みをこぼす。

 

「ネギ君がいるのは、この先だ」

「えっ!」

 

 親指で自身の後方(明日菜達の前方)を指し、タカミチは穏やかな顔で彼女達を促した。

 

「行きなさい、明日菜君」

「あっ……ありがとうございます!」

 

 タカミチが情けをかけて自分たちを通してくれるのだと理解した明日菜は、すぐに構えを解き、背筋を伸ばして頭を下げた。

 

「よっしゃー!」

「さっすが高畑せんせー!」

 

 カモとハルナに続いて、他の面々も張り付いていた緊張を解き、礼を言いながらタカミチの横を通り抜ける。

 

「……あっ」

 

 タカミチの横を通る際、明日菜は彼の顔を見て、少し表情を曇らせた。思えばタカミチと会うのは、学園祭の時にデートで別れて以来である。その別れ方も、思い返して良い気分になるものではなかった。

 そんな明日菜の暗い表情に、タカミチは彼女の頭に手を置き、軽く撫でた。

 

「がんばって」

 

 頭から手をはなされ、明日菜は思わず後ろを振り返るが、タカミチは背を向けたままだった。

 明日菜はうつむき気味に前を向き、足を進めた。

 

「あの、高畑先生……」

 

 そして面々がタカミチと弐集院達の横を通りすぎる中、最後尾にいた夕映がタカミチに声をかけた。

 

「実は私達、ここに来る途中、悪魔の実の能力者に襲われまして」

「えっ!」

 

 夕映がそう言うと、隣で聞いていた弐集院が「ホントにいたんだ……」と声を洩らした。

 

「その能力者を、委員長さんが足止めしてくれたのですが……その……」

 

 タカミチにあやかの助けを頼もうとした夕映は、次第に言葉を濁していった。本来、この場を見逃してもらうだけでも、タカミチにかなり甘えているのに、これ以上望むのは悪いと感じたからだ。

 だが、彼女の言いたいこと(あるいはその心情)を察して、タカミチは小さく頷いた。

 

「……わかった。あやかくんのことはフォローしておくよ」

「ありがとうございます!」

 

 夕映はペコリと頭を下げて、先を行く明日菜達を走って追った。

 

「良い娘たちですね」

「えぇ、自慢の(元)生徒です」

 

 明日菜達の後ろ姿が小さくなって行くのを見送り、タカミチは「さて」と身をひるがえして歩き出した。目的はもちろん、あやかのフォローだ。

 弐集院は娘を抱き上げ、タカミチの隣を歩く。

 

「しかし能力者か。ホントにいたんだね」

「うぅ……大丈夫なのぉ……」

 

 弐集院は潤んだ眼をしている娘の頭を優しくなでる。彼女を安心させるため、タカミチは「大丈夫だよ」とにこりと笑った。

 

()()()()魔法使い(ぼく)達と同じで学園を守ってきた者達だ」

「えっ!」

 

 サラッと言ったタカミチの言葉に、弐集院はキョトンとした。

 先ほど弐集院が夕映から聞いた情報は、『彼女達がここに来る途中、能力者に襲われ、それを彼女達のクラスの委員長の娘(あやか)が足止めした』というものだ。

 弐集院は、その委員長は学園の魔法使いの誰かだと、なんとなく想像していた。しかし、タカミチの言い方から、その委員長の娘も能力者とのことだ。

 

「もしかして魔法使い(僕たち)みたいに能力者も、周りにたくさんいるのかい?」

「あはは、違いますよ」

 

 不安と期待がまじった眼で訊ねる弐集院に、タカミチは小さな笑みを洩らしながら否定し、あやか達のもとへ向かう道すがら、悪魔の実の能力者について説明し始めた。

 

 

 しかし、タカミチは知らなかった。

 すでにあやかとグザンの戦闘が終わっていたことを……。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「ネギ!」

「あっ、明日菜さん!」

 

 いくつかの暗い通路を抜けた所で、ネギと明日菜たち一行は合流を果たした。

 

「ネギくーん!」

「ネギ先生ぇ!」

「木乃香さん、のどかさんも!」

「ネギくん、オコジョにならんでよかったで!」

「ネギ先生、ホントに良かったです!」

 

 無事だったネギの姿を見つけ、木乃香やのどかも笑顔と嬉し涙を浮かべる。ネギも彼女達に軽くもみくちゃにされながら彼女達の無事に安堵した。

 

「皆さん、大丈夫だったんですか、ケガとか!」

「ぜんぜん大丈夫だよ!」

 

 ハルナは笑いながら応え、最後に「途中で真っ裸にされたり凍らされたりしたけどね」と付け加えた。それを聞いたネギは「ホ、ホントに大丈夫だったんですか!」と言葉をこぼす。

 だが怪我はないとはいえ、ここまで大分迷惑をかけたのは事実だろうと、ネギは思った。

 

「す、すみません、また僕のせいでご迷惑を……!」

 

 暗い顔で頭を下げるネギに、明日菜は拳骨をコツっと振り下ろした。ネギは「あたっ!」と声をあげ、打たれた頭を擦る。

 

「またそんな言い方して。今回のことはアンタだけの問題じゃないでしょ!」

 

 申し訳なさそうにしているネギに、明日菜は「いい?」と力強く言い聞かせる。

 

「あんたは私たちのマスターで、仲間なんでしょ?」

「あ……ハイッ!」

 

 

 

 

 

 ネギと明日菜達は合流を達成し、次の目的へ向けて動き出した。時間は少し進み、今、彼等は地下通路の中を走り抜け、学園都市の中心にある世界樹の深部へ向かっている。

 

「カモ君、どうして世界樹の根っこの中心部に?」

「それは……」

「ネギ先生、これを見てください」

 

 夕映がかぶった魔法帽子のツバにのっているカモの指示のもと、一行は合流してすぐに世界樹の真下へと動き出していた。ネギは走りながら世界樹へ向かう意図を訊いたが、その質問はカモではなく千雨によって解説された。

 麻帆良大のサークル『世界樹をこよなく愛する会』のホームページには、学園祭前後の世界樹発光量観測記録データがまとめられている。その記録によると、世界樹の大発光の年は学園祭を終えても、それから7、8日間は発光が続いているらしい。

 このことから、一週間後の今でも最深部なら魔力が残っており、そこに行けばタイムマシンを使って過去に戻ることができると、カモは推察していた。

 

「カ、カモさん、見てください!」

 

 説明をしている内に、ネギ達は世界樹の根が張っている通路まで辿り着いた。樹の根は壁を這うように通路中に伸びており、ぼんやりと光を放っている。

 

「当たりだぜ、世界樹の魔力だ。兄貴、カシオペアを!」

「うん!」

 

 ネギは懐から航時機(カシオペア)を取り出した。

 盤面の針はチクチクと音を鳴らして稼働していた。

 

「動いてる! 使えるよ!」

「よっしゃあ! これで過去に戻れるぜ!」

「これで大ピンチ脱出ね!」

 

 ネギの反応を見て、カモと明日菜はグッと腕を引いた。

 

「後はあの二人を待つだけだぜ。兄貴、刹那姉さんに連絡を!」

「うん!」

 

 ネギは刹那の仮契約カードを取り出して、彼女に念話で連絡を入れた。

 あとはカモの言う通り、刹那と楓の二人と合流して、航時機(カシオペア)を使って学園祭の日まで戻るだけである。ネギの周りにいる明日菜達も、なんとかなりそうだと安堵していた。

 

「おぉ~~!」

 

 だが突然、誰のものか分からない間延びした声が響いた。その特徴的な声色から、この場にいる全員が自分達のものではないと、反射的に理解して周りに目をやった。

 すると、後方(自分達が通ってきた道)に、見知らぬ男の姿があった。男はゆったりとした動作でネギ達の方へ歩み寄ってくる。

 

「街中を探しても見つからねぇと思ったら、こんな所にいやがったのかい?」

 

 男……ボルサリーノは歩みを止め、かったるそうな顔を向けた。

 

「誰、あの渋くてヤバそうなおじさん!」

「また追っ手か!」

 

 明日菜とハルナが声を上げる。周りの木乃香や夕映たちも似た感想を抱いていた。

 黄色いジャケットに白いロングコート、茶色の色つきグラス、そしてボルサリーノのただならぬ雰囲気に、ネギ達は警戒心を強めた。麻帆良学園にも神多羅木先生のような全身黒ずくめの教師は何人かいるが、彼らとは違い、ボルサリーノから感じる雰囲気は危ない“何か”を含んでいるように感じた。

 

「あなたは……?」

 

 学園の教師ではないと感覚で理解したネギは、ボルサリーノに訊ねる。

 

「お前さん、ネギ・スプリングフィールドだよねェ~~?」

 

 だが、ボルサリーノはネギの質問にまったく耳を傾けず、まっすぐネギへ眼を向ける。

 

「こんな所で何やってんのか知らねぇけどねェ……とりあえずアンタら、わっしと来てもらうよォ」

 

 ボルサリーノの垂れ下がった眼は、ネギだけでなく周りの明日菜達の姿も捉えた。

 

(この男、()()()アルネ……!)

 

 それぞれが身構える中、見聞色の覇気を使える古菲(クーフェイ)がボルサリーノの強さを感じとり、額に汗を浮かべていた。

 

「皆さん、走ってください!」

 

 少しでも時間を稼ぐため、ネギは皆に指示を出して、さらに世界樹の深部へ走らせる。

 

「ったく、あと少しだってのに!」

「ネギ先生、早く刹那さん達を!」

「はい!」

 

 ボルサリーノとある程度距離を取った所で、ネギは仮契約カードの召喚魔法を使い、刹那を呼び出した。その間にも、明日菜達は走り続け、地下通路の奥へと向かう。

 

「おぉ~~!」

「なっ!」

「えっ?」

 

 だが急に、先頭を走っていた千雨とのどかが足を止めた。

 

「ネギ先生!」

 

 召喚を終え、魔方陣の中から刹那が現れた。

 

「刹那さん。召喚していきなりで申し訳ないですが、とにかく今は……!」

 

 走ってください、そう刹那に告げようとしたネギだったが、向かう先へ眼を向けた途端、そこにあった光景に彼は思わず絶句した。

 

「なんで!」

「いつの間に……!」

 

 先頭にいる千雨とのどか、最後尾にいるネギ、その間にいる明日菜や夕映達と、召喚されたばかりの刹那を除く全員が、目の前の状況に眼を疑った。

 

「……あの人は?」

 

 刹那は千雨とのどかの()()()()ボルサリーノを見ながら訊ねたが、ネギにその質問に応える余裕は無かった。

 すぐにネギは後ろを振り返ったが、そこには先ほどまであったボルサリーノの姿はない。どうやらボルサリーノは瞬時にネギ達を追い越して移動したらしい。だが、その場にいた全員がどうやってボルサリーノが自分達の前に移動したのか理解することができなかった。

 

「わっしは、鬼ごっこしてる暇はないんでねェ……」

 

 感情の読めないのんびりとした言動やいま起きた瞬間移動など、得たいの知れないボルサリーノに、彼女達は驚愕、恐怖した。

 そんな中でも、古菲は千雨とのどかを守るように前に立って身構えた。

 

「あくまでも抵抗するってんなら、アンタら……」

 

 ボルサリーノはポケットから手を出して、インターホンでも押すような動きで、人差し指を前につき出した。

 

「覚悟するんだねェ」

 

 すると彼の指先がまばゆい光を放つ。その光量は並みのものではなく、まるでサーチライトで照らしたかのようであった。

 

「うわっ!」

「眩しッ!」

 

 ボルサリーノを見ていた全員が揃って手をかざして顔を背けた。

 

(“光”……?)

 

 不意な目眩ましであったが、戦い慣れているネギや刹那、古菲は、眼が眩む光の中でも戦闘態勢を取っていた。ネギは魔法を発動するため「ラステル・マスキル」と始動キーを唱える。

 

「そうは行かないよォ~~」

「えッ!」

 

 しかし突然、すぐ真横からボルサリーノの声が聴こえ、ネギは身体が吹き飛ぶようなショックを()()()受ける。

 

「速度は“重さ”……“光”の速度で蹴られたことはあるかい」

 

 そうボルサリーノが言った後、一瞬の時間を感じさせる間もなく、大きな閃光と共に何かが爆発したような物音が鳴った。

 

「……えッ!」

「な!」

 

 ネギ以外の面々は、一拍遅れて異変に気がついた。通路の壁は瓦礫となって崩れ落ち、辺りに土煙が舞っている。壊れた壁の下では、傷ついたネギが倒れ込んでいた。

 

「ネギ君ッ!」

「ネギ先生ッ!」

「なっ! 一体、いま何を……!」

「どーなってんだ、こりゃあ!」

 

 木乃香とのどかは揃って声を上げ、カモと千雨は何が起きたか分からないことに恐怖し、困惑した声を洩らした。

 

「ネギ先生、大丈夫ですか!」

「な、なんとか。けど、いまのは、一体……!」

 

 駆け寄ってきた刹那に無事であることを示すが、ネギは壊れたブリキ人形のような動きで立ち上がった。

 

「おやァ、おかしいねェ……」

 

 ボルサリーノはネギが(痛みに耐えながらも)意識を保って立ち上がったことに首をかしげるが、すぐに「小癪にも結界張ったかねぇ」と、その理由を察した。

 

「ガキのくせにその反応速度……腐っても“英雄の息子”ってわけかい」

 

 感嘆とイラつきがまじった声色で言いながら、ボルサリーノは口元を歪めた。そしてその横では、傷ついたネギを助けようと、明日菜がボルサリーノとの間合いをつめていた。それに助太刀すべく、ネギの無事を確認した刹那も剣を抜いた。

 ボルサリーノは防御はおろか、向かってくる二人に意識さえせず、そのまま立ったままだった。

 

「たぁーーッ!」

「神鳴流奥義、斬空閃!」

 

 明日菜はハリセン状態のアーティファクトを、刹那は自身の剣を振った。

 

「えぇ!」

「なにッ!」

 

 二人は自身の武器がボルサリーノの身体を()()()()()ことに眼を見開く。すぐに二連、三連と攻撃を繰り返したが、その攻撃がボルサリーノに身体を捉えることはなかった。

 

「あ、当たらない! なんでッ!」

 

 明日菜は諦めずハリセンを振るが、当のボルサリーノは「無駄だよォ~~」と、驚く二人を嘲笑うように口角を上げた。

 

「わっしはピカピカの実の“光人間”、自然系(ロギア)だからね」

「この人!」

「悪魔の実の……!」

 

 ボルサリーノが悪魔の実の能力者だと理解したのもつかの間、ボルサリーノは膝を上げて明日菜へ体を向けた。長身のボルサリーノが上げた足は、まるでそのまま目の前の彼女を踏みつけるかのようである。

 

「明日菜さん!」

 

 ネギは『逃げてください』という意味を含めて明日菜の名前を呼んだ。ボルサリーノが上げた足は光を放ち、今にも明日菜を仕留めに掛かるようであった。

 

「命を取るつもりはなかったが、こうも生意気に抵抗されちゃ、仕方ないよねェ」

「……!」

 

 ゾクッとした悪寒を感じながら、ゆっくりとボルサリーノの光る足が動くのを、明日菜は黙って見ていることしか出来なかった。

 光が増し、明日菜が蹴り飛ばされると思われた……その直前、二人の間に影が過った。

 踏み下ろされたボルサリーノの足は、その影の存在によって軌道を変え、あらぬ方向へ振り払われた。

 ボルサリーノの足が振り払われた方向は、ネギ達が通ってきた地下通路の先。その先にレーザービームが発射され、光の筋が走った先では大きな爆炎が広がった。

 

「あ~~ん?」

 

 突然現れた人物と、その人物らに自然系(ロギア)である自身の身体に触れられたことに、ボルサリーノは眉を歪めた。

 

「なんだァ、お前らァ……?」

 

 ボルサリーノは怪訝な顔で、明日菜との間に立ちふさがった二人を見下ろした。

 

「「悪友(ダチ)ッッ!」」

 

 そこには、全身火傷を負った総一と全身凍傷を負ったあやかの姿があった。

 

 

 

 

 

 TO BE CONTINUED ...

 

 

 

 

 

もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?

  • ネギ・スプリングフィールド
  • 神楽坂 明日菜
  • 雪広 あやか
  • エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
  • 超 鈴音

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