もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
新章突入!
前回の更新からだいぶ間が空きましたが、これから章完結まで突っ走って行きますよぉ!
それでは、
学園祭編最終章、始まります。
83. 作戦会議
学園祭3日目、午前。最終日とあって、大通りで行われているパレードは大いに盛り上がっていた。
遠くからでも聴こえる歓声や音楽を聞き流しながら、総一は告白阻止のパトロールに参加していた。
「告白する人、多すぎ……」
学祭のラストチャンスとあって、一日目や二日目と違い、昼間からひっきりなしに告白する者が現れる。その数、3分に一人から二人くらいのペースで、総一はその多さに嫌気がさし、もし超が何もせず夜になっていたら、どれくらいの頻度になるのかと想像して、ため息をついた。
ーープルプルプルプルプル
そんな最中、総一のケータイに着信が入った。すると、総一はまるで待っていたかのような反応を見せ、すぐにポケットにいれていたケータイを取り出した。
「……来たか」
画面に表示された“明日菜”の名前を見て、総一は『待ってました』というようにニヤリと笑った。
☆☆☆
「あっ!」
「あら!」
総一が明日菜から呼び出されて向かった場所は、図書室だった。図書関係のイベントは図書館島で行われているため、図書室とその周辺には、ほとんど人気がない。
そして図書室へ向かう道中、総一は校舎の入口であやかとばったり会った。
「お前も呼ばれたのか?」
「えぇ。明日菜さんから、大至急きて欲しいと。クラスの出し物もありましたので断ろうかとも思いましたが、ただ事ではないようでしたので、仕方なく来てあげましたわ」
あやかはコウモリの羽を模したカチューシャとドレスを身につけていた。おそらくクラスの出し物で使っている衣装だろう。
「その口振りから加賀美さんも呼ばれたようですわね。何か聞いていまして?」
「……いや、あんまり」
原作知識で、ある程度の事情を知っている総一だが、明日菜は詳しい説明をしなかった。『手伝って欲しいから図書室に来て』と、そんな感じの呼び出しだった。
「けど、どうやら緊急事態らしい。はやく行こう」
「えぇ」
そうして、総一とあやかは共に図書室へと向かった。
その後、二人は図書室へ入り、明日菜達と合流した。
「ネギせんせえェェェェーーーーッ!」
合流早々、あやかは図書室のソファーで横になっている満身創痍なネギを見つけて、絶叫した。
「なんとお痛わしいお姿にぃ。一体誰がこんなことを! 許せませんわ許せませんわッ!」
「落ち着けよ……」
「これが落ち着いてられますか! ネギ先生がこんな、こんなぁ……!」
涙目になってるあやかに対して、総一は冷めた声をかけるが、彼女は更に声を張り上げた。
「まったく……それで、何があった?」
ため息をついて、そのまま総一はその場にいた面々に顔を向けた。
いま、この図書室にいるのは、総一とあやかとソファーにいるネギを除くと、明日菜とカモ、木乃香、刹那、のどか、ハルナ、夕映、古菲、楓、千雨の九人と一匹だ。のどかとハルナ、夕映、千雨は、隅の方で何やらパソコンを使って作業をしている。
「説明は俺っちがするぜ!」
総一の前に出て来て、カモは自分達が超の手によって学園祭後の未来に跳ばされたことと、総一達が来るまでにネギが立案した超の計画を阻止する作戦を話し始めた。
その作戦とは、最終日に予定されていたイベントを使って、学園の生徒達を協力してもらい、超が率いるロボット軍団と戦わせ、そして生徒がロボットを引き留めて強制認識魔法の発動を食い止めている間に、超を押さえ、計画を阻止するというものだ。
「……なるほどねぇ」
総一はカモの話を聞き終えて深く頷いた。話を聞いた限り、大方、総一の“原作知識”とネギ達の行動に違いは無かった。
「随分と大胆な作戦だな」
「あぁ。けどこんくらいしなきゃ、あの超のヤツは出し抜けねぇ。そしてこの作戦には、雪広コンツェルンの協力が必要だ。だから、委員長の嬢ちゃんにはイベント運営側となんとか交渉して欲しいのさぁ」
そこでカモは話を区切る。だが、当のあやかからはまったく返事が無かった。
「……委員長?」
不思議に思い、明日菜達はあやかを見る。
「ネーギー先生ぇーー!」
「「話を聞けェーー!」」
まったく話に参加していなかったあやかに、明日菜と総一は揃って大声を上げた。
そんなボケとツッコミをはさみながらも、話は続いた。
「まぁ、ロボット軍団は、この作戦で食い止めるとして、問題はそれだけじゃねぇ」
「というと?」
「龍宮隊長と茶々丸もだが、一番の問題は超の持ってる“力”についてだ!」
総一は「力?」と首を傾けると同時に、
「現時点で俺達が把握してる超の“力”は、2つ」
「……2つ?」
小さな指を2本立てているカモを見ながら、『
「一つは兄貴がなんとかしてくれるみてぇだが、もう一つは、俺達には専門外でどうにもできねぇ。そこで兄ちゃんの協力が必要ってわけだ」
「協力って……えっ、その“力”ってまさか!」
「“悪魔の実の能力”だ」
カモの応えに、総一の眼が大きく見開かれた。
「なっ、超のヤツが能力者!」
「あぁ。ちなみに、過去の兄ちゃんは
「……マジで?」
「未来の委員長の嬢ちゃん、それにタカミチから得た情報だ。間違いねぇ。詳しいことは、コイツに書いてあんぜ」
カモは「見てくれ」と総一へ一枚の紙を渡した。その紙は巻物のように巻かれていたのか筒状に皺ができていた。
「何だこれ?」
「未来で委員長の嬢ちゃんがくれた手紙だ。そこに学園祭最終日についてと超の能力について書いてある」
総一は紙を広げて中身に眼を通していった。あやかが書いたのだろう、中身はすべて綺麗な手書き文字で書かれてある。
そして紙の前半には最終日にあった出来事と結末についてが簡単に書かれてあった。その記述は、さして総一が想定していたものと違いはなかった。唯一違うとしたら自分とタカミチが戦って超に敗けたことだろう。敗北すること自体は、想定していなかった訳ではないが、自分が一週間寝込むほどの重傷を負うというのは、総一にとって想定外だった。
「ふーん、タカミチと俺で超を止めにかかって敗けた、と。そんで……ナぁッ!」
やがて、超の悪魔の実の能力についての記述に差し掛かり、総一は大きな声を上げて身動きを止めた。
急な彼の短い絶叫に、周りにいたもの達は皆、ピクリと反応して彼へ眼を向けた。
「急にどうしたの……って、なんて顔してんのよアンタ!」
明日菜が見た総一の顔は、まるで空島の自称神がゴム人間を見たかのようだった。
(……お、おいおい、冗談だろ!)
紙に記述された内容、それは超の能力が悪魔の実の中でも最強と言っていい
「その顔から察するに、そこに書いてある能力については知ってるみてぇーだな。兄貴が聞いたタカミチの話では、超のヤツは上級クラスの雷魔法を無詠唱でぶっぱなすほどの能力を持ってるみてぇだ……」
「しかも、通常の物理攻撃は当たらないし、スピードは雷速級。唯一対処できるのは、雷魔法を使える魔法使いと覇気使いだけ。おまけに格闘技に優れていて、そんで頭は天才とか…………無敵かコイツ」
カモの言葉に続けて、総一は超のデタラメさを口にした。
時間跳躍だけでも厄介なのに、ゴロゴロの実の能力を持っているとなると、勝機は絶望的だ。
「まったく……修学旅行といい、なんで大きなイベントがあると、“ラスボス級の奴”が敵になるのかね……」
修学旅行では“鷹の目”の剣士と戦って、そして学園祭では、“ゴロゴロの実”の能力を持って時間移動を使う天才と戦う……まさに、ゲームで各ステージを進めるごとに、ラスボスと同等の力を持った中ボスと戦ってる気分だと、総一は辟易した。
(原作知識があるから、逆に敵のデタラメさが分かってツラい……こっちでコレだと、
「んで、兄ちゃん、何か策はあるか?」
これからの事を考えて現実逃避をしていた総一は、カモに声をかけられて、意識を現実に戻す。
「策って、こんなチート能力者の対抗策なんて、そんなすぐにポンポン出てこねぇよ!」
「時間がねぇんだ、頼む!」
ネギが考えた学園防衛作戦の要は、超を止められるか否かだ。いくら学園の生徒がロボット軍団を足止めしてネギが“時間跳躍”の能力で超に対抗できても、悪魔の実の能力で押しきられたら意味がない。
「…………あぁぁッたく!」
それを理解している総一であるが、事の難解さに苛立ちを覚えて、頭をガシガシと掻く。
「まず、学園長のところに行って、“海楼石”の錠をあるだけもらってこよう。その間に“和泉”を連れてきて、ネギ君の“治療”をさせる……」
「海楼石?」
「和泉さんを?」
「治療?」
明日菜、刹那、木乃香が順番に首を傾けたが、総一は話を続ける。無視していたわけではないが考えながら話をしていたため、総一には彼女たちの反応を気にしている余裕がなかった。
「青藤先輩にも“全力で”協力してもらおう。悪魔の実の能力者だからなんだとか言ってられる状況じゃねぇーし。エヴァさんにも……って、あの人は超が手を回してるんだっけか」
総一は奥歯を噛んで大きく舌打ちした。
「仕方ない、エヴァさんは諦めるとして……作戦が始まってからは、超が出てくるまでにロボットを壊せるだけ壊す。超が表に出てきたら俺たちで超たちを押さえる。龍宮と茶々丸さんは無視。最悪、超は足止めできればいい。けど葉加瀬は絶対拘束する。超が出てくる場所は」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
いい加減、総一の殴り書きしているような話についていけなくなり、明日菜が大きな声で総一の話を止めた。
「一人で話どんどん進めてないで、私たちにも分かるように説明しなさいよ!」
「あ、あぁ、悪い……」
明日菜に声を掛けられたことで、周りを置いて一人考えにのめり込んでいたことに気がついた総一は、内心にある焦りと苛立ちを隅に置き、大きく息を吸って徐々に落ち着きを取り戻す。
「まず、海楼石って何?」
「海楼石ってのは、海の力を封じ込めた鉱石のことだ。それを使えば悪魔の実の能力者を無力化することができる。能力者が麻帆良学園で悪事を働かせた時に備えて、学園長がその海楼石でできた手錠をいくつか持ってるんだよ」
「じゃあ、その手錠を使えばよォ、超鈴音のヤツを捕らえられるってことか!」
「あぁ」
それを聞いて「マジでか!」とカモだけでなく、明日菜達も驚いた。
「けど、手に錠をつけるには、かなりの隙をつくらないと無理だ。だから、これを用意したからといって、超を止められるわけじゃない」
超はゴロゴロの実の能力だけでなく
(海楼石の手錠を使うとしたら、ネギ君が
ここでふと、総一はあることに疑問を持った。
(そういえば……なんで超のヤツはゴロゴロの実の能力を隠してたんだ? “魔法”と違って能力を使うのにデメリットなんてないだろうに……)
「では、和泉さんを連れてくるというのは……?」
刹那に話を振られ、総一はふと沸いた疑問を一度よそにやって「あっ、あぁ!」と話を続けた。
「和泉を連れてくるってのは、和泉の能力でネギ君の治療をさせようってことだ」
「怪我なら、ウチが治すぇ?」
総一の説明を聞いて、木乃香が自身の仮契約カードを取り出しながら言った。加えて、府に落ちていないような顔をしたカモが総一を見る。
「兄ちゃん、兄貴が休んでんのは長時間の時間跳躍のせいで魔力を使い果たしちまったせいであって、怪我してるわけじゃねぇぞ? 半日も寝てりゃマシになるはずだ」
「全快にはならねぇだろ。それに治すのは、“怪我”じゃない。ネギ君の“疲労”だ」
イマイチ話が掴めず、周りの面々はそろって首をかしげる。一同の声を代表するようにカモが「どういう意味だ?」と訊ねた。
「魔法による治癒能力は、物理的な身体の怪我を治すことはできるけど、内側にたまった疲労を回復することまではできない。けどホルホルの実の能力は、人の身体を内側から変える能力だ。だから身体の内にある“疲労”も取り除くことができるはずだ。それをやって上手くいけば、ネギ君の失った魔力の回復も早まるかもしれない」
総一の説明を聞いて、今度はカモは納得した顔でコクコクと頷く。
「なるほどな。それで兄貴の魔力が戻りゃ超の計画を阻止する可能性も上がるってわけだな!」
「あぁ、それで海楼石の手錠をネギ君に隠し持ってもらえば、超のヤツにも少しは対抗できるだろう……」
原作知識から考えると、超との戦いの勝敗はネギ君の“覚悟”の問題が大きい。だが超が能力者であることが判明した今となっては、もはや勝敗の決め手は、それだけではなくなった。
総一は、現状でやれる最善の限りを尽くし、超に対抗するつもりで動き出した。
「とりあえず、ネギ君の作戦を聞く限り、この後だれかが学園長に報告やら交渉やらしに行くんだろ?」
「はい、私とお嬢様とカモさんで行こうかと……」
「じゃあ、その時に学園長から海楼石の錠をもらってきてくれ」
総一の指示に断る理由もなく、刹那は「分かりました」と了承した。
「そんで、雪広」
次の指示を出そうとして総一が目を移すと、その先では、あやかは「ネギ先生ぇぇ!」と声をあげて、わんわん泣いていた。
「……はダメだなありゃ。じゃあ
「了解アルネ!」
(青藤先輩の協力は、俺が頼むか……。魔法使いの先生たち全員が動く手前、協力してくれるか微妙だけど……相手が相手だし、たぶん協力してくれるだろう)
青藤……クザンの助力を期待して半ば確信している総一だったが、同時に懸念していることもあった。
(超を止めるのに、悪魔の実の能力は不可欠だ。この際、麻帆良の魔法使いに悪魔の実の存在がバレるのもやむを得ないと考えるべきだな……けど、その場合、下手をすれば能力者は“本国”送り……いやそれは別にいいけど、問題はどうやって雪広と和泉に巻き込まないようにするかだな。方法は終わってから考えよう……)
魔法使いにとって悪魔の実の存在は秘匿が原則である。能力者が見つかって悪事を働いた場合、その能力者は魔法世界の監獄に送られる。
総一やあやか達の場合は、その存在を知っている魔法使いが限定されているのと学園長とクザンの手助けがあったため、なんとかなっていたが、麻帆良学園の魔法使い全員に知られるとなれば、どういう処分を受けるのかは前例がなく想像がつかない。
総一は、この作戦が終わった後、自分が魔法世界に強制連行されることも覚悟していた。
「………」
「ん?」
ふと視線を感じて総一が顔を向けると、普段能天気な明日菜が珍しく、もの哀しげな暗い表情で彼を見ていた。彼女には、今の総一の表情が未来で怪我をしていた総一と重なって見えていた。
「……なんだよ?」
「えッ! べ、別にぃ!」
総一が声をかけると、明日菜はプイっと顔を背ける。
「アンタもネギみたいに、無理すんじゃないわよ!」
「えっ? あ、あぁ!」
珍しく自分を気にかけるような明日菜の言葉に、総一は一瞬戸惑いと違和感を感じるのだった。
☆☆☆
「おい! いい加減、委員長のヤツなんとかしろよ。アイツがイベント運営側に交渉してくれなきゃ計画が進まねぇだろ!」
千雨は親指であやかを指して、半ばイラついた口調で言う。
まるで病院のベッドで寝ている患者に親族が寄り添って泣き崩れるように、いまだあやかはネギのそばを放れていない。
「「……はぁ」」
そんな彼女を見ながら、総一と明日菜は揃って大きなため息を溢した。
「ネギ先生ぇぇ!」
TO BE CONTINUED ...
よろしければ、是非こちらの小説も読んでみてください。
『エスパー少年とオカルト少女』
https://syosetu.org/novel/191017/
こちらは『いちゃラブ』メインで書いております。
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