もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
――七年前。
「では、皆さん。今日は隣に座っている人の似顔絵を描いてもらいます。机を移動させて、それぞれ向かい合って描いてくださいねぇー」
『『はぁーーい!!』』
美術の時間。
先生に言われ、教室にいる生徒達は机の配置を変え、それぞれ画板を持ち、隣の人の似顔絵を描き始めた。ある女子生徒は相手の顔と自分の絵を見ながら一生懸命相手を模写し、又ある男子生徒は自分や隣の友達の描いた絵を見てケラケラ笑っている。小学生という事もあり、生徒一人一人がそれぞれ個性豊かに絵を描いていく。
そんな中、無表情なツインテールの女の子と優雅な雰囲気を持つ金髪の女の子、黒い髪の女の子と男の子の四人もお互いの相手を見ながら、自分の持っている画用紙に相手の似顔絵を描いていた。
「ちょっと、アスナさん! 動かないでくれますこと」
「……無理」
「あぁー!! 総君、ズレてもうた」
「え? あぁ、悪い」
四人はそれぞれ言い合いながらも、絵を少しずつ仕上げていく。
「……できた」
四人の中で先に絵を完成させたのは、ベルの髪留めを付けた明日菜だった。
「む、早いですわね。ちょっと見せてください」
「……はい」
明日菜が絵を早く描き終らせたのに、彼女とペアであるあやかは疑問を持ち、明日菜に絵を見せるように言った。言われた明日菜は見せるかどうか少し考えたが、渋々見せることにした。
「どれどれ……アスナさん、何ですの、これ?」
明日菜の描いた絵を見て、あやかは思わず固まり、頬を引きつらせた。
隣でその顔を見た木乃香と総一はどんな絵を描いたのかとあやかの持っている明日菜の絵を覗き見た。
「なんや、これ?」
「うわぁぁぁ」
絵を見た木乃香はあやか同様、何を描いたのかと疑問を持ち、総一は絵を見て純粋にドン引きした。彼の場合、次に明日菜が言うセリフを察し、この後どうなるかわかった為、それを考えて顔を引きつらせていた。
「……アンタ」
「なっ!! ここここ、これのどこが私ですか!?」
その絵は、輪郭はぐちゃぐちゃで、髪は適当、顔の大きさの割に体は小さく、何故か足先まで描いてあった。しかも、隅の方には、矢印の下に『いいんちょ』と書かれており、目はつり上がり、口の先からは火が描かれ、まるで火を吹いているようだった。
「……なによ、文句あんの?」
「大ありですわ! これのどこが私ですの!?」
「そっくりじゃん」
「ムキャーー! このおサル女!!」
明日菜の言葉に、ついにあやかはキレた。そして、ポカポカと殴りかかり、またいつもの喧嘩が始まった。
「あぁ~あ、また始まった」
「なはは、懲りひんなぁ。アスナもいいんちょも」
総一と木乃香はヤレヤレといった表情で、二人を見た。
二人が呆れてる中、明日菜とあやかの喧嘩は徐々にヒートアップし、傍にある鉛筆や消しゴムなどを投げ始めた。
「おいおい、物投げるのは流石にいかんでしょ……、おい、お二人さん。いい加減にし――グッ!」
二人を止めようと近づいた総一であったが、その制止の言葉は飛んできた画板によって遮られた。
「「あっ」」
二人の声が重なり、動きが止まった。画板を投げた明日菜に至っては、投げたポーズのまま止まっている。
「………」
「………」
「………」
「………」
四人の間に、しばらく静寂が流れた。
「……ウガァーーーーーッ!!」
静寂を破ったのは、総一だった。
「ヤルカゴラーーーーッ!!」
「ちょっと、アスナさん! なに無関係の人までまきこんでますの!?」
「わざとじゃないわよ、そこに立ってたソイツが悪いのよ」
こうして、総一が加わり、三人の殴り合いとなってしまった。
先生が止めに入るまで、この喧嘩が終息することはなかった。
☆☆☆
時が過ぎ、学園が春休みとなってしばらく経ったある日。総一は教会周りの掃除をしていた。
なぜ彼がこの教会の掃除をしているかというと、彼の保護者がこの教会のシスターだからだ。
保護者といっても、彼とそのシスターに血縁関係はない上、言うほど歳も離れてない。実際に総一を保護しているのは麻帆良学園の長、かつ東の魔法組織“関東魔法協会”の会長、近衛 近右衛門である。よってその人物は保護者というより、教育係といった方がしっくり来る。
何故その人と総一がそういう関係になっているかというと、総一がこの教会で捨てられていたのを見つけたのが、その人だったからだ。
しかし、総一にその時の記憶がない故、正しくは『捨てられていたらしい』である。
彼が初めて転生についての事を思い出したのは、三歳の頃、ひどい高熱を出して倒れた時のことである。
つまり、それ以前については記憶がない為、拾われた時の記憶もないければ、捨てられた理由も、彼は覚えていない。
学園長とエヴァンジェリンは捨てた理由について、『悪魔の実を口にしたせいで一般人である親が気味悪がり、捨てたのではないか』と推測しているが、それを確かめる方法はない。
――話は戻り、総一は箒でアスファルトを掃いていた。
「“天使”が教会の掃除をするとは、如何なモノか……」
「総一」
ふと名前を呼ばれ、総一は声のした教会の入口の方を向いた。そこには褐色肌で銀髪ショートカットのシスター少女、総一の保護者であるシャークティが立っていた。
「そろそろ時間です。終わって良いですよ」
「了解」
総一は返事をすると、集めたゴミを捨て、掃除道具を片付ける為、教会の中に入った。
「総一。最近、学校ではどうですか?」
「まぁ、大丈夫です。友達とも仲良く(?)やってますよ」
「そうですか。それを聞いて安心です……後、敬語は使わないように言いましたよね?」
「ん? あぁ! すみま――えぇーと、ごめんなさい?」
「よろしい……。ふふふ」
総一の慌てた姿を見て、シャークティは思わず笑みを浮かべた。
シスターシャークティ。現在、彼女は麻帆良学園中等部に通っている中学二年生である。
(中学生にして、こんな大人の雰囲気を醸し出すってのはどうなんだ? てか、今、中学生って事は、つまり、原作ではシャークティさんは二十代前半? ……まぁいいや、女性の歳については詳しく考えないでおこう……美人には変わりないし)
「今、何か変な事考えませんでした?」
「え? 別になにも……」
勘の良いシャークティは総一が何を考えているのかと疑問を抱くが、総一は適当に誤魔化した。
「失礼します」
掃除道具の片付けが終わり、二人して帰ろうとすると、教会の出入口が開き、一人の青年が入って来た。
「タカミチさん」
「やぁ」
青年――タカミチ・T・高畑さんは名前を呼ばれ、シャークティに挨拶をした。
「何か御用ですか?」
「あぁ、ちょっと事情があってね。彼を借りても良いかな?」
タカミチは総一を見た。
「えぇ、構いませんけど、何かあったのですか?」
「あぁ、ちょっとね。悪いけど、これは極秘のことだから安易に話せないんだ」
タカミチの言葉を聞き、シャークティの表情が真剣なものとなった。
「まさか、“アレ”が絡んでるのですか?」
「………」
タカミチの返事は無言だった。
正解という事だろう。
「わかりました。行きましょう」
「総一!」
総一が即答で了承すると、シャークティは声を上げた。
「なにがあったか知らないですけど、俺の力が必要なんでしょ? それに結構重大な事みたいですし」
「………」
タカミチは否定しなかった。
「貴方はまたそうやって安請け合いして!」
「ははは、こういう性格なんですよ」
本気で心配してくれているシャークティに総一は笑って答えた。
「……はぁ、全く」
少し間を空けて、シャークティは呆れ顔で総一の方を向いた。
「分かりました。けど総一、決して無茶はしないでください」
シャークティは膝をつき、目線の高さを総一と合わせ、彼の眼を見つめた。
「了解」
総一は彼女の眼を真っ直ぐ見据えて答えた。
「よろしい。貴方に神の御加護があらんことを」
そう言いながら、シャークティは総一の頭を撫でた。
(相変わらず、恥ずかしいんだけどなぁ、これ)
うっすらと頬を赤く染め、総一はそう思った。
☆☆☆
日が落ちて、空が夕暮れのオレンジ色に染まった頃。
総一がタカミチに連れられ、着いた先は女子中等部にある学園長室であった。
「学園長、加賀美君を連れてきました」
「うむ、御苦労」
自分のデスクに腰を置き、窓の外を見ていた学園長はタカミチと総一が入ってくると、椅子を回転させ、二人の方を向いた。そのデスクの前にある、テーブルを挟んで向き合ったソファには、既に二人の生徒が座っている。
「……やっときたか」
一人は、この麻帆良学園の中等部に、嫌々ながら八年ほど通い続けている“
「これで、全員揃ったな」
もう一人は、最近、能力者となり、色々あってアメリカから麻帆良学園に留学してきた青藤礼司。彼は初等部の高学年生でありながらも、その雰囲気は既に中等部……いや、高等部の生徒のようであった。アメリカから留学してきたのに、名前が日本人な所を考えると、“青藤礼司”というのは、偽名なのかもしれないというのが、総一の推察だ。しかし、本人が礼司にそのことを訊いても「まぁ……その、あれだ……忘れた」といって誤魔化すばかりなので、真偽は定かでない。
そんな二人は向き合ってソファに座っているため、総一はエヴァさんの横に、タカミチは礼司の横にそれぞれ座った。
「ふむ、“時間が惜しい”。早速話すとするかのう」
学園長は咳払いし、口を開いた。
「実は先程、厄介な事が起こっての。このメンバーを見て、四人とも分かると思うが、それに“悪魔の実”が関わっておる」
学園長は、いつもの穏和な口調とは異なり、冷静な物言いで話した。
「発端は、つい昨日の事じゃ。一つの犯罪組織が、ここ、日本の関東地区に浸入してのぅ、
話を区切り、学園長は一枚の手配書を取り出した。
「そして、その組織を指揮している頭目が十五万ドルの賞金首、自称バラバラの実の能力者、“バギー”という男じゃ」
「グフッ」
学園長が出した名前と手配書の写真を見て、総一はかなり動揺した。その手配書には、丸い赤鼻でピエロのような男が写っている。
「どうかしたのかい?」
いきなりふき出した総一を見て、タカミチは訊ねる。
「ぃ、いえ。ぢょっと、
総一は咳払いをする事でその場を誤魔化した。
「この男がどこからか関東に悪魔の実があることを知ったようでのぅ。組織はその実を手に入れる為にやって来たようじゃ」
学園長は手に持った手配書を礼司へと渡した。
「悪魔の実をねぇ。組織を率いてやって来た上に、能力者と謳ってるだけあって、実が実在してるってのは知ってるわけかい。んで、そいつ等が狙ってる悪魔の実は、どこにあんだ?」
礼司の言葉を聞き、学園長は自分の座っているデスクの引き出しを開けた。
「その悪魔の実は、今、“ここ”にある」
そう言って、学園長は引き出しの中から、一つの白く丸いモノを取り出した。それはソフトボール位の大きさがあり、表面はやや濁ったような白色の唐草模様で、所々が光を反射してキラキラと輝いていた。その輝きは、まるでダイヤモンドダストを連想させる。
「「なッ!!」」
「ッ!」
「………」
総一とタカミチは学園長の持つ“ソレ”を見て驚愕し、礼司は動揺しないまでも目を見開いて驚き、エヴァは珍しい物を見る目で見ていた。
「……おい、ジジィ。いつの間にそんなものを?」
“ソレ”は、この世に二つとない白い果実。紛れもない悪魔の実であった。
「これを持っておったのはとある財閥の社長での。今まで、こういう果実の形をした彫刻の置物だと思っておった。ワシは今回これを連中が狙っていると聞いて譲って貰い、ここに持ってきたのじゃ」
学園長は「当然、その時に記憶は処理したがの」と、それをデスクに置いた。
「しかし、それがここにあるなら、何も問題ないのでは? 犯罪組織がその実を狙っていて、この学園を襲ったとしても、麻帆良の魔法使い達で対処できるでしょうし、“本国”の専門機関に要請すれば、能力者に対処できる魔法使いも此方に来てくれるはずです」
学園長の言葉を聞き、タカミチは自分の意見を述べた。
多く魔法使いにとって、悪魔の実は昔話に出てくる架空の果実という認識だが、実在を知る者がいないわけではなく、“本国”にも能力者を逮捕、裁く機関は――秘匿ではあるが――ある。
「ふむ。確かにのぅ。けど、今回そんなに悠長に出来んのじゃ」
「どうしてですか?」
眉間に皺を寄せなから、苦い顔をしている学園長に、タカミチが理由を訊ねた。
「この実を所持しておったのはとある財閥の社長と言ったが、実を手に入れる為に先方がその財閥の令嬢を誘拐したのじゃ。先方は娘を返して欲しければ、今日の午後九時に悪魔の実を学園都市外にある廃工場に持ってくるよう要求しておる」
誘拐という言葉を聞き、男三人の顔つきは厳しくなり、一時、室内が静寂に包まれた。
「……学園長」
そんな中、総一が口を開き、学園長に向けて鋭い視線を向けた。
「まさか、その財閥って……」
学園長は総一の言うことを察して「そうじゃ」と、重い口を開いた。
「誘拐されたのは、雪広財閥の次女、“雪広あやか”君じゃ」
TO BE CONTINUED ...
ホントは、バギーじゃなくオリキャラ悪党にするつもりだったんだけど、やめました。
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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ネギ・スプリングフィールド
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神楽坂 明日菜
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