もしもネギま!の世界に悪魔の実があったら 作:リョーマ(S)
この小説を書き始めて。もう5年が経ちました。
麻帆良学園を囲うように出現した計6体の巨大鬼神ロボットに、イベント参加者の生徒たちは皆、呆然と立ち尽くしていた。鬼神ロボットの大きさは、湖岸だけでなく街路や広場にいる生徒からも肉眼で確認できるほどだった。
生徒たちがキョトンとしている間、鬼神ロボットの発射口にエネルギーが収束していく。
「あっ!」
一部の生徒たちが鬼神ロボットの変化に気づいた時には、もうすでにエネルギーの蓄積は終わっていた。
溜まったエネルギーはビームとなって一気に発射される。
鬼神ロボットが発射した6つのビームは、湖岸に着弾して大きな土煙を上げた。
「ギャァーー!」
「ワァーー!」
「うひゃぁぁぁ!」
「キャーー!」
「見るなァーー!」
「ぐふっ!」
「いやぁーーん!」
着弾位置にいた生徒たちは、もれなく武器と衣服がはぎ取られ、悲鳴を上げた。大学生から初等部生まで男女問わず下着だけとなったその様子は、喜劇とも悲劇とも取れる光景だ。
だが、ひとつ言えることは、裸になった生徒が大勢いるということは、それだけ魔法使い側の戦力が減ったということだ。
『こ、これはすさまじい光景だァ! さすがの麻帆良生もこの巨大火星ロボには衝撃が走ったかァ!』
世界樹前広場に設置されたイベントステージで実況をしている朝倉にも、思わず熱が入る。
『さぁ、このピンチを前にどう戦う学園防衛魔法騎士団!』
「ピンチじゃねぇー!」
「スゲェ! アレ倒しに行こうぜ!」
「上等だァ!」
現れた巨大鬼神ロボットは、超の計画のかなめ。それら全てが防衛拠点である魔力溜まりに入れば、全世界に魔法の存在が公表されてしまう。
その真相を知る魔法使いにとっては、巨大鬼神ロボットは絶対に破壊(正確に言えば、封印)しなければならない兵器だが、イベントを楽しんでいる一般生徒にとっては、盛り上がる演出でしかなかった。
そんな生徒達の歓声や悲鳴、意気込む声が響く街や湖岸から少し離れた場所では、砂浜の上に長身の男がひとり立っていた。
防衛拠点やロボットが進行している通り道から離れたところとあって辺りには誰もいない。
「あらら……」
船の錨を逆さにしたようなマークがついた黒いコートと帽子を身につけ、丸いサングラスを掛けているその男……クザンは、湖の中をのっそりと動いて陸に上がろうとしている鬼神ロボットを見ていた。
「アレが総一が言ってた巨大生体兵器か……まったく派手なことするねぇ、超鈴音のヤツも」
そう呟くクザンに、動揺した様子はない。
超の計画が始まる前に、連絡を受けて計画の詳細と鬼神ロボットが現れることを聞いていた彼は、目の前の鬼神ロボットが現れるのを待っていたのだ。
「……そんじゃあ、やるか」
また別の場所では……。
「あれが夕映さんや加賀美さん達が言っていたヤツですか……」
いつになく真面目な表情で、鬼神ロボットを見ているのは、A組の委員長こと雪広あやかだった。
図書室でカモや夕映たちからネギが発案した作戦を聞き、いままでイベントの運営のために動き回っていた彼女であったが、今はネギの従者、かつヒーローユニットの一人として、街路の真ん中に立っていた。
ファンタジーに出てくる上級魔法使いのような格好をしているあやかの手には、彼女のアーティファクト『優雅なツララ』が握られている。そしてその周りには、スクラップになったロボット兵器がいくつも転がっていた。
「すごーい!」
「お、おい、あの子……!」
「あぁ、強ぇ!」
「それにめっちゃ綺麗だな!」
周りの参加者の何人かは、遠くに現れた鬼神ロボットよりも、優雅に剣を振るってロボットを倒し、堂々と道中に立つ彼女の姿に、思わず目を奪われていた。
だが、そんな周りの反応を気にもとめず、あやかはその場で高く飛んで街の建物の屋根を伝って、鬼神ロボットの前まで動いた。
『巨大ロボが出てきたら、お前の能力で足止めしてくれない? お前の能力なら1体分くらい余裕でできるだろ。えっ、先生達に能力がバレる? あぁ、その辺は大丈夫。能力使うときに
「……“何とかする”、ですか」
目の前の巨大なロボットを見上げながら、図書室で作戦を聞いた時の総一の言ったことを思い出して、あやかは呆れたように呟き、うっすらと笑った。
今からやろうとしていることを実行すれば、一般人はイベントの演出という形で無理やり誤魔化すことができるかもしれないが、学園の魔法使い達には、自分達……能力者のことを知られてしまうのは避けられない。
そうなれば、どうなるのか。
能力者の一人であるあやかには、なんとなく察しがついていた。そして、それを誤魔化すため、総一が何をしようとしているのかも……。
少なくとも、『どうにかする』なんていう曖昧な対処で片付けられるほど、簡単に済むものではないだろう。
「……まぁですが、これがネギ先生のためになるというなら、仕方ないですわ!」
後で苦労するだろうなと確信しながらも、
「麻帆良女子中等部三年A組の委員長、そして、ネギ先生の従者である
巨大鬼神ロボットが湖岸の浅瀬にまで来ている。
その怪獣のような巨大兵器に、湖岸にいたイベント参加者たちは一斉に攻撃を繰り出していたが、まったく効いている様子はない。
皆が巨大鬼神ロボットに驚いている中、凄まじいスピードでヒト型ロボット兵器と多脚戦車型ロボット兵器を破壊していく者がいた。
「師匠ぉ、今いくつ倒したアルカ?」
「あん? 50体くらいだけど……?」
「やったアル、私は67体アルネ!」
「勝手に勝負してんじゃねえ!」
総一と古菲は、そんな軽口を言い合いながらも、つづけてロボット兵たちを破壊していく。
湖に鬼神ロボットが姿を現してからも、二人は湖岸に上がってくるロボット兵の軍団を相手にしていた。二人が手当たり次第にロボットをスクラップにしていくおかげで、周辺のイベント参加者で服を脱がされたものはいない。
「ところで師匠!」
「ん?」
やがて、古菲がロボットを倒す手を止め、すぐそばまで来ていた鬼神ロボット兵を見上げた。
「あのデカいの、どうするアルネ?」
「大丈夫、ちゃんと考えてある」
総一は視線を鬼神ロボットに向けたまま近くにいたヒト型ロボットを斬り終えると、波打ち際まで走って、助走の勢いをつけたまま飛び上がった。
そのあまりの高さに、周辺にいた人達が「飛んだッ!」と揃って驚く。
「変形、獣型」
空高く飛んだと思ったのもつかの間、空中にいる総一の背中から純白の翼が生え、頭に光の輪が出現した。
「お、おい……!」
「なに、あの姿!」
総一の飛んだ高さに驚いていた生徒たちは、今度はその彼の姿を見て驚愕する。
背中から生えた二翼の羽と頭の上にある二つの輪っか、そして手に持った双剣。その姿はまさに、彼の背中にあるドクロのマークとそのままだ。
「
天使の総一は、目の前の鬼神ロボットを見据えて双剣を構えた。
極寒の氷結。
北国のような雪風。
氷の魔法を纏った斬撃。
三人の使う技はバラバラ、その威力や影響も異なる。
三人のいる場所はお互いの声も聞こえないほど、遠く離れている。
だが不思議と、三人は示し合わせたように、鬼神ロボットに攻撃を放った。
「
「雪景色」
「
氷結と雪と氷の魔力が、湖の水を氷に変え、鬼神ロボットを凍結させた。
季節は初夏。空気も暖かみが増して冬などとっくに過ぎ去った時期にもかかわらず、学園都市を囲う湖は一瞬にして氷の世界へと景色を変えた。
水面は氷で覆われてカチコチと音を鳴らし、漂う空気はヒンヤリしている。湖岸周辺の陸地は不思議と元の景色を保っているが、一部には真っ白な雪が降り積もっている。
そして、湖の水に触れていたロボットたちは、皆すべて氷像と化していた。
何の前触れもない変化に、辺りは一瞬静寂に包まれた。
だが次の瞬間、学園都市の街から驚愕の声が響いた。
「え、えっ……えぇぇーーーー!」
「なんでぇぇーー!」
「なっ……!」
「す、すげぇ!」
「湖が凍っちゃった!」
「えっこれ本物? って寒っ!」
「えっえええっどうなってんのどうなってんの!」
「すげぇ手の込んだ演出だな!」
突然の出来事に、生徒たちは皆、目の前の光景に目を疑っていた。
☆☆☆
そんな生徒たちのリアクションに興味を示すこともなく、クザンは凍りついた鬼神ロボットを眺めた。
彼の口から漏れる息は白く染まり、周辺の屋根もスケートリングのように氷が張っている。
「さすがに鬼神を取り込んでいるだけあって、しぶてェな……」
彼の能力で氷結した三体の鬼神ロボットは、身体に張り付いた氷を軋ませながら、今もなお稼働していた。
「けどまぁ、俺の仕事はここまでだ。あとはテメェらでなんとかやりなさいよ」
そう言って、クザンは身をひるがえして誰にも目撃されることなく、どこかへ姿を消した。
☆☆☆
『なな、なんとーー、ヒーローユニットの魔法によって、湖にいたロボットが凍った! しかし安心はできない! 凍るのを免れたロボット兵が引き続き防衛拠点に向かっています! しかも凍った巨大火星ロボは、どうやら今もなお活動を続けているようです! まだまだ油断はできません!』
突如起きた普通じゃない現象に、機転を利かせた朝倉がイベント演出という風を装う。だが学園都市のほとんどの人間が驚愕している中で、とくに驚いていたのは、当のヒーローユニットである“本物の魔法使い”たちだった。
「こ、これは……!」
「おぉ!」
「……うーむ!」
ガンドルフィーニや瀬流彦、神多羅木など、ヒーローユニットとして巨大鬼神ロボットの対処に向かっていた魔法先生たちは、いま目の前で起きた光景を見て、唖然としていた。
「お、お姉さま! アレは!」
「魔法? ですが、こんな上級クラスの魔法、一体だれが……?」
驚いているのは、高音・D・グットマンや佐倉愛衣といった魔法生徒も例外ではない。
今の彼らにとって、この現象は、まさに一般人が魔法を見たようなものだ。
「これは、まさか……!」
「……総一」
「うわぁ、アレ絶対、総一たちの仕業だよね。めちゃくちゃしてるなぁ……」
「……うん」
唯一、能力者の存在について知っている葛葉やシャークティ、美空、ココネなどの面々は、誰がこんなことをしたのかすぐに察しがついた。
「刹那さん、アレ!」
「あれは、巨大生体兵器が……!」
明日菜に名前を呼ばれ、凍りついた鬼神ロボットが刹那の目にも止まる。
大きさは違えど、二人にとって水上で凍りつく鬼神の姿は、前にも見たことがあった。
「あれって……まさかエヴァンジェリンさんが?」
「いえ、エヴァンジェリンさんは呪いのせいで魔法は使えないはずです」
修学旅行で似たような光景を見ていた二人は、京都でエヴァンジェリンが鬼神リョウメンスクナノカミを倒した時のことを思い出した。
しかし、二人の予想はすぐに正された。
「明日菜さん、あそこ!」
「えっ!」
今度は、明日菜が刹那に名前を呼ばれて、彼女が指で示した先に目を向けた。
そこには、朝倉のいるイベント会場の大きなスクリーンに、天使の姿で空を飛んでいる総一と、体のところどころに雪をつけたあやかの映像が流れていた。この映像は現在学園中で共有されているため、当然、魔法先生や魔法生徒も目にするものである。
「まさかコレ、総一と委員長がやったの?」
「そう、みたいですね……。大丈夫でしょうか?」
「……さぁ」
能力者の存在は、魔法使いには秘密である。そう聞いていたにも関わらず、こんなに目立った行動をしている二人に、明日菜と刹那は揃って首をかしげるのだった。
事を起こした人物として学園の皆が注目している中、総一は遠方にいるあやかの方へ目をやった。空高く飛んでいる彼にとっては、学園都市周辺の景色がよく見えていた。
「ったくアイツ、隠れてやれって言ったのに……!」
総一は目を細めて一人呟いた。
彼の考えていた作戦では、この場で魔法使いたちに見つかるのは自分だけの予定だった。
図書室で超鈴音がゴロゴロの実の能力者であると知った時、総一は、どうやって超を倒すのか考えた。そしてその方法を考えているうちに、超を倒すまでに、どうにかして鬼神ロボット兵が魔力溜まりまで侵攻する時間を遅らせなければならないということに気が付いた。
超の計画を阻止するためには、本人を倒す他にも、それまでにロボット軍団が魔力溜まりに行かないよう防衛拠点を守る必要がある。
原作では、ネギが超鈴音を倒した直後に、鬼神ロボットが魔力溜まりにたどり着いて魔法が発動していた。つまり、この世界では原作よりも超の強さが強力である分、彼女を倒すのに本来よりも長く時間が掛かってしまい、強制認識魔法が発動してしまう可能性がある。
その可能性をなくすため、何かしらの対策が必要であった。
そこで総一が考えたのが、クザンとあやかに協力してもらい、鬼神ロボットを凍らせて足止めする作戦だった。
しかしこの作戦で鬼神ロボットを凍結すれば、一般の生徒はイベントの演出ということで、ゴリ押しで誤魔化すことできても、麻帆良学園の魔法使い達に悪魔の実や能力者の存在がバレるのは避けられない。
けどもし、鬼神ロボットが凍結したときに自分一人が表に出れば、他の能力者は隠せるかもしれない。
その可能性にかけて、総一はクザンとあやかに隠れて技を使うよう言ってあったのだが、事前の話もなしにあやかが堂々と姿を現して能力を使ったことは、総一にとって予想外のことだった。
「加賀美君!」
そんな思いもしなかった出来事に、どうしたものかと頭を抱えていると、魔法先生たちが空中に出現させた魔法陣を足場にして、飛んでいる総一の元までやってきた。
ガンドルフィーニが総一の名を呼び、瀬流彦と神多羅木を引きつれ、やや警戒した面持ちで天使の姿をした総一を見る。
「先生方、今ならこの鬼神の封印も簡単です。早く封印処理を!」
「あぁ。けどそれより、君は一体……?」
「詳しいことはこのイベントが終わった後に話します。色々気になることでしょうが、とにかく今はコレの処理が先です!」
総一がそう言った瞬間、彼らの一番近くにあった鬼神ロボットが動き出した。その場にいた四人は揃ってそっちに目を向けた。
鬼神ロボットは体に張り付いた氷の膜を剥がれ落とし、のっそりと街に上がろうとする。
三人が放った氷結の力の中では、総一の魔法が一番威力が弱い。そのせいか、総一が凍結させた鬼神ロボットの1体は、すでに動けるようになりつつあった。
「……どうやら、そのようだね」
渋々といった感じで、ガンドルフィーニは瀬流彦たちと共に、封印処理に取り掛かる。
「じゃあ、俺は街に行って残りのロボットを片付けてきます」
「あ、あぁ、分かった……」
総一は4つの羽をはためかせ、学園のロボットの討伐へ向かった。
「ッ!」
しかし突然、総一は見聞色の覇気によって自分に殺気が向けられているのに気がついた。
殺気の出所は遠方の森の中からだ。
反射的に、総一は手に持っていたアーティファクトの双剣を連結させて弓として構え、魔法の矢を生成した。
「
矢を放つと、射線上で何かが爆ぜ、黒い“渦”が現れて消えた。
その“渦”が何なのか、自分の知識で知っていた総一は、森の中から自分に殺気を向けていたのが誰か理解した。
「龍宮か……超のヤツ、本格的に動き出したな」
☆☆☆
一方、その頃。
世界樹のそば、学園都市の中心にも近い場所の上空では、魔法使いの格好をして酒を飲む少女がいた。
少女が浮いているその場所は、学園都市全体が見渡せるため、当然イベントの様子も眺めることができる。
「オー、飛ベルゼ。ヤルジャネーカ我ガ妹ヨ」
「結界が落ちて、お前も飛べるようになったか……」
その少女……エヴァンジェリンのそばでは、彼女の従者であるチャチャゼロも背中に生えたコウモリのような翼をパタパタさせて宙に浮いている。
「ククッ……しかし、まさかヤツ等がこんなことをやるとはな」
遠くにある凍った鬼神ロボット6体を見ながらエヴァンジェリンは愉快そうに笑い、日本酒の入った猪口に口をつける。
「コンダケ派手ニヤッテ、ドウスンダロウナ?」
「さぁな。それは私の知ったことじゃない。まぁどうなるにせよ、せっかく面白くなってきたところだ。チャチャゼロ、お前も飲め」
「アイヨ」
エヴァンジェリンから酒を受け取り、チャチャゼロも日本酒を飲み始めた。チャチャゼロにとっては手のひらサイズの猪口も、まるでビールジョッキのようだ。
そして引き続き、イベントの様子を肴にして楽しもうとしていると、ふと何かを見つけたチャチャゼロがピクリと反応した。
「……オ、オイ、御主人!」
「ん、どうした?」
普段あまり聞かないチャチャゼロの驚いた声に、エヴァンジェリンは「珍しいな……」と呟く。
「アレ見テミロヨ!」
いつもと様子の違う自分の従者に首を傾げながらも、エヴァンジェリンはチャチャゼロの指さした方を見た。
「……なっ! あ、あれは!」
チャチャゼロが示していたものを見つけ、今度はエヴァンジェリンが驚きの声を上げた。
今、彼女たちが見ているのは、ある少年が着ているコートの背中に描かれたドクロのマークだ。
それは、とうの昔、世間を騒がせた一人の男……そして、過去に彼女が唯一“仲間”と認めた海賊のシンボルに、とてもよく似ていた。
「……ソウ」
TO BE CONTINUED ...
瞬時に湖が凍るとか、『デイ・アフター・トゥモロー』かよ……!
それはさておき、以下おまけです。
とある同盟の海賊旗
【挿絵表示】
何かあった後の誰かの海賊旗
【挿絵表示】
途中で作った絵はツイッターに晒してますので、興味のある方はどうぞ。
ご意見やアドバイスなどがある方も、こちらでいただけると嬉しいです。
https://twitter.com/Ryoma_writer
もしも本作のネギまキャラに海賊旗があったら、見てみたいのは……?
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雪広 あやか
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エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル
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超 鈴音