抽選会の波乱から数週間、あれから俺とアンツィオ戦車道チームは血の滲む様な特訓を重ね今日、全国大会1回戦の会場へとやって来た。
そう、あの特訓を無駄にしないよう...あれ、おかしいな?回想の大半が飯食ってる光景なんだが・・。
「うおーい、ハクトー!そろそろ試合が始まるから、私たちはスタート地点に移動するぞー!」
おっと、もうそんな時間か。よし、ここはひとつ激でも飛ばしてやるか。
「お前たち、今日までの訓練をしっかり思い出して頑張っ 「ごきげんよう、アンチョビさん!隊長の私自らが挨拶に来ましてよ!」
俺の激励は敵チームの隊長にかき消された。おのれブリカマ..。
「あ、ブリカマ姐さんだ!こんちわー」 「あら、ブリカマさん。お久しぶりです」 「やぁブリカマ、今日はよろしくな」
「真部里香よ!!ま、な、べ、り、か!!」
安斎達もやるなぁ。試合前に相手を煽って平常心を崩す作戦か。...まぁ天然なんだろうが。
「そうやって調子に乗れるのも今のうちよ!勝つのは私たちワッフル学院なんだから!」
随分と自信満々だなぁ、ブリカマ。
確かにお前たちも今日の為にたくさん訓練をしてきただろう。負けるつもりで挑んでくるヤツなんてのはいない。
けどな..この俺も、こいつらも、負けるつもりなんて1ミリも無いんだよ。しっかり作戦も対策だって考えてきた。
だから、
「ブリカマ、お前さんがいた頃のアンツィオと同じだと思っていたら、痛い目みるぜ」
「ふ、ふん!ならばそれ以上の力で捻り潰すまでです!では試合後にまたお会いしましょう。シーユー」
そういってブリカマは車に乗り颯爽と去っていった。
「さて、俺はそろそろ観戦席に行くよ。お前たちも準備にかかれー。ここまで来て間に合いませんでしたじゃ洒落にならねーぞ。1回戦くらい軽く蹴散らしてこい」
「任せろ!いくぞぉお前たち!Avante!!」
「「「「おおおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
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「さて、中継モニターも見えるしこの辺りでいいかな。ん、あれは...」
観戦場に着き見通しの良い場所を見つけると、そこには見知った先客がいた。
「よぉ、久しぶりだな。1回戦突破おめでとさん」
「ありがとうございます。ペコ、白兎さんに紅茶を」 「はい、ダージリン様」
先日、BC自由学園に勝利し1回戦を突破した聖グロリアーナ女学院の戦車道チーム隊長のダージリンと、1年生のオレンジペコちゃんだ。
今日は大方、次の対戦相手の視察に来たのだろう。
そう、この試合に勝った学校が2回戦で戦う相手こそ聖グロリアーナなのだ。
「今日はやけに静かだと思ったら、ローズヒップやアッサムはいないのか。お、サンキュー ペコちゃん」
オレンジペコちゃんから紅茶を受け取り、早速いただく。相変わらず良い茶葉使ってるなー。うちの店のより高級品なんじゃねーか?
「ローズヒップ達はお留守番。2回戦からはあの子も出場させるからアッサムに訓練を見てもらっているの」
「ふーん。ってそれ俺に話しても大丈夫なのか?」
「あらまぁ、どうしましょうペコ」 「もーー、ダージリン様ったら」
なるほどね。余裕の表れってヤツですか。
「試合も始まるし俺は別の場所で観戦するわ。紅茶ごちそうさん」
「あら、ここで一緒に見ないのかしら?席なら直ぐ用意しますわよ」
「わりーな。2回戦の相手と一緒に観戦ってのは流石にマズいだろ」
「ふふ..そうね。では2回戦でまたお会いしましょう」
そして俺はダージリンたちに別れを告げ、別の観戦席に腰を下ろした。
確かに今までのアンツィオはどうしようもないくらいに弱かったかもしれない。
だったら今日、この試合が新生アンツィオ戦車道のお披露目だ!
「これより第63回戦車道全国高校生大会、1回戦!アンツィオ高校対ワッフル学院の試合を行います!」
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さぁ始まったな。1回戦で使用できる戦車は全部で10両。この試合でアンツィオが使用した戦車は、セモベンテ3両にCV33が7両。
そして全国大会ではフラッグ戦が採用されている。相手車両を全て行動不能にさせる殲滅戦と違い、フラッグ戦は自チームの車両の中からあらかじめ1両をフラッグ車として指定し、相手のフラッグ車を先に行動不能とした側が勝者となる。
今回の試合でのアンツィオ側のフラッグ車は、安斎の乗るセモベンテだ。
つまりどれだけ他の車両が行動不能になろうと安斎のセモベンテが残り、相手チームのフラッグ車を撃破出来れば勝ちなのだ。
逆にいえばどれだけ優勢に立ち、他の車両が無事でも安斎のフラッグ車が撃破されれば逆転負け。1回戦敗退である。
「さぁ、頼むぜ...。切り込み隊長はお前だ、ペパロニ!しくじるんじゃねーぞ」
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ーー走る! 奔る! 疾走る!
試合開始の合図と共に、3台の豆戦車が試合会場を走り抜ける。
「行け行けー!このペパロニに続けぇー!!」
「「うおぉぉぉ!!」」
先頭車両に乗る副隊長、ペパロニが声を張り上げると他の車両に乗るメンバー達も負けずと声を上げる。
今回の作戦での最初の要は彼女達にあった。
どの車両よりも早く目的地である森の中に着いた彼女達は大胆にも戦車を降り、CV33の後部に積んだ荷を降ろし始めた。
「よーし、アンチョビ姐さん達が来るまでに急いで組み立てるぞ!全部降ろ...いや、2つは予備だ!それ以外降ろせー!」
訓練の甲斐あったのか間違う事無く、降ろしたソレを手際良く組み立てるとそこには見事な戦車の隊列が出来ていた。
ベニヤ板製の折りたたみ式デコイによる誘導作戦ーー通称『マカロニ作戦』である。
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フラッグ車である自身のルノーR35に揺られながら、真部 里香は勝利を確信した。
先に偵察に行かせた軽戦車 ヴィッカーズT-15からの報告によると、敵車両は森の中で停止しているとのことだった。
知っている。真部 里香は知っている。これは私がアンツィオから転校する前にアンチョビが提案したマカロニ作戦だ!
それは全てデコイ、偽物だ。偽物に気を取られている内に本隊は背後から回り込んで攻撃をしてくるつもりだろう。
「何が新生アンツィオよ!何があの時とは違うよ!私がいた時と全然変わってないじゃない。全車両、森の中にあるのは偽物のデコイだ、相手本隊は回り込んでくるぞ!返り討ちにしてやれ!」
相手の作戦の裏を突き、一斉撃破を狙うべく全車両に指示を下す。
相手車両はおそらくセモベンテとCV33だ。貧乏のアンツィオがそう直ぐに新しい戦車を揃えられる筈がない。
セモベンテさえ撃破出来れば後は問題無い。一方的な狩りである。
真部 里香がそこまで見越したところで先行していたヴィッカーズから連絡が入る。
それは予想外の報告だった。
「真部隊長、森の中の敵車両が撃ってきました!後退中の事だった為、既にこちらは2両撃破されました!どうしましょう!」
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ワッフル学院の車両が撃破された事を知らせるアナウンスが流れ、俺は一先ず安心する事が出来た。
おそらく作戦が上手くいっているのだろう。
今回発案した作戦は『マカロニ作戦・改』。以前からあったマカロニ作戦を対ワッフル学院もといブリカマ用に改めたものだ。
相手がこっちの手の内を知っているのなら、逆にそれを利用してしまえばいい。
ペパロニ達が設置したデコイの更に奥に戦車を潜ませる。マカロニ作戦と知ったブリカマは回り込んで来るであろう敵車両を迎え撃つ為に戦力を逆方向にやる。
ケツを見せた戦車ほど楽な標的は無い。後は混乱した相手部隊に一気に攻め入るのみだ。
「だが、それだけじゃ終わらないぜ」
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真部 里香は混乱していた。
自分の知っているマカロニ作戦では無い?回り込むと見せかけて森に潜んでいたのか?
「全車両、敵は森の中よ!ヴィッカーズが攻撃を受けているわ、援護に回って!早く!」
まだ巻き返せる。まだ後方には主戦力の105mm榴弾砲装備のシャーマンだって残っている。軽戦車が2両やられただけだ。
確かにアンツィオの作戦がこれだけなら、ワッフル学院は巻き返せただろう。
だが『マカロニ作戦・改』はまだ終わってはいなかった。
「こちらシャーマンA、背後から攻撃を受けています!護衛のルノーR35が撃破されました!真部隊長、指示を!」
「後方からも敵車両!?まさか森の中に残っていただけでは無く、回り込んでもいたというの!」
いったい敵主力はどちらに行ったのか。フラッグ車は何処に?落ち着きを取り戻そうとしていた彼女の頭は、再び混乱へと追いやられた。
「こちらヴィッカーズC!森の中で敵フラッグ車を発見!繰り返す、敵フラッグ車を発見!セモベンテです!」
天はまだ我らに味方していたのか。これを逃す機は無いとばかりに、全車両に支持を送る。
「交戦中のシャーマンAはそのまま後方の足止め!残りは森へ入り一気にフラッグ車を仕留めるわよ!」
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「ルノーが撃破されたって事は回り込み組が仕掛けたな」
先行していたペパロニ達にセモベンテが1両混ざり、そのまま回り込みを仕掛ける。デコイによる足止めのお陰で、セモベンテの速度でも何とか間に合うはずだ。
そして後方部隊を撹乱。1、2両撃破出来れば上出来だと思っていたが、アイツら上手いことやってくれたらしい。
相手チームが混乱している状態でフラッグ車をチラつかせば、ほぼ間違いなく食いついてくるだろう。
そこで森に残ったセモベンテ2両の出番だ。
「締めはお前達だ...安斎、カルパッチョ!」
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「いた、フラッグ車!全車両あのフラッグ車に攻撃を集中!」
まだ距離はあるがこのまま追い込んでしまえ!木々が邪魔だが突き進め!
もうこうなれば当てたもん勝ちだ。確かに以前の、私が知っているアンツィオとは違っていた。それは認めよう。
「だけど勝つのはこの真部 里香よっ!!」
距離を縮めセモベンテに近づく自身のルノーR35は、フラッグ車でありながらも先頭へと飛び出していった。
危険ではあるが、これで終わりだ!その確信と共にルノーの戦車砲から放たれた砲弾がセモベンテの後方部に直撃した。
行動不能である白旗を確認し、真部 里香は深く安堵を覚えゆっくりと座り込んだ。
「勝った...やったわ!」 「隊長、違う!これは!」
その声に驚き、再び見たセモベンテにはあるモノが無かった。遠目で発見した時に確かにあった筈の、フラッグ車にある筈の旗が...その車両には無かったのだ。
「まさか...途中で入れ替わったの!」
確かにフラッグ車の旗を確認したのは、距離の離れた発見時のみだった。その後は早く近づき当てることに集中し過ぎていたのだ。
まさか途中で車両が入れ替わったなんて...そんな大胆な事を全国大会の試合で実践するなんて...。
だが気付く頃にはもう遅い。別方向から現れた、安斎 千代美の駆るセモベンテが真部 里香のルノーを撃破したのは直ぐの事だった。
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フラッグ車と他車両の入れ替え。普段なら間違いなく成功しないであろう行為だが、事前の多方向からの同時攻撃による混乱。
更に木々の生い茂る森の中でフラッグ車の旗が見えづらいという限定条件でのみ、成功確率を上げた今回限りの決め技である。
相手チームの隊長車がこちらに攻めてくるであろう事は大方予想がついていた。
向こうがこちらのやり方を知っていると同時に、こっちだって以前まで同級生だった相手の性格くらいは分かる。
「しっかし、上手くいって良かったぁ...」
安斎とカルパッチョにはそれぞれのセモベンテで何度も入れ替わりの練習をさせたが、幾ら条件が揃っていたとはいえ途中でバレる可能性もあった。
「危ない橋ではあったが...まぁ何とか切り抜けることが出来たようだ」
アナウンスにより改めて知らされる結果に安堵しつつ、俺は教え子たちの元へと向かうのであった。
『この試合、アンツィオ高校の勝利です!』
今回のワッフル学院戦についての後付け。
両チームの出場戦車は、
アンツィオ︰セモベンテ..3両、CV33..7両
ワッフル︰ルノーR35..4両、シャーマン105mm榴弾砲..2両、ヴィッカーズT-15..4両でした。
あと宣伝を、こちらの作品と別にもう一つガルパン作品を連載し始めました。「安斎千代美の消失」という作品です。
良かったらそっちも宜しくお願いします!