挨拶の後、安斎が落ち着くのを待ち簡単な説明を済ませると早速練習へ取り掛かることにした。
「よし安斎、早速だがこいつら2チームに分けて試合させるぞ!」
「え、いきなり模擬戦するのか?」
「おう、まずはお前らの実力を知らねぇとな。俺がいま知ってる事といえば、お前らがよく食べよく騒ぐって事くらいだ」
「なんだ、完璧じゃないっすか!うちらの戦車道も大体そんな感じっすよー」
ペパロニのドヤ顔に軽く苛立ちつつも、俺は拡声器を取り出し全体に指示を出した。
「只今より模擬戦を行う!AチームBチームとに分け、車両はそれぞれセモベンテ1両にカルロ・ヴェローチェ4両の5対5だ!Aチームの隊長はペパロニ、Bチームはカルパッチョにやってもらう。なにか質問はあるかー?」
「えっあ…私は?私はどっちのチームに入るんだ?」
「安斎は俺と一緒に観戦。試合の動き見ながらそれぞれの長所短所を教えてくれ。よし、各員準備に入れー15分後には開始するぞ!」
指示を終えるとペパロニとカルパッチョを中心に彼女たちは直ぐに行動を開始した。
俺は今のうちに一息入れようとタバコを取り出したが、少し考えそのまま胸ポケットにタバコを仕舞い直した。
「あれ?なんでタバコ直したんスか?うちらもうちょい時間かかりますよー」
一連の動作を偶々見ていたペパロニがやって来て声をかけてきた。
「まぁ一応ここも学園の敷地内だしな。流石に自重しておくよ」
「ふーん。じゃあ代わりといっては何ですがこれでもどうぞッス!」
そういうとペパロニは自分の着ているパンツァージャケットのポケットから棒付きのキャンディを取り出し、俺に渡してくれた。
正直、口が寂しかったのでありがたく頂くことにした。すぐに自チームの方へと駆けて行った背中に礼を言い、俺はキャンディの包み紙を取り口に咥えた。
ていうかあいつのポケット随分パンパンだったけどあれ全部菓子入れてるんじゃねーだろうな…。
「ところで安斎、他校との練習試合の件だが何処か了承してくれたとこはあったか?」
「いや…今のところ返事はノーばかりだ。もうすぐ全国大会前になるからな、自分たちの戦力をあまり見せたくないのだろう。かといって余裕のありそうな強豪校なんかはうちなんか相手にしてくれないだろうしなぁ…。どうしたもんかなぁ」
確かにもう各校でも全国大会の準備が始まっている頃だろう。だがここは是非とも試合を経て経験を積ませておきたいところだ。
「分かった。練習試合の件は俺に任せておいてくれ。少し心当たりがあるから後でそっちに聞いておこう」
「すまないな色々と。しっかし驚いたぞ、まさかあの島田流家元の息子だったなんて!なんでアンツィオの学園艦で喫茶店なんかやってるんだ?」
「別にいいだろ…安斎、次それ聞いたら以降ずっとフルネーム呼びするからな」
「フルネームなんてお前、ダメに決まってんだろーがお前!というかアンチョビって呼べっていってるだろう!さっき1回呼んだのになんでまた安斎に戻ってるんだー!?」
はいはい、ドゥーチェドゥーチェ。
そんなやり取りをしていると無線機からカルパッチョの声が入ってきた。
『ドゥーチェ、店長、両チーム準備整いました。いつでも始められますよ』
練習場に備え付けられたカメラに映された様子を画面越しに確認すると、それぞれのスタート位置に5両の戦車が停められていた。
各チームから詳細を聞くと、ペパロニ率いるAチームは隊長自らがカルロ・ヴェローチェに乗りフラッグ車のセモベンテを守りつつ攻め入る作戦らしい。
逆にBチームの方はフラッグ車のセモベンテにカルパッチョが搭乗し指示を出すようだ。
ここで早くも違いが現れた訳だな。
そして、俺自身も久しぶりに肌で感じる戦車戦に内心高まりつつ、今模擬戦の開始を告げるのであった。
「これより模擬戦を開始する!両チーム、本番のつもりで心してかかれ!」
ーーーーーーーーーー
俺が試合開始の合図を出すと共に、両チームのエンジンに火が点いた。
そして、ペパロニが、
「おっしゃー!姐さんたちにいいとこ見せるぞー!!」
カルパッチョが、
「みんな、日頃の成果を見せて頑張ろうね!」
「「全車両、Avanti(前進)!!」」
チームメイトたちの闘志に火を点けた
さて、始まったな。まずは両チーム共にCV33(カルロ・ヴェローチェ)を前面に出し、フラッグ車のセモベンテは後方で様子を見ながら進んでいる。
正直今回の戦闘においてフラッグ車を撃破するにはCV33の機銃では厳しいものがあり、最終的にはセモベンテの18口径75mm榴弾砲が勝負の鍵になるだろう。
だが、そこに至るまでの陽動や偵察にどこまで上手くCV33を使いこなせるかが今回の 勝敗を分けると俺は踏んでいる。
始めに動きがあったのはペパロニ側のAチームだった。
前方に固まって走っていた4両のCV33が4方向へと散らばって走り出したのだ。
これならば確かに敵フラッグ車を見つけ出す可能性は高くなる。だがその分、各個撃破される危険も増す。云わば諸刃の剣だ。
「あ”ーー!ペパロニのやつ、まーた後先考えないで攻め込んでるなぁ!」
安斎の様子を見るからに、どうやらいつもの事のようだ。
だがあの行動も悪いところだけではない。あの思い切りの良さ、それが足りずに負けていったチームを俺はいくつも見てきている。
まったく、ノリと勢いのアンツィオってやつを体現したような奴だな。
「なら安斎、カルパッチョの方はどう動くと思う?」
仲間同士ならある程度は相手の出方に予想が付くだろう。ならば対応も追いつくはずだ。
「うーん、私だったら下手に動かずに相手が来るまで高台辺りで待ち構えておくかな。たぶんカルパッチョも同じことを考えると思う。ただ、うちの子たちはそういうのあんまり我慢できないからなぁ…」
結果、安斎の予想は見事に的中した。
カルパッチョの指示で高台を陣取り相手を待ち構えていたBチームであったが、ペパロニ率いるCV33による攻撃に見事釣られ、高台での地の利をあっさり捨てて突撃。平地での撃ち合いとなり、乱戦となった。
こりゃあれだ。知波単学園と試合したらいい特攻合戦になるだろうな…。
「あぁ、もうっ!危ないなーあいつら…」
ほら、お前たちの大好きなドゥーチェが母親張りに心配してるじゃねーか。
あーあーこりゃグダグダの乱戦になるパターンかねぇ…。
と、そう思った矢先に動いたのはBチームのフラッグ車、カルパッチョの乗るセモベンテだった。
周囲の生徒と比べて普段から大人しいイメージのあった彼女は、今回の乱戦でも自身のフラッグ車を守るために遠方からの援護射撃に徹すると思っていたが、その予想は大きく外れ自身も戦闘へ突入していったのだ。
更には小さく素早いCV33相手に砲撃をし、装填の合間にも砲塔と前面装甲を矛とし相手の車両をなぎ払うという荒業まで見せてくれた。
「見かけによらず結構積極的だろ、カルパッチョは」
流石自分の教え子だ、と言わんばかりに安斎は誇らしげに述べた。
「……正直驚いた。あと装填速度もかなりのものだな。かなり練習してるだろ、あれは」
「うむ、特に最近は小学生からの親友が戦車道を始めたとかで練習に熱が入ってたからな」
「なるほどねー。おっ、また1両撃破された」
現在、Aチームは3両 Bチームは2両のCV33が撃破されて白旗が上がっている。
決着が着くまでそう長くもかからないだろう。
次の瞬間だった。
ペパロニの駆るCV33が左へフェイントをかけた直後、一瞬の隙を突いて逆方向の森からAチームのセモベンテが飛び出してきたのだった。
迎撃に間に合わずBチームのフラッグ車側であるセモベンテは砲弾を見事に食らった。
ーー上手いっ!流石のカルパッチョも今のタイミングではどうすることも出来なかったようだ。
「よっしゃー!姐さーん、やりましたよー!」
勝利の安堵を浮かべ、ペパロニが戦車から顔を出しこちらに手を振っている。
「なるほどな、安斎。あいつの欠点がよーく判ったよ…」
「うん、まぁ…そういうことなんだ。あいつはいっつも…」
「「詰めが甘い」」
その直後だった。被弾したものの白旗の上がらなかったカルパッチョのセモベンテに、Aチームのフラッグ車が撃破されたのは。