聖グロリアーナとの練習試合が決まった翌日、俺は訓練の為に再びアンツィオ高校を訪れた。
「しっかし、いつ来てもお祭り騒ぎだな。ここは」
貧乏で知られるこの学校は、各部活を中心に屋台を出して売り上げを活動費にあてている。それらが集まったこの屋台街はいつ来ても賑わっていて、初めて学園艦に来た人達を驚かせている。
「あーー!てんちょーじゃないっすか!おぉ~い!」
屋台街を見物がてらに歩いていると何処からか俺を呼ぶ声がした。声がする方向へ振り向くと、そこにはコックコートを着たペパロニがこちらに手を振っていた。
「なにやってんだ、ペパロニ?戦車道やめて料理人にでもなるつもりか?それなら先輩の俺が…」
「いやいや、新しい戦車買う為にこうやって資金調達してるんすよ。なんて名前だっけな?とにかくもうすぐ目標金額に達するみたいなんで、てんちょーも1つどうっすか?300万リラ!」
そういえば以前にうちの店でも似たようなこと話してたな。確かP40重戦車を買う貯金だとか。つーか300万リラってお前はどこの駄菓子屋のおばちゃんだよ…。
「なら1つ貰おうか」 「へへっ、まいどありー!」
ペパロニは慣れた手つきで玉子とひき肉と炒め、別に用意していたナポリタンの上に出来立て熱々のスクランブルエッグを乗せた。こいつ、手際いいなぁ。
ペパロニに料金の300円を渡し、さっそく食べてみた。これが実に美味い。食材やオリーブ油をケチケチせずに使い、新鮮な玉子は見事にトロットロの状態をキープしている。
「美味いな…」 「でっしょー!もっと褒めてもいいんすよー!」
あ、これは褒めすぎると調子に乗るタイプだな。
「確かに美味いが戦車道の方を疎かにするんじゃねーぞ。練習時間には遅れるなよ!あとごちそうさん」 「うっす、りょーかいっす!」
鉄板ナポリタンを食べ終えるとペパロニと別れ、そのまま練習時間まで他の屋台を見て回った。
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時間になって集合場所に行くと全員が集まって待っていた。うん、偉い偉い。
「よーし、先ずは基礎の射撃と操縦訓練だ!土台がしっかりしてりゃ予想外の事態が起きてもある程度はなんとかなる!あと練習試合、2週間後に聖グロリアーナとに決まったから。はい、各員訓練開始ー!」
「はーい」 「うーす」 「聖グロってどんな学校だったけ?」 「あーなんか紅茶飲んでるとこ?」 「そんなのじゃすぐ腹減って力出ないじゃん!」 「じゃあ大丈夫っしょ」
「ちょっと待ておまえらー!!」
お決まりのように安斎からのツッコミが入る。いや、今のは突っ込まれなかったらどうしようかと思った。流石に危機感無さ過ぎだろ、おまえら。
「聖グロリアーナといえば全国大会準優勝の実績もある強豪校だった筈ですよね、ドゥーチェ?」
「あぁ、カルパッチョの言うとおりだ。いきなりそんな強豪なんかとやって勝てるのか?」
カルパッチョと安斎が不安そうな顔でこちらを見ている。まぁ無理も無い。
「大会に出ればいずれ当たるかもしれない相手だ。それに勝って自信をつけるにはいい相手だろう!それに今回、向こうの隊長車を含め5両は他の試合のため参加しない。うちが勝てる可能性も十分にあるぞ」
俺が聖グロに行ったとき、確かチャーチルは1両だけだった筈。それならば此方に来るのはマチルダとクルセイダー辺りか…。流石に博物館のMk-Ⅰ戦車たち引っ張り出しては来ないだろう。
「なーんだ、それなら楽勝っすね!うちらの力見せてやりましょう姐さん!」
「だーかーらー調子に乗るんじゃない!まったく…」
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「はっ…くっしゅんですわ!」
「風邪ですか、ローズヒップさん?」
「大丈夫でしてよ、ペコさん。きっと誰かがこの聖グロ一の俊足、ローズヒップの噂でもしているんですわ!おほほほほ!」
「はぁ…?」
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それから2週間の間、
「走れ走れ!止まったら撃たれると思え!直線にばかり走るな!ジグザグに走れー!」
俺たちは必死に訓練を重ねた。
「こら、ペパロニ!デコイ全部置くんじゃない!2つは予備だって言っただろう!」 「あ、すいませーん姐さん」
きっとこの努力が、
「こらー寝るなー、寝たら死ぬぞー!」
俺らを勝利に導いてくれるだろう。
「パスタおいしーい!」 「まだまだお代わりあるからなー」 「あ゛ぁ!誰だ私のピザ食べたの!最後に取っておいたのにー!」 「あれ、ドゥーチェ食べないと思って頂いちゃいました」 「カルパッチョー!」
あれ?大丈夫だよな…?
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時刻は夜の20時。
聖グロリアーナとの練習試合を前日に控え、俺は今 栃木県にあるホテルの一室にいる。
アンツィオ高校の本籍地は海のない栃木にある為、学園艦は静岡県の清水港を母港としている。試合当日の移動は時間がかかる上、長時間の移動で疲れもでる。
相手はあの聖グロリアーナだ、万全の体制で挑むに越したことはない。
俺の経営する喫茶店『キャロル』は今日から三日間の休業を頂いている。学園艦が帰港している間は生徒の大半が実家に帰っているか、今回の試合を観戦する為にこの近くに泊まっている筈だ。ただでさえ少ないお客が更に少なくなるんだ。開けてもあまり意味ないだろう。
安斎を中心とした明日の試合に出る戦車道メンバーには、夕方のうちに作戦の最終確認を行い解散させている。試合中は俺自らが彼女達に指示を出すことは出来ない。つまりは俺の役目の殆どは既に終わり、あとは見届けるのみとなっていた。
短い間だが共に頑張ってきた教え子達の試合だ。緊張を紛らわす為に煙草を咥え、火をつけようとした時だった。机に置いてあった携帯電話の着信音が部屋中に響き渡ったのは。
着信先の名前を見ると俺は少し笑ってしまった。
家族というのは離れていても繋がるものがあると聞いたことがあるが、これもそういうことだろうか。
いや、流石に偶然だろう。
「もしもし、久しぶりだな。元気にしてたか?愛里寿」
「うん。兄さまも元気だった?」
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現在、愛里寿とは1ヶ月に1、2回電話で会話をしている。俺から電話をすることはほぼ無いのだが、愛里寿から「今日の試合は無事勝てた」や「新しいボコのぬいぐるみを買った」等の何気ない話題だが電話して来てくれる。俺の方も「今日はこんなお客さんが来た」や「新作の料理を作ってみた」という話題を返す。
そんな何気ない会話の繰り返しだが、俺の大切な 幸せな一時だった。
「そんなことだからこっちは元気にやってるよ。愛里寿も大学生のチームメイト達と仲良くな。」
ちなみに俺が今現在、アンツィオの戦車道チームを指導していることは話していない。この関係も明日には終わる筈だ。特に話すこともないだろう。
「うん。今度休みが取れたらお店に遊びに行くね。じゃあ兄さま、おやs...「てーーんちょー!!トランプしましょうよ、トランプー!!」 ......兄さま?今の女の人の声、なに?」
あいつら...遊びや旅行で来てんじゃねーんだぞ!緊張感ねーのか!
「お、お客さんだ。お客さんから呼ばれただけだから、な。愛里寿!」
「けど今、トランプって言ったよね?兄さまは仕事中にお客さんとトランプするの?」
マズイ!声のトーンが違う、明らかに機嫌悪くなってる!
「トランプじゃなくてトリッパだ、トリッパの煮込み!牛の胃の煮込みな!すまんな愛里寿、注文が入っちまった。また連絡するよ、おやすみ!」
「......うん。おやすみ、兄さま。またね。」
ふぅ、危なかった...。愛里寿は一度機嫌損ねるとなかなか許してくれないからな。
さて、次はドアの前に居るであろうバカの番だ。
「てんちょー、トランプー」
「うるせーぞ、ペパロニぃ!お前のせいでまた大量のボコぬいぐるみ買わないといけないとこだったじゃねーかぁ!つーか明日試合だぞ、早く寝ろよ」
「えーー。じゃあ1回だけ、1回だけトランプしましょうよ!そしたらうちらも寝るっすから」
どうやらもう既に集まっているらしい。コイツらは、全く。
「ったく...1回だけだぞ。お前らに島田流トランプ術というものを見せてやろう」
「おっ!そうこなくっちゃ!アンチョビ姐さん達はもう部屋に集まってるんで行きましょ!」
ちなみにそのあと、めちゃくちゃババ抜きした。
そして、練習試合当日を迎える。