喫茶店長の戦車道指導譚~アンツィオ風味~   作:とらまる@

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7︰アンツィオよ、空を行け!

 んん...寝てたのか。

 聖グロリアーナとの練習試合から数週間が過ぎ、今日は全国大会のトーナメント抽選日である。

 そういえば昨日は全国大会の開催前の記念ってことで、うちの店で宴会したんだったな。どうやら、そのまま盛り上がって寝ちまったらしい。

 

「うわぁ...なんだこの惨状は...」

 

 辺りを見回すと店内は空いた皿やグラス、散らばったクラッカーや紙吹雪、そして騒ぎ疲れて爆睡している死屍累々の数々。

 寸胴や鍋かぶって寝てる奴までいるんだが、どうなってんだこりゃ。

 

「これは後片付けが大変だな...。今何時だー?」

 

 とりあえずコーヒーでも入れて目を覚ますか、なんて考えながら時計を見ると時刻は昼前10時半である。

 うーん、よく寝たなぁ。ん......あれ?今日の抽選会って12時からじゃ...

 

 

「あ、安斎ーー!!起きろーーー抽選会遅刻したら不味いだろ!!」

 

 

 俺は一気に眠気が覚め、床でマントに包まって寝ている安斎を揺さぶり起こす。

 

「ムニャムニャ...不味くはないだろ~...このパスタは絶品だぁ...Zzz...」

 

「こんな時に幸せな夢見てんじゃねーぞ!他のヤツらも起きろ!全国大会出れなくなるぞ!!」

 

「ん...白兎か...、おはよう。いま何時......あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ!抽選会!時間っ!!ふぁあ゛ぁ...どうじよう、はくどぉぉ」

 

 事の重大さに気付き慌てふためく安斎、その声で残りの面々も目を覚ましだす。

 

「んー...なんすかー、朝ご飯の時間すか~?」

「たかちゃ~ん、おはよう......あら、ここどこかしら?」

 

 参ったな...学園艦は朝のうちに最寄りの港に着いている筈だが、これから抽選会場まで向かっても間に合うかどうか。

 

 いや、悩むまでもない。ここで間に合わなかったら今までの苦労が水の泡になってしまう。

 そう決心した俺は携帯を取り出し、ある人へと電話を掛けた。

 

「もしもし...オーナー、頼みたいことがあるんですが..」

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「なぁ白兎、学園の校庭なんかにいてどうするんだ!?早く学園艦出て会場に向わないと間に合わないぞ!なぁなぁ、白兎!」

 

「やかましい安斎!!なんとか間に合わせるからちょっと黙っとけ!」

 

 現在、俺たちはアンツィオ高校の校庭で人を待っている。俺たち、というのは俺と安斎とペパロニの3人だ。カルパッチョには残りのメンバーへ指示を出し、店の片付けをするよう頼んでいる。

 

「んー、でも本当に大丈夫なんすか?今からじゃ車かっ飛ばしても厳しいんじゃないっすかねー」

 

「確かに陸地を行くのは間に合いそうにない。だったら...空から行くしかないだろっ!!」

 

 

 遠方から徐々にこちらに向かって聞こえてくるプロペラ音。そしてそれ以上の爆音でスピーカーから響き渡る『ワルキューレの騎行』。

 

「白兎ちゃ~~ん、おまたせぇ~☆」

 

 

オカマがヘリでやって来た。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「もぉ~白兎ちゃんからの呼び出しなんて久しぶり過ぎてびっくりしちゃったわよ~」

 

「すいません、オーナー。これしか間に合う方法が思いつかなくて」

 

「ママさん、お久しぶりっす!」

 

「あらペパロニ、アンタ相変わらずバカ可愛いわね~」

 

 彼女(?)の名は、沢田 マリア。『キャロル』のオーナーであり他にも色んな仕事をしているらしいが深くは知らない。知ろうとも思わない。ちなみに本名は、沢田 次吾郎。

 

「マ...ママ、間に合うのか?大丈夫なんだな!?」

 

「大丈夫よ、マリアに任せなさ~い!それより、あんまり喋ると舌噛むわよ!」

 

「へ...?ギャアァァァァァ!!!」

 

 その日の安斎の叫び声は『ワルキューレの騎行』と共に大空へと響き渡った。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「ほら、着いたわよ!さっさと行った行った!」

 

「助かりました、オーナー!」 「どもっす、ママさん!」 「ぎぼぢわるいぃ...」

 

 オーナーに礼を言って抽選会場に飛び込むと、今まさに学校名を呼ばれているところだった。あぶねぇ!

 

「アンツィオ高校代表の方ー、いらっしゃらないのでしたら失格と見なしますよ」

 

「はーい、はいはーい!ほら姐さん、頼んますよ!」

 

「うっぷ...へぁ~い」

 

 間一髪のところでペパロニが返事をし、安斎を送り出す。ふらふらだけど大丈夫かアイツは...。

 

 まぁ何にせよ、無事会場まで辿りつけた訳だ。これで1回戦の相手が決まる。

 

 さて、初戦のお相手は...?

 

 

 

「抽選の結果、アンツィオ高校の1回戦の相手は...ワッフル学院です!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 1回戦の相手がワッフル学院に決まり、俺は少し安心した。

 時間も練習量も不足している現在のアンツィオでは、初戦から黒森峰やプラウダに当たりなどしたら正直勝つ見込みは限りなくゼロに近いだろう。

 対戦相手のワッフル学院には悪いが、強豪校と呼ばれる部類ではないこの学校と当たったのは幸運と思うべきだろう。

 

「あら、もう対戦表決まったの?ほんとギリギリだったわねー」

 

「お陰様でなんとか間に合いましたよ。てかこの会場、関係者以外立ち入り禁止なんですけど...?」

 

 ちなみに俺の場合は事前に教導官として同行申請を出し、あとちょっと島田の名前を利用させてもらった。

 

「アタシはほら、こういう所にも知り合い居るからチョチョイと頼んで入れてもらったのよ~!」

 

「おぉー!流石っすね、ママさん!」

 

 ペパロニはこんな感じで軽く言っているが、普通そんな簡単に入れねぇって。ホント何者なんだよ、この人...。

 

 

 

「ちょっと君、アンツィオ高校の生徒だよね。困るよーあんなギリギリに来てもらっちゃ。こっちにも段取りってやつがあるんだからさ!」

 

 俺達の会話に割り込んで突然ペパロニを怒鳴り始めた男は、戦車道連盟の役員だった。確か何度か連盟の建物で見たことがあったな。

 

「あー..サーセン。まぁ間に合ったし良いじゃないすか!次は気をつけますんで!」

 

「それじゃ困るんだよ!兎に角、今回の件は何かしらのペナルティを付けるつもりだからね」

 

 ーーおいおい、遅れたのは流石にうちが悪かったがそれはちょっとやりすぎじゃないか!

 

 そう思い役員の方へと足を伸ばした瞬間、俺よりも一回りは身体のデカいオカマに道を阻まれたのだった。

 

「ちょっとアンタ、黙って聞いてりゃそれはやりすぎじゃないの!あの時の糞ガキがちょっと偉くなったからって調子乗ってんじゃないわよ!」

 

「うげぇ..! さ、沢田次吾郎!?なんでお前がここに!」

 

「おいゴラァ!!次、その名前で呼んだら潰すぞ!オォ!?......アタシは沢田マリア☆よーろしく!」

 

 

 怖ぇよ...男の、次吾郎の部分、完全に出てるよ...。

 

 

「こ...今回は特別に見逃すから、次回からは気をつけるように!」

 

 そう言い残し役員は一目散に逃げて行った。

 ペパロニ泣いてんじゃねーのか...。そう思って振り向くと、

 

「ママさんかっけー!!」

 

 キラッキラに目を輝かしたバカがいた。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 ちょっとした邪魔が途中入ったが、俺たちは抽選を終えた安斎を迎えに行く事にした。

 

「ってあれ?なんかあっちも絡まれてる...?」

 

 視線の先では、1人の少女が安斎になにか大声で叫んでいるところだった。

 

「久しぶりですね、アンチョビさん!初戦の相手が貴女たちアンツィオだとは、これはまさに運命!デスティニー!」

 

 あの制服は確か、ワッフル学院の生徒か。どうやら安斎とは知り合いみたいだな。

 

「おい、ペパロニよ。あそこの女生徒のこと知ってるか?」

 

「あぁー!!ブリカマ姐さん!ブリカマ姐さんじゃないっすかー!!ひっさしぶりっすねー!」

 

 え、なに?ブリカマ?ブリカマってあの魚の鰤の?美味しいよね!

 

「ペパロニ!その名前で私を呼ぶんじゃない!私の名前は真部 里香(まなべ りか)!オーケー?」

 

「安斎、えっと...この人は?知り合いみたいだが」

 

「あぁ白兎か、紹介しよう。彼女は真部 里香。去年まで私の同級生としてアンツィオで戦車道を共に学んだチームメイトであり、現在はワッフル学院の隊長を務めている」

 

「なるほど、それで安斎やペパロニと知り合いだったのか。で、ブリカマってのは何なんだ?」

 

 正直それが一番気になる。

 

「あ~...ペパロニの奴が考えたんだ。私やペパロニ、カルパッチョにはそういう名前があるのに彼女だけなかったからな。ほら、真部里香の読み方変えて部から何回か読んでみな」

 

 部里香真部里香真、部里香真...部里香真(ぶりかま)!すげぇな天才かよペパロニ!

 

「どうも本人には気に入られなかったみたいだけどな。しかしワッフル学院に転校したのは知っていたが、まさか戦車道の隊長を務めているとは驚いたぞ」

 

 さて...ブリカマの謎が解けた今、先ほどの話を聞いて真面目に危機すべき点は2つある。

 

 1つは、転校して1年もせずに彼女はワッフル学院の隊長になった。つまりそれだけの実力を持っているという可能性が高い。

 2つ目は、アンツィオの戦い方を彼女が理解していること。俺が現在指導しているのは、島田流の戦術を彼女たちアンツィオの戦い方にアレンジして教えているということだ。

 つまりは手の内がバレやすい。俺達の作戦が意味を成さない可能性が出てくる。

 

「昔のチームメイトを倒してしまうのは少し心苦しいですがこの1回戦、我がワッフル学院が勝たせて頂くわ!」

 

「ふん、望むところだ!お前が転校していった後の新生アンツィオを見せてやる!」

 

 ふむ。この流れだし俺も一応挨拶しとくか。

 

「現在、アンツィオ高校戦車道チームの教官をしている島田 白兎だ」

 

 俺が右手を差し出すと、彼女は素直に握手に応えてくれた。

 

「ワッフル学院戦車道チーム隊長、真部 里香です。宜しくお願いしますね、島田さん」

 

「あぁ、宜しくな。ブリカマ!」 「真部 里香よ!!」

 

 

 

 こうして1回戦は奇しくも、アンツィオの元同級生同士の戦いとなったのだった。

 

 

 

 

 

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