学校。真斗が校舎に入ってまず目に入ったのは、壁新聞だった。
『王女ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト、ポーカーで絢辻真斗の下僕に』
「…………」
こんな記事を書く奴は、真斗の知ってる中では一人しかいない。教室まで猛ダッシュした。勢い良くガララッ!とドアを開ける。
「あっ、真斗。おはー」
夜吹英史郎という新聞部の少年が手を振った瞬間、真斗のドロップキックが迫った。
「………えっ?」
「くたばれぇえええええッッ‼︎」
英士朗はギリギリ躱し、真斗のドロップキックは机に直撃して足首を捻り、悶絶。
「ぐっふぉああっ!」
「くたばれとはご挨拶だな、真斗?」
「テメェ!なんだよ、あの新聞は!」
「あははっ、久々のスクープだからな。ちょっと徹夜してみた」
「下僕じゃなくて奴隷だ!」
「あれ?そこなの?」
「いやそれ以外にも色々あるけど!お前アレ見てたのかよ⁉︎」
「そりゃあ、お前ら二人ほどスクープをポローンと落としそうな奴らなんていないからな」
「人の不祥事を自転車の鍵みたいに言うな」
「でもあんまり不祥事起こされると、スクープじゃなくなっちまうからなぁ。頼むからあんまり面倒ごとは起こさないでくれよ?たまにでいいからさ」
「おい、別にわざと不祥事起こしてるわけじゃねぇんだからな?……ったく、そもそもあの時に王女様と激突したのが運の尽きだったよなぁ……」
「ま、お前のその剣の所為でもあるんだけどな」
真斗の使う剣は、誰にも扱えない事で有名だったのだが、ほんの悪ふざけというか、英士朗とあっち向いてホイで負けて軽いノリの罰ゲームで真斗が使ってみたら使えましたみたいな剣なのだ。
「や、あの時はマジビビったわ」
懐かしむように英士朗が言った。
「俺もだよ。しかも相手の魔法は全部掻き消すからな」
「それだけの剣を持っててもお前弱ぇもんなぁ」
「うるせーな。俺剣術とか習ったことないし、この学園に来たのだって『面白そうだから』だし」
「……そんなアホは世界中探してもお前だけだぜ」
「実際、後悔してる……」
なんて話してると、またガララッ!と教室のドアが開いた。
「夜吹英士朗ぉおおおおおッッ‼︎」
教室でいきなりユリスは火球を飛ばした。
「ユリス⁉︎」
「頼むよ」
「オイ!」
後ろから英士朗に背中を押され、火球の前に出た。慌てて真斗は剣を前に出して搔き消した。
「っぶねぇ……!おい英士朗!押すなよタコ!」
「いやぁ、こういう時のための真斗の剣じゃないか」
まったく悪びれる様子なく英士朗は言った。ユリスは「チッ」と舌打ちすると、ズカズカと二人の元へ詰め寄る。
「なんだあの記事は!まるで私とこいつが主人と奴隷みたいな関係じゃないか!………いや、合ってるけど」
「合ってるんなら良くね?」
「良くない!こんなことが本国に知られれば……」
「ちゃんと本国の人に俺が説明するよ」
真斗が口を挟んだ。
「『自分から喧嘩をしつこいくらいに何度も仕掛けてきた上に軽い挑発に乗せられてポーカーで序列5位の座を争った結果、奴隷になりました』ってな」
「貴様は黙っていろ!」
「おっと、ご主人様に手を挙げるのか?」
「うぐっ……!」
「はーっはっはっ!何これ超気持ち良い」
一人で大袈裟に高笑いする真斗にユリスは悔しそうに涙目で「ぐぬぬっ」と唸り、英士朗は軽く引いていた。すると、またまた教室の扉が開く。今度は担任が入ってきた音だ。
「全員席に着けー。ホームアローンはじめるぞー」
テキトーに担任、谷津崎匡子が釘バットを担いで入って来た。それに反応し、ユリスや真斗をはじめとして全員が席に着き始める。教卓の隣にいるのは担任だけでなく、何処かで見た少年がいた。
「あー、とゆーわけで。こいつが特待転入生の天霧だ。テキトーに仲良くしろよ」
「ああっ⁉︎」
ガタッ!と、ユリスが立ち上がる。
「リースフェルト、火遊びの相手を見つけたのは分かるが黙って座ってろ」
怒られて座る。そして、天霧と言われた少年は言った。
「あ、はい。えーと、天霧綾斗です。よろしく」
「席は……ああ、ちょうどいい。火遊び相手の隣が空いてるから、そこにしろ」
言われて、綾斗は従った。すると、後ろの席の英士朗が声をかけてきた。
「俺は夜吹英士朗。お前さんの後ろの席だ」
「そっか。よろしく」
「で、俺が前の席の絢辻真斗だ。よろしくなー」
「ああ。……って、お前は確かユリスさん?だっけ?にご主人様とか言われてた……」
「ああ。ポーカーで勝った」
「ポーカー?仲良いんだな。お前とユリスは」
「ふざけるな!仲良くなんかない!」
隣のユリスが声を荒げて会話に入ってきた。
「そもそもそいつがいけないんだ!何度も何度も私との勝負をはぐらかしおって……!」
「そりゃ嫌がるでしょ!なんで一々俺が相手しないといけないんだよ!」
「私は私より弱い奴が私の上にいるのが嫌なだけだ!」
「だから1500円で売るって言っただろうが!王女様なら金くらい水道ひねれば出てくるんだろ⁉︎」
「お前は王女がどんな生活をしてると思ってるんだ!」
「そもそも昨日のポーカー勝負でなんで勝たなかったんだよ!」
「あれはお前……!そもそもなんで5枚捨ててロイヤルストレートフラッシュが出て来るんだ!」
「知らねーよ!」
「イカサマだろ!」
「配ったのはお前だ!」
などとギャーギャー騒いでると、隣で綾斗が呟いた。
「………仲良いな」
「良くない!」
ユリスが間髪いれずに答える。で、引き続きユリスと真斗が口喧嘩する中、英士朗が綾斗に耳打ちした。
「ま、仲良く見えるのは仕方ないよ。王女様はクラスで孤立してるんだけど、その中で唯一ああして話せるのが真斗だけなんだ」
「孤立?」
「初日に『うるさい。黙れ。私は見世物ではない』と一喝した結果だ」
「……なるほどな。ちなみに真斗と話せる理由は?」
「廊下でどっかのラブコメみたいに激突してさ、その時に真斗が押し倒して胸を鷲掴みしたんだよ。それで決闘することになったんだけど、王女様は真斗の剣の『魔法を吸収する能力』を知らなかったんだ。自分の大技を吸われて惚けてる内にやられて、それ以来『納得行かない!』って追いかけ回してるってわけだ」
「……へぇ、それでこんなに仲良く」
「ああ。その延長で昨日ポーカーをして、」
「奴隷になったと?」
「ああ」
綾斗は隣の漫才を見ながら思わず微笑んだ。