そんなわけで、真斗の部屋。窓からフワリとユリスが現れた。
「こ、こんばんは」
「どうも」
「じゃあ、早速作ってやるからキッチンへ案内しろ」
「へいへい」
と、夜に一つ屋根の下で女性が男性に晩飯を作るというのに、甘い空気の欠片もなかった。
「……………」
「……………」
黙々と飯を作るユリスと、黙々と読書(漫画)する真斗。
「出来たぞ」
「サンキュー」
言われて真斗は立ち上がり、席に着いた。机の上には、綺麗に皿に盛りつけられた炒飯が置かれていた。
「おおー。意外と料理できるんだな。美味そうじゃん」
「というか、なんだ貴様あの冷蔵庫の中は。何もないにも程があるぞ!」
「仕方ないだろ〜。金ないんだから」
「まったく……」
「それより、なんでユリスの分の炒飯はないの?」
「私はもう家で済ませた。貴様と一緒に食べる理由なんてないだろう」
「えー。なんか誰かと一緒にいるのに1人でモグモグ食べるのは申し訳ないんだけど」
「気にする事はない」
「そうは言ってもなぁ。ちょっと待ってて」
言うと、真斗は立ち上がり、冷凍庫を漁った。
「ほい、風呂上がり用のアイス」
「はぁ?」
「あげるよ。俺が炒飯食ってる間にそれ食っててくんない?」
「何でそうなる。私は別に……」
「俺が気まずいんだよ。というか、ご主人様から命令だ。食え」
「ひ、卑怯な奴め……。まぁ、命令なら仕方ないか」
言いながらアイスを受け取った。で、真斗は炒飯を一口食べた。
「おお……意外と美味い……」
「い、意外とってなんだ!」
「ジョーダンだよ。あむっ。美味ぇ」
「そ、そうか……」
少し顔を赤くしながら頬をポリポリと掻いた。
「? 何照れてんの?」
「て、照れてない!……ただ、その、なんだ。余り友達に手料理を食べさせるなんて機会はなかったからな……」
「……お前、俺の事友達だと思ってたのか」
「い、いや違う!今のはナシ!言葉の綾だ!」
「まぁ何でもいいけど」
シレッと言いながら炒飯を咀嚼する真斗。それを見ながら「まったく……」とユリスは呟いた。
「そういえばお前、どうして私を助けに来た?」
「は?」
「別にお互いピンチになれば助けに来るという仲でもないだろう。……いや、あの程度ピンチというほどではなかったが。特に、お前ではレスターに勝てないのは分かっていたはずだ」
「ちなみにそのペスターってのは強いのか?なんかスゲェマッチョで普段の俺なら速攻土下座してたけど」
「レスターだ。その見た目通りだ。私は奴を三回負かしているが、序列9位の男だよ」
「序列、9位……。もしかして、俺とんでもない奴に目を付けられた?」
「まぁ、私からお零れをもらったお前からすれば、天と地くらいの実力差はあるな」
「………また追い掛け回される相手が出来たのか……」
心底ウンザリする真斗。それを全く気にせずにアイスを一口噛みながらユリスは聞いた。
「それより、何故だと聞いている。話を聞く前からあいつが手強い相手だという事くらい分かっただろう」
「あー……うん。でも、相手がどんな強い相手であっても困ってる奴を見捨てる理由にはならないでしょ」
「…………」
「………なんだよ」
目を丸くして自分を見るユリスを怪訝そうに睨み返す。
「いや、なんでもない。変な奴だな」
「よく言われるよ。でも、ユリスも変な奴だよ」
「はぁ?なにを……」
「お姫様なのになんでこんな所にいるんだよ。お姫様自ら剣を握るなんて、普通じゃありえないと思うんだけどなぁ」
「ふん、お前には関係ない。ただ金が必要なだけだ。そのためには星武祭闘うのが一番手っ取り早い」
「そうか?競馬の方が早くね?」
「お前と違って賭け事は嫌いなんだ。というか、仮にも一国の王女が競馬なんてやってるところを見られたらそれはそれで問題だろう」
「あーなるほどなー。それで星武祭かぁ……。でも相手いんの?」
「そ、それは……!今探している最中だ……」
「まぁ、ユリス友達いないもんなー」
「う、うるさい!仕方ないだろう。冒頭の十二人レベルの強さを持って、清廉潔白で頭の回転が速くて、強い意志と高潔な精神を持つ奴が中々見つからないんだ!」
「そんなモン一生見つからないだろ」
「これでもかなり甘めにしたつもりだが?」
「ああ、そういう所だよ。友達出来ないの」
「だ、黙れ!」
「でも、エントリーの期限も近いし、そろそろ贅沢も言ってられないんじゃないか?」
「まぁ、その通りなんだが……それでも私は、負けられない。下手な人選は出来ない」
「……………」
そう言うとユリスは立ち上がった。
「さて、そろそろ帰らせてもらう」
「あ、ああ。そうだな。送っていくぜ」
「いらん。私はお前より強い」
「いや、でも女の子だし……」
「っ⁉︎ い、いい!いらないと言っている!」
「わ、分かったよ。てか、一々怒るなよ!短気な奴だな、牛乳飲め牛乳」
「チッ、まったく……。じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ユリスは窓から飛び降りて行った。
翌朝、ユリスが真斗の部屋から飛び降りる写真付きの記事が学校に出回った。
○
翌日の放課後。
「絢辻、ちょっといい?」
帰ろうとした真斗に綾斗が声を掛けた。
「なに?」
「まだこの学校に慣れてなくてさ。良かったら案内してくれない?」
「いいよ。今から?」
「うん」
「OK、じゃあ行こうか」
「あっ、待った」
綾斗の隣からおっとりした声が掛かった。
「私も行く」
沙々宮紗夜が眠たげな目で言った。
「いや、行くって……学校案内するだけだぞ?」
「いいから、行く」
真斗が言うも、紗夜は付いて来たがった。が、紗夜の目には綾斗しか映ってない。
「ああそう……。あ、どうせならユリスも来いよ」
「は、はぁ⁉︎なんで私が!」
「いいから、ご主人様の命令だ」
「くっ……!」
真斗はただ何となく誘っただけだ。せっかくならみんな一緒の方が楽しいと思ったし、ユリスをみんなの輪の中に入れてやろうと思った。
「英士朗もどうだ?」
「悪い、俺は部活だからパス」
「そっか」
そんなわけで、3人で綾斗を学校案内することになった。
○
案内が終わり、4人は噴水の前のベンチに座った。
「いやー、三人ともありがとう。お礼に何か飲み物奢るよ。何がいい?」
「そうだな。では冷たい紅茶を頼む」
「……私はりんごジュース。濃縮還元じゃない奴がいい」
「俺は今はいらないから今日の19:00からスーパーで半額セールあるからそれで弁当買ってくれ」
「……ああ、うん、まぁ、いいんだけどねそれくらい?」
そんなわけで、綾斗は飲み物を買いに行った。
「いやー。しかし沙々宮さんがついて来るなんて言ったのは意外だったな。普段から寝惚けてるイメージしかなかったから、てっきり直帰して爆睡するものかと思ってた」
「……そんな事ない。私はこう見えてアウトドア派」
「嘘つけ」
「嘘をつくな」
「………少し、頭に来た」
紗夜は2人を睨んだ。
「………それより、ご主人様ってどういうこと?」
「「ブフッ!」」
と、2人は噴き出した。
「なっなんで沙々宮がその話を知っている⁉︎」
「……案内するって決まった時、『ご主人様の命令』って絢辻が言ってた」
「っ!ば、馬鹿者!外で言うなと言ったのはお前だろう!」
「もう俺たちの関係を知らない奴がいると思わなかったんだよ!」
「………俺たちの関係?付き合ってるの?」
その一言にカァッと顔を赤くするユリス。
「ばっばばばバカ言うな!誰がこんなバカでアホで間抜けで弱い奴と付き合うか!」
「でも、前から仲は良かった」
「仲良くない!」
「沙々宮さん、俺とこの二言目には『決闘だ!』が出てくるような女が付き合うわけないだろ?」
落ち着いて否定する真斗。すると、紗夜は素直に頭を下げた。
「………それもそう。失敬」
「……それは誰に対する失敬だ?」
「絢辻」
「なぜ私じゃない⁉︎」
なんて話してる時だ。
「⁉︎ ユリス!」
ユリスの前に真斗が立ち塞がった。噴水の方から光の矢が数本連続して飛んで来たからだ。真斗は悪食を展開し、光の矢を吸収したものの、剣が追い付かずに数本は身体に突き刺さった。
「ぐあっ……!」
「真斗!」
そして、噴水の中から黒いローブを被った襲撃者が出て来た。
「くっ……!咲き誇れ、鋭槍の白炎花!」
空中で炎の槍を出し、解き放った。が、それはまた別の黒い影によって遮られた。
「新手か……!いや、それよりも私の炎を防ぐとは……」
2人目の方はデカイ斧を持っていて、それを盾代わりにしたようだ。
「クッソ……!」
ヨロヨロと立ち上がる真斗。
「馬鹿、無理はするな真斗」
ユリスがそう言った時、
「……どーん」
無気力な声と共にものすごい衝撃が大男に直撃した。
「………なんだそれは」
隣で自分よりアホデカイ銃を構えている紗夜に聞いた。
「……三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウム」
「……まさか、グレネードランチャーか?」
紗夜は次の獲物に狙いを定めた。
「……バースト」
1人目の噴水にも躊躇なく発砲、一撃で噴水ごと吹き飛ばした。
「見かけによらず過激だなお前は」
「……リースフェルトほどじゃない。それより、絢辻を保健室に運ぶべき」
「! そうだったな。おい、立てるか?」
「大丈夫だ。こんくらい。保健室行ってくるから、案内なお前らに任せた」
「無理はするな」
ユリスは言うと、真斗の腕を自分の首の後ろに回して、肩を貸した。
「っ⁉︎」
「必要はなかったが、助けてくれたお礼だ」
「そ、それはどうも……」
保健室に運んでもらった。