東方幻影人   作:藍薔薇

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第105話

眠気を押し退けて無理矢理起き上がる。静かだとは思っていたけれど、どうやら萃香さんは何処かへ行ってしまったようだ。うーむ、何処へ行ったんだろう。お酒でも探してフラフラしてそうな気がする。…萃香さんのことを考えていたら、この家に残っている食料がほとんど食べられてしまったことを思い出して悲しくなってきた。

 

「さーて、今日は何しようかな」

 

包丁と皿を取り出し、唯一残っている洋梨の皮を剥きながら考える。

大図書館に行って本をひたすら読むのも悪くないかな。どんな内容の本を読むか特に決めないで突撃すると、色々目移りしてしまって読める量が減ってしまうのが難点だけど。読みたいの、何かあるかな?…今は思い付かない。うん、また今度にしよう。それに、フランさんとはしばらく会えないだろうし。

チルノちゃん達と遊ぼうかな?昨日はいなかったけれど、霧の湖に行けば大抵誰かがいる。今行ったら誰がいるかな。チルノちゃんと大ちゃんはいそうだけど、ルーミアちゃんはどうかな。昼よりも夜のほうがいることが多い気がする。サニーちゃん、ルナちゃん、スターちゃんは蛇のヌシを捕獲出来ただろうか。出来たのなら、きっと自慢でもしているだろう。リグルちゃんとミスティアさんは…。

 

「…あ、そうだ」

 

思わず声に出てしまった。うん、リグルちゃんとミスティアさんに会いに行こう。月の異変の被害者だし、どうして襲われたかくらいは軽く伝えようかな。もし会えなかったら、んー…、その時考えよう。うん。

 

「うん、剥けてる剥けてる」

 

皿の上に乗った一本の皮に満足しつつ、六つに切り分けて食べる。朝食はこのくらいで、と言うかこれしかない。

…やることが増えた。何か食べれるものを帰り道にでも拾ってこないと。

 

 

 

 

 

 

霧の湖に来てみると、大ちゃんしかいなかった。ミスティアさんはここにいることはあんまりないからしょうがないと思うけれど、リグルちゃんがいないのはちょっと残念。近くに降り立ったが、大ちゃんは全く気付いていない様子でボーッと湖の奥を見ている。

真横に立ってもわたしに気が付くことはなかったので、軽く肩を叩く。

 

「あのー…」

「あっ、まどかさん。おはようございます」

「おはよう、大ちゃん。…何かあった?」

 

普段よりも早口なのも少し気になった。

 

「あの、サニーちゃん達がちょっと無茶したから怪我しちゃって」

「…うん」

 

そっか。捕獲は失敗しちゃったのか。三人がかりで返り討ち、か。一体、どのくらいの大きさなんだろうか。

 

「それでチルノちゃんが『敵討ちだー!』って言って」

「ん、捕獲じゃないのか」

「え、捕獲?」

「あれ、三人は捕まえるって言ってたけど」

「…チルノちゃん倒す気満々だったんですが…。大丈夫でしょうか、少し心配なんです…」

「そっか。なら行こう」

「え?」

「止まってたら何も始まらない。場所は分かる?」

「えーと、あの、…こっちです!」

 

少し迷ったようだけど、大ちゃんは意を決して湖の向こう側を指差した。そのままその方向へと飛んでいくのに付いて行く。

 

「…よかったんですか?」

「ん、何が?」

「まどかさんも何かすることがあったのでは、と」

「いやー、リグルちゃんとミスティアさんに会えれば、って思ってたんだけどね。いなかったからいいよ」

「ミスティアさんは屋台の準備で忙しい、って前に言ってたと思いますけど…」

「もういいんだよ、そんなこと。いなかった時は別のことをしようって思ってたから」

「なら、その別のことを――」

「これからするんだよ。あの瞬間に、わたしのやることは決まったから」

 

蛇のヌシの捕獲。事後承諾でもいいなら狩猟。それで食糧にしたい。燻製にでもすれば保存も利くだろうし。

 

「その、ありがとうございます」

「気にしないでいいよ。やりたいことをするだけなんだから。…あ、そうだ。その蛇のヌシってどんな感じなの?」

 

見た目が分からないと、どれがそのヌシなのか分からない、なんてことになりかねない。

 

「ええと、薄茶色と焦げ茶色の斑模様と言ってましたけど」

「大きさは?」

「詳しくは知りませんが、その…『丸呑みされるかと思った…』ってサニーちゃんが」

「…うわぁーお」

 

相当の大きさだということは分かった。しかし、丸呑みねぇ…。蛇って顎がかなり大きく開くから、その証言だと大きさの幅がかなり開いてしまう。それでも、通常では考えられないような大きさな気がするけれど。

霧の湖を飛び越え、森の中へと入って行く。疎の森の中を、大ちゃんは迷いなく進む。

 

「もしかして、行ったことある?」

「…何回か。だけど、中に入ったことは一度も…」

「巣に?」

「洞穴って言ってもいいくらいですけれど。…見えてきましたよ」

 

そう言われて目を凝らして見ると、ちょっとした山を穿つ洞穴が見えてきた。…暗いなぁ。奥が全然見えない。乾いた枝はその辺に落ちてるし、火打石でも持ってくればよかった。そうすれば、松明作って明かりに出来たのに。

洞穴の入り口には足跡がいくつか残されていた。真新しいのが二人分で、そのうち一人は素足のようだ。もう一人の靴の持ち主は誰だろうか。そして、その下に少し古いのが三人分。多分、サニーちゃん、ルナちゃん、スターちゃんの足跡だろう。

 

「チルノちゃんはもう入ったみたいだね」

「…行きましょう、まどかさん」

「え、明かりないんだけど…」

「大丈夫ですよ。任せてください」

 

そう言うと、手の平からフワリ、と淡い光を放つものが現れた。火とは違い、熱は感じられない。

 

「へえ、そんなこと出来たんだ」

「このくらいは出来ますよ。何せ、大妖精ですから」

 

洞穴を照らすには少し弱いような、と思ったけれど、実際に入ってみると十分な明るさだった。少なくとも、大ちゃんが真ん中を歩けば左右の壁と天井は見える。

地面には壁が欠けたと思われる石の破片が落ちている。もし分かれ道があったとき用に、時折複製してその場に放置しておくようにしよう。

それにしても、あの光源は便利だなぁ…。ふむ、わたしにも一つくらいあってもよさそうだ。大ちゃんが照らそうとするところと、わたしが見たいところが違うこともあるかもしれないし。この光源、複製出来るかな?

 

「うわっ!」

「キャッ!?」

 

…駄目だった。光源に触れることが出来なかったから、視認で指先に複製してみたら一瞬しか光らなかった。しかも、あの淡い光からとは思えないほど弾けるような強い光。もしかしたら、光を留めようと思わなかった所為かもしれない。

そう思ってもう一度やってみたけれど、上手くいかない。…どうやら、光源を複製しているのではなく、光そのものを複製しているようだ。もうちょっと頑張れば出来るかもしれないけれど、そのたびに閃光を撒き散らすのはよくない。目もチカチカするし…。

 

「うぅ…、目が」

「いや、ごめんなさい…」

「いえ、もう大丈夫です。…それにしても、一本道で助かりました」

「ええ。まあ、かなり曲がりくねってますけ――大ちゃん、静かに」

「…?」

 

奥から声が聞こえてきた気がした。もう一度聞こえてくるかもしれないので、耳を澄ます。

 

「――ツ、――い―!」

「ど――る!?―ル―!?」

 

聞こえた。チルノちゃんとリグルちゃんの声。どうやら、もう一人はリグルちゃんだったようだ。うん、これはちょうどいい。当初の目的の半分と今回の目的の両方をこなせそうだ。

 

「奥に二人いるみたいですね」

「チルノちゃんの他に誰かいるんですか?」

「リグルちゃんの声も聞こえてきたから、多分。もしかしたら、蛇のヌシと交戦中だったりして」

「…急ぎましょう、まどかさん」

「そうしましょうか」

 


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