東方幻影人   作:藍薔薇

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第12話

久しぶりに自分の家に帰ってきた。特にやることがなかったので、寝ることにした。まだ明るいけど、明日やりたいことはたくさんある。慧音の家に行って服を返してもらったり、チルノちゃんとのスペルカード戦の約束を果たしたい。後、紅魔館に行って、大図書館に置いてきてしまった『サバイバルin魔法の森』と布団を持ち帰りたいし、フランさんとのスペルカード戦もある。明日だけで終わるかな?

 

 

 

 

 

 

太陽が地平線から薄っすらと見えてきたころに目覚めた。軽く伸びをしてから布団から出て、いつもの慧音の服に着替える。そして、台所へ行き干しておいた鹿の肉と茸をお湯にぶち込んで、醤油と塩で味付けをする。そろそろ食糧が底を突きそうだ。今日は予定があるから、明日以降に採集しようかな。

スープの味はお世辞にも人に出せるような味じゃなかった。慧音の家や永琳さんの病院で食べた料理は美味しかったな…。あのくらい美味しいのはどうやって作るんだろう。何か特別なものを入れているのかな。

そんなことを考えながら家を出て、真っ直ぐ霧の湖へ向かう。まだ朝早いから、慧音の家には帰ってから寄ろう。

 

 

 

 

 

 

飛び続けること一時間ほど。霧の湖に到着した。さて、チルノちゃんと大ちゃんはいるかなー?

軽く見回すと、湖のど真ん中で弾幕ごっこをしていた。ん?なんか知らない妖精が三人いる。どうやらチルノちゃんとその三人の妖精が勝負しているようだ。大ちゃんは近くで観戦をしているみたい。

一人目は、橙色に近い金髪が肩のあたりまで伸びていて、その両側を赤いリボンで括っている。そして、頭の上には白のフワフワした布。あの布、紅魔館で見た妖精メイドさんが付けてたのに似ているから、もしかしたらその一人なのかも。瞳は青色。服装は、赤や黄色と言った暖色系で統一されている。羽は四枚で笹の葉に似た形。服装から、暖色妖精と呼ぼうかな。

二人目は、くるくるとした亜麻色に近い金髪に、黒いリボンと白い帽子を被っている。瞳は赤く、なんだかジットリとした目をしている。服装は真っ白で、ところどころに小さな黒いリボンが付いている。羽は上方に反り返った三日月のような形。何となく、髪の毛の色と羽根の形が月を連想させるから、月光妖精と呼ぼう。

三人目は、黒髪が腰まで真っ直ぐ伸びている。そして、大きな青いリボンが頭頂部に結ばれている。瞳は黒色。服装は、青色のドレスを身に纏っている。羽は真っ白な蝶のような形で、他の二人に比べると少し大きく見える。服装とリボンから、青色妖精と呼ぼう。

1対3で大丈夫かな、チルノちゃん。スペルカードの枚数と被弾の回数のルールの変更点も気になるけど。近づいて見ようかな。大ちゃんと一緒に観戦をしよう。

湖の上を飛ぶこと十数秒。飛んでいる途中で大ちゃんはわたしに気付いて微笑んでくれている。

 

「お久しぶりですね。まどかさん」

「うん、久しぶり。大ちゃん」

 

一週間も経ってないから、久しぶりって感じはしないけどね。軽く挨拶を済ませて、今の戦況を聞いてみることにする。

 

「ねえ、今どんな感じ?」

「え、嬉しい気分です。まどかさんに会えて」

「それは嬉しいけど、戦況を知りたいな」

「あっ、すみません…。えーっと、チルノちゃんがスペルカードを一回使って、一回被弾。サニーちゃん達はスペルカード二回使って、一回被弾してる。あ、ルールはチルノちゃんはスペルカードは三回、被弾も三回までで、サニーちゃん達はスペルカードは一人一回で、被弾は三人が合わせて三回まで。だから、もうサニーちゃんしかスペルカードが使えないって感じ」

「うん。ありがと。とっても分かりやすかったよ」

 

感謝を伝えてから、スペルカード戦のほうを見る。あの三妖精の内の誰かがサニーというらしい。雰囲気からして、暖色妖精のことだと思う。サニーって太陽とか日光みたいな意味だったはずだし。

 

「雪符『ダイアモンドブリザード』!」

 

チルノちゃんがスペルカードを宣言した。すると、チルノちゃんの周りから氷のような弾幕が弾けるように飛び散り、三人に襲い掛かる。暖色妖精の動きはかなり機敏で、スイスイと避けている。青色妖精は広めのところを選んで動いている。しかし、残念ながら月光妖怪はあまり避けるのが得意ではないようで、反応が少し鈍い。こんな速度じゃあ霧雨さん相手だと一瞬で終わっちゃいそう。そう考えた矢先に、月光妖精の眉間に被弾した。試合終了。結果はチルノちゃんの勝利。1対3で勝てるってことは、相当強いんだろうな。

暖色妖精が慌てて月光妖怪に近寄る。

 

「大丈夫?ルナ!」

「うぅー、なんとか…」

「まあ、私達の被弾はぜーんぶルナなんだけどねー」

 

どうやら、ルナと呼ばれた月光妖精が三回全部被弾しているらしい。もうちょっと練習したほうがいいかも、なんて考えていたら、チルノちゃんが私に気が付いた。

 

「あ!まどかじゃん!」

「チルノちゃん、おはようございます」

「アタイが勝ったとこ見たかー?」

「ええ、見ましたよ。とてもいい勝負でしたね」

「アタイは最強だからなー!」

 

そう言って胸を張るチルノちゃんはとっても可愛らしかったです。三人の妖精もわたしに気付いたようで、何やら顔を近づけてヒソヒソと話し始めた。

 

「ねえサニー、あの私そっくりなの知ってる?」

「え?何処から見ても黒髪で私そっくりじゃない」

「えー!スター何言ってるの!?あの太陽みたいに可愛らしい顔は私に似てると思うけどー?」

「どこがよ!あの落ち着いた顔!金色の髪に赤い瞳!どう見てもあなた達には似てないわ!」

「ルナもサニーも似てるとこなんて全然ないじゃない!」

「何をー!この私の姉妹と言ってもいいほど似てるのに!アンタ等の目は節穴か!?」

 

訂正。丸聞こえでした。暖色妖精はサニー、月光妖精はルナ、青色妖精はスターと呼ばれていたが、その三人はわたしの見た目で口喧嘩を始めてしまった。三人とも正しいことを言っているのがなんとも悲しいことだ。わたしは見た人と同じ顔になる妖怪なのだから。さて、どう説明しようか…。

 

「ねえ!あなたもそう思うでしょう!?」

「私と同じような顔してますよね!?」

「お姉さん私そっくりだよね!?」

 

突然三人がこちらを向いて言い放つ。三人が同時に言うものだから、なんて言ったんだか分かりにくい。しかも、わたしの返事を待たずにまた口喧嘩が始まってしまった。ああ、どうすればいいの?まあ、気にせず話せばいいよね、うん。

わたしは手を叩いてこちらに意識を向かせる。ハイ注目。

 

「サニーちゃんもルナちゃんもスターちゃんも静かに!わたしの話を聞いて!」

「あれ?何で私達の名前を?」

「サニー、自分で言ってたじゃない」

「サニーが言ってたわよ」

「アンタ等も言ってたでしょー!」

「はい喧嘩しない!わたしは鏡宮幻香。ドッペルゲンガーっていう妖怪よ」

「ドッペルゲンガー?」

「えーと、確か自分そっくりの分身とか魂が二つに分かれた存在とかだっけ」

「見たら近いうちに死ぬなんて噂もあるわねー」

「ええ!?私達死んじゃうの!?」

「死にませんから安心してください」

 

おおう、そんな噂があったのですか…。道理でわたしのことを避けまくるわけだ。昨日の血塗れもわたしの悪い噂を広める要因になりそうで怖いです。

 

「わたしは見ている人と同じ顔になるから、三人とも正しいことを言ってたの。だから喧嘩しないで」

「へー、面白い妖怪ね」

「ふふ、まるで鏡を見てるみたい」

「うーん、私が髪を伸ばすとこんな感じになるのか…。今度伸ばそうかな…」

 

三者三様の反応。サニーちゃんは髪の毛伸ばさないほうが可愛いと思うけどね。

まあ、この三人のことはこのぐらいでいい。ここに来た理由はチルノちゃんとのスペルカード戦の約束を果たすためだ。スペルカードも考えたしね。

 

「さて、チルノちゃん。わたしとスペルカード戦をしましょう?この前、約束したでしょう?」

「お!まどか、スペルカード考えてきたのか?」

「ええ、ちゃんと」

「よーし!じゃあアタイと勝負だ!」

 

そう言ってビシィッとわたしを指差す。やる気は十分見たい。すると、大ちゃんが私達に確認を取ってきた。

 

「じゃあ、スペルカード三回、被弾三回でいいですか?」

「うん!いいぞ!」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

審判は大ちゃんがやってくれるみたいだ。優しいなあ…。

 

「私達ともやってくれるかな?」

「サニー、そういうのは聞かないと分からないわよ」

「ええ…、私もうやりたくないんだけど…」

「ふふ、チルノちゃんとのスペルカード戦が終わったらやってあげますよ?」

「本当!?ルナ!スター!頑張ろう!」

「そうね。頑張りましょ?」

「はあ…。しょうがないわね…」

 

相手がやりたいと言っているのだし、しっかりとやってあげよう。まあ、今は目の前の相手であるチルノちゃんに集中しよう。

わたしは『幻』を十五個展開する。直進弾用の高速と低速を各三個、追尾弾用、阻害弾用、炸裂弾用も各三個だ。準備は万端だ。

 

「さあ、チルノちゃん対まどかさん。よーい……、始めっ!」

 


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