東方幻影人   作:藍薔薇

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第123話

『貴女ハ、オねーさンナんだネ?』

「ええ。わたしは鏡宮幻香。そう言う貴女はフランさんですか?」

『そうダよ?私ハフランドール・スカーレット』

「どうして貴女がわたしの中にいるんですかねぇ」

『ドうしテおネーさンが私ノ中にイルんだロうね?』

「フランさん…、いえ、貴女のことは『破壊魔』って呼びましょうか?」

『ひッドいなァ…!』

「貴女は確かにフランさんなんでしょう。ですが、偽物だ」

『ソうカモね』

「それに、そう呼ばれたくないなら破壊なんてしなければいい」

『ヤだ』

「あっそ」

 

 

 

 

 

 

「誰―!力の――者―こ―――来――れ!」

 

朝早く、男の声が僅かだが届いた。人間の里に数ある出入口の一つからのようで、その出入口は、最も魔法の森に近いところにあるものだ。

 

「誰―!―――る者―――まで――く―!」

 

同じことを言っているだろう。また、同じ男の声が人間の里に響く。その声色だけで男の必死さが分かる。

 

「…行くか」

 

夜遅くにコソコソと、あるいは急ぎ足であの出入り口へ向かう男を何人か見た。私は六人しか見ていないが、出来るだけバレてしまわぬよう、あの出入口を待ち合わせ場所にしてまとまって移動せずに個人個人で移動していたのだろう。そして、過激派の連中と幻香は衝突したのだろう。

その場所には、過激派が倒れているだろうか。それとも、幻香が倒れているだろうか。もしかすると、その両方か。

家を飛び出し、一気に駆け出す。何人もの人を抜き去り、その出入口の前で地面を浅く削りながら止まる。

 

「誰か!力のある者は――慧音、先生?」

「ん?ああ、君か。久しいな。手伝いに来た」

「ありがとうございます!先生が来たなら百人力だ!」

「よせ。私はそこまで力があるわけではない」

 

私が抜き去った人達も徐々に集まり、最終的には三十人ほど集まったようだ。それを見た彼は、もう一度大声を張り上げた。

 

「皆!聞いてくれ!少し遠いところだが、森の一歩手前に何十人も人が倒れているんだ!運ぶのを手伝ってほしい!」

 

昔からこうやって人をまとめるのが得意な生徒だった。どうしてか分からないが、彼がこうして声を出せば、人が自然と集まってきた。言霊というものが他より強いのかもしれん。それを知ってか知らでか、彼は門番の職に就いた。その旨を私に伝えに来た時の彼の笑顔は――っと、関係ない事に思考が飛んでしまった。

 

「よし、行こう!」

 

…どうやら、少し昔のことに思いを馳せている内に、ここにいる人達をまとめ上げたようだ。流石、と言ったところか。

彼を先頭に里を出る。私は最後尾に付いて行くことにした。周囲を多少警戒しながら集団で離れることなく進んでいくと、集団が急に止まった。どうやら、彼が止まったからのようで、それは目的地に到着したということに他ならないだろう。

ザワザワと言った声を聞き流しながら奥を診てみると、確かに何十人もの男が倒れている。

 

「…うっ、これは…」

 

誰かの悲痛な声が私の耳に入ってきた。私の目に真っ先に入った意識のない男は、腕が普通なら有り得ない方向に曲がっている。骨が露出していないのが幸いだったな、と思いながら近付いた。意識がない事に安堵と危惧を同時に感じながら、他に傷がないか確かめる。すると、心臓部に強い衝撃を与えたように肋骨がまとめて折れていた。…これは、運ぶときに注意しないといけないな。

 

「皆!一人ずつ運んでいこう!落としたりした方が大変だから、一人で運ぶ自信が無かったら二人で運んでもいい!」

 

顎が砕けた男を背負いながら、彼は言った。こういう時、指揮することが出来る人がいると周りの行動に大きな差が出る。そして、その指揮する人が自ら行動していれば、尚更だ。

この大怪我をした男を運ぶ前に、軽く見回した。大量に落ちている武器の数々。その多くは、誰が見ても正常な用途では使えないと分かる。足元には踏み潰された義眼が落ちていた。しかし、どれだけ探しても幻香の姿は何処にもなかった。つまり、きっと幻香は生還したのだろう。

さて、考えるのはひとまずここまでにしよう。周りの人達もけが人を運び出し始めた。私も、一人でも多く運ぶことにしよう。

 

 

 

 

 

 

「重症だと思う人は近くに運んでくれ!」

「これで全員か!?」

「ああ、これが最後だ!」

 

何往復かして、倒れていた男達八十五人を里に運ぶことに成功した。運んでいるのを見た人が、里にいる医者を呼び出していたようで、その後の対応はその医者を中心に行われていた。…流石に永遠亭に行った人はいなかったようだな。

一人の例外もなく意識を失っており、それでいて誰も死んでいない。あと数時間発見が遅れていたら失血死してしまったかもしれない男が一人だけいたが、止血は既に済んだ。

 

「本当にありがとう!」

 

彼は協力してくれた人全員に礼をして回っていた。さて、この場で私に出来ることはもうなさそうだ。

 

「…む?」

 

妙な視線を感じて空を見上げると、一人の鴉天狗らしき者がいた。…よりにもよってお前か。最も特徴的な翼が巧妙に隠されており、知っている顔でなければそうとは思わなかっただろう。

私の視線に気づいたからか、ゆっくりと降りてきた。わざわざ人に見られないところに着地してからこちらに来る当たり、それなりに用心はしているようである。

 

「あやや、慧音先生じゃないですか」

「お前に先生と呼ばれる筋合いはないな、文」

「いいじゃないですか。さて、これは一体どういった状況で?」

「自分で確かめろ」

「ちぇ、冷たい。…ま、いっか。被害者の言葉も出来れば集めたいですし、少し粘ってみましょう」

 

そう言うと、怪我人の周りに群がる人垣の中へと飛び込んで行った。さて、どんな記事にされてしまうのだろうか…。かなり心配だ。幻香のことを下手に書かれてしまったら、また同じことになりかねない。しかし、私がそれについて何か口にすれば、それをどう捉えて、どう解釈されるかも分からない。それなら、出来るだけ相手にしない方がいい。

 

「意識はあるの?…え?無い!?」

「貴方…どうして…?」

「ぅわぁーん!お父ちゃあーん!」

 

人垣の中には、倒れている男の家族と思われる人も当然いた。恥も外聞もなく泣き叫ぶ人も当然いた。これを幻香がやったことだと思うと、酷く悲しくなる。

寺子屋へ戻ろうとした時、横から彼が走ってきた。かなり疲れているように見えたが、その表情は私とは真逆で、非常に晴れやかなものだった。

 

「先生!」

「…何だ?」

「この度はありがとうございました!」

「気にするな。やり残したことがあるから、私は一度帰る」

「そうですか。それではまた」

 

本当はやり残したものなどありもしないのだが、その代わりにやらなければならないことがある。

これだけのことが起こったのだ。里がどのように変化してしまうかは、全く分からない。しかし、数少ない分かることの一つで、この状況で親は子供を外に出すようなことはほとんどしない、ということだ。親は子供の危険に対して過敏なところがある。そうなってしまうことが分かっているならば、寺子屋をしばらくの間休止した方がいい。

急いで家に戻り、新しく買い換えた筆を取り出した。そして、どのような文章を書こうか考え始めた。

 

 

 

 

 

 

拝啓

 皆様のことですからこの清々しい季節、

勉学を頑張っているのでしょうね。

 さて、本日起こった事件によって皆様の

平穏が損なわれてしまったかと思われます。

 それに伴い、一月の間この寺子屋を閉講

させていただきます。

 休みだからといって、くれぐれも学習を

怠らないように。

 以上、どうぞよろしくお願いいたします。

                敬具

            上白沢 慧音

 

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