東方幻影人   作:藍薔薇

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第127話

「少し気になったことが」

『ナァに?珍しイじャン』

「同じ壊すでも、ものによって違うんですね」

『ソうだネェ。やっパ人ノほうガ壊しテテ気持ちイイ』

「人のほうが壊してて気持ち悪い」

『そウ?こウ、スカッと来なイ?』

「来ませんね。代わりにドスリと重いものが来ますよ」

『そンナつまラなイモの、感ジなけレバいいノに』

「そのつまらないものを感じなくなったら、自分で自分を許せない」

『罪ノ意識なンてイらナイ』

「もし本気でそう言っているなら、やっぱり貴女は偽物だ」

『…ソウかもネ』

 

 

 

 

 

 

「…粗探し?」

「ああ。お前らの情報から、気になる部分をいくつか追求していく」

「なんだそりゃ?」

「曖昧なのが嫌いなだけだ」

 

曖昧な部分が残されていると、その部分に触れた時にどう解釈されてしまうか分からない。知っているならそれでいい。しかし、不明と知らずに勝手に埋めてしまったら堪ったものではない。

 

「まず、妹紅」

「何だ?」

「さっき言ってたDNAについてだが、六兆分の一と言うからには、よっぽどの事がない限り同じになることはないということでいいのだろう?」

 

まず手軽なことから訊いてみたところ、妹紅はふと思い当たることがあったようだ。

 

「あっ、そういや双子だと同じになるとか言ってたぞ。忘れてた」

「双子?…そういう例外を除けばほぼないんだな?」

「…そうだと思うが、それが何だ?」

「妖怪狸なんかの変化はどうだ?」

「それは変わらないってさ」

「…知っているなら先に言ってくれ」

 

そう言うと、妹紅は視線を逸らし、少し落ち込んだ声色で言った。

 

「…悪い。けどさ、必要だと思わなかった」

「今はどれが必要になるか分からん。萃香、フランドール。お前らも何か言ってないことがあれば、今の内に思い出しておけ」

「分かった分かった」

「うん、了解」

 

萃香は腕を組み、フランドールは天井をボンヤリと見上げだした。…大丈夫そうだな。

 

「あと、萃香は分身出来ただろう。それはどうなんだろうな」

「…知らねぇ。悪い」

「それならいい。答えれたらでいいんだからな。それよりも、誤魔化されるほうがよっぽど悪い」

 

情報が捻じ曲げられるのは、非常に恐ろしいことだ。誤った情報は誤解を招く。

 

「へえ、萃香って分身出来るんだ」

「その言い方、まるで自分も出来るみたいじゃんか」

「出来るよ!自慢のスペルカード!」

「ほう?今度見せてみろよ」

「今度ね」

 

そういえば、フランドールも出来たな。ほんの僅かな時間しか見ていなかったから、あまり印象に残らなかったようだ。

二人の話は少しずつ発展していき、言い忘れがないか考えているかどうか怪しくなっているが、今は放っておこう。

 

「妹紅。お前の情報で私が一番気になったのは、何故DNAの極一部を残したのかだ」

「はぁ?」

「どうせなら全部フランドールになればいいだろう?そんな中途半端にせずに」

「…その中途半端な部分、本来の幻香のDNAと同じなんだ」

「ほう?偶然とは思えないな」

 

その中途半端な部分は必要だったから残されたのか、それとも出来なかったから残されたのか。それは分からないが。

 

「まあ、これが分かったからなんだといった感じだが」

「だろうよ」

「とりあえず、このくらいだ。次、萃香。いいか?」

「お?早くね?」

「そうでもないさ。残された時間があまりないのは、見てれば分かる」

「…そうかい」

 

そう言うと、フランドールとの話をすぐさま打ち切り、私のほうを向いた。フランドールも、打ち切られたことを気にした様子を見せず、また天井を見上げて考え出した。

私が口を開こうとすると、ス、と右手を私の前に出した。待て、ということだろう。

 

「先に言ってなかったのを言う。『ドス黒い意識』は取り除けない。紫が断言した」

「なっ!?」

「え!?」

 

妹紅とフランドールが目を見開きながら、萃香の顔を見た。当然、私も少なからず驚いた。しかし、そんな私達を気にすることなく続けた。

 

「それとな、アイツ、別れ際に幻香を失いたくない、って言ったんだよ」

「…よく分からんな」

 

…幻香はあの賢者が失いたくないと思うような妖怪なのだろうか?そこら辺にいる妖怪とは一線を画するところはあると思うが、そこまで強大なものではないと思うのだが…。

 

「そのくらいだな」

「そうか。では訊くぞ。まず、誰の能力だ?」

「そりゃあ、幻香の…いや、そう言われると…誰のだ?」

「いや、分からないならいい」

 

幻香の能力は複製。そして、その複製は自らの意思で回収、霧散が可能だ。フランドールから破壊衝動が消えた、と言う時点で複製ではないとは思っていたが、もし複製の結果ならば、今頃そんな『ドス黒い意識』もしくは『破壊魔』を消し去っているだろう。

 

「次だ。何故半壊なんだろうな」

「そりゃあ破壊衝動が…」

「これも、中途半端だと思わないか?いっそのこと全壊してもおかしくはないだろう。どうなんだ、フランドール?」

「え?…どうなんだろう。けど、前の私なら、やってたかも」

「そうか。そうならなくて私はとても嬉しいよ」

 

あの賢者のことだ。途中で博麗の巫女による解決も視野に入れていたのかもしれない。私の考えもしない理由で、その破壊行動が終結するのかもしれない。

 

「萃香にはこのくらいだ。最後にフランドール。幻香が変わった瞬間を間近で見たんだろう?」

「うん、見たよ。…そういえばあの時、おねーさんの背中に見えるだけのはずの翼に触れれた」

「フランドールに変化して、翼が生えたということか?」

「多分。あと、背丈もほとんど同じだった。それに、私と同じ能力を使ってた」

 

同じ能力、か。ものが爆発する、と幻香が前に言っていたな。おそらく、それだろう。

 

「そこまであれば、もう完全同一存在と見てもいいような気がしてきたぞ…」

「けど、そのDNAとかいうのがほんのちょっと違ったんでしょ?」

「違った。何度でも言うが、その違ったとこは幻香と同じだった。ピッタリ重なってたんだ」

「それが嘘だとは私も思わんよ、妹紅」

 

そう言うと、妹紅は口を閉ざし、壁を背にして脱力した。

 

「さて、フランドール。お前の――」

「ちょっと待って。思い出した。たしか、その紫が『消化してもらう』って言ってた」

「…消化?」

「うん。おねーさんの『ドス黒い意識』を応急処置とか言って、結界で押し留めたときに言ってたの」

 

消化、ねぇ。…あまりいい響きではないな。まるで、淡々とものを壊してほしいように聞こえる。さながら、作業のように。

他に何かないか確認すると、今はないと言われたので、改めて訊くことにした。

 

「お前の破壊衝動についてだ」

「…?」

「衝動とは、湧き上がってくるものだろう?今も、そういったものは感じるか?」

「え…っと。うぅーん、…ある。けど大丈夫だよ?これくらいなら、わざわざものを壊さなくても大丈夫」

「だろうな。長い間気付かなかったということは、そういうことなのだろうよ」

 

ものを壊したいという欲望を、別の何かに上手く昇華させているのだろう。何に転換させているかは、スペルカード戦にだと思われるが。…まあ、私はフランドールの私生活をほとんど知らない。私の知らない何かに転換しているかもしれないな。

 

「つまり、破壊衝動の湧く水源から幻香は水を汲んだんだ。ものを壊したい欲求という水をな」

「…そうなのかな?」

「知らん。私は、そう考えた。間違っているなら、どこかで決定的な矛盾が起こるだろう」

「つまり、仮説?」

「ああそうだ」

 

もしそうならば、幻香の中にある『ドス黒い意識』は最悪、ものを壊し続けていればいつか消えてしまうということだ。

そしてこれが正しいならば、あの賢者は知っていたということになるだろう。半壊で留まる理由はそこなのだろう。ものを壊す欲求が、そこで潰えてしまうことを知っていたのだろう。

 

「…このくらいだな。今、即急に訊きたい部分は」

「そっか。…やっぱり、慧音が協力してくれて、新しい考えが出た。おねーさんを助ける手立てに近付いたと思うんだ」

「そう言ってくれると、助かる」

 

しかし、私がやったことは、見方を変えれば、出来たかもしれない可能性を出来ないと断じて潰したようなもの。失敗を未然に防げた、とも取れるが、とても誇れるようなことではない。

軽く息を吐き、ふと先に訊いた二人のほうを見ると、何やら妹紅が萃香に話しかけていた。

 

「妹紅、萃香。何話してるんだ?」

「…幻香のことだよ」

「…そうそう」

「そうか。ならいい」

 

この後も、四人で幻香をどうやって助けるか、日が暮れるまで話し続けた。しかし、結果はほとんど変わらず、出口のない迷路に迷い込んでしまったようだ。

 

「…とりあえず、寝よう。続きは、明日だ」

「そうだな。徹夜はよくない。まともな思考も出来なくなる」

 

そんな妹紅の提案に乗り、夜の支配者である吸血鬼、フランドールがこの時間帯に寝ようとしていることに少しだけ驚きつつ、私は横になった。

私達には、何かが決定的に足りない。情報?力?技術?時間?はたまた、それ以外?…分からない。私は、私達は、幻香を救うことが出来るのだろうか?いや、救わなくてはならない。それが、今私がするべきことだ。

その為に、今すべきことをしよう。そう考え、私は眼を閉じた。

 


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