東方幻影人   作:藍薔薇

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第13話

うーん…。チルノちゃんの弾幕がとても薄く感じる…。

紅い霧の主犯である、レミリアさんを退治しようとしてきた霧雨さんと比べちゃいけないのかもしれないけれど、二割以下って感じだ。その結果、わたし自身が攻撃する余裕がある。『幻』の半自動攻撃ではなく、私が相手の動きを予想して撃てるというのは、かなり勝ちやすくなっていると思う。実際、開始数秒で一回当てることが出来た。

 

「むーっ!氷符『アイシクルフォール』ッ!」

 

顔を真っ赤にしたチルノちゃんが、わたしの上方に飛翔しながらスペルカードを宣言した。アイシクルは『氷柱』で、フォールは『落下』『降雨』『降雪』『滝』『秋』なんかの意味があるって慧音が言ってた。つまり、このスペルカードは『氷柱の落下』をモチーフにしているはず。さて、どうかな?

チルノちゃんが相当高い位置で静止し、彼女の腕くらいの長さと太さはあるだろう氷の弾を、大量にわたしの周辺に落としてきた。その氷の弾は先端が鋭く尖っている。当たったら、痛いじゃすまなさそうなんですけど…。

けど、この程度の弾幕は避けやすく感じる。上からしか来ないなんて単純すぎるからね。まあ、名前の通りの技だった、と言ったところかな。けれど、こちらの攻撃はちゃんと避けながら撃っている。当てようと思ったんだけど、開始数秒の被弾は相手をやる気にさせてしまったようで、わたしの弾幕を掠めるようにして回避している。

三十秒避け続けてスペルカード終了。もしかして、チルノちゃんってあんまり強くない…?いや、まだ分からない。物事は最後まで気を抜かないことが重要だ。霧雨さんを基準に考えると、価値観が歪むかもしれないし。

けれど、表情には余裕が僅かに浮かんでいるのが伝わる。せっかくの勝負だ。相手の実力を引き出すには、どうすればいいか。

 

「チルノちゃん。まだまだこんなものじゃないでしょう?」

「ムッ!へへーん!じゃあ本気出してやるからな!泣いたって許さないぞ!」

「泣きませんから安心してください」

 

ちょっと挑発すればいい。戦況は現在わたしが有利だ。この状況で挑発をすれば、大抵の人は乗ってくると思う。舐められている、って思われるのは悔しいもんね。

チルノちゃんの本気は、最初に比べてみれば劇的に変わった。弾幕の密度はさっきの二倍にはなっているだろうし、弾の速度も低速と高速の差がかなり大きくなっている。それに、追尾弾の性能も高い。わたしは掠めるように避けるような技術はないから、空いている場所を探すために意識を使い、攻撃をする余裕がさっきより減ってしまった。

まあ、それでも霧雨さんより弱っちいかな。

 

「攻撃出来る…。これじゃ駄目だよチルノちゃん」

 

自然と口から漏れ出てしまうわたしの本音。その言葉はあまりにも小さく、誰にも聞かれることはなかっただろう。

わたしは右手の人差し指をチルノちゃんに向ける。妖力を指先に集めて、直進弾を作りだす。けれど、普通に撃っても避けられてしまうだろう。なら、避けにくいタイミングで放てばいい。

狙うは、瞬きをした瞬間だ。その瞬間に、最速の攻撃を放つ。

 

「――ッ!」

「えっ…、痛ッ!」

 

ヒット。わたしの撃った直進弾は、吸い込まれるように眉間に被弾した。あと一回当てるか、スペルカードを二回避けきれば私の勝ちだ。それに、あのスペルカードを使ってくれれば、多分わたしはチルノちゃんに勝つことが出来るだろう。

チルノちゃんの目つきが変わった。心なしか弾速が上がっているように感じる。いや、確実に速くなってる。さらに、弾幕の密度まで濃くなってきた。

 

「こうなったら本気の本気だー!」

 

自分が攻撃をする余裕がなくなってきた。だけど、たくさん撃てば撃つほど、わたしのスペルカードは脅威になるよ?

 

「鏡符『幽体離脱・乱』」

 

視界にあるすべての弾幕が複製され、あらゆる方向に直進する。チルノちゃんに直撃する動きもあれば、全く当たらなさそうな方向に進むものも。わたしに向かってくるものもあるし、大ちゃんやサニーちゃん達に向かっていくものもある。関係ない子に当たらないことをちょっとだけ祈っておく。相手に向かう弾幕が少ないけれど、規則がないっていうのは扱いづらい、って慧音が言ってた。つまり、規則がない弾幕は避けづらいってこと、だよね?

 

「ちょっとー!危ないじゃないですかー!」

「ごめんごめん」

 

チルノちゃんは普通に避けきっている。周りを軽く見回した結果、大ちゃん、サニーちゃん、スターちゃんは被弾していない。ルナちゃんは頭を押さえてうずくまっているから、多分当たった。ほんとごめん。このスペルカード、もうちょっといい使い方見つけとかないとなあ…。

 

「くらえッ!凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 

そのスペルカードを待っていた!

 

「鏡符『幽体離脱・集』!」

 

チルノちゃんを中心に大量に出てきた弾幕が複製され、その全てがチルノちゃんへ向かって飛んでいく。避けるのは多分出来ないから、何らかの方法で相殺すればいいだろうけれど、これら全部は無理でしょう!

 

「えっ、ちょっ」

 

あ、一個も相殺出来ずに全部被弾した。まあ、一回被弾してから三秒間は被弾してもカウントしないっていうルールもあるから、これでも一回分だ。まあ、これでチルノちゃんは被弾三回。

 

「この勝負、被弾三回でまどかさんの勝ちです!」

「ふぅ…。勝った勝った」

 

軽く伸びをしながら呟く。ちょっと疲れたから、あの三人とスペルカード戦をするのは軽く休憩してからがいいな。

それより、チルノちゃん大丈夫かな?ダメージはほとんどないような妖力弾でも、あれだけの数受けたらヤバいかも…。チルノちゃんグッタリしてるし!

 

「いてて…、あー!負けたー!くーやーしーいー!」

 

急に起き上がって四肢をブンブン振り回し始めた。良かった、大丈夫そう。

さて、あの三人にちょっと休憩してからにしよう、と提案しようと顔を動かしてみると、少し遠くのほうで、何やら顔を寄せ合って相談をしているように見える。まあ、気にせず話しかけますかな。

 

「ちょっとサニー!私達が勝てなかったチルノに勝った相手に勝てるの!?」

「ふふふ、勝てるの?じゃないわ!私達は勝つのよ!」

「でも、どうやって?何かいい案でもあるの?」

「ある!ほら耳貸してー、…………………………って感じで!」

「ふーん、それなら勝てるかも。よし、やるわよ!」

「「オーッ!」」

 

何か作戦があるらしい。けど、今はそんなことよりも休憩だ。わたしに休憩をください。

 

「あのー」

「ヒッ!ま、幻香さん?」

「ちょっと、まさか聞かれてたんじゃないの?」

「いえ、作戦は絶対に聞かれてないはず。私がそこだけはちゃんと消したから」

「ルナ、ナイス!なら大丈夫そうね!」

 

なんと、ルナちゃんは音を消す能力があるらしい。しかも、三人には聞こえて周りには聞こえないようにするなんて技術もあるみたい。それって結構便利じゃない?悪戯し放題、いや、この能力を知っていたら、逆に音がないところに彼女がいるってことになるから、一発物の能力になりかねない。うーん、難しい能力だなあ…。

 

「その作戦のことじゃなくて、ちょっと休憩したいなって」

「え?どうぞどうぞー」

「どのくらい休みますか?」

「えーと、五分くらい?」

「そうですか、分かりました」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと待っててね」

 

私は岸に降り立ち、軽く横になる。さて、ちゃんと休もうかな。

さて、一対三のスペルカード戦が五分後に始まる。どうやって戦おうかな。

 


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