東方幻影人   作:藍薔薇

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第132話

「ハッ、遅ぇな!」

「ちょっと魔理沙!危ないって!」

「知るか!振り落されるなよッ!」

 

これだけ竹が鬱蒼と生えた中で平然と縦横無尽に飛び回る。それに対応するために、私を中心とした球体を描くように弾幕を張る。しかし、それさえも意に介さず飛び続ける。

 

「…鬱陶しいなぁ、本当にッ!」

 

私の弾幕の間を縫うように人形から放たれる小さな弾幕が鬱陶しい。最初の頃は人形が目に入ったらすぐに一発強めの妖力弾を放ったが、糸にでも引っ張られたような不自然な動きで避けていく。

気が付いたら二十を超える人形が私を囲んでいる。塵も積もれば山となる。疎も萃まれば密となる。だから『目』を潰すことにした。それが一番確実。

 

「きゅっ!」

「掛かったわね」

「なッ!?」

 

内側から爆ぜた人形の中から弾幕が炸裂する。咄嗟に妖力弾の『目』を動かして潰しつつ普通に放っていた弾幕の標的を変えて打ち消しにかかるが、予想以上に弾速が速い。私を囲む弾幕の全てを打ち消すことが出来ず、いくつか被弾してしまった。

被弾はしてしまったけれど、分かったこともある。この人形の『目』の破壊は危険だ。破壊したときの弾幕のほうが相当速い。いくら数が多くても、今は『目』の破壊を控えたほうが楽だ。

 

「アリス、ナイス!」

「貴女の能力は魔理沙が前に言ってたからね。少し利用させてもらったわ」

「…あっそう」

「あら、意外と冷めてるのね?」

「余裕が無くなっただけ。大したことじゃないよ」

 

私が最初の被弾だ。そして、お互いにスペルカードを使っていない。優位性が相手側に一気に傾いてしまった。だけど、私は諦めるつもりもないし、負けるつもりもない。

だから、早速使わせてもらおう。飛び回る鳥を囲み、捕縛する檻を放とう。

 

「禁忌『カゴメカゴメ』」

「チッ、面倒なのが来たな…」

 

妖力弾が天まで届くほどに縦に並び、さらに直角に交わる妖力弾の列を放つ。最後に場を立方体に区切るように妖力弾を並べる。元から大量に生えている竹林も相まって、行動を阻害する。

 

「見ぃつけた」

 

檻の一つに丁度収まった魔理沙とアリスに向けて特大の妖力弾を放つ。その勢いによって檻の一部が崩れてしまうが、その一部も共に二人を襲う。

 

「しょうがねぇな!恋符『マス――」

「私に任せて。魔操『リターンイナニメトネス』」

 

その宣言と共に、私の放った妖力弾が吹き飛んだ。その爆発の衝撃で檻も一緒に吹き飛んでしまう。新たに檻を放つが、それも途中で吹き飛ばされてしまう。その爆発跡から端が少し焦げた小さな布切れ、同じように焦げ付いた綿が目に入った。そのごみは見覚えがある。おねーさんと一緒に来たときに落ちていたものに酷似している。

 

「そっか、やっぱり貴女だったんだ」

 

そう呟いた声は、爆発音の中に紛れて消えた。幸い、檻が爆発してしまうからその爆発は私に届くことはない。その代わりに檻が出来ることもない。そして私とアリスのスペルカードはほぼ同時に時間切れを迎え、私はすぐに次のスペルカードを放った。

 

「禁弾『カタディオプトリック』」

 

本来なら閉鎖空間で放つべきスペルカード。けれど、竹のようなほぼ円柱のものが乱立するこの場所ならば、私自身もどのように跳ね返るか分からない。下手すれば、全く魔理沙たちのところへ跳んでいかないかもしれない。だから、これは賭けだ。おねーさんがいれば上に行ってしまうのも気にせずに放てるんだけど…。それなら私なりに出来ることをしよう。

 

「おわっ!」

「キャッ!急に止まらないでよ!」

 

ちぇっ、魔理沙が止まらなければ被弾したのに。けれど、止まった標的は逃がさない。そこへ追撃を放つ。しかし、容易く避けられてしまった。それでもいい。避けたとしても、その奥にある竹に反射して新たな弾幕となる。

 

「ッ…!しまった!」

 

繰り返し放ち続けていくと、偶然にも十数発の妖力弾が二人を囲む形になった。数発同時に襲い掛かれば、と考えたけれどここまでいい状況が来るなんて。それに、あれもなかなかいいところにある。

 

「この程度!」

「このくら――痛ッ!」

「ア…アリス!」

 

魔理沙は目の前に迫る妖力弾を打ち消し、アリスは幾つかの人形を盾にしたけれど、真上から来た一発には気付かなかったみたい。アリスの頭に被弾し、箒から墜落していく。

上へ飛んでいってしまいそうになった妖力弾の無理矢理方向を変えさせてもらった。近くの竹の先端の破壊し、その妖力弾を叩き落とすように折ることで。ここまで上手くいくと、気分が少しだけよくなる。

 

「チィ、恋符『マスタースパーク』ッ!」

「来たね、魔理沙のスペルカード…!」

 

パチュリーが言ってた。おねーさんはこのマスタースパークを貫く妖力弾を放ったって。おねーさんに出来たんだ。私にだって、出来るはず!ミニ八卦炉から放たれた膨大な魔力を穿つ妖力弾!

 

「貫けッ!」

 

右手の五指から螺子のように旋回する妖力弾を五発放ちつつ、高速で真横に離脱する。瞬間、真後ろから轟音が鳴り響き、激しい光を浴びた。ギリギリ避け切れたその魔力は、大量の竹を巻き込まれて薙ぎ倒す。ある程度離れてから、地面に足を付けて少し滑りながら停止する。

 

「…あぁ、畜生。またかよ…」

 

よしっ、上手くいったみたい。竹と距離の関係で見辛いけれど、肩の辺りの服が浅く破れているのが見えた。

近くに生えている竹の根元の『目』を器用に潰し、一本拝借する。私の背丈の何倍もの長さを持つ竹を思い切り掴み、魔理沙に向けて投げつける。これはただの牽制。この程度が避けられないはずがない。

投げつけたと同時に走り出し、視線だけで確認する。予想通り僅かに上昇して避けられた。追加で弾幕を魔理沙に放つけれど、スルリと避けられてしまった。

けど、それでいい。地を這う相棒から、魔理沙は離れた。私の目的は、走り出したときからアリス一人だ。急接近する私に目を見開いているのが見える。アリスの動きを阻害する為に、特に決めずに数本の竹の真ん中辺りの『目』を潰す。メキメキと倒れる竹に対し、足を止めた。

ここまで近付けば、十分届く。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!」

「ッ…戦操『ドールズウォー』!」

 

十二体の小さな人形が、槍と盾を構えて私に突貫してきた。多分、さっきみたいに壊せば弾幕が炸裂するのだろう。けれど、そんなことはどうでもいい。一回被弾してでも、魔理沙がこっちに来る前に一回当てないといけない。

大きく薙ぎ払い、七体の人形を焼き斬る。盾を前に出して防御しようとしていたけれど、すぐに溶け落ちて防御の意味をなさなかった。弾ける弾幕。レーヴァテインを盾にして防御を試みてみたけれど、右足に鋭い痛みが走る。だったら防御する必要はもうない!

 

「てえりゃあぁッ!」

「なっ…!?」

 

捨て身の突撃を始め、残された五体の人形の『目』をすれ違い際に潰す。人形が弾ける一瞬前にところどころを浅く貫かれたけれど、最初に被弾してからまだ一秒と経ってない。被弾してから三秒経たなければ、被弾の回数に加算されない。その五体から弾けた弾幕に幾つも被弾しても気にせずアリスへと駆け抜け、目の前で左足を強く地面に踏み込む。

 

「ひぃ…ッ」

「ごめんね」

 

左脚を軸にして旋回し、脇腹に右脚を叩き込む。軽く跳んでいくのを視界の端に捉えた。

 

「くそっ!やられた!」

 

そんな声と共にこちらへ近づいて来る音が響く。そのまま魔理沙のほうを向きながら、右手に持ったレーヴァテインを投げつける。狙いは魔理沙に当たらない、僅かに右側。

 

「うおっ!危なッ!」

「そこッ!」

 

最初から当たることがなかったのだけど、さらに横にずれて避けた魔理沙の真横でレーヴァテインの『目』を潰す。私が右手を握ろうとした瞬間にさらに加速したけれど、もう遅い。

 

「熱ッ!あちちっ!」

 

炎を撒き散らしながら爆ぜるレーヴァテイン。その爆炎に魔理沙は巻き込まれた。

本当に、おねーさんのスペルカードは知らなければ避けられないと思う。これはそれの真似事だ。けれど、私はおねーさんと違って弾けたものから弾幕は出て来ない。なら、弾けたら何か飛び散るものでやればいい。レーヴァテインの剣の『目』を潰せば、纏われた炎と共に飛び散る。炎が当たっても被弾なのだから。

 

「かぁーッ!喰らいな!魔砲『ファイナルスパーク』ッ!」

「分かった。喰らってあげる」

「は!?」

 

そのまま魔理沙へと最短距離で突貫する。目の前にいる魔理沙の手にあるミニ八卦炉から、さっきとは比べ物にならないほどの魔力が放出される。左腕を顔の前に出して軽く防御をしつつ、右腕を前に突き出しながら突き進む。身が焼ける。物凄く痛い。それでも、六秒以内に突き抜ければそれでいい!

 

「…でりゃァア!」

「な――ぐッ!」

 

私が前に突き出した右拳は、魔理沙の顎へ確かに当たった。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ魔理沙。事が終わるまで迷いの竹林に絶対近付かないで。アリスもね」

「あーはいはい。分かりましたよーだ」

「…えぇ、そうするわ」

「そうして。これは二人の為でもあるんだし」

 

少し苦しそうに返事をしたアリスが少し心配になって、私が蹴飛ばした脇腹を見た。脇腹から血は滲んでいないから大丈夫だと思う。蹴りを当てたときに、骨が折れる感触も肉が変に破れる感触もしなかった。

 

「おいフラン」

「…なぁに、魔理沙?」

「あれ、何だよ」

 

脇腹を軽く抑えたアリスを支えている魔理沙が、私に言った。あれ、とは多分今回のスペルカード戦の事だろう。けど、何か疑問に思うようなことがあったかな?

 

「何って?」

「あんな特攻だよ。お前らしくない」

「…何でだろうね」

 

多分、私はおねーさんに私の破壊衝動を押し付けてしまったからだと思う。故意かどうかなんて関係ない。私の所為でおねーさんは苦しんだ。

私は覚えてる。体に刃物を平然と貫いたその瞬間の顔を鮮明に思い浮かべることが出来る。いつもと大して変わらなかった。痛いはずなのに、苦しいはずなのに。

 

「本当に、何でだろうなぁ…」

 

そんなことしても何も変わらないって分かっている。けれど、それでも、だからこそ、おねーさんの代わりに傷付きたかったのかもしれない。おねーさんの代わりに痛い目に遭いたかったのかもしれない。おねーさんの代わりに苦しみたかったのかもしれない。

そう考えると、不思議と納得出来る自分がいる。そんなことしたら、おねーさんは喜ばないって分かってるのに。

 


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