東方幻影人   作:藍薔薇

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第133話

爆裂する妖力弾二つをレミリアの後方を目標に投げ付け、軽く挟むように弾幕を放つ。しかし、山なりに投げた妖力弾はその途中で投げ付けられたナイフに着弾し、目標とは全く違う位置で爆裂してしまった。まあ、しょうがない。

飛んできた数本のナイフを躱しつつ、そのうちの一本を人差し指と中指で挟む。

 

「…何だこれ」

 

珍しいな、これ。銀じゃん。銀なんて脆くて使い辛いだろうに。それに、確か吸血鬼の弱点じゃなかったか?何で吸血鬼の従者がそんなもの持ち歩いてるんだか…。ま、どうでもいいか。

ナイフを投げ返しながら咲夜に対して弾幕を張る。当たらなければそれでいい。これはただの牽制。少しわざとらしいが開けた空間を作るように放ったつもりだ。そこに入ると予想し、強力な一撃をお見舞いする。

 

「でりゃぁっ!」

「…と。危ない危ない」

 

難なく避けられてしまったが、気にしてられない。手の空いたレミリアの放った弾幕がやってきた。こりゃ相当速いな。それに加え、わざわざ私に向かって飛来してくる。多少動いてもその動きに合わせるように。

 

「面倒だ!鬼符『ミッシングパワー』!」

 

宣言と共に自らの体を薄め、その分だけ膨張していく。私に飛んできた弾幕が体を突き抜けていく。霧や煙に当たることはない。それが私だ。

 

「咲夜!こうなると攻撃は当たらないわ!」

「了解です、お嬢様」

 

まあ、スペルカードにする前だけど見せたもんな。あの時は時間無制限だったからほぼ一方的な攻撃を続けたけど、今回は違う。そこは気を付けないとな。

身体が大きくなった分、レミリアと咲夜が小さく見える。私から見れば普通の弾幕。しかし、相手から見ればとんでもない大きさだろう。その分隙間が大きくなってしまうのが難点だけど。

 

「あっはっは!楽しいねぇ!」

 

ちょこまかと動き回るのを見ていると、鼠を思い出す。あれはあれで可愛げのある生き物だ。米とか食い荒らされたときはかなり痛かったけど。

そんなことを考えながらいつものように弾幕を放つこと三十秒。残念ながら被弾させることは出来なかった。まあ、半分回避、半分威圧の為に使ったスペルカード。それでも構わない。

 

「おっと、時間切れ」

「今よ!」

「とでも思ったかい?甘ぇよ。鬼神『ミッシングパープルパワー』!」

 

続けて二枚目を宣言し、さらに膨張する。遂に頭が竹林からはみ出てしまった。二人は少し屈まないと見つけ辛いくらいには小さい。豆粒みたいだな、こりゃ。

 

「なぁ!?まだ大きくなるの!?」

「…ちょっと予想外です」

 

雪崩のような大量の弾幕を降り下ろす。ここら一帯の竹林がまとめて吹き飛んでいくが、気にすることはない。ここ以外にもいくつかこんな感じに吹き飛んでたところがあったからな。その一つに埋もれるだけだ。

 

「くっ…!さっきのはお遊びって感じね…!」

「そのようですね…」

「おいおいどうした?逃げ惑うだけかい?」

 

しかし、このままじゃ埒が明かない。なら、少しやってみるか!

 

「きゃっ!」

「な、何!?」

 

脚を少しだけ萃め、大地を踏み鳴らす。地面が大きく凹み、それに伴い僅かに揺れる。ちょっとした地震を引き起こし、その瞬間にさらに多くの弾幕を落とし込む。これでどうかな?

 

「チィ、紅魔『スカーレットデビル』ッ!」

 

その宣言と共に、レミリアを中心とした真紅の光が天を貫いた。その過剰なまでに放出された力は、私の弾幕を一瞬にして消し飛ばす。これはこれは…。

 

「ちぇ、今度こそ時間切れか。ふうぅー…っ」

 

長く息を吐きながら、スルスルと元の大きさまで戻していく。未だに真紅の光が目に焼き付いている。今まともに喰らったらアレはまずいかもな…。万全でもちょっと辛いかもしれない。

これまでお互いに一度も被弾せずにスペルカードを二枚使った。ええと、こうなったらスペルカードの使い切りを目指したほうがいいんだっけか?いや、そんな消極的じゃ駄目だな。積極的に攻める!

地面はガタガタだが、邪魔となる竹はもう無い。存分に好きなだけ放てるってものだ。天上の星も霞むほどの弾幕を!

 

「そっちがその気ならこっちもやらせてもらうわよ!」

「ええ、お嬢様。幻符『殺人ドール』」

 

瞬間、咲夜の目の前に大量のナイフが出現した。目を離したつもりも、瞬きしたつもりもない。文字通り次の瞬間に、だ。それに加え、レミリアの真紅の弾幕も降り注いでくる。

 

「ハッ、遅ぇなあ!」

 

だが、その程度どうにでもなる!どうにかする!

飛来するナイフに合わせて後退しつつ、当たるものを全て挟み取る。それと同時に、降り注ぐ妖力弾に対し、こちらの妖力弾を当てていく。この程度出来ないで誰が鬼と名乗れようか。両手合わせて五十七本。ジャラジャラと足元に落として見せる。

 

「なッ…!」

「それに数も足りない。もうちょっと密にした方がいいな」

「なら、これならどうかしら?幻世『ザ・ワールド』!」

 

百を超えるナイフが私を包み込む。そして一斉に私目がけて飛来した。このままだと見事なハリネズミになりそうだな。それに、先みたいに挟み取っているうちに後ろから貫かれてしまうだろう。

鬼気「濛々迷霧」でも使えば勝手にすり抜けていくだろう。しかし、そんなことはもうやった。同じようにすり抜けて避けるなんて、美しくないんだろう?

 

「鬼火『超高密度燐禍術』ッ!」

 

両腕を振り上げ、地面に叩き付ける。地面から湧き上がる地獄の業火。超高密度まで萃めた大地は超高熱を発しながら炎を撒き散らす。

 

「どうした?手品はそこまでか?」

 

降り注ぐ白みがかった橙色に溶け落ちた銀を浴びながら、不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

「降参ってあんたな…」

「負けを認める、と言ってるのよ」

 

それだけ言うと、すぐに背を向けて離れて行く。従者は何も言わず、その少し後ろを静かに付いて行く。お互い被弾していないとはいえ、まだスペルカードも残ってたのにもったいない。

大股で咲夜とレミリアを追い抜き、目の前に立つ。鬱陶しそうな顔をしながら立ち止まったレミリアに対し、私は訊ねた。

 

「おい、待てよ。納得出来ねぇな。諦めるにはまだ早いだろ」

「『私達は貴女に勝てない』」

「あんたの大好きな運命かい?」

「そうよ。あの時点で、私達の負けは確定した。なら、それ以上は無駄」

 

右腕を伸ばし、胸倉を掴む。何が起きているのか分からなそうな呆然とした顔に頭突きを遠慮なく叩き込む。

 

「痛ッ…!」

「何が運命だ。知るかそんなの」

 

呆然としているその顔に追加で平手打ちをしようとすると、首筋にヒヤリとする何かが光る。…いつの間にか、咲夜が私の首筋にナイフを押し当てていた。斬り落とされたとしても問題はないのだが、気分が悪くなる。振り上げた右手を下ろすと、ナイフも離れた。

 

「…ありがとうございます」

「礼を言うとこじゃねぇだろ」

 

睨みを利かせながら言ったが、その微笑みが崩れることはなかった。

 

「おい、レミリアさんよ」

「…何よ」

「あと二つ訊かせろ。何故フランドールを幽閉なんかした?」

「……………」

「だんまり、か」

 

多分だけど、言わなくても分かる。けれど、言いたくないだろう。自分の妹に恐怖したからなんて。少し触れたから分かる。背筋が凍えるほどの『ドス黒い意識』。圧倒的破壊衝動。恐れるのも無理はない。

けれどなあ、レミリア・スカーレット。もしもあんたが最初に受け入れてさえいれば、フランドールの破壊衝動はどうにかなったんじゃないか?四百九十五年も閉じ込めていたから、あんなになっちまったんじゃないのか?あんたの運命なんてたった一つの可能性を鵜呑みにしたから、それ以外の道を見損なったんじゃないか?

しかし、それも遠い過去のこと。覆しようのない結果。今更言ったところでどうにかなるわけじゃない。

 

「まあいい。最後だ。…運命なんか視れて、楽しいか?」

 

運命と言われてもよく分からない。だが、今までの言い方から予想すると、多分未来予知みたいなものだろう。

それは本を後ろから読むようなものだ。先が視えるなんて、傍から見れば素晴らしいものだろうが、視る者としてはつまらないものだろう。私はそう思う。

どう答えるか、と思った。少しは考えるだろうか、とも。だが、意外にもその答えはすぐに返ってきた。

 

「幸せよ」

「あっそ」

 

左手を離し、見回りへと戻るために歩く。その擦れ違い際に耳元で呟いた。

 

「なら、その幸せってのも運命かい?」

 

返事は、なかった。

 


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