休憩を終えたわたしは、真っ直ぐ紅魔館へ飛んでいく。後ろにはチルノちゃん、大ちゃん、サニーちゃん、ルナちゃん、スターちゃんの五人の妖精達。
後ろに振り向きながら、彼女達に注意をしておく。
「いい?紅魔館の人達に迷惑かけないでね!」
「分かったー」
「ええ、もちろん」
「うっ…。だ、大丈夫ですよー」
「迷惑かけないでね、サニー」
「一番騒がしいのはサニーなんだから」
「うがー!そういう二人だっていつもうるさいのにー!」
「それはないわ」
ホントに大丈夫かな、これ…。特にサニーちゃん。
◆
さて、到着。門の前に美鈴さんがいて、わたしに気付いて手を振ってくれた。
「ん?ああ、幻香さんですか。パチュリーさんから貴女のことは聞きましたよ」
「あ、そうなんですか」
「それで、後ろの妖精達は?」
わたしの後ろには、ガヤガヤ騒がしく話している五人の妖精。私とこの子達はどんな関係だろうか…。
「あぁー…。と、友達…かなぁ…。うーん、いやちょっと違うかな。えーと、知り合い?」
「え?まどかさんと私達はもう友達だと思ってたのですが…」
「え?大ちゃんはもうそう思ってた?」
友達と言えるほど相手のことを知っているわけでもないのだけれど、大ちゃんはわたしのことを友達と言ってくれるらしい。噂の中には、わたしを見たら近いうちに死ぬなんて物騒なものまであったのに。その優しさがわたしの心に染みる。
「とりあえず、知り合いならそれでいいです。どうぞ、後のことは咲夜さんにでも聞いてください」
そう言って、ギギ…と音を立てながら美鈴さんが門を開けてくた。
「お先ー!」
「行くよっ!ルナ!スター!」
「そうね。行きましょう!」
「え?待ってー!――キャッ!」
瞬間、大ちゃんを除く妖精達が勢いよく走って行ってしまった。ただし、ルナちゃんは一回こけた。
「あ、大丈夫かな…」
「大丈夫かなチルノちゃん…。迷惑かけちゃったりしないよね」
「さあ、貴女達もどうぞ」
美鈴さんに促されて門を通る。先に行ってしまった彼女たちの面倒はきっと館中にいる妖精メイドさん達がやってくれるだろう。そうであってほしい。
庭を歩いていき、紅魔館に入ると、メイド長である十六夜咲夜さんがいた。
「こんにちはー。咲夜さん」
「あら、こんにちは幻香さん。今日は何の御用で?」
「友達と大図書館に」
「そうですか。では、ご案内しますね」
そう言って先行していく咲夜さんに付いて行く。後ろにピッタリくっついている大ちゃんのほうを見てみると、ソワソワと落ち着かない表情をしている。
「どうしたの?」
「えっ!?いや、あの、その、とっても楽しみだなーって…!」
無邪気な笑顔を浮かべながら、腕をパタパタさせて慌てて返す仕草がとても愛らしいです。
「そっか。どんなものを調べたいの?」
「えと、ちょっと霧の湖のお魚について」
「へえ、霧の湖には美味しい魚がいるの?」
「はい!銀色の小魚なんかはとてもおいしいです!」
「へー。今度釣りでもしようかな…。他に何かいるの?」
「えーっと…。あ、そうだ!食べたことはないですがこーんなくらいの大きさの…」
そう言いながら腕いっぱいに広げる大ちゃん。帰る途中で見てみようかな…。それとも、また今度の楽しみにとっておこうかな…。
詳しく聞いてみると、その大きな魚は霧の湖のヌシと呼ばれているそうで、新月の夜になると見ることが出来るとか何とか。満天の星空を移す湖面に浮かぶその影はとても幻想的だとか。しかし、最近満月になったばかりの今では見ることは出来なさそうだ。ちょっと残念。
「まどかさんは何を調べるんですか?」
「んー…、わたしは置いてきちゃったものを持ち帰ることが目的だからなあ…。まあ、食べられるものでも調べようかな」
「それじゃあ、私の知りたいことが調べ終わったら、手伝ってあげますね!」
「え?本当?ありがとう!」
霧の湖の魚について調べる大ちゃんと、食物全般を調べるわたしでは、圧倒的にわたしのほうが調べる量が多いだろうから、その大ちゃんの提案はとても嬉しい。
話が一区切りついたので、チラリと咲夜さんのほうを見てみる。すると、何やら妖精メイドさんと何か話していた。妖精メイドさんはかなり慌てた様子で話している。
「ええ、分かったわ」
「どうしたんですか?咲夜さん」
「野暮用よ。代わりの案内役はこの子に任せるから。さあ、このお客様を大図書館に案内しておいてね」
「あの、何があったんです?」
「盗難よ」
え?何だか嫌な予感がするんですけど…。
「どうやら調理場の料理が多少消えたそうよ。近くでは見知らぬ二人の妖精がいたって。橙に近い金髪に赤い服を着たのと、水色の髪に氷のような羽」
「サニーちゃんとチルノちゃんだ…」
震える声で呟く大ちゃんと同じ意見だ。そういえば、サニーちゃん美味しいもの食べたいみたいなこと言ってたような…。チルノちゃんは…何でだろ。お腹空いたのかな?
咲夜さんの目が大ちゃんに向いていることに気付いた。かなり小さい声だったから聞こえていなかったと思ったけれど、聞こえていたのか。どうやら咲夜さんの耳はかなりいいみたい。
「貴女、何か知ってるの?」
そのまま大ちゃんに近づきながら聞いてくる咲夜さん。真顔で迫ってくる咲夜さんからは、さっきまでは感じなかった圧迫感を感じる。そのせいで萎縮してしまっている大ちゃんから聞き出すのは難しいだろう。
「咲夜さん」
「何かしら?」
視線がこちらに移る。その目つきは、鋭利なナイフのようだ。邪魔すんなって眼が言っているけれど、言えなさそうな大ちゃんの代わりに答えるために発言したんだ。
「その二人はわたしの友達です。迷惑をかけてしまってすみません」
「あら、そうだったの?じゃあ、ちゃんと注意しておきますからね」
さっきまでの鋭い目つきと圧力は霧散し、いつもと同じ微笑みを浮かべた。そして「それでは」と言って文字通り消えてしまう咲夜さん。
パチュリー曰く、咲夜さんは時間を操る程度の能力があるのだそうだ。時間を止めたり、早めたり、遅くしたり、圧縮したり出来るらしい。今回は時間を止めて、その止まった世界の中を自分だけが移動しているのだろう。…いや、もうしていたと言うべきか。
「あ、あのっ…。だだだ大図書館へ案内しますぅ…」
「あ、ありがとう」
代わりの妖精メイドさんは緊張しているのか、体がガチガチに固まっている。歩き方も関節を蝋で固めてしまったような、油を差していないブリキのおもちゃのような、とにかく違和感しかない動きだ。大丈夫かなあ…。
◆
問題なかった。無事、見たことのあるとても大きな扉、つまり大図書館の入り口に到着した。
「こ、ここが大図書館の入り口ですぅ…」
「ここまでありがとね」
「あっ、わざわざありがとうございますっ」
ちゃんと頭を下げてお礼を言う。大ちゃんもわたしに倣って慌てて頭を下げた。案内をしてくれた妖精メイドさんは「こ、これが仕事ですから…」と返しながら照れくさそうに笑った。
「そ、それでは、私はこれで…」
そう言って何処かへ行ってしまった。きっと、新しい仕事があるんだろうな。
「さて、入ろうか。大図書館に」
「はいっ!」
元気のいい返事を聞いて、わたしは勢いよく扉を開けようとした。しかし、少ししか動かせない。え?この扉、凄く重い…。これを一人で開けていた咲夜さん力ありすぎ。結局、大ちゃんと力を合わせて二人で開けました。