東方幻影人   作:藍薔薇

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第152話

「…ねえ」

「…?何でしょう、橙ちゃん?」

 

いくつ材木が必要になるのかなんて、全然考えていなかった。今から大体どのくらい必要か考えるのも面倒だったので、とりあえず昨日持って来た建材を複製することにした。まあ、五十本くらい創っておけばいいだろうか。

 

「さっきからポンポン出してるけどさ、これってどうやって出してるの?」

「えーと、わたしの妖力を固形化して」

「いやおかしいでしょ」

「らしいですね」

「…まるで他人事みたいに言わないでよ」

 

そんなこと言われても、出来るんだからしょうがない。わたしにとってはそれが普通。出来て当然。そんな能力だ。

元の建材は無理矢理圧し折って持って来た。だから、根元の部分がでこぼこし過ぎてまともに使えない。それに加えて、枝葉があった上の部分も同じように圧し折り、捻じり切った。同様にこちらもまともに使えない。

 

「さて、まずは成形しないと」

「鋸とか鑢とか持ってくるね!」

「いえ、いりません」

 

その使えない上下の部分をまとめて回収。少々短くなってしまったけれど、そのくらいは考えてある。こうして回収しても十分な長さになるものを選んできたつもりだ。次に、樹皮をまとめて回収。あの頃は指先に神経使って少しずつ削るように回収したのを思い出すと、自分成長したなぁ…、なんて思う。

綺麗になった丸太を一回立ててみる。手を離しても倒れない丸太を見上げ、丸太が立っている地面を見下ろす。

 

「よし。これを地面に突き刺すわけですけど…」

「…既にまともな家にならない予感が」

「え?前の家はそんな感じですよ?縦にズラッと並べて壁にするんです」

「普通、横にするんじゃないの?」

「横?」

 

試しに一つ丸太を持ち上げ、転がっている丸太に乗せてみる。しかし、安定なんてするわけもなく、すぐに転がってしまう。駄目だ、このままじゃとても積み上げるなんて出来そうもない。何か工夫が必要だ。

そうだ。横倒しにした丸太を乗せる部分を、乗せる丸太に合わせて削ればいいのか。家の角を作るのが少し面倒臭そうだけど、やってみようかな。

早速丸太を二つ並べ、片方の丸太を押し付けながら、その形に合わせて回収していく。目測で回収するから、非常に時間が掛かりそうだ。そして、それを見た橙ちゃんの表情が不思議なものを見る目になっていく。…あれ?

 

「…え?何でそんなことしてるの?」

「え?だって横にするんでしょう?こうしないと丸太が乗らないじゃないですか」

「はぁ…。説明するからその削っちゃった丸太は片付けて」

 

…解せぬ。

 

 

 

 

 

 

地面にそれっぽい絵を描きながらの説明だったけれど、何となくやり方は分かった。どうやら、最初から四角形になるように組むらしい。下になる丸太は両側を斜めに削って尖らせ、上に乗せる丸太はそれに合わせて削る。そして、この二つの丸太が直角になるように積む。上手くやれば五角形、六角形とすることも出来そうだけど、わたしは普通に四角形でいい。

しかし、地面を掘って深めに突き刺すだけでよかった縦と比べると、作業量が多いような少ないような…。まあ、やってみないと分からないか。

 

「さて、始めますか」

 

丸太を撫でるように回収し、その尖った形に合わせて凹ませる。それを両端で行って、積み上げていけば四角形だ。扉は後で取り付ければいいや。今は着々と四角く囲まれた壁を積み上げていこう。

 

「あっ…」

「え?…あぁ、やり過ぎた」

 

しかし、やってみるとなかなか難しい。浅いと隙間が出来てしまうし、深いと丸太ががたつく。浅いほうはまだいいけれど、深いと修正が利かないからやり直しだ。さらに、形が合わなければ嵌らない。ピッタリとした形とはなかなか難しいものだ。

 

「…ふぅ。今日はこのくらいですかね」

 

結局、三段積み上げたところで一度作業を中断することにした。形を正確に削り取るのは神経を使う。丸太を持ち上げるのも最初は問題なかったけれど、繰り返していくと段々辛くなってくる。心身共に疲れ果てた。

これをもっと積み上げないといけないと考えると、ちょっと気が滅入る。丸太を高いところに置かなければならないというところが特に。

 

「おにぎり作ってきたよー、…ってあれ?もうおしまい?」

「おしまい。一人でやるのって意外と辛いですね」

「じゃあ、縦に並べたほうが楽だった?」

「どうでしょうねぇ…。縦に並べるのは全部立て切ってからでも、丸太が倒れないことを確信出来るまで安心出来ませんから。安定性はこっちのほうが圧倒的に高い」

 

丸太を突き刺して並べていったときは、その突き刺した深さが甘ければ普通に倒れる。しかも、周りの土を掘り起こしながら。一度そうなると、その場所は土が軟らかくなって倒れやすくなるから困ったものだ。それに比べて、こっちは倒れる心配がほとんどない。この方法を知ることが出来てよかったと思う。

皿の上に乗っているおにぎりを一つ手に取ったとき、妙にざらついているのが気になった。手に付いた砂や木屑は大体払ったし、それ以前に砂や木屑とは明らかに違う感触。…まあ、いいや。

 

「いただきます。…酸っぱ」

「中身は梅干しだよ?」

「あと塩っ辛いですね…」

「頑張ってたから塩多めに振ったの」

 

梅干しってたしか、塩漬けにした保存食品だよね?それだけで味付けは十分なような…。まあ、昼食は何でもいい、と言ったのはわたしだ。いくら塩がやたらと多かったとしても、それはしょうがない。食べれないようなものでもないし、わたしが普段作るものよりもちゃんと調理してる。なら、それでいいじゃないか。

 

「しかしまあ、一日でこれだから、壁だけであと三日は必要かな…」

「じゃあ、屋根は?」

「また別の建材を探す必要がありそうですね…」

 

まっ平らな陸屋根にするのが一番簡単だろうけれども、出来れば雨が溜まる心配の少なく、かつ数ある屋根の種類の中では比較的簡単な切妻屋根や片流れ屋根なんかがいい。上手く加工すればこの建材のままでも行けるだろうけれど、今使っているのではちょっと軟らかい。いや、このままでもいいんだけど、出来ればもう少し硬い建材が欲しい。

いっそのこと、石を削って瓦でも作るか?しかし、瓦屋根はどういうものか知っているけれど、そもそも瓦の形がよく分からないし、それに加えてどうやってあれを屋根に固定しているのか分からない。何かくっ付けるものがあるのだろうけれど、どんなものだろうか?米なんかを潰して作る糊はちょっとべた付くけど、水で簡単に取れちゃうし違うよなぁ。

今後の荒い計画を考えていたら、皿に置かれたおにぎりを食べ切った。空腹感がないというのは、やっぱり不便な気がしてきた。食に対する満足感が薄れる。塩がまだ口の中に残っているような気がするが、水が手元にないのがちょっと悔しい。まあ、こんな塩気は勝手に流れていくだろう。

 

「…やっぱり、明日は誰か連れてこようかなぁ」

「そうすればいいんじゃない?一人だと辛いんでしょ?」

「誰がいいんでしょうかねぇ」

 

慧音は里の中だからどうやって会うか考えないといけない。妹紅は迷いの竹林にほぼ確実にいるだろう。単純な力仕事なら萃香が一番いいんだろうけれど、どこにいるんだか分からない。霧の湖にいる妖精妖怪達は、力仕事には向かないだろうから除外。フランは夜にしか活動出来ないから、申し訳ないけれど除外。パチュリーは喘息だし、力仕事にも向かないだろうから除外。…うん、妹紅に会いに行くのが一番確実かな。

 

「…護符、持っていかないと」

「あ、やっぱり誰か連れてくるの?」

「ええ、そうします」

「それじゃ、行ってらっしゃーい!」

 

運がよければ妹紅の家に萃香もいるかもしれない。夜にはまだ時間があるし、あっちで寝て翌朝ここに戻るでよさそうかな?

 


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