東方幻影人   作:藍薔薇

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第167話

「え、何それ!?面白そう!」

「そうだねー。確かに面白そうかもー」

「ほ、本当にいいんですか?ちょっと大変だと思いますけど…」

「いいよ!簡単じゃないほうがやりがいあるし!」

 

…面白そう、か。わたしもそう思うよ。…傍目から見る側になれれば、ね。やる側はやる側の辛さがある。それはたとえ、手伝い程度でもだ。

けれど、それでもやってくれると言うのなら、わたしはありがたい。断られた場合はもっと辛かっただろうから。

 

「ありがとうございます、皆さん」

「私が楽しそうだからやるだけなんだから、気にしないでもいいよ」

「そうそう。いやー、楽しみ楽しみ」

「頑張る。だから、貴女も頑張って」

「ええ。これだけ協力してもらうんですから、わたしだってちゃんとやり切りますよ」

 

目標はフランの連れ出し。簡単なようで、難しい。何せ、わたしはその部屋へ行くことを許されていないのだから。この前に紅魔館を回っていたときにコッソリと行こうとしたのだが、すぐに咲夜さんに止められてしまった。極僅かな可能性に賭けてみたが、残念ながら駄目だった。

だから、当初考えていたことを決行することにした。わたしは、欺瞞によって咲夜さんとレミリアさんをすり抜ける。

 

「あ、そうだ。ねえ、大ちゃん」

「はい、何でしょう?」

「最終的には紅魔館にいる妖精メイドさん全員にしたい、何て言ったらどうします?」

「…どうでしょう」

 

ちょっと困り顔を浮かべるところを見るに、困難であるようだ。彼女の心情から拒否されるかもしれないけれど、その前に紅魔館にいる妖精メイドさんが多過ぎる。この前の探索で見た妖精メイドさんの人数を改めて数えてみたところ、その数はなんと百を超えた。まあ、この数は飽くまでわたしが見た人数。見ていない妖精メイドさんだっているだろう。

それに、紅魔館の妖精メイドさんはかなり頻繁に変わるらしい。泊まり込みでやっている者もいれば、気が向いたら来る程度の者もいる。妖精の間柄から誘われてやってみた者もいるし、ふらっと立ち寄ったところで面白そうなことをしていたから始めた者もいる。怖くなって逃げた者もいれば、疲れたから辞めていく者もいる。

つまり、たとえ今日のうちに紅魔館にいる全員の妖精メイドさんに『お願い』をしたとしても、来ていない者もいるし、これから入ってくる者もいるのだ。

 

「無理なら無理でもいいですよ。わたしだって、そんな簡単なことじゃないことは分かってますから。それこそ、無茶ってやつです」

「そう、ですか…」

「そんな落ち込まないで。出来ることをしてくれればいいんです。出来ないことをやろうとして失敗するほうがよくない」

「…いえ、出来ます。これからここにいる子達に会って来ますから」

 

そう言ってわたしを見上げる大ちゃんの表情は、さっきまでとは打って変わって意気盛んだ。どうやら、彼女は本気でやるつもりらしい。

 

「あの、無茶ってわけじゃないんですね?」

「はい。いつかここにいる子達と話しておきたいと思ってましたから、それは今からになっただけです」

「そうなんですか…?」

「それに、もし私がやらなかったら、それを埋めるためにまどかさんが無茶するかもしれないじゃないですか」

 

…そんなことないと思いたいけれど、どうだろう。わたしの考える無茶と大ちゃんが考える無茶は違うようだし。けれど、その好意的行動はとてもありがたい。

 

「それじゃ、行ってきますね」

 

大ちゃんは妖精メイドさんの一人に声をかけ、その子と一緒に扉へと歩いていく。二人が扉を開いて出て行ってしまうまで見送り、扉の閉じる余韻がなくなるまで扉を見詰めた。

大ちゃんがあそこまでやってくれるんだ。それに、他の妖精メイドさん達にも協力してもらう。よーし,頑張ろう。

 

「さて、パチュリー」

「…貴女は行かなくていいのかしら?」

「まだいいですよ。訊きたいことがあるんです」

「そう?けど、その前に」

 

パチュリーの待てに従って少し黙っていると、残された五人の妖精メイドさんに積み上げられた本の山の片付けを命じた。五人は慌てて動き出し、数冊の分厚い本を両手に持って右往左往し始める。

 

「それで、何を訊きたいのかしら?…そうね、私がレミィに頼まれたこととか」

「当たり。よく分かりましたね」

「何て言うか、貴女が考えていることが漏れ出てるときがあるのよね」

 

今がそれ、と言われてしまい、咄嗟に両手で顔を触れてしまう。…いや、そんなに分かりやすい?まあ、割と言い当てられること多いけど。

 

「それで、レミィに頼まれたことなんだけど。幻香は八雲藍って妖怪狐を知ってるかしら?」

「…知ってますよ。最近、わたしの家に来ました」

「そう?なら話が早いわね。月に興味はないか、って言われたのよ」

 

うん、それは知ってる。吸血鬼も参加するみたいなことを言ってたし。けれど、それとパチュリーが忙しいこととの繋がりがどうしても見当たらない。

 

「そしたらレミィが『八雲紫を出し抜いて先に月を侵略する』とか言うから、月に行くための方法を考えてたのよ。まったく、頼んだらそれっきりで何もしないんだから。…いつものことだけど」

 

妖精メイドさんが頑張って片付けている本の山はその結果だろう。さっきまで読んでいた本も含めて。

 

「…壮大なこと考えてますねぇ。わたしはそんな手段考えるのはとっとと諦めて、あっちの策略に乗るつもりでいたからねぇ」

「貴女なら何か面白いことを考えてくれると思ったのだけど」

「そうですねぇ…。急に言われて出てくるのなんて、たかが知れてますよ?」

「それでもいいのよ。今は些細なことでも手掛かりが欲しい」

 

些細なことでもいい、かぁ…。なら、思い付くことを手当たり次第言っていくか。

 

「じゃあ、月までぶっ飛ぶ」

「今その方法を模索中よ」

「…え、本当?」

「本当よ」

 

一体、幻想郷から月までどのくらい距離があるのかわたしには分からないけれど、物凄く遠いだろう、ってことくらいは想像に難くない。

 

「月を引き寄せる」

「多分無理。私が百人いても出来ないと思うわ」

「パチュリーが百人…。それはちょっと怖いですね」

「気にするところはそこじゃないでしょ」

 

言ったわたしも無理だと思ってた。物凄く遠いだろう月が夜になれば普通に見えるのだから、その大きさはとんでもないものになるだろう。その超重量を引っ張るのはどうかしてる。

 

「月へ転移する」

「そんなこと出来るの?」

「短距離なら出来る子を知ってます」

「それは誰?」

「さっきの大ちゃん、大妖精ですよ。彼女は座標移動が出来ます」

「…羨ましいわね。物質の座標移動は魔術の一つの到達点よ」

 

へえ、そうなんだ。まあ、大ちゃんは自分以外の生物と転移出来ない、って言ってたからこの案をそのまま採用するのは無理がある。

 

「八雲紫がやろうとしていることを先にやる」

「幻の満月と本物の満月の境界を弄る、だったかしら?」

「ええ、そう言ってましたね」

「私には方法がサッパリ分からないわ」

「そうですか」

 

魔術と妖術には違いがあるらしい。八雲紫に出来てパチュリーに出来ないのは、そこの差なのかもしれない。

 

「パッと思い付くのはこのくらいですかね…」

「とりあえず、飛ぶのと転移するのは考えてみる価値がありそうね」

「単純に飛ぶなら、強力な推進力が必要かもしれませんね。ほら、魔理沙さんのスペルカードの彗星『ブレイジングスター』みたいな」

「ふふ、確かにそうね」

 

わたしが限界まで妖力を使って飛んで行ったとして、月までぶっ飛ぶことが出来るのだろうか?…分からない。

 

「転移のほうは、出来れば彼女の協力が欲しいわね」

「参考にするため?」

「そして応用するため。そのまま短距離だと届かないでしょうから」

「なら、ちょっと行ってきますか」

 

髪をかき上げ、パチュリーが作ってくれたものを手に取る。

 

「あらそう?なら行ってらっしゃい」

「妖精メイドさんを一人借りて行ってもいいですか?」

「いいわよ。…ちょうど一人来たみたいね」

 

パチュリーが言う通り、紫色の妖精メイドさんが本の山に向かっていた。それをパチュリーが止めると、事情を軽く説明してくれた。

説明を聞き終えた妖精メイドさんが、わたしの前まで駆け寄ってからペコリと軽くお辞儀をした。

 

「よろしく」

「ええ、よろしくお願いします」

 

右手を伸ばして肩に乗せると、何故か真似しようと右腕を伸ばしてきた。が、わたしより短いその腕がわたしの肩に触れることは残念ながらなかった。

さて、始めよう。フランを連れ出すために。そう思いながら、左手で妖力を流し、霧状のものを噴出した。

 


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