東方幻影人   作:藍薔薇

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第183話

本来寝る時間とは違う時間に長々と眠ってしまったからか、眠気が一向に訪れない。その代わり、不思議と視線を感じる。そんなこと一切気にせずに無理矢理寝てしまうのも手だけど、こうして妖精メイドさん達が作業をしているのに、動けるわたしが何もしないのは何となく嫌だった。

ロケットの外側は既に完成したらしい。しかし、内装はまだ一部終わっていないと言っていた。今はその内の一つを手伝っているのだけど…。

 

「はぁ…。誰がこんな真っ紅な布団で寝るんだか…」

「それはもう、レミリア様以外いないですよぅ」

「知ってますよ。けどさぁ、これを見る側のことも考えてほしいですよ、全く…」

 

それなりにあったらしい羽毛の中から選りすぐりだと言う十数枚を大量に複製していく。元から布団一枚分には足りなさそうだから、どうせならよりよくしようという話が持ち上がったのだ。もちろん、複製したものもちゃんと良質かどうか確かめてもらっていたのだが、それは途中から行われなくなった。どうやら、品質の信用を得たらしい。

 

「座布団出来た!」

「よーし、後二つだー!」

「ちょっと交代」

「はーい」

「枕の羽毛持って来てー!」

「はぁい、分かったぁ」

 

周りにいる妖精メイドさん達も、休みを取りながらも作業を回している。この調子なら、明日には終わってもおかしくない。

 

「なんですって!?」

 

布団に詰め込もうと思っていた羽毛が妖精メイドさんに持っていかれてしまい、ほとんどなくなってしまったので、新しく複製していると、パチュリーが珍しく声を張り上げていた。…何があったんだろう?

けれど、周りは誰も作業を止めていない。なら、わたしも止めるわけにはいかないよね。けれど、やっぱり気になる。なので、向こう側の話に耳を傾けながら作業を続けていくことにした。

 

「三段の筒を見つけたって」

「ええ」

 

ほぅ、咲夜さんが『三段の筒の魔力』を見つけたらしい。それにしても早いなぁ…。何か裏がありそうなくらいに。

真っ紅な布団生地を裏返し、羽毛を詰め込んだ布団をゆっくりと入れていく。各所をしっかりと結ぶことも忘れない。

 

「これでロケットは無事に完成しますよ」

「何処にその筒はあるのかしら?」

「残念ながらここにはございません。今は神社にあります」

「…神社?」

 

神社に?神社っていうと、あの博麗神社?霊夢さんが何か持っているものなのだろうか。特別なお札?陰陽玉?お祓い棒?…駄目だ、三つはまだしも、筒らしいものが思い当たらない。

布団を中に入れ終え、軽く動かしても中身がズレないことを確認する。隣にいる妖精メイドさんも問題ないと言うように頷いたので、布団を入れるために開けていたところを縫い付けていく。しかし、外側からは目立たないように、かつ簡単に切れたり解けたりしないような縫い方。教えてもらったのはいいけれど、わたしに出来るだろうか?

 

「その筒とは、上筒男命(うわつつのおのみこと)中筒男命(なかつつのおのみこと)底筒男命(そこつつのおのみこと)のことです」

 

…なんだその如何にも三兄弟みたいな名前の三人組は。いや、苗字が違うから兄弟ではないのか?だとしたら、名前が三人もろ被りじゃないですか。名前を呼ぶ際には、苗字を呼ばないといけないじゃん。それは何だかなぁ…。

そんなことを考えながらやったからか、手順を誤ってしまった。チラリと妖精メイドさんを見るが、首を横に振られてしまった。しょうがないので、縫い付けられる途中の糸を掴み、回収する。さて、再挑戦だ。

 

「三柱併せて住吉さんと呼ばれ親しまれている、航海の神様なのです」

 

…どうやったら住吉さんと呼ばれるようになるんだ?『すみよし』の四文字の『み』しかその三人の名前に含まれていないのに。

さっき失敗してしまったので、手順を一回ずつ確認しながら、チマチマと縫い付けていく。ゆるく縫い付けてしまっては意味がないので、しっかりと糸を引っ張りながら。しかし、糸が切れてしまったり、布団生地が引っ張られて歪んでしまったら駄目だ。ちゃんと見極めないと…。

 

「奇しくも、航海の神様で三段の筒ですよ。宇宙を飛ぶのも一つの航海だと思うのです。ですから、この神様が持つ神力こそ、ロケットの推進力に相応しいかと…」

 

航海、ねぇ…。幻想郷に海はないらしいが、海自体は知識として知っている。何でも、塩っ辛い水が大量にあるらしい。地表の七割くらい。塩もそこから得られるらしいのだけど、ここではどうやって手に入れているのだろう?…ま、どうでもいいや。

最後まで縫い付け、確認してもらう。ちょっと緊張しながら待っていると、親指をグッと上げてくれた。緊張が解け、いつの間にか力が入っていた肩を降ろす。ホッと一息。けれど、これで作業が終わるわけではない。さて、別の作業をしましょうか。

 

「…ふぅん、やるじゃないの。それで、どうやってその神様をロケットに乗せるつもり?ま、訊かなくても想像つくけど」

「霊夢がその神様の力を借りるのです。随分と退屈していたみたいで、今は住吉さんを喚ぶ修行をしているはずですわ。つまり、霊夢をロケットに同乗させる必要が出て来ますが…」

「問題ないわ。元からそういう人を乗せる必要があると思っていたから。それに、神様を乗せるより霊夢を乗せたほうが遥かに簡単そうだわ」

 

四人乗りのつもりでしたからね。レミリアさん、咲夜さん、霊夢さんと、今でもあと一人余っているくらいだ。…ま、魔理沙さんが忍び込むだろうから四人になるだろうけど。

カーペットを作っている妖精メイドさんが交代を求めていたので、それに応える。…ふむ、そういう感じの模様かぁ。もう半分過ぎてるから多分大丈夫だと思うけど、もし失敗しちゃったらごめんね?そのときはこれも回収することになって、最初からになっちゃうけどさ。

 

「三段の筒でさらに航海の神様なんて、完璧すぎて裏がありそうなくらい」

 

うん、わたしもそう思うよ。むしろ、裏がないなんて有り得ないとさえ思う。だって、そもそも月への興味を持たせたのはあの八雲紫。裏に隠し蓋があって、開けたらさらに二重底があっても何らおかしくない。

…よし、今のところちゃんと対称な模様になってる。点対称ではなく線対称。華美な模様ではないが、地味ではない。いいなあ、これ。これ程の装飾を代わる代わるでも出来ていることが凄い。

 

「サターンもアポロも目じゃない。私達の宇宙計画は住吉さんを名乗れば必ず成功する!」

 

サターン?アポロ?なんだそれ。あの薄い冊子に描かれていたロケットの名前だろうか。けれど、一本しか描かれていなかったけど…。冊子の中に別のロケットが載っていたのだろう、うん。

正直、このカーペットを家に持ち帰りたいくらいだよ。けど、これは飽くまでロケットの飾り。そんなことは出来ない。もう一枚作ってもらうなんてとてもとても…。自分で作ればいいのだろうけれど、あったらいいなぁ、程度だからそこまで創作意欲が湧かないのだ。

 

「『住吉月面侵略計画(プロジェクトスミヨシ)』。遂に我々は月の都に辿り着く」

 

辿り着く、ね。侵略したところで何がいいのかサッパリ分からないけれど。侵略なんてしなくても、わたしは情報が得られればそれでいい。レミリアさんは所有欲だか顕示欲だか支配欲だか知らないけれど、そんなものを満たしたいのだろうか。…ま、どうでもいいけど。

そのとき、わたしは何かが動く気配を感じ、咄嗟に首が上を向いた。その視界には一羽の鴉。…そうか。お前がさっきの視線の正体か。鴉を見たからか、急に鳥肉食べたくなってきた。そう思い、右手の人差し指を鴉の飛ぶ方向の少し先に伸ばし、最速の妖力弾を射出。頭を一撃で粉砕するつもりだったのだが、残念ながら咄嗟に避けられてしまい、片方の翼に大穴を開けてしまった。…ま、これでもいいか。

流石に片翼で飛ぶことは出来ないようで、無様に墜落した鴉の首を掴む。周りを見渡し、血抜きする際に溢れ出る血液をある程度吸ってくれそうな布を探すと、わたしがやろうとしている事を察してくれたらしく、休んでいた妖精メイドさんが持ってきてくれた。ありがたい。

 

「よし、これで…っ、と」

 

差し出された布を二、三枚複製し、首に巻いてから勢いよく圧し折る。何やら硬いものが壊れ、ブチブチと千切れる音が聞こえたが、いちいち気にしてられない。そこら辺に落ちていた道具を幾つか複製して組み立ててから頭を取り除き、布を裂いて作った紐で足を結んで鴉を吊るす。首から止めどなく流れ出る血を新しく複製した布で拭き取っていく。…よし、大体終わったかな。

 

「このロケット、そろそろ完成するんですって」

「え、そうなの?」

「推進力は神様がどうにかしてくれるんですって。だから、わたし達が作業をしっかりとやり切ればそれで完璧」

「やったぁ!」

 

皆が喜んだが、それもすぐに落ち着いた。多分、さっさと終わらせようと思ったのだろう。実に嬉しそうな表情が滲み出てるから。

 

「この鴉、どうしましょう?」

「んー、ロケットが完成したら豪勢に焼いちゃおう」

「こんな小さいとここにいる人数分足りないですよ?」

「いいのいいの。気分だし」

 

それにしても、この鴉はどうやって大図書館に侵入したんだろう?…ま、これから食す鴉のことは置いといて、わたしもカーペットを完成させますか。

 


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