東方幻影人   作:藍薔薇

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第190話

その後、レミリア共々祇園様の力によって捕縛されたわけだが、魔理沙の土壇場の提案によって流れは急激に変化した。

 

「人間も妖怪も月の民もオケラも皆平等に楽しめる。この世で最も無駄なゲーム…。スペルカード戦だ!」

 

あちら側にとっては初めて知るもののはずだが、簡単な説明だけで理解を示し、私達の提案に乗ってきた。…ま、その際に魔理沙は全員負けたら大人しく帰ることと、もし勝てたとしても侵略はせず手土産一つ貰えればいいと伝えていたからかもしれない。

こうしてこちら側の土俵に落としたわけなのだが、結果は散々なものだった。

 

「『金山彦命(かなやまひこのみこと)』よ!私の周りを飛ぶうるさい蠅を砂に返せ!」

 

咲夜の放ったナイフは全て持ち主に返され、その前に喚んでいた『火雷神(ほのいかづちのかみ)』に囲まれ降参。

 

「『石凝姥命(いしこりどめのみこと)』よ!三種の神器の一つ、八咫鏡の霊威を今再び見せよ!」

 

魔理沙の放った恋心「ダブルスパーク」は反射され、地上に返されて降参。

 

「『天照大御神(あまてらすおおみかみ)』よ!圧倒的な光でこの世から夜をなくせ!」

 

レミリアの高速の突撃はその太陽の如き光に返り討ちとなり撃沈。

 

「『伊豆能売(いずのめ)』よ!私に代わって穢れを祓え!」

 

そして、私が放った『大禍津日神(おおまがつみのかみ)』が溜め込んだ厄災は、見たことも聞いたこともない神様によって浄化された。

 

「おお、本物の巫女だ。こいつはやばいぜ。何せ、偽物は必ず負けるんだからな」

「…はぁ」

 

後ろで座っている魔理沙に茶化されてため息を吐きながら、余裕綽々な笑みを浮かべる相手に疑問を投げかける。

 

「巫女は神様をその身に降ろす者。その神様が巫女の姿っておかしくない?」

「勉強不足ね」

 

答えになっていない答えを受け取り、首元に置かれた刀身に目を遣る。…まあ、私はこの勝負に勝つつもりなどさらさらなかった。侵略するなんて真っ平だし、そうして奪われる月の民のことを考えると、負けたほうがいいと思える。それに、あちらが私達の土俵に乗ったから、私もあちら側の土俵に乗ってみようと思った。その結果は、経験と知識量の差が如実に表れた。

 

「貴女が動けばお互い損をする」

「…ふぅ。あー、投了よ。投了…ふぁ」

 

十二日間ずっと祈り続けてきた疲れによるものと思われる欠伸を噛み殺せずにいると、一瞬呆けた顔になったが、次の瞬間には僅かな怒りを浮かべているようにも見えた。…何かしら、プライドでも傷付いた?そんなこと私の知ったことではない。

 

「それとも何?私の投了が受け取れない?…そう思うなら、その刀を振り下ろしなさい。私は動かないから、ね」

「…いや、いい。受け取ろう。私の勝利だ」

 

不完全燃焼気味に言いながら刀を離した。当てられていたところに手を当て、傷がないことを確かめてから首をゆっくりと回す。そして、体に溜まった怠さとか眠気とか疲れとかを抜くために大きく伸びをする。そんなことをしている間、何故かずっと睨まれていた。

 

「…何かあるの?」

「貴女は何時から喚べるようになったのかしら?」

「既に分かってることを訊かないでほしいわね」

 

住吉三神を喚んだことに気付くなら、他の神様を喚んだことだって気付けるはず。珍しく紫に稽古されたときは、かなりの頻度で喚び出していたつもりだから、非常に分かりやすいだろう。そう考えて言ったつもりなのだが、より険悪な雰囲気を醸し出してきた。…何よ、その眼。

 

「あ、あのさぁ。この後私達はどうなるんだ?」

 

しかし、そんな空気をぶった切るように魔理沙が横から入ってきた。正直、かなり助かった。

 

「…!そうですね。貴女達はもうすぐ地上に送り返します」

 

そう言いながら、私の肩に手を置いた。

 

「ですが、貴女には別の仕事がありますので、しばらく月の都に残っていただきます」

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

彼女――名前を訊いていないため、何て呼べばいいのか分からない――と私を除いた全員が光に包まれ一斉に消えた。言った通り、地上へ返されたのだろう。その一瞬前に、魔理沙はちゃっかり砂浜の砂を小さな瓶に詰めていた。実にアイツらしい。

流石に私達のロケットとは違って往復一ヶ月も待つとは思っていなかったが、ものの数分で帰って来た彼女に連れられ、月の都へと入れられた。

 

「で、私がすることって何よ?」

「私の潔白の証明。貴女が神様を喚び出した所為で、私が謀反を企ててると疑われたから」

「ふぅん。つまり、私が神様を喚ぶところを見せればいいのね」

「ええ。まずは一番目立つところで実演してほしい」

「分かっ――な!」

「…?何を驚いているの?」

 

…と、扉が勝手に開いた。見た感じただの古い扉なのに、近付いただけでひとりでに動いた。紐か何かで動かしているのかと思ったが、そうではないらしい。そんな衝撃的なことに驚きつつも付いていくが、ふと後ろで動く気配がして振り返る。すると、さっきまで開いていた扉が閉まっていくのが見えた。

 

「…何よ、あれ」

「自動扉よ」

 

何でもないように言われ、内心さらに驚く。言い方から察するに、ここはあんなものが普通にあるようなところなのだろう。

同じような自動扉をいくつも通り、広く開いたところへ着いた。そこにはかなりの数の付きの民がいて、私達を見てすぐに頭を下げてきた。実際は、私じゃなくてコイツに下げているんだろうけど。

アイツが目立つところで身の潔白とその証明について長々と語っているのを聞き流しながら、特に意味もなく月の民が持っていた一枚の板に目を遣る。見える面が光っているが、決して強い光ではなく、その面を見るために光っていると思える。そして、その面には細々とした文字とよく分からない図形が映っていた。

 

「えぇ…?」

 

その月の民は触れようとして触れたわけではないのだろう。しかし、そのときに起こったことは私にまた新たな衝撃を与えた。その手を動きに合わせて映っていたものが動いたのだ。

もう少し見てみたいという好奇心が僅かに芽生えたが、それが成長する前に神様を喚ぶよう促された。別にどの神様を喚べとは言われていない。なので、頭に真っ先に浮かんだ神様を喚び出す。

 

「『天石門別命(あまのいわとわけのみこと)』」

 

床に片手を叩き付ける。底は決して見えず、無限へ続いていると錯覚しそうなほど深い穴。…まあ、ただの幻覚なのだけど。紫はそう言っていたし、私自身もそう思う。

ざわざわと騒がしくなったが、それも後ろにいるコイツがしゃべり始めてからすぐに収まった。色々語っているようだけど、つまり神様を喚んだのが私だと言っている。実際、喚んだのは私なのだから、いちいち口を挟んで事を荒立てるにするつもりはない。

 

「さ、別のところへ行くわよ」

「ねえ、いつまでやるつもりなの?」

「もちろん、全員が理解を示すまで」

「…はぁ。面倒なことになったなぁ」

 

そういう私にため息を吐かれたが、文句くらい言わせてほしい。自ら乗ることを了承したとはいえ、好き好んでここに来ようとしたわけではなく、ちょっと暇だったから乗ってもいいだろうと考えただけなのだから。

 

「『火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)』」

「『天津甕星(あまつみかほし)』」

「『天宇受売命(あめのうずめのみこと)』」

 

その後も様々なところを回りながら神様を降ろしていく。

 

「今日はもういいわ。また明日にしましょう」

 

いい加減そろそろ休みたいと考えていたところにちょうどよく言い渡された。ホッと一息ついていると、食事を出すと言ってくれたので、大人しく着いて行く。ただ、桃だけ出されるかもしれないと考えてしまい、ちょっとだけ不安になる。

 

「…?」

「どうかしましたか?」

「あ、いや、何でもないわ」

 

…見たことあるような顔が見えた気がするのだけど、気のせいかしら?ま、いっか。

 


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