東方幻影人   作:藍薔薇

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第2話

目が覚めると、視界が紅い霧でいっぱいになっていた。こんな天候は初めて経験する。連日で悪いけれど、慧音に聞いてみよう。結構物知りだったし。

ベッドから這い出て、干しておいた蛇の肉と魚を焼いて食べてから洋服入れを開ける。新しい服3着と古くなった服4着ほどが並んでいる。

古くなった服を掴んで、分解する。複製して創られたものはわたしの妖力の塊だ。だから、任意のタイミングで分解出来る。そのとき、触れていれば自分に妖力が還元し、触れていなければ空間に霧散する。

残った新しい服に着替えて泉へ歩いて行く。日光が当たらないので、少し肌寒い。あと、体に少し違和感を覚えるが、もしかしてこの謎の紅い霧のせいだろうか?

 

 

 

 

 

 

人間の里に着いたが、普段は人間が多数歩いているはずなのだが、誰一人いない。里にわたししかいないと錯覚してしまうほど静かだ。耳鳴りもする。

歩いて数分、慧音の家に着いたので扉を叩く。奥から「どうぞー」と聞こえたので、中に入る。お邪魔します。

 

「こんにちは」

「ああ、こんにちは。どうした?この紅い霧のことか?私は知らないぞ」

「あ、そうなんですか…」

 

先手を打たれた。これは少し悔しい。

慧音が知らないとなると、何処かで調べたほうがいいかも。

 

「じゃ、じゃあ何か調べるのにいい場所ってないですか?」

「んー、紅魔館っていうところに図書館があったはずだが…少し遠いぞ?」

「とりあえずそこで構いません。どの方角に行けばいいですか?」

 

わたし達妖怪は、空を飛ぶことが出来る。鳥のように羽ばたくのではなく、フワフワと浮遊するのだ。だから、道順は聞かずに方角だけ聞けば済む。

慧音が頭を軽く掻いて思案顔になり、空いている手で空を指差す。

 

「この方角を行けばいい。行く途中には『霧の湖』があったはずだから、そこで休憩しながら行くといい」

「はい、分かりました」

「気をつけろよ。そこには吸血鬼がいるからな」

「…そ、そうなんですか…」

 

吸血鬼。数年前の『吸血鬼異変』の首謀者。たしか名前はレミリア・スカーレットといったか?とても強力な妖怪で、数多の妖怪達を部下にし、この幻想郷を乗っ取ろうとしたらしい。幸い、彼女より力のある妖怪の力業によって無理矢理解決したらしい。

そんな吸血鬼もスペルカードルールを守っているはずなので、死んでしまうことはない、と信じたい。不慮の事故って怖い。

 

「分かりました。気を付けて行きますね」

「うん、怯えるくらいがちょうどいいかもな」

「怯えるくらいが…、はい、分かりました。わざわざありがとうございます」

 

ちゃんとお辞儀をしてから「それでは、さようなら」と言い家を出て飛んでいく。わざわざ玄関を出て見送ってくれる慧音はやっぱりいい人だ。

 

 

 

 

 

 

人間の里を出て1時間くらい経っただろうか、やっと湖が見えてきた。湖の上には妖精が二人いて、健気に遊んでいるように見える。ん?弾幕が見えるから、スペルカード戦をしているのかな?いや、妖精がやっていると弾幕ごっこって言ったほうがしっくりくる。

湖の岸に降り立つ。持ってきておいた乾燥木の実を頬張り、湖の水を口に含む。休んでいる間は、妖精たちの弾幕ごっこでも見ていようかな。

今戦っているのは、水色の髪の毛で水色の服を着た妖精――水色妖精と呼ぼう――と、緑色の髪の毛で青い服を着た妖精――緑髪妖精と呼ぼう――。水色妖精は、羽が氷のような見た目をしているから、冬とか氷の妖精かな?もう片方は、鳥のような羽をしている。何の妖精だろう?

水色妖精は氷のように透き通り、尖った弾の弾幕を張り、緑髪妖精は羽根のような弾の弾幕を張っている。水色妖精がかなり余裕そうな顔をしていて、緑髪妖精はかなり苦しい表情を浮かべている。どうやら、水色妖精が優勢のようだ。

 

「―符!『パー――クト―――ズ』ッ!」

 

遠くのほうだからよく聞こえないが、突然水色妖精が何か叫んだようだ。スペルカードだろう。使用時には宣言する、と慧音が言ってたし。

水色妖精を中心に、放射状にカラフルな弾を大量に展開した。すると突然、カラフルな弾が真っ白になり、空中で静止したではないか。これは初めて見たら少し驚くかも、なんて考えたが、相手の緑髪妖精はさして驚いた様子もなくスイスイ動いて、開けた空間に移動している。きっと何度も勝負している仲なのだろう。

停止していた弾が一斉に動き出す。動きは追尾弾ではなく、ランダムな方向に動く直進弾のようだ。しかし、運が悪く緑髪妖精を囲むように弾が動き、被弾してしまった。それと同時に弾幕も止まったので、勝負が着いたようだ。水色妖精の勝利のようである。

水色妖精が緑髪妖精に近づいて、心配そうな顔を浮かべている。いいなあ、ああいう関係…。残念ながら、慧音とはそういう関係ではない。先生と生徒という感じの関係だ。実際、慧音は先生だし。わたしもいつかああいった、お互いを尊重し合って、心配しあうような友達が出来るだろうか。

今まで見てきた人間は、わたしの顔を見るとすぐ逃げ出してしまう。妖精は覗くことはあっても、話しかけることはない。わたしがそちらを見ると、驚いた顔をしてピューッとどこかへ飛んで行ってしまう。妖怪はそもそもほとんど会ったことがない。しかし、出会った妖怪たちは皆、最初は驚愕の表情を浮かべる。

そんなことを考えていたら、妖精たちがわたしに気付いたようで、こちらに飛んでくる。

かなり近づいてきたので、妖精たちの会話もよく聞こえるようになった。

 

「見て見て!あそこにアタイにそっくりなのがいるよ!」

「え?何処ですか?私にそっくりなのならいますけれど…」

 

そう、皆がわたしを見て驚く理由は『自分と同じ顔に見える』らしいからだ。慧音とその友人と言っていた人と一緒に話していたときの会話で分かった。目や鼻などの顔のパーツ、髪の毛・肌・瞳の色、傷痕なんかがそっくりそのままに見えるのだとか。身長や胸囲といった体型、髪の長さ、服装や髪留めなどの装飾品、声はわたしのままだが。

また、慧音には慧音そっくりに、友人さんには友人さんそっくりに見えたそうで。なんとも不思議な妖怪である。だからだろうか、あのスキマ妖怪がわたしがドッペルゲンガーだと分かったのは。

 

「いいや!あれはアタイにそっくりだね!」

「いいえ、私にですよ」

「何をー!やるか!?」

「いいえ、さっきやったので遠慮しておきます」

 

何時の間にか喧嘩してしまっている。とりあえず怖がっていないようだし、話しかけてみようかな。

 

「あのー」

「ねえ!アタイにそっくりだよね!?」

「私にですよね!?」

 

おおう、こっちに飛び火してしまった。誤解を解くには、素性を言ったほうがいいよね。

 

「似ていると言われるのには慣れてるわ。わたしは妖怪、ドッペルゲンガーよ」

「どっぺる…?」

「チルノちゃん!ドッペルゲンガーっていうのは自分とそっくりの姿をした分身みたいな存在のことだよ!」

「そ、そんなの知ってたもんねー!」

 

どうやらドッペルゲンガーという言葉を知らなかったようである。この妖精、たしかチルノと呼ばれていたかな。あまり頭がよくないのかもしれない。

 

「ところで、あなた達は?」

「アタイはチルノ!氷の妖精で最強なんだ!」

「あわわ、チルノちゃん何言ってるの!?わ、私は大妖精。気軽に大ちゃんとでも呼んでください」

「うん、わたしは鏡宮幻香。よろしくチルノちゃん、大ちゃん」

 

よし、挨拶も済んだし、ちょっと雑談でも。

 

「さっきの弾幕ごっこ、凄かったですね」

「おー!分かるかー?アタイの強さが!」

「ええ、わたしは一度もやったことがないですが見たことはあるので」

 

さっきのを含めて僅か4回しか見たことがないのだけれどね。

 

「じゃあアタイとやってみるか?」

「いえ、実はまだスペルカードを考えていないので…」

「そっかー…。じゃあ、また会ったときに遊ぼう!」

「はい、いいですよ」

 

チルノちゃんとの弾幕ごっこ。楽しめるかな?スペルカードは美しいのか派手なのがいいみたいだけど、わたしは未だにいいアイデアが思いつかない。紅魔館に行くまでに少し考えてみようかな…。

 

 

 

 

 

 

雑談をして十数分、疲れも大分取れた。そろそろ出発しよう。

 

「さて、わたしはそろそろ行かなくちゃ。じゃあね」

「うん!バイバーイ!まどかー!」

「はい、さようなら。まどかさん」

 

チルノは元気いっぱいの笑顔で両腕を大きく振り、大妖精は微笑みながら小さく手を振ってくれた。わたしも笑顔を浮かべ、軽く手を降ってから紅魔館の方角を向き、飛んで行った。彼女との約束を守るためにも、スペルカードを考えないと。

 


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