東方幻影人   作:藍薔薇

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第240話

燃やされてしまった分の人形を補充しながら考える。最近の勝負では、人形自体の耐久力の低さが狙われがちになっている。吹き飛ばされたり、斬られたり、燃やされたり…。多少の攻撃なら大盾で防御出来ても、大盾が壊れればその人形ごとになりがち。これは人形自体に何か施したほうがいいのかもしれない。…とは言っても、今この状況ではどうしようもない。

パチュリーの周りに金属針が大量に生成され、一斉に射出される。大盾で防御するたびに金属同士がぶつかり合う音が響く。少しばかり変形してしまってはいるけれど、この程度なら些細な問題。足元に弾いた金属針が転がるが、それらはすぐに塵のように細かく分解され、再びパチュリーの扱う金の精霊魔法の素材となる。

私自身は大盾を装備した人形に防御してもらっているので、左右に広げた人形に弾幕を張ってもらってパチュリーに攻撃する。しかし、生半可な威力ではあの魔術結界を破ることが出来ない。いくら魔力弾を放っても、魔術結界に流れる魔力と相殺されていくだけ。消費した分の魔力は、すぐさまパチュリーから供給されているだろう。

 

「…けど、勝てないわけじゃない」

 

魔術結界に阻まれると分かっていても、弾幕を放ち続ける。この弾幕も、決して無駄にはならない。スペルカード戦は最後まで被弾させるだけが勝利じゃないし、相手のスペルカードを全て避け切ることだけが勝利じゃない。

 

「魔操『リターンイナニメトネス』」

「土金符『エメラルドメガロポリス』」

 

収まり切らないほどの魔力を受け取った人形が、その体では耐え切れずに内側から爆ぜる。それに対し、パチュリーはまるで床からせり上がるように生成された緑色の宝石の柱で防御した。人形一人の爆発に対し一本の柱を出して受け止めることで上手くやり過ごされ、その柱は私に向けて次々とせり上がってくる。

遠くにいた人形に繋がっている魔力糸を巻き取るように引っ張ってもらい、普通より素早く移動する。しかし、普通より早いということは、それだけ負荷が大きいということ。出来ることなら使いたくはない。

最後の一本が私の後ろギリギリに伸びてスペルカードが終わった。魔術によって急ごしらえに生成された宝石の柱はやはり長くは持たないようで、私が破壊したものも含めて、既に大半が分解されてなくなっている。この柱も、あと数秒と経たずに崩れて分解されてしまうだろう。

 

「月木符『サテライトヒマワリ』」

 

続けざまに宣言されたスペルカード。魔力が込められた何かを打ち上げ、それからグルグルと大きく円を描きながら弾幕を雨のように降り注いでいく。回っている数はなんと二十。パチュリーに近ければその密度は濃く、離れるほど薄くなる。しかし、それは規則正しく回っているものの場合。五つだけフヨフヨと私の上に移動してきており、上から来る弾幕を人形の大盾で防御する。

 

「…これはまずいわね」

 

数秒防御し、一番上にいた人形の大盾が壊れる音が聞こえた。その人形が穿たれる前に回収出来たのは幸いだったけれど、このまま防御し続けていると、手持ちの大盾がなくなってしまう。そう判断して動き出すが、ある程度離れているとはいえ上から落ちてくる弾幕とは避けにくい。そもそも人は上下の視野が左右の視野に比べて狭いのだからしょうがないのだけど、そんな文句を言っても仕方がない。

目の前に落ちてきた魔力弾に動きを止めた瞬間、追いついてきた五つから降り注ぐ弾幕をもろに浴びてしまう。すぐに走り出したはいいものの、動き続けるのは私には辛い。そうやって走り続けた先で、規則的に巡回するものから落ちてきた魔力弾が腕に当たってしまう。…こんなとき、魔理沙がいればあの箒に跨るだけでいいのだけど。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

息が上がり切った頃になって、ようやく三枚目のスペルカードが終わりを告げる。結果だけ見れば二回の被弾。それだけで済んだと見るべきか、二回も被弾してしまったと見るべきか…。

 

「…赤符『ドールミラセティ』」

 

上空に人形を並べ、パチュリーに向けて強力な弾幕を一斉に放つ。この威力なら、今の魔術結界を十分に貫ける。もちろん、私も多少弾幕を放ち援護するが、上にいる人形達のほうが強力だろう。

しかし、パチュリーは私の弾幕に対しては魔術結界で防ぎ、上から来る人形達の弾幕に対しては金の精霊魔法と土の精霊魔法で乱暴に生成したであろう何とも言えない形をした金属塊と土塊で相殺していく。いくつか漏れて魔術結界に当たるものはあったのだけれど、そのほんの僅か前に多くの魔力を流し込んで魔術結界を強化し、破られないようにしていた。…悔しいけれど、私なんかより魔力の扱いが圧倒的に上手い。

 

「けど、勝敗は別よ」

 

私のスペルカードを防ぎ切ったパチュリーの魔術結界が薄れて消える。俯く彼女の息は私よりも荒い。

最初のスペルカードを何とか防いだ後、大盾に隠れながら観察していると、パチュリーの不調に気付いた。それは持病だという喘息ではなく、純粋に魔力量が普段より明らかに少ないということ。多分、最初に放たれたスペルカードも、本来なら余波ではなく炎で吹き飛ばされてもおかしくなかっただろう。

だから、私は彼女の魔力をより多く消耗させることにした。もちろん、最後まで使い切ってしまえば生命の危機。いくら精霊を介して消費する魔力量を減らしているとはいえ、あれだけ大規模なものを生成すれば消費は激しい。そんな大規模なものを生成して防御してもらうために、強力な自爆特攻を早々にさせた。より多く魔力を消耗させるために、威力の高く密度の濃いスペルカードを選択した。

そして何より、同じ魔法使いとして、と言っていた。なら、自然と小規模なつまらない魔法を使うことが出来なくなる。そんなことをすれば、自分の魔法使いとしての格が落ちるから。

 

「…はぁ。してやられた、って感じ、ね」

「ええ。まるで数日休むことなく活動してたみたいに消耗していたみたいだから、そうさせてもらったわ。…で、どうするの?」

「実際に、休もう、なんて、思わなかった、から、しょうが、ないわ、ね…。…はぁ、降さ――」

 

そこまで言ったパチュリーの言葉が途切れる。まさか魔力切れで、と思ったが、それは大きな間違いだった。

 

「あははっ!…何よ、最初からかかわらせるつもりだったじゃない」

 

そう言いながら笑うパチュリーの体から、先程までとは全く違う活力が見てとれる。限界一歩手前まで減っていた魔力が、大幅に回復している。…一体、何が起きたというの?

 

「火水木金土符『賢者の石』」

 

パチュリーから膨大な魔力が放出され、それを受け取った目に見えない精霊達が多種多様の魔術として解き放つ。すぐに大盾を構えて防御するが、その威力は途方もなく、呆気なく壊される。

 

「ッ!戦操『ドールズウォー』!」

 

咄嗟に武器に持ち替え、私に降り注ぐ魔術を切り裂き貫いていく。しかし、ある程度は防げても、炎には弱いし水は防げない。いくつか突進させても、パチュリーに辿り着くことは決してない。

膨大な魔術を人形達は防ぎ切れず、私自身は避け切れず、そのまま押し潰されるようにいくつも被弾してしまう。そして、私は敗北してしまった。

 

「…このままじゃ、人里が」

「さて、私の話し相手になってくれるかしら?」

「…ええ、そうね。一体、貴女は何を話してくれるの?」

 

椅子に座ったパチュリーは本を机に置きながら微笑む。私は人形を仕舞い、向かい側に腰を下ろした。あれだけの攻防があったというのに、その机と椅子は傷一つ付いていない。周りを見渡すと、本棚もそれに仕舞われた本も同様に傷一つ付いていない。きっと、大図書館全体すらも魔術結界で守っていたのだろう。そう考えると、やはりパチュリーは私よりも高い位置まで登っている魔法使いなんだな、と思わされた。

 


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