東方幻影人   作:藍薔薇

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第28話

「そうか…」

「優曇華も大体同じこと言ってたわね。…まあ、抜けているところもあったけれど」

 

慧音が言っていることは大体わたしの経験だ。だから、私は知っていることばかりだ。しかし、慧音に改めて言われると、やっぱりそうなんだなって再認識される。

今回の騒動で、里の人間はわたしを排除すると言っている。やっぱり、もう――

 

「――里には、入れないですよね?」

「そうだな。残念だが…」

「はは、やっぱそうですよねー…。はは、は…」

 

不思議と口からは乾いた笑いが零れてくる。

元から里に行く理由なんて慧音に会う以外なかったんだから、里に行くこと自体は問題ない。だけど、好き勝手に慧音と会えないのは結構辛いなあ…。

 

「まあ、仕方ないですよ。ああ、そうだ。里の人間はわざわざ魔法の森に入ってわたしを排除しようとしますか?」

「しないな。普通の人間は魔法の森に入ったら即効で御陀仏だ。なにせ、あそこに群生する茸は大半が有害だ」

 

え、なにそれ初耳なんですけど…。確かに『サバイバルin魔法の森』にも幾つか有害なものは書かれていたけれど、大半とは書かれてなかったですよ…?しかも、茸だけなんて。

 

「胞子を吸い込むだけで頭痛、眩暈、吐き気などの体調不良、前後不覚や虚脱感、不眠症に催眠作用、幻覚作用などを起こす。種類によっては即死級だ。そんなところに行く人間はよっぽどの命知らずか、よっぽどの自信家。まあ、まともな人間はまず入ろうともしない」

「ちょっと待ってください!慧音、わたしにそんな危ないところ教えたんですか!?」

「あの時はまさかそこに住もうなんて思うとは思わなかったからな…。『人間の来ない場所』なんてそうそうないし、真っ先に思いついたのがそこだと言うのもあるが…」

「ここ、迷いの竹林だってほとんど人間は来ないわよ?入ったらまず出られないから」

「確かにそうだな…。稀に餓死寸前の人間が倒れているときがある」

 

人間の里はすごく安全な場所だということがよく分かった。まあ、わたしにとっては危険度最高級なんですけれど…。

突然、永琳さんが立ち上がった。

 

「ちょっと長く話しすぎたわね。何か軽く食べる?」

 

そう言われると、不思議と感じていなかった空腹感を意識してしまい、一瞬で意識が持って行かれそうになる。ありがたく頂くことにした。

 

 

 

 

 

 

前に来たときに頂いたものと同じ、お粥とすまし汁を頂く。慧音達はもっとしっかりしたものを食べているが、文句は特にない。いきなりあんなに食べれる気がしない。

 

「これ食べたら今後のことでも何でも話してなさい。私は仕事の続きをするわ」

 

永琳さんは一足早く食べ終わり、そう言ってすぐに部屋から出ていった。

食事を終えてすぐに、慧音がわたしに向かって口を開いた。

 

「さて、幻香。お前はどうする?」

「どうする…とは?」

「このまま魔法の森に籠るかどうか、ということだ」

「……まあ、たまに紅魔館に遊びに行ったりするので、籠るつもりはないですね」

「じゃあ、言い方を変えよう。何とかして里に入る方法を考えないのか?まあ、私はあまりお勧めしたくないんだが…」

 

正直、里に行く理由は慧音以外特にない。あとは、迷いの竹林に行くとき通り道になるくらい。それに、方法なんて思いつくものは全部失敗する未来しか見えない。

 

「考えませんね。入る理由がほとんどない」

「そうか。まあ、お前はそういうと思ってたよ」

「オイオイ!なに勝手に諦めてんだよ!」

 

妹紅さん…?

 

「方法くらい考えれば出てくるだろ!」

「え…?」

「そうだな、例えば一人ずつ説得するとか…」

「………無理ですよ。そもそも、誰がやるんですか?やってくれる人なんかまずいませんよ。もしやってくれたとしても、その人が『わたしの仲間』とか『反逆者』とかに思われて排除されるだけですよ」

「じゃ、じゃあ第二勢力を作るとか…」

「じゃあ例えば、第二勢力なんてどうやって作るんですか?」

「お前も友達くらいいるだろう?そいつら集めれば」

「…確かにいますよ。ですが、わたしはあの人たちを巻き込みたくない。それに、外から引っ張って来ても、里から見たら新参者。昔から居る人間共の影響力に勝つことは難しいんじゃないですか?」

 

一息。一気に喋るのはあまり得意じゃない。

 

「それに、わたしの友達はほとんど妖精か妖怪。里に妖精、妖怪が入ってくることはあまり好かれていなかったはずなんで、この里の状況を考えると『とりあえず排除』になりかねません」

「そう、か。なら、仕方ないか…」

「そう落ち込まないで下さいよ」

 

慧音がうなだれた妹紅さんにそっと手を乗せる。

 

「妹紅。幻香はこれでも考えて決めたんだよ。その意思を尊重してやってもいいんじゃないか?」

「そうだな…。確かにそうだ」

 

妹紅さんは顔を上げこちらを見た。

 

「幻香。里に行けないのは少しくらいは寂しいだろう?だから、気が向いたらそっちに行ってやるよ。魔法の森だろう?家の場所は知らないから、慧音に付いてくか教えてもらうかするさ」

「わざわざありがとうございます」

「私は定期的にそっちに行こうと思っていたしな。まあ週一くらいでな」

「そうですか。ありがとう、ございます…」

 

二人とも優しいなあ…。目頭が熱くなる。人間の悪意に触れたからか、二人の善意がとても心地よい。

落ち着いてきたら、少し聞きたいことが浮かんできた。

 

「そうだ、妹紅さん」

「ん?場所教えてくれるのか?」

「それはあとで教えられたら。今聞きたいのは、わたしが倒れていた三日間です」

「あー、私はずっとここにいたから里のことは知らないなあ…。慧音、何か知ってるか?」

「幻香。つまり、人間達がどうしたかってことを聞きたいのか?それはもう伝えただろう」

「ええと、あのわたしに襲撃してきた人間達とか、霊夢さん達とかのことが聞きたいですよ」

「霊夢と言うと、博麗の巫女のことか?それは知らんな。襲撃してきた人間達なら今は普通に生活していたぞ。お前に対してかなりの悪意を持っていたみたいだがな…。特に、あの爺さんはお前の排除を里中に押し広めている一人だな。昔は妖怪退治の専門家だったそうだが、引退した身らしい」

 

元専門家。昔の栄光に引っ張られたのかもしれないし、未だに残る正義感からやっているのかもしれない。しかし、やっていることは『疑わしきは罰せよ』だ。もしかして、専門家ってそんなものなのかな?……そういえば、霊夢さん達が紅魔館に現れたとき、関係ないわたしも退治しようとしてた…。いや、あの時は庇おうとしていたではないか。しかも、わたしの言った根拠のあまりない言葉を信じてくれた。場合によるのかも。

 

「ま、このくらいだな。……もう、里に入らないお前にはあまり関係ない話になるかな」

「まあ、そうですねえ。里から変な噂が広がらなければ、わたしは変な目で見られることはほとんどないって知りましたし」

 

慧音も、妹紅さんも、霧の湖で会った妖精達も、紅魔館の住人達も、永遠亭の住人達も、博麗の巫女も、白黒の魔法使いも。彼女達は、里の人間共のような目で見てこなかったのだから。

 

「だから、わたしは大丈夫ですよ?」

「そうか。いいやつらに会ったんだな」

「ええ、とってもいい方たちですよ」

「そうか、それじゃあな」

「早く出てこいよ」

 

本当に、いい人達だ。私にはもったいないくらいに、とってもとっても、いい人達だ。

言いたいことは言い終わったとばかりに、慧音と妹紅さんが部屋から出ていった。振り向くことはなかったが、足音が聞こえなくなるまで、手を振り続けた。

 


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