東方幻影人   作:藍薔薇

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第307話

『幻』を百八十個展開しつつ、左脚を前に出して腰を捻り右腕を思い切り引き絞る。限界一杯まで捻り切った体を戻す反動と共に一歩強く踏み込みながら貫手を突き出す。体を大きく旋回させて右腕で薙ぎ払い、右脚、左脚と続けて空を蹴る。一度静止してから軽く跳ね上がり、素早く前方に一回転して踵落としを叩き込む。振り下ろした右脚を伸ばしたまま前に倒れ込み、両手を地に着けてもう一度跳ね上がり、再び踵落としを叩き込む。

 

「…ふぅ」

 

一息吐き、『幻』を一度回収すると違和感がなくなり、一気に楽になる。『幻』百八十個展開しつつ戦闘するのは、まだ厳しいかなぁ…。今のところの目標は『幻』を限界まで展開したまま『紅』を維持して戦闘出来るようになることだけど、その前で立ち止まることになりそう。

人差し指を真っ直ぐと伸ばし、威力を抑えたスペルカード戦用の妖力弾を連続して放つ。ある程度離れたところまで放たれた妖力弾を順番に制止させ、真っ直ぐと連なった列を作る。それを一斉に炸裂させる。

目の前に大きな円柱を創造し、それに向けて旋回し貫通に特化させた妖力弾を放つ。キィンと小さな穴を空けて貫いた妖力弾を操作し、右から、左から、前から、後ろから、と幾度となく貫いていき、最後に上から侵入させて円柱の中心に到達したところで炸裂させる。貫通するたびに妖力を削いでいたため大した威力にはならなかったけれど、そこは別に構わない。内側から爆ぜた円柱だった欠片を出来るだけ回収する。

右腕が薄紫色に淡く発光をする程度に妖力を溜め、その妖力を放出せずに丸く留めたままその場にポンと置く。フワフワと浮かぶ妖力。そのまま維持させつつ、わたしはその場を離れていく。ある程度離れたところで再び右腕に妖力を充填し、留めておいた妖力と共に解放する。端的に言えば、小規模なマスタースパークが二本同時に放たれた。よし、模倣「ダブルスパーク」っと。

 

「っと。何してるんだい?」

「おや、お燐さん。窓からとは大胆ですね」

 

さて次の練習を、と思ったところでボスリと雪に両脚を突っ込んだお燐さんに声を掛けられた。少し上を見上げれば窓が開いているので、そこから跳び下りてきたと思う。ちゃんとした出入口から回ってこないで来るとは。そんなに気になることかな?

 

「弾幕遊戯の練習ですよ。いつさとりさんに呼ばれるか分かりませんからね」

「あー…。あの時は悪かったね」

「気にしないでいいですよ。ただ、こんなに大事になるのは流石に予想外でしたがね」

「あたいも驚いてる。まさかさとり様があんな決断をするなんてねぇ…。広めるあたい達も大変だよ」

「何時なんです?」

「予定通りなら明後日だね。多少なら雪雨天決行だとさ」

「明後日ですか…。うん、了解しました。それまでにどうにか形にしましょうか」

 

期日を把握し、少し気を引き締める。そして、目の前にお燐さんの複製(にんぎょう)を二体創り出し、別々の動きをさせる。意識が少し押し退けられる感覚があるけれど、まぁ気にするほどではない。

 

「うわっ、あたいが増えた…」

 

お燐さんに若干引かれているようだけれど、それも気にしない。

二体の複製に含まれる過剰妖力を少しばかり外へ解放し、周囲へ弾幕を放つ。一発の威力の調整が難しいなら、一度に使う妖力量をそのままにして分散させればいい。…まぁ、まだちょっと強いからもう少し妖力弾の数を増やすとしよう。欲を言えば、複製の中心から放出させるのではなく手を伸ばすなどして放たせたいところだ。意識すれば出来るけれど、咄嗟に出来るかと言われれば怪しい。

利用方法は単純に弾幕を各方面から放たせることだけではない。相手の弾幕からわたしを守る壁としても使える。体当たり判定とならないように注意して自爆特攻をさせるのもいい。

よし、とりあえず鏡符「二重存在」と鏡符「多重存在」の改変も一歩前進かな。

 

「…それが切札かい?」

「はい。貴女も考えてみたらどうですか?」

「もう考えてるよ。こいし様の次はあたい達もやるんだからね」

 

あら、そうだったの?…まぁ、わたしとこいしがやってそれで終了、とはいかないか。たった一戦で旧都の妖怪達がやり始めるとは限らないから、それ以降も何度か火付けが必要になるよね。

 

「どうですか?いい切札は思い付きましたか?」

「…難しいね。こいし様に叱られた理由が身に染みて分かるよ」

「わたしも難しいですよ。何せ、地上で使っていたのがいくつも使えなくなったし」

「参考にならないけど、どんなのか訊いてもいいかい?」

「いいですよ。前に貴女に膨大な妖力を放ったでしょう?あれ、本当はわたし自身が突撃するス…切札だったんですよね。あと、とりあえず大きなものを創造して相手にブン投げてました」

 

問われたことを正直に答えると、さらに引かれた。しかも今回は精神的だけではなく、一歩後退されるという距離的にも引かれてしまった。訊いておいてその反応は何ですか。解せぬ。

 

「他にもこの複製を突進させたりね」

「それもどうかと思うよ…」

 

二体の複製を浮かべ、お互いの肩をぶつけ合わせるのを見せながらそう言ったけれど、案の定あまりいい顔を浮かべなかった。二体の複製をこちらに寄せ、回収する。

 

「弾幕はどう?」

「…それも難しい。出来るだけ傷付けてはならない、って言われてもさ、そんなのやったことないって」

「あの時の火球そのままだと焦げちゃいますからね」

 

…まぁ、それはわたしの複製「緋炎」でも言えることなんだけど。火力調整しないとこいしが盛大に燃えてしまう。これだけ雪が積もっていれば大丈夫だと思いたいけれど、旧都の街並みが火事になる可能性だってある。気を付けなければ。

それにしても、弾幕も切札もまだ難しいか。これは一応ギリギリ経験者とも言えなくもないような気がするわたしが少し手伝ってあげたほうがいいだろうか?

 

「こいしとの約束が終わった後、実践練習の手伝いくらいなら出来ますよ」

「…他の子も一緒になら考えとく。あたい一人だけ、ってのはちょっとね」

「何人くらいですか?」

「んー…、二十人くらいかな?全員参加するならもっと増えるし、遠慮されればもう少し減る」

「…だ、大丈夫かな…?うん、大丈夫…」

 

仮に二十人連続で弾幕遊戯をするとなると、かなりの苦労を被ることになりそうだ。けれど、さとりさんがこうして頑張って広げようとしている新しい娯楽。こうして間接的に手伝えるなら、わたしのちょっとの苦労なんて押し退けるべきことだろう。

 

「…よし、やりましょう。こいしとの弾幕遊戯をやった翌日にでも貴女に声を掛けます。そしたらここらへんに参加するペット達を集めてくれますか?」

「え、ほ、本当にやる気かい!?」

「やります。あまりに多過ぎたらちょっと楽させてもらうかもしれませんけど」

 

具体的には切札数と被弾数を減らしたり、複数人同時に相手したりである。七人同時に相手に出来たんだし、きっと大丈夫。…大丈夫だよね?ちょっとだけ不安になってきたけれど、心に僅かに湧き出た不安を握り潰し、溜め息と共に排出する。

 

「さて、わたしは続きをしますか。見ていたいなら見てても構いませんよ」

「…なら、もう少し見学させてもらおうかね」

 

そう言うとお燐さんは地霊殿の壁に背を当てる。わたしは指先の一点に妖力を圧縮させ、上空に発射する。これに当たったら痛いじゃ済まなさそうな妖力量だけど、これを当てるつもりはない。遥か上空まで飛来した妖力弾は途中で動きを止め、激しい光と共に爆ぜた。そして、幾千の妖力弾となった弾幕がわたしの周囲に降り注ぐ。これを両手の十指で回し撃ちするのもいいかもしれないなぁ。けど、やり過ぎたら芸がないか。…やっぱり難しいな、魅せる弾幕って。

 


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