リグルちゃんはしっかりと救出し、また新しい服を創って渡そうとしたら、リグルちゃんとチルノちゃんが殴り合いを始めてしまった。オロオロしている大ちゃんを尻目に二人に向かって樹を複製。見事二人は樹に弾かれて地面を跳ねた。
「ほーら、喧嘩は止めなさーい」
「何すんだまどかー!」
「何するんだ幻香!」
「殴り合いなんて野蛮なことしないの。こういうときは――」
「「弾幕ごっこ!」」
「そう、だからこんなことしない。ね?」
二人の返事はなかったが、そのまま霧の湖の上へと飛んで行ってしまった。リグルちゃん、服濡れてるままなんだけど大丈夫かな…。とりあえず樹は回収しておく。
「あの、喧嘩を止めてくれてありがとうございます…」
「ふふ、気にしなくていいよ」
さて、夜にルーミアちゃんが来るかどうか聞いたら紅魔館に行こう。パチュリーに相談したいことがたくさんあるんだ。
「あ、そうだ。夜になったらルーミアちゃん来るかな?」
「よっぽどのことがなければ来ると思いますよ?今日の夜に遊ぼうって誘われましたし。あと、ミスティアさんも来るそうですよ」
「へえ、それはいいこと聞いた。じゃ、夜になったらまた来るからチルノちゃんとリグルちゃんにも伝えといて。ほら、二人が呼んでるよ?」
霧の湖の上で二人が何やら叫んでいるようだが、残念ながらよく聞こえない。しかし、審判として大ちゃんを呼んでいるということは何となく分かった。
「はい。それではまた会いましょう、まどかさん」
そう言うと大ちゃんは一瞬僅かな光を放ったかと思うと消えてしまった。何処にいるのかと思い、慌てて探してみると既に二人の近くにいた。もしかして、大ちゃんの能力って咲夜さんと同じ『時間を操る程度の能力』だったりするの…?
◆
門番をしている美鈴さんに挨拶をしてから紅魔館に入り、そのまま大図書館へと向かう。その道中で妖精メイドさんに「暗くなったら帰るから、その前に夕食が食べたい」と伝えておいた。何処で食べるかは言わなかったが、きっと大丈夫だろう。
到着してすぐにパチュリーの挨拶し、椅子に座ってから大きく伸びをする。
「いやー、スペルカード戦も大変ですよねー。あ、そうそう色々聞いてほしいことがあるんですよパチュリー」
「とりあえず紅茶でも飲む?」
「あ、いただきます」
うん、美味しい。
「さて、まずはスペルカードについてです」
「結構前にたくさんアイデアを出し合ったと思うけれど…?」
「それとは別です。ちょっと友達に綺麗なの作ったら?と言われたんですよ」
「そうねえ…、まずは弾の形を変えるとか?」
「そう言われてもわたし球体しか作ったことないんですけれど…」
「複製は様々な形になるんだからそのくらい出来ていいと思うけれど」
「じゃあちょっとやってみますねー」
星型とか出来るかな?と思って何度かやってみたが、なかなか難しい。角が非常に丸っこくなってしまった。どうせ出来るならキッチリ角ばってほしい。
「うーん…、すぐには出来なさそうですねえ」
「でしょうねえ。あとは色を変えるとか?貴女の弾幕って薄紫色ばっかりだし」
「色ですか…」
赤色出ないかなー、と思ったが出なかった。青色、黄色、緑色、白色、黒色――と様々な色を試したが出来ず、結局、紫色からはみ出した色は出来なかった。紫から少しでも離れようと思っても赤紫や青紫くらいしか出来ず、その赤紫も「赤と紫どっちに見える?」と聞いたら十人中九人が紫と答えそうなほど紫に近い。当然ながら青紫も同様だ。
「わたしには出来なさそうです…」
「ちょっと難しそうね。まあ、努力するしかないと思うわ」
「頑張りまーす」
「それと美しい弾幕というのも考えないといけないわね。シンメトリーなものが簡単だと思うけれど、自然的風景の再現や自己表現なんかもいいと思うわよ」
「シンメトリーって?」
「対称のことよ」
普段の弾幕って『幻』任せの乱雑弾幕だからなあ…。避けにくいんだろうけれどあんまり美しくないってことだよねー。『幻』から出る弾幕の画一化も考えた方がいいかも。
「スペルカードは家帰ったら考えてみます…」
「何にせよ、嵩張らないんだから多くて損はないと思うわよ。私は精霊魔法を使ったスペルカードを二十は持ってるから」
「あ、そうだそうだ。パチュリー、わたしって精霊魔法使えると思いますか?」
「思いつきで物を言うのはあまり感心しないわよ?」
「いやー、使えたら暖を取るのも簡単だなーって」
「それなら炎を出せばいいんじゃないの?妖力でも何でも使って」
「妖力使って炎出せないんですよねー、悔しいですよ本当に。だから、炎の出し方を知っている人に聞いて行こうかと思ったんです」
「まあ、もし本当に精霊魔法を使おうって考えているなら正直お勧めしないわ。まともに使えるようになるまでに時間がかかりすぎる」
「いえ、最悪蝋燭程度の炎を起せればあとはどうとでもなります」
連続で複製していけば最終的には大火事だ。ある程度増やした後で何か燃やせそうなものを創って火をつけてもいい。昔試したが、複製の炎は複製出来なくても、複製の炎で燃やしてついた炎は複製出来るのだ。何とも不思議な感じである。
「そうねえ…。最弱クラスの精霊くらいなら何とかなるかも…?けれど、精霊魔法は才能に左右されやすいところがあるし…。やってみないと分からないわねえ…」
「何とか簡単なものでいいからやってみたいんですが、今から出来ませんか!?」
「いきなり大声出さないで…。しょうがないわねえ…、とりあえずやってみましょうか。失敗したら酷い目に遭うんだけど…、それでもいいの?」
「多少の失敗は気にしませんよ」
「全身丸焼けになっても?」
「……………な、何とかなりますよ」
「はあ、忠告はしたわよ?復唱してみて『жечь』」
「ズェ…?すみません、なんて言ったんです…?」
パチュリーの指先から蝋燭のような小さな火が出ているのだが、その時に発した言葉が分からなかった。
「もう一度言うわよ?『жечь』」
「ズ、ズェイツィ…」
駄目だ、上手く発音出来ない…。
「…無理そうね」
「そもそもその言葉って何の意味があるんです?」
「精霊に『燃やす』って言ったのよ。いえ、言ったというよりお願いかしら?」
「もしかして、その言葉を言えないと駄目なんですか…?」
「いえ、一番簡単な方法を試しただけよ」
他の方法があるならもしかしたら出来るようになるかもしれない。そう期待したが、現実は甘かった。
「そもそも精霊との対話の才能があればこの言葉を使わなくても出来るのよ。ほら『僅かな炎を指先に』」
そう言うと、先程と同じような火が人差し指の先に点った。
「さらに簡単なことなら考えただけでも」
さらに隣の中指に火が点る。うん、無理。
「精霊魔法は諦めます…。わたし、そんな才能これっぽっちもなさそうですし…」
「そうね、今すぐには無理そう。何十年と訓練すれば出来るかも」
「余裕があればそれもいいかもしれませんねえ…。けれど今はすぐに炎が出せるようになりたいです…」
「それなら私よりも彼女の方がいいんじゃないかしら?」
「誰です…?」
「霧雨魔理沙」
霧雨さんは主に熱とか光を使う魔法を使っている。しかし、どういう方法で使っているのかさっぱり分からなかったし、訊こうと思っても魔法の森に住んでいると予想するくらいしか家の情報がない。だから訊こうにも訊けないのだ。
「あ、そうだ。霧雨さんがここの本勝手に借りてるらしいですよ」
「…知ってるわよ。それで、彼女は何て言っているの?」
「『私が死ぬまで借りるだけだ』」
「ハァ…、何とかしないといけないわね…」
軽く頭を抱えたパチュリーはもう冷めてしまったであろう紅茶を一気に飲み干し、話を戻した。
「彼女の魔法は基本的に媒体から魔法を使っているわ。良く使われているのはミニ八卦炉。あれ自体にも強大な魔力が込められているし、少量の魔力で膨大なエネルギーを作り出すことが出来る」
「へー、それは凄い…」
宝物って言うだけあって物凄く便利なものだったようだ。盗られたり壊れたりしたら致命的だろう。
「それと、様々な薬品を使っているわね。材料は知らないけれど、研究に研究を重ねて魔法に成り得るものを作っている。並大抵の努力じゃないわね」
「その薬品があれば私も?」
「それらしいのは出来るんじゃない?」
と、言っても「ください」と言ってくれるようなものじゃないだろうから、自分で同じように研究して見つけるしかなさそうだ。それも非常に時間がかかりそうである。
「魔法は諦めた方がいいでしょうか…」
「今すぐに、と思うなら火打石と木屑を準備すれば暖を取れるわよ」
「それはもう魔法じゃないですよ…」