東方幻影人   作:藍薔薇

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第362話

「禁弾『スターボウブレイク』ッ!」

「おっとぉ!あっはっはー!あっぶなぁーい!」

 

こいしとフランがスペルカード戦、ではなく弾幕遊戯で遊んでいるのを眺める。この二つに多少の違いはあれど、フランにとっては禁忌「レーヴァテイン」が使えない程度の差異だ。気にするほどのものではないだろう。

それにしても、さっきからチラチラと融け落ちそうなほどの熱視線をはたてさんから向けられている。たった一度しか、しかも人里のことを教えてもらっただけなのに、彼女に一体何があったというのだ…。

 

「…あの、まどかさん」

「どうかしましたか、大ちゃん?」

 

そのことを本人に訊くべきか、それとも訊かないべきか、はたまた記憶把握で無理矢理覗くか迷っていると、大ちゃんに遠慮がちな声で呼ばれた。

 

「今の内に、話しておきたいことがあるんです」

「話しておきたいこと…?」

「はい。…私達が知っていたことを、です」

 

それだけ言って口を閉ざし、目を逸らしてしまった。そうやって続きを言えずにいる大ちゃんに、わたしは何も言わずに自ら言ってくれるのを待つ。言いたくなければ、言わなくてもいい。言いたくなったら、言ってほしい。

跳ねる情報を入れた球体を手のひらの上に創り、そこで跳ね続ける球体を見ながら他の世界について考える。そういえば、以前さとりさんが天界と魔界が幻想郷の一部に存在することを言っていた。何処に入り口があるのか知らないけれど、少なくとも存在しないということはないだろう。問題は、どうやって見つけるかなんだよなぁ…。一回本気で空間把握して幻想郷全域を把握してやろうか。地上全域を把握したときは、緋々色金五つ使い尽くしたしたからなぁ…。金剛石どのくらい使えば出来るかなぁ?

そんなことを考えていると、意を決したらしい大ちゃんの決意に満ちた目と合う。跳ねる球体を回収していると、自分を落ち着かせるためか一回深呼吸をしてから言葉を発した。

 

「私達は、幻香さんが逃げ出したことを知っていました…」

「…ッ」

 

一瞬、息が詰まる。もしかしたら、と考えたことはあった。けれど、いざ言われると過去の自分を恥じたくなる。そんなことしても意味ないけど。

気持ちを落ち着かせ、確認と質問を大ちゃんにする。

 

「…一応訊きますが、それはあの異変から、ですよね?」

「はい。ルーミアちゃんが、まどかさんが紅魔館から跳び下りて何処かへ行ってしまったのを偶然見たんです。…そのことを、私に教えてくれました」

「…他に知っている人は?」

「ここに来ている皆さんです。私が同行する際に、理由として」

「…それが、貴女の責任なんだね」

「…はい。私が、私達が、皆に隠し続けた責任です…。知るべきでなかったことを知ってしまった責任です…」

 

…誰にもバレていなかったと思ったんだけどなぁ…。まさか、偶然とはいえ巡回を任せていたルーミアちゃんに見られていたなんて。詰めが甘かったなぁ、わたし。知られてしまったのは痛手だ。けれど、そのことをずっと秘密にしてくれたのは嬉しい限りだ。

そう考えていると、大ちゃんは顔を伏せていた。どうかしたのかと思っていると、僅かに震えた声色で呟くように言う。

 

「…まどかさん。秘密って重いですね…」

「そうですね。価値があればあるほど辛くて、日に日に圧し掛かってくる」

「まどかさんも、ですか?」

「そりゃあもう。色々詰め込まれてますからね」

 

人喰い妖怪として願いを貪り続けてきたこと。幻想郷を崩壊させようと思っていたこと。選択をせずに現状維持という名の先延ばしをし続けていたこと。思い付けと言われれば、いくらでも思い付く。程度の差はあれど、わたしには隠し事で一杯だ。

けれど、そんな重みに潰れている余裕がないのだ。そんなことをしていたら、生き残れない。それに、どれだけ隠しても気付いてしまう人がいる。読み切ってしまう人がいる。だったら、いちいち気にするのも馬鹿みたいに思えてきただけ。…と、まぁ、そんな風に誤魔化して重みを意識しないようにしているだけ。忘れるわけではなく、気にしないだけ。

 

「…やっぱり、まどかさんは強いです」

「そうですか?」

「けど、もっと私達に頼ってくれてもいいんですよ…?」

「もう十分頼りましたよ。これ以上になると過負荷でしょう?」

「過負荷でいいんです。そのときは、私が皆に頼ってもらいますから」

「…はは。次に頼ることがあれば、そのときは頼みますね」

 

次があるかどうか分からないけれど、もしあれば。

弾幕遊戯を見上げると、六人に分身したフランが苛烈な弾幕を放っている。あれ、六人に増えてるんだ。禁忌「フォーオブアカインド」は四人だったはずだけど、あれから成長してるんだなぁ…。あ、こいしがハード型の弾幕をばら撒いた。フランが僅かにこいしのほうへ引き寄せられているし、きっと本能「イドの解放」だろう。

 

「…地上の皆、どうですか?元気にしてますか?」

「ええ、してますよ。そうですね…。サニーちゃんが不思議な茸を見つけた、とはしゃいでいました。何でも、渦巻状に群生していたそうですよ?」

「…え、それって確か」

「はい。蛞蝓が蛇を溶かした結果でしょう。…幸い、とても美味しくて、毒には当たらなかったそうです」

「毒は食べると辛いですからね…」

 

吐き気もするし、頭痛もするし、手足が痺れるし、節々が痛くなるし、とにかく気持ち悪くなる。意図せず摂取してしまったときの辛さといったらもう、ねぇ…。

毒と言えば、ふとメディスンちゃんのことを思い出した。鈴蘭の花畑で今日も元気にしているだろうか…。それとも、何処かで誰かと意気投合でもしたかもしれないな。…まぁ、どうでもいいか。

弾幕遊戯は、こいしが続けて抑制「スーパーエゴ」を宣言していた。妖力がこいしを包み、外側に溜め込まれていたハート形の弾幕が再びこいしの元へ集まっていく。フランも少し大変そうだ。引力もそうだけど、背後から来る弾幕って避けにくいよね、うん。

 

「まどかさんは、地底での生活はどうですか?」

「概ね良好ですよ。やりたいことをやって、時折面倒事に巻き込まれて…。はい、楽しんでます」

「例えば、どんなことがありましたか?」

「んー、賭博で意図しない馬鹿勝ちをしてしまったこととかどうでしょう?賽子を振ったら四五六が出ちゃってね」

「えっと、それはよかったのでは…?」

「ははは、この後親にイカサマを疑われてちょっとした喧嘩に発展してねぇ。色々あってお金は返しましたよ」

 

まぁ、そうでなくても返金するのだけど。そこまでいらないし。

弾幕遊戯は終盤に差し掛かったようで、フランとこいしが最後の切札を宣言する。QED「495年の波紋」と「サブタレイニアンローズ」が二人から広がってゆく。…あぁ、綺麗だなぁ。魅せてくれるよ、本当に。わたしとは違う。わたしには人に見せるものなどないのだから。

 

「…どうしましたか?」

「…いえ、何でもないですよ。気にすることないです」

 

心配してくれた大ちゃんには悪いけれど、こんな自分にしか分からないような酷くつまらない羨望は、口にするようなものではない。欲しいんだよ、わたしにだってわたしの見た目が。けれど、それと同時にいらないとも思っている。ないならないで別に構わないのだから。

そう思っていたのに、大ちゃんはグイとわたしの顔に近付いて来た。その表情は、僅かに怒っている。…え、何で?

 

「そこですよ」

「…そこ?」

「些細なことでいいんです。…私達にも、支えさせてください」

「…はは。つまんないですよ?聞いても時間を無駄にするだけかも」

「いいじゃないですか、無駄な時間。必要な時間だけだなんて、それこそつまらないですよ」

「そうですね。それじゃ、話すとしましょうか。…実は――」

 


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