東方幻影人   作:藍薔薇

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第368話

「あっ、美味しい。…その、見た目はあれですが」

「カエル食べる大ちゃんが言ってもなー」

「えっ、それはっ、そのっ!」

「アハッ!冗談だって」

 

…ごめん、フラン。カエルを捕まえるのがチルノちゃんでも、それを食べることを促したのはわたしなんだよ。美味しかったのかお腹空いてたのか、かなりの数を食べてたけどね。

 

「イモリを黒焼きにするとちょっと特別な薬になるんだー!」

「あー、知ってる。惚れ薬だろ?」

「ちょっと詳しく教えて」

「竹の節を挟んだ両側に雌雄のイモリを一匹ずつ入れて竹ごと燃やすんだよ。で、残ったイモリの黒焼きを磨り潰して粉にしたものを振りかける。四、五百年くらい前に流行ってたかな。…幻想郷なら作ってる店もあるかもなぁ」

「ふむふむ。今度やってみよーっと!」

「何に使うんだよ…」

 

今は違うかもしれないけれど、さとりさんにかけるそうですよ。あれ、旧都に竹なんかあったっけ?…あぁ、地上に鬱蒼と生えてましたね。下手に切り落としてバレなきゃいいんだけど。

 

「…ちょっとうるさいなぁ」

「そうですねぇ。ま、しょうがないですよ」

 

食べかけの残り半分となったイモリを丸ごと口に入れたフランが愚痴る。確かに、一つ挟んだ向こう側はちょっとした騒ぎになっている。

案の定、わたしが蹴り飛ばした妖怪はすぐさま発見され、それに釣られるように二人の妖怪も発見された。その小道から出てきたわたし達の姿も見られているだろうし、もう少しすれば呼ばれてもおかしくはないだろう。…ま、それまでは旧都を歩いて回りましょうか。

そう思って足を出そうとしたら、突然わたしの目の前に一人の妖怪が滑り込んできた。…ん?何処かで見たような…。

 

「再戦っ!」

「あ、思い出した」

 

わたしに指先をビシッと向けながら声を張る妖怪は、いつだったかこいしと食べ歩きをしていた時に弾幕遊戯を仕掛けてきた妖怪じゃないか。わたしとしてはさっさとこの場を離れたいんだけど、弾幕遊戯を終えたときにまた戦いましょう、って言ったんだっけ。ならしょうがない。やりますか。

 

「すみません。弾幕遊戯のお誘いみたいです」

「おう。ちゃんと見とくから安心して行ってこい」

「ここで待ってますね」

「よろしくお願いしますね。こいし、勝手に何処か行かないでくださいね?」

「はーい!」

 

両手を上げて返事をするこいしの声を聞いてから、わたしは目の前の遊び相手を見遣る。あの時やってきた切札は二つ。高速移動しながら弾幕を放つ切札と、高密度の超低速弾幕を放つ切札。…まぁ、大丈夫でしょう。

 

「再戦なら、以前と同じ三でいいでしょう?」

「上等っ!この日のために私は強くなったんだっ!」

「なら、前より楽しませてくださいね?」

 

そう言いながら笑い、『幻』を展開させる。とりあえず、最速の直進弾用と追尾弾用をそれぞれ三十個ずつの計六十個。相手の実力を見て増やしたり減らしたり変えたりしよう。

 

「前と同じと思うな!瞬歩『疾風迅雷』!」

 

そう威勢良く言い放った妖怪はわたしの周囲を駆け回りながらわたしに向けて弾幕を放ってくる。確かに速い。以前よりも速くなった。けど、わたしの周りはそれよりもっと速い人ばっかりなんだ。

だから、その程度の速度に後れを取るようじゃあ駄目なんだよ。

 

「疾符『妖爪乱舞・瞬』」

 

その宣言と共に、わたしは両手の十指から妖力を噴出させる。そして、動き回る妖怪の姿を目で捉え、その背後を突き抜けるように二酸化ケイ素、つまりガラスの棒を創造し、わたしは思い切り弾かれた。その際に、左腕を横に伸ばしておく。

弾き出されたらすぐさまガラス棒を回収。あー、やっぱりたったこれだけの距離でも腕を伸ばして弾かれるとちょっと痛いなぁ…。ま、いいや。

 

「…え?」

「まず一つ」

 

被弾させたし。あちらからすれば、突然わたしがいなくなったと思ったら被弾していた、といった感じかな?けれど、そうやって足を止めて呆けてる暇はないよ?だって、まだわたしの切札は始まったばかりなのだから。

真横を真っ直ぐと伸びるガラス棒を創造。何かに押し出される感覚と共に、わたしは弾かれる。

 

「ッ!仰山『千客万来』!」

 

あ、まずい。さっきまでの切札を途中で切り上げ、突進してくるわたしに対して壁を作るように弾幕を張られる。別に被弾しても構わないけれど、わたしとしてはその弾幕によって真横に真っ直ぐと伸びているガラス棒が砕けるほうが問題だ。仕組みが割れるし、なにより破片が飛び散る。

そこまで考えたところで、即座にガラス棒を回収。そして、わたしは直角に弾かれるようガラス棒を創造する。けれど、普通ならそのまま真っ直ぐと弾き出されてしまう。なら、一瞬でも止まればいい。わたしが身に付けている服や靴などから過剰妖力を推進力として前方に噴出させ、逆推力として急減速。どうにか直角に弾かれることに成功した。

 

「…うぷ」

 

ガラス棒を回収し、地面を大きく転がって衝撃を逃がす。そして、ついでに距離を取りながら起き上がった。相手の様子を見ると、高密度で超低速の弾幕を放ち始めている。…あ、目の前にわたしがいないことに驚いてる。わたしならこっちで内臓グチャグチャになったような感覚を味わってますよ。…あー、気持ち悪い。

左手の妖力噴出を止めて軽く口元を押さえつつ、斜めに打ち上がるようにガラス棒を創造。頭上まで弾かれつつ、吐き気を無理矢理飲み込む。…おー、周りをキョロキョロ見渡しちゃってまぁ。ま、見上げないなら都合がいい。乱回転しながら急降下し、壁となっている超低速弾幕を引き裂きながら背中に爪を振り下ろす。

 

「二つ」

「ッ!?」

 

退路を妨害する弾幕を引き裂いて跳び退り、大きく距離を取る。…よし、もうこの切札は十分だろう。三十秒まだ経ってないけど、二度被弾させたなら次の切札にしたほうがいい。相手が戦法の切り替えに置いてかれているうちに、さっさと終わらせてしまおう。

 

「よお」

「あれ、萃香?」

 

そう考えて人差し指を伸ばそうとしたら、後ろから萃香に声を掛けられた。どうやら跳び退った先にちょうどいたらしい。というか、皆と合流してた。

 

「あとで話があるからな」

「分かりました」

 

ま、きっと先程の件だろう。思ったより早かったなぁ。目玉の唐揚げ食べれるかな?…いや、今はそれよりも目の前の相手に勝利するとしましょうか。

短い会話だったが、相手も気を取り直してしまっている。けれど、もうそんなことはどうでもいい。丸ごと薙ぎ払わせてもらおう。

 

「せめて一度でもっ!刹那『紫電一閃』!」

「模倣『ダブルスパーク』」

 

人差し指だけを伸ばした右手を開き、通路を丸ごと埋め尽くす妖力の砲撃を放つ。…さて、どう来るかな?

 

「シッ!」

 

やっぱり無傷で現れたか。通路を丸ごと埋め尽くす、と言ったが、マスタースパークの形状はほぼ円柱。両側の家々を壊さない程度にすれば、角のほうは何もない空洞になる。実際そうなった。だから、そこを一瞬で駆け抜けて今わたしの横からバチバチと音を立てる指先を向けている。

けれど、悪いがこの切札は模倣「ダブルスパーク」なんだよ。右手と並行させ、左手に溜めた妖力を既に浮かべていた。だから、それを遠慮なく解放させる。

 

「うぎゃーっ!」

 

断末魔を耳にしつつ、妖力の放出を収束させる。…あ、目の前の家いくつかブチ抜いちゃった。どうしよ。

その瓦礫の中で駄々こねるように暴れる妖怪の元へ歩み寄り、どうにか起き上がらせる。

 

「あのー、大丈夫ですか?」

「ぐわーっ!また負けたーっ!」

「あ、大丈夫そうですね」

 

起き上がらせた手を離し、悔しそうにしている妖怪に顔を近付けて微笑む。

 

「次はもう少し楽しませてくれると嬉しいな」

「…ちぃくしょぉーう!」

 

そう言いながら走り去っていく妖怪に手を振って見送ってから、わたしは萃香の待つ皆の場所へ歩いて行った。

 


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