東方幻影人   作:藍薔薇

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第37話

「また負けたー」

「そろそろ定跡を覚えたら…?」

 

わたしの軍隊である黒い駒達はほとんど盤上から消え去り、パチュリーが操る二人の白い歩兵は姫様に昇格し、塔やら僧正やら騎士やら姫様やらがわたしの黒き王様をいざ討たんと囲んでいる。黒き王様は動いても動かなくても討たれてしまう状態、つまりチェックメイトという状態になってしまった。つまり、わたしはチェスと呼ばれているボードゲームでまた負けてしまった。

それにしてもあの騎士、変な動き方してくるし、他の駒飛び越えられるとかどんな跳躍力なの…?塔すら飛び越える跳躍力、恐ろしい…。

 

「いやー、定跡とか覚えれるわけないじゃないですか。まだ十回もやってないんですよ?」

「人の、つまり私の打ち方を見て覚えるとか、そこら辺の本棚から探してみるとかしたらいいと思うわよ」

「本棚多すぎて何処に何があるんだか分かりませんよ…」

「そうね…、チェスについての本は何処に置いたか忘れちゃったわ。今度探しておくわね」

「わざわざありがとうございます」

 

どうにかして勝つ方法ないかなー…。その定跡を覚えるのが一番確実なんだろうけれど、何か簡単に出来そうなもの。…あ、そうだ。

 

「次は何でもありにしませんかー?」

「どういうこと?流石に何でもだとその場でポーンが全員クイーンにプロモーションとかになるわよ?もしかしたらキング討たれてもポーンがキングにプロモーション…なんてことしちゃうかも。まあ、キングにプロモーションは出来ないんだけど何でもありだし」

「んー、じゃあチェスのルールはほとんどそのままに能力使ってもいいってことで」

「どうかしらねえ…。何かしらの制限付けないとそれはちょっと」

「そうですか…、じゃあ回数制限でどうです?一ゲーム中に何回とか、何手打つ間に何回まで見たいなの――ん?おー、もうこんな時間ですか」

 

大図書館の扉が開く音がしたと思ったら、妖精メイドさんが料理を持ってきてくれたようだ。つまり、そろそろ暗くなってくるということ。

 

「これを食べたらわたし帰りますね。夜に友達と約束があるんですよ」

「ふぅん、何をするの?」

「スペルカード戦。いや、どちらかというと弾幕ごっこ?」

「どっちでもほとんど同じよ。頑張ってね」

「ええ、ちゃんと勝利をもぎ取りますよ。出来れば魔法でも使えるようになっておきたかったんですが…」

「それについては今は諦めなさい」

 

パチュリーの精霊魔法を使ったスペルカードは見た事ないけれど、きっととても美しいんだろうなあ…。今度見せてもらってもいいかもしれない。参考になりそうだし。

 

 

 

 

 

 

紅魔館を出たころには既に夜になっていた。急いで霧の湖へと向かい、星明りを頼りにチルノちゃん達を探す。

 

「え…?」

 

突然世界が暗転した。どういう事だろう、と考えていたら突然背中を押された感覚がし、危うく湖に落ちそうになった…と思う。

 

「えへー、驚いたー?」

「その声はルーミアさん?」

「そうだよー」

 

未だに視界は闇の中だが、わたしの背中に思いっきり飛び付いたようで、服越しに体温が伝わってくる。しかし、どうして真っ暗なんだろう…?

あ、そうだ。霊夢さんがルーミアちゃんのことを「闇の妖怪」と言っていたではないか。つまり、これは彼女の能力なのだろう。『視界を失わせる程度の能力』なのか『真っ暗にする程度の能力』なのかは分からないが、そんな感じだと思う。

 

「すみませんが闇の中だと流石に何処にチルノちゃん達がいるのか分からないので止めていただきたいんですけど…」

「んー?おー、そうかそうかー」

 

そう言うと視界が晴れた。後ろを振り向くと、やはりルーミアさんがわたしの背中に思い切り抱き着くようにしていた。ちょっと動きにくいが、問題ない。

 

「とりあえず一緒にチルノちゃんを探しましょう」

「んー?チルノならそこにいるぞー?」

 

そう言って指差した方向には、寝そべって星を眺めているチルノちゃん、大ちゃん、リグルちゃん、ミスティアさんがいた。待たせてしまっている身なので、出来るだけ急いでそこへ飛んだ。

 

「すみません、遅れました」

「こんばんはー、みんなー」

「こんばんは、まどかさん、ルーミアちゃん。気にしないでいいですよ?」

「ん?やっと来たのか、遅いぞ」

「ルーミアも幻香さんもこんばんはー」

 

チルノちゃんの返事がない、と思って見てみたら、既に眠っていた。遊ぶんじゃなかったのか…?そう考えて起こそうと思ったら、大ちゃんに止められた。

 

「チルノちゃん、リグルちゃんと暗くなるまでずーっと弾幕ごっこやり続けて疲れちゃってるんだと思いますから、このまま寝かせてあげてください」

「いいの?遊べなかったー、って後で言われない?」

「チルノちゃんは夜遊ぼうって言っても途中で眠っちゃうことはよくあるんで大丈夫ですよ」

「そう?大ちゃんがそう言うならそっとしておこうかな」

 

しかし、このままというのも悪いので五人の服を複製し、隙間が出来ないように上手く体に掛けておいた。これで寒くないだろう。…まあ、氷の妖精なので寒くても問題ないかもしれないが。

 

「しかし、リグルちゃんは起きてるんですね。疲れてないですか?」

「いや、結構ヘトヘト…。今日はちょっと休もうかなって思ってる」

「そう?お昼は悪かったですね。乾してた服はもう乾いたみたいでよかったですが、わたしが渡した服を出来れば返してほしいんですがいいですか?」

「ああ、それならちょっと待ってて」

 

そう言うとリグルちゃんはわたしが創った物干し場へ飛んで行った。

肩を叩かれたので振り返ってみると、ミスティアさんが軽く頬を膨らませて言った。

 

「リグルに聞いたよー?二人で弾幕ごっこするんだって?」

「ええ、ちょっと準備してからやろうと思ってるんです」

「いいなー、私もやりたいなー」

「そこまで言うなら二人くらいなら一緒に相手しますよ?」

「お?本当?よし、やるよルーミア!」

「頑張るぞー、おー!」

 

光の三妖精相手に一対三でもやれたのだ。ルーミアちゃんとミスティアさんの二人相手でも出来る、と思いたい。

リグルちゃんが持ってきてくれた服を回収し、体を大きく伸ばして準備運動をしながら、これから始まるスペルカード戦のことを考える。ミスティアさんの能力については全く知らないが、ルーミアちゃんの能力は、わたしの天敵とも言える能力だ。わたしの能力は『視界に収める』か『触れている』ことが必要だが、その視界が真っ暗になればまず複製出来ない。何とかして何かに触れれば出来るだろうけれど、何処にあるか分からないんじゃ移動もかなり危険だ。

それに一対二ということは、単純に考えて弾幕の量が二倍。光の三妖精とやったときは一度にまとめて倒したから簡単だったのだ。わたしに避けきれるだろうか…。

 

「大ちゃん、ルールどうするの?」

「まどかさんは被弾三回スペルカード三枚でいいですか?」

「それが普通でしょう?わたしの場合、多くなっても正直使えるスペルカードが少ないからそれで問題ないよ」

「分かりました。ルーミアちゃんとミスティアちゃんは二人合わせて被弾三回スペルカード三枚でいいかな?」

「つまりどーいうことなんだー?」

「例えば、私が二回被弾して次にルーミアが被弾したら負けになっちゃうってことよ。同じようにルーミアちゃんが二枚スペルカードを使ったら私はスペルカードを一枚しか使えなくなっちゃう。お互いにスペルカードを使いたいときに使ってもいいけれど、お互いに使ってもいい枚数を決めておくのも――」

「そーなのかー。分かったからもういいやー」

「まだ話の途中!…本当に分かったの?」

「大丈夫ー」

「二人はそれでいいですか?」

「いいよー」

「ちょっと不安だなあ…。まあ、大丈夫」

 

さて、ルールは決まった。二人を促して霧の湖の上へ行く。

 

「二人ともいいですか?」

「大丈夫だよー?」

「うん、大丈夫。…大丈夫」

「じゃあ始めますね。ルーミアちゃん、ミスティアちゃんチーム対まどかさん。よーい……、始めっ!」

 

何で二回言ったんだろう…?

 


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