東方幻影人   作:藍薔薇

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第371話

「幻香ー、それちょうだーい。あーん」

「はい、どうぞ」

 

賭博場で無駄に得た金を消費するためにも大量に買った目玉の唐揚げとその他各内臓の唐揚げ。片手で持つには若干不安定な小さな山から一番上の一つを摘まみ、こちらに口を開けているこいしの口に入れてあげる。唐揚げを指先ごと口に含まれたけれど、まぁ気にしなくていいだろう。

視線を周囲から感じ、周りを見渡す。いくつかの目を合い、それら全てに微笑んでおく。…あれ、何で目を逸らすの?一人くらい睨み返してくれてもいいのに。さらに言えば理由なしに殴ってきても構わないのに。…ま、いいや。

 

「…これは、なんと言うか…」

「大ちゃん気にする感じ?私は気にならないけど」

「目玉とか普通捨てるだろ…。すぐ腐るし」

「あー、あいつらの目玉くり抜いて揚げてくれないかしら」

 

そのついでに後ろを振り向いて会話を耳にしてみると、どうやらあまりお気に召していないようだ。見た目はあれだけど美味しいのに。…あと、はたてさん。流石に天狗の目玉は食べたくないです。

他に何か面白い場所はあったかなぁ、と当てもなしに歩きながらふと小さな疑問が浮かぶ。

 

「そういえば、妹紅」

「お、食えば意外と――ん、どうした?」

「実は魔界への侵入経路とか知っていませんか?」

「魔界の?…悪いが名前しか知らんよ。興味もなかったしな」

 

まぁ、知らないよね。そこまで期待はしてなかったよ。けれど、流石にそんな予想も出来ていたことだけを訊くつもりはない。

 

「それじゃあ、その名前は何処で?」

「あー…。私さ、昔は専門家だっただろ?妖怪討伐の。そのときに屠った奴の中には自分のことを自慢げに語るのがいてなぁ、魔界から侵略しに来た魔族だ、みたいなこと言ってきた奴がその中にいたんだよ。だから、魔界の名前だけは知ってた」

「ちなみに、その魔族ってどんな相手だった?強い?」

「どんな相手、ねぇ…。魔術で無茶苦茶する奴らだった。炎撒き散らすわ、竜巻引き起こすわ、激流撃ち出すわ、雷落とすわ、傷すぐ治すわでやりたい放題でなぁ…。正直、かなりやり難い相手だな」

 

ふむ、魔族は魔法使いの類なのかな。わたしの頭の中で魔族がパチュリーに近しいものになっていくのを感じる。魔法使いならアリスさんや魔理沙さんでもいいけど、彼女が一番魔術が秀でてると思う。…そういえば、あの書籍に載ってた聖白蓮も魔族の一員に入れるのかなぁ?いや、勝手に封印されてただけみたいだし、一応違うのかな?

フランは別の世界について一緒に調べてくれたから知らないのはほぼ確定。なので、残った大ちゃんとはたてさんにも一応訊いてみることにした。

 

「あ、大ちゃんは魔界のこと、何か知ってます?」

「すみません。私も名前しか知らないんです…」

「ふむ…。はたてさんは?」

「何にも知らないの…。幻香、ごめんね?何にも役に立てなくて」

 

知らないならしょうがない。なら、わたしが自分で探すだけだ。あれら書籍曰く、歩いてると気付けば辿り着いたらしいし、聖白蓮はこちらから魔界へ封印されている。つまり、どうにかすることで一時的に魔界と繋がっていたのだろう。なら、どうにかすればわたしも魔界へと繋がることが可能なはずだ。そうして魔界中に妖力を拡げて空間把握を行い、記憶含めた情報を片っ端から把握すれば、魔界に繋がる穴を空ける具体的な手段を知ることが出来るだろう。

あとは、どうやって妖力を通すかだ。どんなにふざけた暴論でも、理路整然とした理論でも構わない。妖力さえ流せれば、後はどうとでも出来る。そもそも、魔界とはどうやれば見つけられる?魔界とは何処にある?次元軸の数を増やせばどうにかなるか?それとも、全く異なる何かが必要となるのか?…分からない。分からない。分からない。…けれど、やってみるしかないよね。

とりあえず、未だに五次元までしか把握出来ていないわたしのショボい認識を無理矢理増やすことから始めようか。そうだなぁ…、目指すは百次元くらい?魔界が別世界といえど、幻想郷の中にあるならこの世界の一部に括れるだろう。繋がることが出来るのだから。百次元もあれば、この世界に紛れた魔界くらい見つかるでしょう。きっと。そのためには、とりあえず妖力を溜めないといけないから、金剛石の複製を創らなければ。

 

「よし、帰ったら気合い入れて創るか」

「何を?」

「金剛石」

 

問題は、わたし自身のそもそもの回復速度が遅いことだが、妖力の自然回復は頑張れば少し早くなる。代わりに体力持ってかれてかなり疲れるけど。けれど、まぁ、体力だけで加速出来るなら楽なほうだ。

出来れば緋々色金のほうがいいけれど、魔法陣を複製して誤作動してしまうのは嫌だ。無駄に妖力を消費したくない。

 

「幻香、あれだけ創ってたのにまだ創るの?」

「あんなんじゃまだまだ足りないですよ。それに、最近使っちゃいましたし」

 

さとりさんのペットがわたしが創った極細フェムトファイバーを使って服を縫ってくれている。どうやら簡単には完成出来ないらしく、まだ時間が掛かるようだ。それに関しては、気長に待たせてもらうとしよう。

首に掛けているネックレスにくっ付いた金剛石を眺めていると、はたてさんが二つ折りの機械を必死になって弄っているのが目に付いた。一体何を、と思ったところではたてさんが二つ折りの機械から目を離さずにわたしに言った。

 

「ねぇ、幻香。魔界だけだと、流石に範囲広過ぎて撮れないの。…何か、もう少し狭めることが出来るものってないかしら?」

「狭める…?」

「何でもいいの。そこにある有名な物とか、そこにいる人物の名前とか、思い付くなら言って」

「聖白蓮」

 

それしかない。けれど、名前だけで念写が出来るものなのだろうか?少なくとも、わたしは容姿も声色も何もかも知らない。しかし、はたてさんは必死になってくれている。両目を強く閉じ、何かを念じているようにいること数十秒。

 

「…んっ、どうかしら…。…ごめん、駄目ね。聖何とかなんて興味湧かないからかしら…」

 

どうやら無理だったらしい。わたしとしては、むしろ出来るほうが驚きなんだけども。…ただ、虚ろな目で絶望的表情を浮かべながらブツブツ呟くのは止めてほしい。上手くいかなかったことは気にしてないから。…あ、大ちゃんが頑張って慰めてる。なら大丈夫でしょう。

 

「…今の幻想郷に、その魔族はいるのかなぁ?いれば楽なのに」

「さぁな。いるとすれば、キッチリ素性を隠してるだろうよ」

「でしょうねぇ…。怪しい人を片っ端から調べてみようかなぁ…」

「やってみよっか?」

「いえ、いいです」

 

そんな風に何でもかんでもほいほいこいしに頼むつもりはない。いくら気配が希薄だからって、記憶に残らないほど無意識だからって、存在が露呈しないとは言い切れない。露呈して困るかと訊かれると微妙だが、変わってしまった前からこいしのことを知っていそうな八雲紫とかに伝わると面倒になりそうだ。

それに、そもそもの問題として、その魔界がわたしを受け入れてくれるかすら怪しいのだ。それ以外にあるかもしれない別世界を探すつもりではあるけれど、それら全てが駄目だったら、わたしはどうすればいいだろうか…。決意に黒いものがジワリと侵食してくるのを感じる。いや、今はそんなもしもを考えるのは止めておこう。さとりさんには悪いが、そのときは後悔してから別の手段を考えよう。

 

「ままならないなぁ、世界ってのは」

 

囁くように漏れた言葉は、旧都の雑踏の中に紛れて消えた。

わたしの居場所。いることを許され、出ることを許され、帰ることを許される。そんな誰もが当たり前に持っていて、その恩恵に気付かれないもの。わたしにも、見つかるといいなぁ。

 


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