東方幻影人   作:藍薔薇

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第38話

『幻』展開。相手の一人は視界を塞いでくるので追尾弾と阻害弾は使い物にならない。なので、計二十四個にしておく。二人相手だし、このくらいでいいよね?

って、あれ…?二人は何処に行ったんだろう?いつの間にか消えてしまったようだ。きっと視覚外に――、

 

「――っとぉっ!?」

 

突然目の前に赤い妖力弾が現れた。あ、危なぁ…。一体どういうこと…?いや、今はそれよりも二人が消えたことの方が重要だ。対象が見当たらないと今の弾幕じゃ意味をなさなくなる。左右を確認するが、二人は見当たらない。後ろを振り向いてもいなかった。なら、上かと思ったが、墨でも流し込んだような真っ黒な空を背景に色とりどりの妖力弾が僅かに見えるだけ…!?

待て、何か明らかにおかしい。なんで真っ黒な空になっているんだ?さっきまであれ程星が見えていたじゃないか。

一応下を見ても二人は見当たらず、普段なら見えるはずの水面はなくなっており、闇が広がっていた。左脚に向かって急に現れた妖力弾を折り曲げて回避しつつ考える。

突然現れる妖力弾、真っ暗な空、消失する水面…。わたしがおかしくなったのか、ここら一体がおかしくなったのか…。一体何が起こっているんだ?

とりあえず二人の位置が分からないので『幻』を変更。直進弾用の最速、高速、低速、超低速を各六個ずつに増やし、炸裂弾用を六個に削減。それぞれ一個ずつを前後左右上下に放たれるように位置を固定させる。

 

「ルーミアちゃーん、ミスティアさーん」

「んー、どうしたー?」

「急になぁに、幻香さん?」

 

声は始まったときに二人がいた方向から聞こえてきた。しかし、どうして見えないんだろう?あ、そうか。ルーミアちゃんの能力か。わたしの視界を程よく暗くしているんだろう。

まあ、分からないことは聞いておこうかな。間違っていたら後で恥ずかしいし。

 

「何だか――おっと、二人が見当たらないんですがー」

「ふふーん、どうだい、私の力は!」

 

避けながら聞いてみると、ミスティアさんの自慢げな声が響いてきた。あれ、ルーミアちゃんの能力じゃない?

まあいいや。とりあえず聞こえてきた方向に一発狙撃。

 

「おっとぉ!いきなり攻撃とは酷いことするねえ!」

「見えないから声のする方にやるしかないんですよ。まあ、見当違いな方向じゃなさそうでよかったです」

「声しか頼りにしてないってことは結構効いてるみたいだねえ!」

「どういうことです?」

「私は人を鳥目に出来るんだよ!幻香はバッチリ見えなくなるみたいでよかったよ!」

 

鳥目。たしか、夜目が利かなくなることだっけ?

 

「よくないです。これって治るんですか?」

「治るから大丈夫!」

 

どうやら一時的なものらしいので一安心。しかし、このままだと非常に動き辛い。いつもみたいに避けられそうになかったら離れるようにすると、見えていなかった弾幕に当たってしまいそうで怖いし、二人の方向を見失ってしまいそうでもある。

それに、ルーミアちゃんの能力もミスティアさんの能力もわたしの視界を制限できる能力のようなので、わたしの能力がちゃんと機能するとは思えない。

…決めた。わたしはこの勝負、避けることに神経を集中させてもらおう。相手のスペルカードを全て避けきることでも勝利出来るのだから。

 

「けどチルノは治らなかったみたいだぞー?」

「それも大丈夫!私の八目鰻を食べれば鳥目も解消!チルノももうちゃんと見えるようになってるし」

「それってちょっとズルくないですか…?」

 

ミスティアさんの能力で鳥目にして、近くにあるだろう八目鰻の屋台で買ってもらって鳥目を解消。完全に自作自演である。

 

「気にしない気にしない!よーし、じゃあ最初のスペルカードは私から!夜盲『夜雀の歌』!」

 

そう宣言した途端、さらに視界が制限されたように感じる。腕を思い切り伸ばしたら、指先が僅かに見え辛くなるほどだ。と、考えていたら目の前にかなり大きめの妖力弾が出現し、その場で停止している。移動制限系のスペルカードなのかな…?

 

「うわっ!?」

 

突然その妖力弾が炸裂し、赤く鋭い弾幕に変貌した。咄嗟に後ろへ下がってしまったが、後ろに弾幕がなくてホッとした。

 

「うぅ、避け辛い…!」

「だろうね!いやー、最近スペルカード戦とかやってなかったから勝ちたいんだよねー!ルーミアも結構強いんだけどちょっと抜けてるとこが――」

「私も私もー!夜符『ミッドナイトバード』!」

「って!話してる途中!しかも私のスペルカード中だし!」

「大ちゃん問題ないって顔してるし大丈夫大丈夫ー」

 

わたしの狭苦しい視界には、炸裂する妖力弾とかなり弾速のある緑色の弾幕が映る。半分くらい勘で避けるが、普段とは違って弾幕の隙間を縫うように避けなければならない。頬を掠めていく妖力弾が非常に怖い。今、鏡を見たらかなりひきつった顔をしているか、ただでさえ白い肌がさらに蒼白とした顔が見れるだろう。

 

「ッ!鏡符『幽体離脱・滅』!」

 

そのまま掠めていくだろうと思った妖力弾が僅かに曲がり、被弾しかけたので咄嗟にスペルカードを使用。『妖力弾とその複製同士がぶつかり合う』という意思のもとで行う、鏡符「幽体離脱・静」の派生スペルカード。

結果として、わたしの視界に映る弾幕は全て消え去ったが、また新しい弾幕がやってきた。やっぱり複製出来る範囲が狭い。これじゃ消してもすぐに新しいのがやってきて使い物にならない、というほどでもないが使い勝手が悪い。

 

「あれ?こんな小規模なスペルカードでしたっけ…?」

「あー、わたしの能力はっと、基本的に視界に映らない、と使えないんです、よっと」

 

戸惑いの色を含んだ大ちゃんの言葉に軽く返事をしつつ、弾幕を何とか避ける。

一度どころか何度も鏡符「幽体離脱」を見ている大ちゃんから見ると、これほどまでに地味な結果は違和感があったようだ。わたしだってそうだとは思っていたが、実際に見せられると精神的に来るものがある。避けれなくても消せばいい、と考えていたのだがこの勝負では使えないのだから。

 

「ありゃ、時間切れ」

 

炸裂する妖力弾が消え、視界が元に戻った。未だ鳥目であるが、残り僅かのルーミアちゃんのスペルカードが避けやすくなった。どうよら、左右に大きく広がった弾幕のようなので、上下に移動することで避けるのは楽になりそうだ。しかし、そこを埋めるようにミスティアさんが弾幕を張ってきたので、結局心臓に悪い弾幕の隙間避けをすることになってしまった。結果は被弾せずに時間切れ。スペルカード一枚で済んだのはかなり運が良かっただろう。

互いに被弾はないが、スペルカードの残りに差がある。わたしは二枚で、相手は一枚。ならば、一枚派手に使っちゃいましょう。なので、右手に妖力を溜め始める。

 

「いやー、もしかしてっ、避けれないんじゃないか、っとヒヤヒヤしました、よっと」

「残念だなー、悔しいなー」

「そうだねえ、顔凄いことになってたよ?」

「え?そこまでですか…?」

 

会話しながら弾幕を避けつつ右手に妖力を溜める。三つも同時に行うなんて我ながら辛いことをしている…。しかし、会話することで相手の位置が何となくだが分かるので、必要なことなのだ。

 

「ミスティアー、幻香の手がさっきから光ってて気になるー」

「うん?そう言われれば光ってるような?」

「派手なのを撃つっ、ために必要なんですよっ」

「そーかー、そーかー、そーなのかー」

「へえ、じゃあ見せてもらおうか!」

「見たいならっ、それなりの実力をっと、見せてみなさいな!」

 

遠回しに「スペルカード使ってみろ」と言ってみたが、どうだろうか?挑発に乗って使ってくるか、挑発に乗らずそのままでいるのか。…もしかすると挑発に気付かずに続いちゃうなんてこともあり得る?

よし、十分溜まったかな。あとは霧散しないように注意しておくだけ。

 

「ぐぬぬ…、どうしよ」

「どうしたミスティアー?」

「勝ちたいんだけどこのままだとジリ貧だなって」

「そうだねえ、幻香は弾幕を危なっかしいけどちゃんと避けられてるし、スペルカードも余裕ある。もういっそのこと華々しく散っちゃうかー?」

「…いや、華々しく勝利する!次のスペルカードで三回被弾させればいい!」

「おー、ミスティア気合十分だねー!」

「いくよっ!夜雀『真夜中のコーラスマスター』!」

 

瞬間、世界が暗転した。突然の変化に呆然としてしまったが、頭を振って意識を戻す。ルーミアちゃんの能力を使われたわけじゃなさそうだから、鳥目が重症化したのだろう。何処まで見えなくなっているか確認するために周囲を見渡すが、わたしの周りを浮遊しているはずの『幻』が一切見えない。腕を思い切り伸ばしてみると、肘のあたりからもう見えなくなってしまっている。これって相当ヤバいんじゃ…!

しかも、呆然としてしまったからか右手に溜めていたはずの妖力がなくなっている。ああ、さっき注意しておくって自分で言ったのに。もう一度溜めないと…!

そんなことを考えていたら、緑色の妖力弾が目と鼻の先に現れた。条件反射で真っ先に後ろに飛ぶ。って、これじゃ駄目なんだって!…まあ、被弾しなかったからいいや。

さらに、わたしを囲むように大きめの妖力弾が出現。これも炸裂するかもしれないので遠くに避けたいのだが、素早く移動すれば見えていなかった弾幕に被弾してしまう。ソロリソロリと移動したら、また緑色の弾幕が現れた。え、これ避けれな――、

 

「あうっ!」

「お!被弾した!これならいける!」

「頑張れミスティアー!」

「って!ルーミアも手伝う!ほら弾幕放って放って!」

 

残り時間二十五秒くらいか…?このままだと負けてしまいそうだ…。こうなったらあと一発の被弾はしょうがないと割り切って右手に妖力を溜める。避けれないなら消せばいい。鏡符「幽体離脱」が使えなくても問題ない方法で。

 

「まっさかこんな、隠し玉が、っあると、は、思わなかったですよ…」

 

再び現れた緑色の弾幕を咄嗟に右側に半身ずらすことで回避。僅かに視界端に映る弾幕を見ると、どうやら緑色の弾幕は妖力弾五つが連なっている直進弾のようで、これだけならちょっと横にずれれば避けることが出来そうだが、その後に来る阻害弾が厄介だ。炸裂しないだけよかったと思ったが、それでも避けることが困難になることには変わりない。

あと八秒くらい欲しい…。そうすれば放てるはずだから。

 

「おりゃりゃー!あははー!楽しいねー!」

 

突然映った黄色い妖力弾。さっきまでは見えなかった弾幕。おそらくルーミアちゃんの弾幕だろうけれど、首を捻って回避、したと思ったら左足に痛みが走る。

 

「痛っ!」

「流石ルーミア!」

「足元がお留守だよー?」

「足元が見えないんですよ!」

 

阻害弾が現れたので、その隙間を通り抜けると次の緑色の弾幕。少し横にずれて回避、と思ったら追い打ちを仕掛けるように黄色い弾幕が。緑色と黄色では、黄色のほうが遅かったので、黄色の妖力弾の弾速とほぼ同じ速度で後退し、緑色の弾幕が五つ通り過ぎたことを確認してから左へ僅かにずれる。

…よし、溜まった。残り約十七秒。わたしのマスタースパークは大体十秒間放ち続けることが出来るが、今回は無理してでも時間切れまで放ち続ける!

 

「模倣!『マスタースパーク』!」

 

右手を突き出し、その手から放たれる膨大な妖力はきっとミスティアさんやルーミアちゃんの放つ弾幕を飲み込んでくれる。出来れば被弾してくれると助かるんだけど、高望みはしない。

 

「え――きゃあ!」

「うわっと!ル、ルーミア!?大丈夫!?」

 

どうやらルーミアちゃんが被弾したようだ。湖に何かが落ちた音が聞こえたので、きっと被弾した後墜落してしまったのだろう。

 

「うぅうー、大丈夫じゃなーい…」

「よくも!ルーミアの仇!――嘘ぉ!全部飲み込まれる!」

「声は大体こっちからかな…?」

 

声の聞こえた方向に手をゆっくり動かす。放っている右腕が鉛にでもなったかのように重いので、素早く動かせないからしょうがない。

 

「うわ!こっち来てる!」

「うひゃー!逃げろー!」

 

マスタースパークを放って十秒経過。ここからが正念場だ。妖力が底を突くなんてことがない事を心の底から祈る。

 

「くっ、大きく旋回して横から攻撃すれば!」

「駄目だよー!幻香の弾幕、ほぼ最初から全体を覆ってる!」

「それでもやるしかないの!スペルカード放ちながらだと動き辛いけどなんとかなる!」

 

まずい、このまま横から攻撃されたら被弾しちゃっておしまいだ。『幻』展開。残りの五個を直進弾の最速を三個と高速二個にして追加。声のした方へ放つ。

 

「なんでこっちにいるのバレてるの!?」

「さっき『声は大体こっちから』って言ってたー!」

「ええ!?音で判断してるの!?」

 

あと三秒、耐えきれば勝利だ。頭が朦朧とするけれどまだ何とかなるはず…!

 

「うわまずい!もう使い切っちゃう!」

「三回被弾は出来なさそうだねー」

「あーもう!悔しいー!」

 

三秒経過。お互いにスペルカード時間切れ。しかし、わたしはまだ一枚残っている。つまり、

 

「そこまで!この勝負、スペルカード全使用でまどかさんの勝ちです!」

 

おおう、体が重い…。ちょっと妖力使い過ぎたかも…。

 


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