東方幻影人   作:藍薔薇

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第39話

重い体を引きずるように移動し、岸に着地する。気を抜くと倒れてしまいそうだが、倒れるなら家に帰ってからにしたい。

 

「だー!負けたー!」

「いやー、幻香って強いんだねー」

「アハハ…、これでもかなり無茶してますから。今度やるときはもうちょっと気楽に遊びたいですね…」

 

地団太踏んでるミスティアさんにそう言うと「勝ちたかったから仕方ない」と言われてしまった。わたしだって勝ちたいと思うことで、段々エスカレートしていっちゃったからしょうがないね。

それにしても、視界を塞がれると能力が使い物にならなくなってしまうことが実感出来たこの勝負は無駄ではなかったと思う。この弱点の補強はまた後で考えるとして、追尾弾が使えないのも辛かったと思う。それに関しては妹紅さんが「気配で場所と人数が分かる」って言っていたから、それを習うことが出来れば何とかなると思うかな。

 

「大丈夫ですか?顔色がかなり悪いようですが…」

「ちょっと妖力使いすぎちゃった…。今すぐにでも家に帰って寝ちゃいたいかな…」

「家まで送りましょうか?」

「じゃあ肩貸してくれる?」

 

そう言ってみたら、大ちゃんはすぐにわたしの横に立ってくれた。「どうぞ」と言ってくれたので、その言葉に甘えて肩に腕をかける。

 

「ミスティアちゃん、ルーミアちゃん、リグルちゃん。悪いけれど私はちょっと抜けるね?」

「今度やるときは負けないからね!勝ち逃げは許さないんだから!」

「元気でなー!幻香ー!」

「うん、分かった。チルノはちゃんと見ておくから」

「ごめんね、じゃあまた今度」

 

 

 

 

 

 

家に付くまで倒れてはいけないと思い、何か会話でもしようと考えた。

 

「大ちゃん、家に付くまで何か話してたいんだ」

「あ、はい。えーっと、まどかさんは鳥目はもう大丈夫ですか?」

「え…?あー、そうだなー…。大分治ってきたかな。一応今度ミスティアさんの屋台に行っておこうかな」

 

星明りが僅かに見える程度には治った。しかし、完全とは言えない。八目鰻買うお金って残ってたっけ?確か一銭六銭が箪笥の隅に入ってたような…。

 

「そうですね、今度屋台を開く場所を聞いておきましょうか?」

「そうしてくれると非常に助かるよ」

「あ、そういえばまどかさん、今日使ったスペルカードの鏡符『幽体離脱・滅』は初めて使いましたね。どういうものですか?」

「あれはね、鏡符『幽体離脱・静』をちょっとだけ改良した派生スペルカードだよ。視界に映った弾幕全部を消すためのスペルカード」

「…?それって鏡符『幽体離脱・静』と特に変わったように思えないんですが」

「そうかもね。だけど、もう一つに派生したから、差別化するために名前を変えたの。それに鏡符『幽体離脱・静』は全部消せるわけでもなかったし」

 

大体八割は消せていた鏡符「幽体離脱・静」は、十割消せそうな鏡符「幽体離脱・滅」が出来たときに「もう使うことはないだろう」と考えている。完全劣化版と言えるからね。

 

「そのもう一つってどんなスペルカードなんですか?」

「鏡符『幽体離脱・妨』ってやつ」

「妨?邪魔でもするんですか?」

「そうだよ。具体的に言うと、視界に映る弾幕を静止弾としてその場に留めておくスペルカード。移動の妨害にもなるだろうし、通常弾幕くらいなら打ち消してくれると思う。」

「防御寄りのスペルカードですね」

「まあ、その静止弾の元の弾幕はそのままだから避けないといけないんだけどね。それに、防御寄りのスペルカードならもう一枚あるし」

「それはどういう?」

「これも『幽体離脱』の内の一つなんだけどね。鏡符『幽体離脱・纏』って言うのを考えた」

「纏ですか」

「名前の通り、視界に映る弾幕を身に纏うスペルカード。自分の周りをグルグル回り続けてもらおうかなって思ってる」

「あまり使い勝手がいいとは思えないんですが…」

「まあね、わたしもそう思う。けれど、もしかしたら使う時が来るかもしれないからね。考えておくのはいいと思うんだ」

 

自分の周りを漂う複製。当たってしまいそうな相手の弾幕を打ち消してくれるだろうから、突撃してもいいかもしれない。まあ、避けるよりも消したほうが楽だから使い道を探すのに苦労しそうだ。鏡符「幽体離脱・乱」「幽体離脱・静」と一緒に使われないスペルカード一覧に入ってしまうかもしれない。

 

「そういえば大ちゃんって今朝、時間止めてたよね?」

「え?時間を?いやいや何を言ってるんですか幻香さん!私にそんな大それた能力があるわけないじゃないですか!」

「あれ?じゃああの瞬間移動は?」

「ただの座標移動ですよ。あの場所に行こうって考えると行けるんです。まあ、目に映っているところだけですけれど」

「へえー、それってわたしも一緒に移動出来るの?そうすれば移動が楽になりそうなんだけど」

「残念ですが、誰かと一緒に移動出来たことはないですね…。服とかコップみたいな軽い物くらいなら持てば出来るんですが…」

 

残念。もし出来たら今遠くに微かに見える魔法の森に移動出来るのに。

 

「そうだ。大ちゃんスペルカード一枚だけって言ってたよね?」

「え?はい、そうですね。とても綺麗なものを出来たと思います」

「低速の弾幕をちょっと放ってすぐに相手の周り、前でも後ろでも上でも下でも横でもいいから瞬間移動してさ、また低速の弾幕を放つ。これを繰り返して相手の移動を阻害しつつ相手の弾幕を回避する攻防一体のスペルカードとかどう?」

「うーん、ちょっと大変かもしれませんが練習してもいいかもしれませんね」

「まあ、相手の弾幕がない場所を見極めて移動しないと駄目だし、低速の弾幕に囲まれる前に広い場所へ移動されちゃうかもしれませんから、何らかの対策は必要かもしれませんね」

「そうやって弱点をすぐに考えられるのもまどかさんらしいですよね」

「そう?そこまで深く考えてないんだけど」

「それに、ミスティアちゃんの夜雀『真夜中のコーラスマスター』を避けれるのは凄いことなんですよ?」

「いやいや、被弾しちゃってるから」

「私達は何回も被弾しちゃってるんですよ。三回被弾することもあったくらいで…。慣れてきたのは五、六回くらいやった頃だったかな。それを被弾一に抑えて避けれるのが凄いんです」

「いやいや、スペルカード使って打ち消しちゃってるからまともに避けてないし」

「けれど、次やるときはきっと避けれるだろうって思っていませんか?途中で避け方が分かったような顔してましたし」

「…どうでしょう。半分くらいは勘で避けていたようなものですから」

「私は勘っていうものを信じているんです。勘というものは今までの情報とか経験から即座に最もよいと思うものを出しているんだと思うんですよ。だから、勘に任せて行動するって言うのも馬鹿に出来ないんですよ?」

「へえ、大ちゃんはそういう考えなんだ。わたしは勘がどういうものかなんて考えたこともなかったですよ。けれど、大ちゃんがそう言うならわたしも信じていいかもしれませんね」

「自分を信じることは大事ですよ。だけどその自分を大切にしないと駄目ですよ、まどかさん」

「はい、すみません…」

 

反省。妖力の使い過ぎに気を付けること。倒れてからじゃ遅いからね…。妖力を外部に保存出来るから、非常用の妖力塊を常備しておくことも考えた方がいいかも。それか、妖力を回復出来る薬とか。

 

「チルノちゃんはまどかさんに憧れを持っているように感じるんですよ。だから、無茶はあんまりしないでください。私達は友達が無茶するところを黙って見ていられるほど大人じゃないんですから」

「憧れ…?わたしのどこに?」

「今日使った氷塊『グレートクラッシャー』はまどかさんの複製『巨木の鉄槌』を参考にしたそうですよ?」

「へえ、チルノちゃんにしてはちょっとずれたスペルカードだと思ったんだけど、そういうことだったの。わたしのスペルカードなんか参考にしちゃって…」

 

あんな穴だらけのスペルカードを参考にされてもなあ…。自分がまともに扱えていないのに。

 

「けれど、チルノちゃんって避けるのがあまり得意じゃないんですよ。スペルカードで無理矢理突破しちゃうことが多くて…。多分、相手のスペルカードを強制終了させることが出来ると思ったから参考にしたんだと思うの」

「…まあ、確かにあの大きさの氷塊がまともに当たれば下手したら意識が飛んじゃいそうですしね」

「何かいい方法ってないですかね?避けるコツとか」

「コツ?んー、周りをよく見る以外だと…。あ、そうだ。もしかしたらチルノちゃんなら出来るかも」

「あるんですか?」

「うん、出来るかどうかは知らないけれど。まあ、練習し続けていればいつか出来るようになるかも」

「それは?」

「『避けれないなら止めればいい』」

 

 

 

 

 

 

家に付いたらすぐに大ちゃんに別れを告げる。大ちゃん、驚いてたな…。まさかこんなことを考えるとは思わなかったのかもしれない。

扉を開け、布団に潜り込む。するとすぐに眠気がわたしを包み込み、わたしを眠りの世界へと誘った。

いい夢を見れるといいな…。

 


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