「パチュリーさん、突然で悪いのですが、少しお願いがあるんです…」
「何かしら?」
「わたし、今スペルカードを考えていて…。だけど、アイデアが一つしか思いつかないから、一緒に考えてくれたら嬉しいなって」
「ええ、いいわよ」
とりあえず、了解を得られて嬉しいです。
「まず、貴女の能力はどこまで複製できるのかよね。実物しか出来ないなら使えないわよ」
盲点だった。出来ると思って考えていたけれど、もし出来なかったらせっかく考えたのも出来ないじゃん。
「や、やってみます」
「待ちなさい。誤魔化しが効かないように私が準備するわ。ついでに、複製がどの程度まで出来るのかも知りたいし」
そう言って、近くを飛んでいた妖精メイドさんに何か伝え始めた。あ、あのメイド服いいな…。後で見せてもらおうかな。用件を伝え終え「頼んだわよ」と言うと、大慌てで行ってしまった。何を頼んだんだろう…。
パチュリーさんがこちらに向き直り、7色の弾を作り、空中に静止させた。
「さあ、やってみなさい」
「は、はい」
うわあ、出来なかったらどうしよう…。いや!出来る!出来ると思えば出来るんだ!
視界にある7つ全てに意識を向け、複製を試みる。すると、それぞれの弾の隣に似たようなものが一つずつ現れた。
「…出来た。良かったー…」
「7個同時に複製出来るのね」
複数個の同時複製が出来るなら、あのアイデアを実現出来るということ。後は練習あるのみ。
「これなら唯一あるアイデアを実現出来そうです!」
「そう、それは良かったわね」
そう言って微笑んだ。うわ、パチュリーさん可愛すぎ!わたしもこんな風に笑えるようになりたい!…なんかさっきも同じようなこと考えたような。まあ、それだけ自分が求めているということなんでしょう。
「他に何か思いついたかしら?」
「いえ、全く…」
「そう。じゃあ残りは一緒に考えましょう。最低でも3つは欲しいわね。普通のスペルカード戦なら、スペルカードは3枚使うもの」
同じスペルカードを使ってはいけない、とは書かれていないが、同じスペルカードを同じ試合では使わないのは暗黙の了解というやつだ。
「そうですねー…、うーん…」
「あ、そうだわ。低速弾を幾つか撃って、それを2倍,4倍,8倍,16倍…って増やしていくのはどうかしら?」
「あー、それは出来ないんです」
「どうして?」
「複製は複製出来ないんです」
「そう。それは残念ね」
複製を複製出来ないから、昨日慧音の服を一度に3着創ったのだ。複製を複製出来るなら、1着を使わずにとっておけばいいのだが、そうはいかないのが現実だ。
「じゃあ――」
「他には――」
「それとも――」
パチュリーさんのアイデアは全く尽きる気配を見せない。この調子で出来そうなものを集めれば、3つくらいはすぐに集まってしまいそうだ。
◆
「ふぅ…。少し話しすぎたわね…コホッ」
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。ただの喘息だから」
なんと、喘息持ちだったとは。無理をさせてしまって申し訳なくなる。しかし「気にしないで」と言われたので、少しだけ気が楽になった。
スペルカードのアイデアは十分に得られた。アイデアだけなら、両手で足りないほどだ。あとは、実現出来るかどうかだけれど、今までの経験から出来るだろうものが多かったので、いかに美しく、もしくは派手に魅せることが出来るかが重要だ。
どうやって魅せようか考えていたら、妖精メイドさんが色々持って帰ってきた。紅茶やクッキー、果物などがあるから貰えるなら貰いたいな。
よし、メイド服を見せてもらおう、と意気込んだが、すぐに帰ってしまった。ああ、メイド服…。
「さて、私が知りたいことに少し付き合ってもらっていい?」
「あ、いいですよ!こんなにしてもらってお返しが出来るなら」
そう言うと、林檎を渡してくれた。貰っていいのかな?
「食べ物を複製したら、それを食べられるのかしらと思ってね」
「あー、食べてみます?あまりお勧めしませんが…」
「なら止めておくわ」
即拒否。危険回避能力は相当高いと見た。
「まあ、複製は出来ますよ。食べられます。だけどあくまで見た目を複製しているんです。知らない部分は予想想像なんかで創るんですが、この林檎の味が分からないので味がしません。なら、一口食べれば味付きのが出来るのかと思えば、そうでもなかったですし」
そもそも複製したものはわたしの妖力の塊なのだ。触感はわたしの記憶から創られるのだが、味がしないのはとても寂しい。空腹を紛らわすことは出来ても、お腹に溜まることがない。食べたそばから、妖力として還元されてしまうからだ。
「そう、それは残念。食糧問題解決の糸口を見つけられたかもしれないのに」
「仮に解決出来たとしても、わたし一人じゃ無理があるでしょう…」
「それもそうね」
しかし、魔力回復薬の複製を出来るか聞かれたが、複製品はわたしの妖力の塊だから妖力回復薬になると思うと伝えたら、妖力と魔力はほとんど同じだから問題ないと言われてしまった。そして、わたしが複製した回復薬を普通に飲んでいたから、単に味がない林檎を食べたくなかっただけなのかもしれない。ついでに、妖力と魔力の違いが気になったので聞いてみたら、妖精や妖怪が生み出す天然物が妖力で、魔法使いが外的要因で作り出す人工物が魔力なんだそうだ。あと、神様は神力、人間や霊的存在は霊力を扱うらしい。
「ふう、これなかなかいいわね…。幾つか欲しいわ」
「見た目で創っているので水にしか見えないんですけどね…」
「飲み込んだらすぐ分解されて、すぐ吸収出来るから使いやすいわ」
「あの林檎食べます?それも同じ感じに吸収出来ますよ、きっと」
「いいえ、遠慮するわ」
回復薬は良くて林檎は駄目なのは何故だろう…。
◆
パチュリーさんとのお話はとても楽しく、随分話し込んでしまった。例えば能力のこと、私の見た目に関すること、魔術関連、最近あった出来事、普段の生活など、色々とだ。そうしたら、何時の間にか窓から見える空が真っ暗…ではなく、紅みが混じった黒一色になっている。紅く輝く月がいつもより大きく見えるのは何故だろうか。あ、吸血鬼は月光が好きだからかな。
こんなに暗くなってしまうまで長居するつもりはなかったのに。こんなに長く話していたのは初めてだ。
「どうしよう…。今から帰るのはちょっとなあ…」
「そうねえ、なら泊まってく?」
「え、いいんですか?」
「多分ね。ちょっと聞いてみるわ」
そう言うと真紅色の電話で誰かに掛け始めた。ちょっと悪いとは思うけれど、聞いてみよう。
「レミィ?私よ。―――――ええ、何処か泊まれる部屋はあるかしら―――――うん、分かったわ。それじゃあ」
どうやらレミリアさんに掛けていたようだ。泊まれる部屋を聞いてくれたらしい。優しいなあ。パチュリーさんは慧音と同じくらいいい人って感じがする。
「もう少ししたらメイド達が布団を持ってきてくれるから、その辺に広げて寝ていいって言ってたわ」
「その辺に…、良いんですか?本当に」
「レミィなりの気遣い、らしいわよ。私もこんなに長く話したのは久しぶりで楽しかったし」
「そうですか。楽しかったなら嬉しいです」
もしかしたらこんなに長く話して迷惑だったかも、と頭の隅で考えていたから気が楽になった。お互いに楽しめたようで良かった。
ほんの1分くらいで、妖精メイドさんが布団を持ってきてくれた。うわ、凄くフカフカだ。これ貰いたいけど、持ち帰るのが辛いかも…。そんなことを考えていたら、妖精メイドさんは帰ってしまった。あ、またメイド服見せてもらえなかった…。
ちょっとしょんぼりしつつ、空いているスペースに布団を敷いて、横になる。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ…」
いつ以来だろう、誰かにおやすみなんて言われるのは。最後に言われたのはやっぱり慧音かな。いや、あとその友人さんにも言われたっけ。
そんなことを考えていたら、深い眠りの海へと沈んでいった。