東方幻影人   作:藍薔薇

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第403話

「…これ、いつになったら終わるんでしょうね」

「終われば終わるよ」

「まぁ、そうなんですがね…」

「まだまだ時間掛かるでしょ。全っ然片付いてないしぃ?」

 

そうなんだよなぁ…。黙々と瓦礫の撤去作業を結構長いことやり続けているものの、周囲を見渡せばまだまだ瓦礫が大量に残っている。一旦集めていた瓦礫の山を一度灼熱地獄跡地に捨てるのを手伝い、ドンドン運んでは地霊殿の裏にある大穴にドンドン投げ込んだのだが、一度なくなったはずの瓦礫の山はまた大きくなっている。

純粋に瓦礫の撤去作業をしていたり瓦礫の中に紛れている金剛石目当てに頑張っている妖怪達も当然いるが、流石に疲労やら飽きやらの理由で休んでいる妖怪がチラホラと見当たる。一日中休みなしに働けとは言えないけれど、休憩する妖怪がいればそれだけ作業の進みが遅くなってしまう。これは当分終わらなさそうだなぁ…。

 

「…しょうがないなぁ」

「お、何かするの?」

「する。ちょっと頼みたいことがあるんですが、地霊殿に戻って髪紐を持って来てくれませんか?」

「いいけど、どうして?」

「…気合いを入れたいからかな」

 

気分の問題と言われればそれまでだけど、精神面が良好であることはいいことだ。少なくとも、悪いよりはいい。

 

「気合いなら普通捻じり鉢巻じゃない?気合いだ、気合いだ、気合いだぁーっ、って感じで」

「いいでしょ、別に鉢巻じゃなくても。ちょっと邪魔な髪を後ろに縛りたいだけだからさ」

「ふぅん、そっか。髪紐、どれでもいいの?」

「どれでもいいです」

 

金剛石を三十個くっ付けたあのフェムトファイバーの髪紐を頼もうかと思ったけれど、金剛石はそこら辺に落ちているからいいやと考えてそう言った。こいしが地霊殿に向かって飛んでいくのを少しだけ見送り、すぐに作業を再開する。

軽く周りを見回し、こちらに向けられている視線の意思と位置を感じながら歩く。…えぇと、金剛石はこの瓦礫の下だね。近くにきたことで感じ取った金剛石に手を伸ばし、瓦礫の陰に手を隠したまま摘まんで回収。そのまま瓦礫を持ち上げて作業をしている風を装う。…うん、敵意悪意殺意はあれど、金剛石をどうこうしたことはバレてなさそう。

一度目を瞑り、壁の分厚い巨大な空箱を頭の中に思い浮かべる。向かい合わせの側面の対角線に合わせて空箱を斜めに切り落とし、底面を含むほうを残してもう半分を消去。底面の露出した一辺を滑らかに尖らせ、四隅に車輪を埋め込む。最後に、車輪に前に転がるよう過剰妖力と情報を入れる。…よし、こんなものでいいでしょう。即席巨大塵取りの完成だ。

地面に底面を埋め込むように創り、弾き出されたことで地面の上にあった瓦礫が塵取りの中に納まる。塵取りの向きがあの瓦礫の山に向いていることを確認し、わたしは情報に従ってゆっくりと動き出した塵取りの補助をするために、目の前の壁に両手を当てて力いっぱい押した。

 

「ふッ…、っと」

 

地面が平らじゃないからガタガタと揺れるが、大体の瓦礫は塵取りの中に押し込まれていく。時にはなかなか入らずに塵取りに押されている瓦礫もあるが、他の瓦礫とぶつかり合って気付いたら中に入っているから問題ない。細かいものが塵取りに入らずその場に残ってしまっているが、そこは妥協してほしい。

 

「あん、何だこの音――うおッ!?危ねぇ!?」

「なんだこいつ――って、地上のォ!?」

「あー、すみませんね」

 

時折、瓦礫の撤去作業をしている妖怪を轢きかけてしまうが、そこも妥協してほしい。彼らが集めていた瓦礫も一緒に運んであげるからさ。…うへぇ、視線が痛い。

しばらく塵取りを押していると、瓦礫の山まで到着した。瓦礫が入って随分重くなった塵取りの底に金剛石がいくつかあるのを感じたので金剛石ごと回収すると、そこにはもう一つの瓦礫の山が出来上がった。…あら、塵取りの中に瓦礫がこんなに入ってたのね。まぁ、一人の作業量としては悪くないんじゃないかな?

回収した妖力が多くて溢れそうになる前に、握り込んだ右手の中に金剛石を二つ創っていると、横から誰かが近付いてくる音が聞こえてきた。敵意の類はほとんど感じないので、少しだけ立ち止まった。わたしに用がなさそうなら、そのまま次の撤去作業へ行くとしよう。

 

「おーい、ガタガタうるさいと思ったらあんたかい」

「あら、ヤマメさんじゃないですか。家を建て直さなくていいんですか?」

 

そう思っていたら、ヤマメさんがわたしに話しかけてきた。彼女は家の建築が仕事だと思っていたのだけど、ここにいるということは瓦礫を運んでいたことになる。

 

「これだけ瓦礫だらけじゃあ家を建てる場所がないからさ、私もこうしてせっせと瓦礫を運んでるのよ」

「ふぅん、そっか。ところで、この瓦礫の撤去作業はどのくらい掛かると思います?」

「んー…。すぐには終わらないだろうけど、皆やる気あるしいつもより早く終わると思うね。皆も宝石漁りしながら瓦礫を片付けてるし、私も宝石一つ見つけたよ。ほら!」

 

そう言って見せてくれたのは、案の定わたしが創った金剛石。それはそれはよかったですね。…今わたしの右手の中にあることは黙っておこう。

 

「ま、綺麗になった場所も出来てきたし、そろそろ私の本来の仕事も始まるかな?」

「早く復興されるといいですね。そのためにお互い頑張りましょうか」

「そうだね。それじゃ、あんたも頑張ってね!」

「はい、それでは」

 

駆け出して行ったヤマメさんに手を振り、少ししたらわたしも別の場所へと向かう。一本線で瓦礫が多そうな場所は何処かなぁ?…うん、こっちかな。その一本線上で撤去作業をしている妖怪達が数人いたけれど、まぁ、しょうがないね。

旧都の端まで走り、先程創った巨大塵取りを三つ並べた。情報に従って勝手に動き出す塵取りの内、一番右にあるものを押していく。残った二つはゆっくりと進んで少しずつ瓦礫を中に入れていくはずなので、そのまま放っておいた。これを向こうまで運び終えたら、途中まで進んでいるあれを押していく予定だ。

 

「あ、いたいた!おーい!」

「ん、こいし」

「うっひゃぁー、おっきいねぇー」

 

地霊殿から戻って来たらしいこいしを見上げていると、フワリとわたしの隣に降り立った。その手には普通の髪紐が握られている。…うん、少しだけ期待したけれど、よく考えたらさっき溢れそうになったのだからいらないか。

 

「幻香、髪結んであげるから後ろ向いて」

「分かりました」

 

塵取りから手を離し、こいしの前に立方体を創って腰掛ける。チラリと横を見ると塵取りがゆっくりと動いており、反対側を見れば少し遠くに二つの塵取りが隣り合わせでゆっくりと動いていた。…うん、ちゃんと動作してるね。よかったよかった。

後ろ髪が少し引っ張られ、一つにまとめられてから髪紐で結ばれる。それで終わりかと思ったら、ギュ、ギュ、という音が聞こえてくるのだけど、かなりきつく縛ってるのかな?

 

「うん、これなら邪魔にはならないんじゃないかな?」

 

しばらく待っていると、こいしから終わったことを告げられた。縛られた後ろ髪を見てみると、下に垂れている髪が斜め格子状にグルグルと縛られていた。まぁ、邪魔にはならないけどさぁ。普段と髪型が変わり過ぎて逆にちょっと気になってしまう。…ま、少し経てば慣れるでしょう。

 

「いい感じですね。それじゃ、作業を続けましょうか」

「はーい!」

 

わたしが塵取りに手を当てて押すと、こいしも横に立って一緒に押し始めた。…大して役に立っていない気がするけれど、手伝ってくれるやる気があるならそれでいいや。

 


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