東方幻影人   作:藍薔薇

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第41話

春。あるところでは桜の花びらが美しく幻想郷を彩り、またあるところでは冬眠から目覚めた妖怪や動物が活動を始め、またあるところでは新緑が萌え出ずる季節。

残念ながら、わたしの能力については花開くことも目覚めることも芽吹くことも燃え上がることもなかったが…。

春。暖かな日差しを浴びながら花見をする人間共や妖怪達が探そうと思えば簡単に見つかり、場合によっては酔いに身を任せて弾幕ごっこが始まったりもする。

残念ながら、わたしは花見をすることはあってもお酒を飲むことはないのだが…。

 

「くしゅっ!」

 

しかし、今年の幻想郷の春はあまりにも遅い。遅すぎる。もう五月になっているというのに、未だに雪が降り積もる。一面銀世界だ。

防寒具である赤茶色のマフラー――結局諦めて慧音に編んでもらった――を首に巻き、真っ白な息を吐く。今日もチルノちゃんは嬉しそうに活動しているに違いない。それに付き合わされる大ちゃんは非常に辛そうな顔を浮かべていることだろう。リグルちゃんも嫌そうな顔をしながら付き合っているかも。

今日は紅魔館へ行ってフランさんと遊ぼうと考えているが、この寒さだと「外出たくない!」と言われてしまいそうである。前回行ったときも言われたからね。

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、そろそろ燃料が尽きてしまいそうです」

「それなら買ってくればいいでしょう?」

「……承知いたしました」

 

フランさんを探して紅魔館内を歩いていたら、部屋の中からレミリアさんと咲夜さんの会話が聞こえた。どうやら薪や油が切れそうだとのこと。春が来ないなんて予想外だったに違いない。

最近のフランさんは紅魔館内を徘徊していることが多い。「動いてないと凍え死ぬ」とのことだが、一種のジョークだろう。吸血鬼が寒さ程度で死んでたまるか。

案の定、肩を震わせながら歯を鳴らして歩くフランさんを見つけた。歯を鳴らすのは止めてほしいとちょっと考えてしまった。牙がチラチラ見えて怖い。

 

「大丈夫ですか、フランさん?」

「……大丈夫じゃない」

「炎、出せませんでしたっけ?」

「あれはレーヴァテイン。炎じゃない…」

 

紅魔館内でのレーヴァテインの使用を禁止したのは咲夜さんだ。流石に床にブッ刺して暖を取るのは駄目だったようで、あとでフランさんと一緒に咲夜さんに怒られてしまった。実際、床に敷かれていたいかにも高そうなカーペットが燃えてしまったしね。

お詫びとして、わたしは別の場所に敷かれていた同じ模様のカーペットを複製して咲夜さんに献上しておいた。「縫い直す必要がなくなって助かった」とのこと。フランさんは咲夜さんの手伝いをしたらしい。「危なっかしくていつ失敗をしてしまうか見ていて心配だった」とのこと。

 

「ねえ、おねーさん。何とかならないの?」

「はい?」

「この冬。流石におかしいよ」

「まあ、わたしもそう思いますが…」

 

ここまで来ると流石に何か原因があるのではないかと考えてしまう。紅霧異変という前例があるので、異常気象が起きたらまず人為的な原因を疑ってしまうが。まあ、勘だけど。

 

「さっきお姉様も寒い寒いって言ってたし」

「咲夜さんの前ではあんなに余裕そうな感じだったのに…」

 

見栄を張りたいお年頃なのだろうか…。五百歳なのに。

 

「だから、遊ぶのはまた今度にしてこの冬を何とか出来ないかな?」

「うーん…。まあ、解決出来そうな人を知ってますから、その人に相談してみますよ」

「本当!?ありがと、おねーさん!」

 

博麗神社って何処にあるんだろう…。そんなことを考えながらフランさんと別れ、紅魔館の出口に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

紅魔館を出ようと扉に触れようとしたら、咲夜さんが後ろから近付いてきた。防寒具らしいものを一切していないが、寒くないのだろうか…。

 

「咲夜さん、買い物ですか?」

「違いますよ幻香さん」

「あれ?燃料を買うんじゃ…?」

「燃料を買うよりも簡単な方法を思い付きましたので」

 

…何故だろう。猛烈に嫌な予感がする。

 

「この冬を終わらせれば燃料なんか必要なくなります」

「そーですかー…」

 

しかし、都合がいい。わたしもそのつもりなのだから。

 

「咲夜さん、わたしも付き合いますよ」

「どうしてです?」

「フランさんに頼まれたんですよ。『この冬を何とか出来ないかな?』って」

「ふふ、じゃあ一緒に行きましょうか」

 

わたしは相談すると言ったけれど、出来ればそれに付いて行きたい。誰が何のためにやったのか非常に気になる。

紅魔館を出て一緒に飛び上がる。とりあえず咲夜さんに付いて行こうかなとか考えたが、一応意見しておこう。

 

「とりあえず博麗神社にでも行きませんか?」

「…そうですね。行く当てもなく動くよりはいいでしょう」

 

そう言って方向転換した咲夜さんに付いて行く。おっと、言っておきたいことがあったんだ。

 

「先に言っておきますけれど、わたしは弱っちいのでまともに戦えません」

「…?妹様と十分張り合っていませんでしたか?」

「あれはフランさんが必要以上に力を抜いてくれているんですよ。わたしが言った『相手を怪我させてはいけない』を律儀に守るために。…まあ、たまに力加減間違えますが」

 

わたしがフランさんと初めてやったスペルカード戦では、スペルカードのときは気合が入ってかどうかは知らないけれど、腕が吹っ飛びそうな威力だった。しかし、今では当たっても痛いで済む威力である。ただし禁忌「レーヴァテイン」。これだけは当たったらヤバいじゃ済まないので出来るだけ使わないように頼み込んだ。

 

「そう言うならそうなのでしょうね。それで、幻香さんは何を言いたいんです?」

「基本的にわたしはサポーターとして付いて行こうかなーと」

 

わたしは正直言って弱い。霧の湖で会う五人には一応勝ってはいるけれど、フランさんには毎回負けているし、霧雨さんには勝てる気もしない。しかし、味方の弾幕を増やすのも敵の弾幕を消し去るのも出来る。補助役としては有能な方だと思いたい。

まあ、ちょっとはやってもいいかなーとは思うけれど。

 

「分かったわ。――さて、もう着いたわよ」

「ん?おー、あそこが博麗神社」

 

寂びれた神社が遠くのほうに見えてきた。ん?よく見たら二人いるな。えーっと、紅白が目立っているからあれは霊夢さん。あと一人は黒い三角帽をかぶっているから霧雨さんかな?

 

「さて、急ぎましょう」

「あっ、待ってくださいよー!」

 

 

 

 

 

 

「で?ここに何の用なの?私は早く行きたいんだけど」

「それに付いて行きたいって言っているんですよ、わたしは」

「これは人間が解決するもんだ。妖怪は大人しく引っ込んでな」

「いいじゃないですか、わたしだって友達の為に何とかしたいんですよ」

 

咲夜さんはわたしの後ろのほうで黙って立っている。ここで争い事が起こったらきっと止めてはくれるだろうけれど、この口論には参加しないつもりのようである。

 

「アンタの友達ってあの氷の妖精でしょう?」

「いえ、また別の友達ですよ。フランさん、フランドール・スカーレットさんのお願いなんですよ」

「ウゲッ、アイツの?」

「あーあ、このまま断られたらどうなるんだろうなー。霊夢さんと魔理沙さんのせいだって言っちゃうかもなー」

「安い挑発ね」

「他力本願かよ」

「安っぽくても他力本願でも結構。どうせ付いて行くことには変わりないので」

 

頼まれたのにおめおめと帰るつもりなど毛頭ない。それに、こんなことをしている奴に興味がある。何とかして同行出来ないものだろうか…。

 

「それにわたしはただ付いて行ってちょっと手伝うつもりなだけですので。あとはそちらで勝手に解決してくれればいいんですよ」

「…そう。勝手にしなさい」

「ケッ、せいぜい邪魔すんなよな」

「ありがとうございますね。あ、マフラー要ります?あと、咲夜さんも」

「…貰えるものは貰っとくわ」

「この程度の寒さで音を上げるかっての」

「そうね。いただくわ」

 

首元のマフラーを掴み、二枚複製する。二人に手渡したら早速巻いてくれた。複製したところを見た霊夢さんと霧雨さんが軽く驚いていたが、霧雨さんは三角帽やら本やら本棚やらを複製しているところを見ているはずだし、霊夢さんも霧雨さんと一緒に棒を複製しているところを見ているはずなのだ。

 

「…召喚魔術?いや、創造魔術か…?」

「そんな立派なものじゃないですよ。そもそも魔法じゃないですし」

「じゃあ何なんだよ」

「こんなもの、特に気にしないでいいようなつまらないものですよ。そういう能力なだけです」

 

わざわざ説明するのも面倒くさいので説明を省く。そもそも、わたし自身がちゃんと理解しているとは言えないのだから。

 

「これ、結構暖かいですね」

「そう?編んでくれた人に喜んでたことを伝えときますね」

「関係ない話はその辺でいいでしょう?さあ、行くわよ!」

 

霊夢さんが飛び上がり、それに付いて行くように二人も飛び上がった。さて、誰が何のために冬を長引かせたのか。気になってしょうがないね。

 


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