東方幻影人   作:藍薔薇

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第43話

少し出遅れたけれど『幻』展開。直進弾と追尾弾を最速で各十個。

それと、真っ白な靄に隠れているレティさんに言っておかないといけないことがあったんだ。

 

「そうそう、わたしはこの勝負で被弾するつもりないんですよ」

「ふーん、で?」

「だからわたしは被弾したらそのまま『まいった』って言って降参しますよ」

「おー、言うねえ。震え上がっても知らないよ?」

「寒さで?」

「恐怖で」

 

白い靄が弾け、寒色系の弾幕が広がる。が、そんなもの気にせずレティさんに向かって突貫する。

 

「おーい、それは無茶じゃないかい?」

 

連なった青い妖力弾に加え、レティさんを中心に拡散する弾幕。さて、ちゃんと出来るってことの証明をしないとねえ。

 

「霧雨さん、ちゃんと見てなさいな!鏡符『幽体離脱・滅』」

 

瞬間、消滅する弾幕。驚愕からか目を見開いたレティさんがよく見える。まったく、隙だらけだよ?そんなことしてたら妹紅さんに一発どころか三発くらい持ってかれちゃう。

左腕をレティさんに向けてしっかりと伸ばし、軽く体を捻りながら右手を引き絞る。掌底打ちにしようと思ったけれど、内部に損傷を与えるよりも外部に与えたほうが治りが早そうだと思い、軽く握る。

危機的状況になっていることに今更気付いてももう遅い。既に射程圏内だ。

 

「ッ!」

「痛ッ!ンンーッ!」

 

鼻先に当たった瞬間、無理矢理腕を引き戻して、その勢いに合わせて体全体を回転させる。追加でこめかみに裏拳を叩きこもうかと思ったが、スペルカードルールから見てもわたしから見ても意味がないと思ったので途中で止まり、レティさんから距離を取る。

どうせ一回被弾してから三秒経たないと次の被弾の扱いにならないし、旋回裏拳って当て辛いし自分の手を痛めやすいからね。

未だに鼻を押さえて悶えているレティさんに向かって弾幕を放つのは良くないかなと思い、待機している三人のほうを向く。それにしても、当たった瞬間に引き戻したからほとんど痛くないはずなんだけどなあ…。

 

「ね?大抵の弾幕は消し飛ばして見せますよ」

「オイオイ、相手が怯んでるからってこっちに視線向けててもいいのかよ?」

「この距離なら後ろから近づかれても分かりますよ」

 

気配を感じる方法は様々だ。光源が後ろにあれば影が出来ることで、足音や服の擦れる音を聞くことで、体から発せられる僅かな熱を感じることで、一部の相手に対しては匂いを嗅ぐことで気配を感じる。わたしは出来ないが霊力妖力魔力神力を感じることでとか、動くことによって生まれる僅かな空気の流れでも分かるらしい。

この程度の距離なら背中から不意打ちされても背中側に壁になりそうな複製を創って対処出来る。

 

「弾幕ごっこで普通相手を殴る?」

「言ったでしょう?わたしは異常ってことにして――あ、霊夢さんには言ってませんでしたね。それに、必ずしも弾幕じゃなきゃいけないわけじゃないですし」

「…誰が殴ってくると考えるのよ」

「わたしから見れば『考えない方が悪い』って感じですけどね」

 

ルールにもちゃんと殴る蹴るなどの体術、刀やナイフなどによる剣術、投石や弓などによる射撃などでも可であると書かれている。まあ、わざわざそんなもので挑む物好きがいないから勝手に無視されているだけなのだ。

…一部では、何処からともなくナイフを大量展開して弾幕と遜色ないものにしてしまう超越者がいるとか。一体何処のメイドさんなんだろうなー。

 

「幻香さん?」

「…はいすみません」

 

笑顔が物凄く怖いです。しかし、本当に何処からナイフを取り出しているんだか。太腿に吊るされている数本のナイフしか見当たらない。もしかして、袖の中とかスカートの内側に隠しているのかも。けれど、それだとかなり重くなるよね…。咲夜さん凄いです。

後ろから弾幕が放たれる感覚がしたので、振り向きつつ『幻』の弾幕を再開させる。

 

「痛たた…。勝負中に背中を向けるなんていい度胸してるじゃない…」

「鼻を押さえながら脚をバタバタさせて悶えているのを見ていた方が良かったですか?申し訳ないですが、わたしはそれを温かい目で眺めるような趣味はないんです…」

「私もない!寒符『リンガリングコールド』!」

 

何だか、温度がさらに下がったような気がする。後ろの三人を見てみると、浅めに降り積もっている雪を除けていた。咲夜さんが枯れ枝と濡れていなさそうな枯葉を集めていたので焚火でも作るつもりなのだろう。呑気だなあ…。

 

「またそっぽ向くー!こっち見なさいよ!」

「え?ああすみませんね、っと」

 

水色の妖力弾から鳥が翼を広げるように弾幕が広がったが、少し横にずれるだけで避けることが出来る。周囲に現れた白い靄が弾けて弾幕をばら撒くのに注意すればそれほど脅威でもない。

突然弾幕が変わったりしなければこの避け方で何とかなるだろうと思い、余裕が出来たので『幻』任せにせず、数発だが妖力弾をレティさんに向けて放つ。

的が大きいので当たりやすそうな胴体に向けて放ったが、残念ながら避けられてしまった。『幻』の弾幕も普通に避けているようなので、相手が油断しなければ被弾はしなさそうだ。さて、どうしましょうか…。

 

「あー寒い…。あっちは焚火にして温まってるし…。いいなあ」

「それにしてもさあ…、貴女って妖怪でしょう?」

「え?分かるんですか?…おっと」

「分かるわよ。それで、何で妖怪が人間なんかと手を組んでるの?」

「手を組む?わたしはただ付いて来てるだけなんですけど」

「妖怪は人間を驚かせて生きるものでしょう?貴女がどんな妖怪かは知らないけれど、そうしないと生きていけない種族もいるのに」

 

………驚かせて、ねえ…。

 

「勝手に驚いて、勝手にこじつけて、勝手に嫌って、勝手に悪意を向けて、勝手に迫害して、勝手に刺して、勝手に襲って、勝手に処刑しようとする人間なんかにはもう会いたくもないですよ」

「…ならどうして」

「それでも付き合ってくれる物好きな人がいるんですよ。その人達に付いて行って何が悪いんですか?わたしはしたいことをして生きているんですよ。それが驚かせることじゃなかったってだけです」

「…そう」

 

そう言うとスペルカードの時間が切れた。

 

「ふぅ…。何か嫌なこと思い出して不愉快ですよ…。だから――」

 

一瞬の隙に三人のほうを向いて箒を複製し、その穂に焚火の炎を複製する。そして、燃え盛る箒をレティさんに真っ直ぐと向ける。

 

「――ちょっと痛い目見てもらっていいですか?」

「痛いだけじゃ済まなさそうなんだけど」

「熱い目見てもらっていいですか?」

「言い直さなくてもいいよ!」

 

勢いよく飛び出し、その顔に向かって箒を突き出す。寒気を操る妖怪としては炎には触れたくもないようで慌てて飛び退ったが『幻』を利用して追撃を行う。が、体制を低くして上手く避けられてしまった。

 

「貰った!」

 

そう言ってわたしの足元に向かって放たれる弾幕を静かに見つめて――

 

「複製『身代人形』」

 

足元にドサリと落ちるそれに弾幕が全て被弾する。貫通はすることなく、抉られたような弾痕が幾つも出来てしまった。まあ、わたしに被弾していないので問題はない。

 

「…え?わ、私?」

「そうですよ?まあ、正確には違いますけど」

 

身代人形をレティさんに思い切り蹴飛ばす。無理な体勢でいたからか避けることも出来ずに巻き込まれて三間ほど――大体六メートル――吹っ飛んだ。

 

「さて、被弾は既に二回ですね。弾幕で被弾していないのが寂しいですけれど、貴女はこうして油断してないと当てることも出来なさそうなので仕方ないですね」

「もう!何なのよ!弾幕は消えるし!私みたいなのから私が出てくるし!」

「何も不思議なことじゃないですよ。ドッペルゲンガーってそういうものなんです」

「ええ…、ドッペルゲンガーってそういう妖怪じゃないと思うんだけど…」

「…?何か非常に興味深いことを言いましたけれど、後で詳しく」

「お断り!冬符『フラワーウィザラウェイ』!」

 

レティさんの周りをレーザーが旋回している。懐かしいなあ…。あんな感じの妖力弾は霧雨さんの恋符「マスタースパーク」を潜り抜けるために使って以来だ。

そのレーザーから小粒の弾幕が飛んでくるのでかなり密度は高いが、弾速はかなり遅いので避けるのは簡単だ。しかし、どうせ創ったのならばこの燃え盛る箒を思い切り振り下ろして勝利したい。

 

「このくらいのスペルカードならミスティアさんのほうが避け辛かったかな」

 

口の中で呟きながら無理なく弾幕の隙間を縫うように避ける。たまに被弾しそうな妖力弾は箒の炎を当てると溶けるように消えてしまう。寒気を操るこの妖怪の妖力弾はきっと熱に極端に弱いのだろう。

危なげなくスペルカードの時間が来て、一気に距離を詰める。箒の炎は妖力弾を打ち消し続けた影響か、もうすぐ消えてしまいそうだ。

 

「うわっ!待って待って!」

「待たない!」

「分かった!降参!降参するからやめて~」

 

そう言われて、振り下ろしていた箒を回収した。頭を押さえてうずくまっているレティさんは箒が当たらなくてホッとしているようだ。

 

「ふぅ…。当てれなくて残念ですが、わたしの勝ちですね」

 


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