東方幻影人   作:藍薔薇

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第436話

『何処だここ『『禍』に捕らわれお『急に何『眠い』味しいお肉はなぁ『助けて』『年明けも近『何事!?』うな『『禍』『お姉さんなの?』じゃあないか』ぁ!?』処なん『疲れてるっ『意味分かんな『旧都『はっはっ『愉快痛『旧都が…』は紛い物なの…?』つーわけ『どういうこと!?』えてよ!』幻香『理解したくない』『あぁ…あ…『旧都を壊しやがった!』たくない』て『ん?』か『楽しそう『最強なんだから!』だねぇ』ィィィ…』寝てたのに』ってやろうじゃね『嫌『こんな時『あやややや』幻香の精神中か…』るさいわ』いうこ『助け『数奇な出来事だわ』たくなかった!』れは…』られたの…?』『魔術研究は中止ね』ゴゴ…』ウサ『『禍』だ『ああ!遂に幻香と『消えた!?』『意味不『出してよ!』ことなんだ』か教えて『賢者様?』くれ!』して『…こんな運命は知ら『紅茶を』こから出してく『もう!』ッせェなァ!』『私は『どういう…ことだ…?』なる!』けてくれ!』か『禍』の『落ち着け…『…ヒッ!』ア『こりゃあ『ん?』面白いことになっ『創られた存在…』てじゃ『喰われる!』ねぇか』雲紫じゃ『眠いん『あら?』させてく『…嘘』ぁぁぁぁ…』『死にたく『一緒に頑張ろ!』しえてく『信じられ『え?』ない!』り得な『誰か教えてくれ!』るの…?』にたくない!』ァァァアアア『んぁ?『嫌ぁ…っ』とが起こるな『一体全体『お師匠様、これは『あらあらあら』ぅん…』どういう『まさか…』しょう?』こと『旧都が消えた』かな?』思議体『とりあ『祈りを…』生きてるの…?』『喉乾いた…』いしょ『ウッガ『助けてくれ!』こっているの…?』『は?』ったよ』『よぉし、やる『真夜中だってのに』『禍』か『憎い…ッ』喰われ『妖怪風情が!』死ぬ…?』『…殺され『まさに奇跡!』スーさん』にたくな『ふむ…』まどかさん!』『紫様!?』…ッ』様、こんなことが許されると思っ『私、偽物ってこと…?』だここは!?』『どういうことだオイ』であるぅ!』『ちょっと『凄いことになってるわね』ち着け、俺』ってんだ!?』りたく『旧都が消『…ウフフ』『冬もまだ『酒はねぇのか?』だ嫌だ嫌だ嫌『…これは』にゃぁ』『…『禍』『え?』ってのに!』なんだよ!』

 

「…あぁ」

 

まるで雑踏の中心に投げ込まれたようだ。悲鳴、号泣、慟哭、絶望…。頭の中で数多の声が響き続けている。視線が一点に向かず、いつまで経ってもぐらついたまま。呼吸も吸ってるのか吐いてるのか分からない。体が幾千幾万に分裂し、そのまま各々勝手に動き出してしまいそう。内側から破裂してしまう。

 

「うっせぇんだよッ!」

 

だから、激情のままに咆哮した。地底に響き渡り、反響した声が何度も伝わってくる。瞬間、頭の中は静かになった。…あぁ、やっと黙ったか。遅いんだよ。

未だ抵抗する少数派を押し退け、わたしは身体を操作する権利を強奪する。改めて見た世界は、当たり前だか少し違って見えた。軽く動きながら、体の長さを確認する。…少し縮んだかな?腕と脚がほんの少しだけど短くなってる。…まぁ、この程度の差異なら大丈夫かな。

 

「ふぃー…。さ、続けましょうか」

「…貴女」

「まずは試し打ちだ」

 

クイッと人差し指を曲げると、それだけで地面に浸み込んでいた水分が湧き上がる。雪を溶かして水嵩を増やしてからわたしの周囲に浮かべ、右手を軽く握ればいくつもの水球が一瞬で凍った。

 

「『水を操る程度の能力』からの『冷気を操る程度の能力』と『寒気を操る程度の能力』と『ものを凍らせる程度の能力』。…うん、記憶にはないけれど、記録通りだ。経験してないけれど、経験通りだ。思ったより上手くいってる。そして、次は『風を操る程度の能力』に『鎌鼬を起こす程度の能力』」

 

氷球が突風によって撃ち出され、その中に生じた鎌鼬によって切り刻まれることで鋭利な破片へと変貌した氷片が八雲紫を襲う。わたしの変化に追いついていなかったのか、回避に一歩遅れた身体に数多の切り傷が刻まれた。だが、こんな浅い傷はすぐに治るだろう。…ほら、もう治ってる。

右手に一つの精神の手に馴染む刀を創造し、その柄を軽く握る。鞘のない抜身の刀では居合が出来ないが、大した問題ではないだろう。

 

「『距離を操る程度の能力』。そして『剣術を扱う程度の能力』」

「ッ!?」

 

点と点を結ぶように、たった一歩で八雲紫の前から遥か後ろへ到達する。すれ違いざまに放った斬撃はこれまた不可思議な感触だったが、刀身は血で赤く塗れている。こんな風に扱えばよかったのか、と他人事のように思いながら用済みの刀を回収した。こびり付いていた血が雪上に落ち、赤色が広がった。

振り返ると、目の前に大きなスキマが開いていた。それは蛇の顎のようにわたしを喰らおうとしている。…ふぅん。

世界が灰色に染まる。わたしと彼女を除く全ての動きが停止した。

 

「『時間を操る程度の能力』。…うん、確かに何でもありだ。けれど、何かに締め付けられる気分でもある。乱用は控えとこ」

 

三歩横へ歩いてスキマの前から離れ、時間停止を解除する。再び動き出す世界。スキマは何もない空間を虚しく喰らった。

『千里先まで見通す程度の能力』を左目に付与し、苦い顔を浮かべる八雲紫を間近で見遣る。空間把握と違って視点を一ヶ所に定めることが出来るのはいい。しかし、わざわざ使うまでもないかなと思い、左目を元に戻した。

『火を操る程度の能力』『炎を扱う程度の能力』『ものを燃やす程度の能力』『発火させる程度の能力』など炎系統の能力をいくつか試し、どれも似たり寄ったりだなぁ…、という感想を抱いているところで、開き始めたスキマに気付いた。開いたスキマを見上げていると、そこから八雲紫が現れて優雅に腰を下ろす。だが、その表情はあまり優雅とは言い難いものだった。

 

「…貴女、まさか全幻想郷民の力を振るえるとでも?」

「いいえ、二人だけ除いてる。一人目は博麗霊夢。そして、もう一人は貴女だ」

 

流石にこれからやろうと思っている相手と今やっている相手の精神を貰うのはどうかと思うからね。貴女に勝った暁には、貴女の精神を貰うとしますよ。使うかどうかは知らんけど。

 

「どうかな?全ての代替品と化したわたしは?」

「最高よ」

「それはよかった」

 

わたしの成れの果てはお気に召したらしい。わたしは気に食わないが。…まぁ、いい。

わたしは記録に則り、呪文を唱える。精霊に対する強制命令。わたしでは通じないだろうが、わたしに宿る一つの精神がそれを可能とする。

 

「火水木金土符『賢者の石』」

 

多重に組み込まれた精霊魔術が互いに補い合い、そして強め合いながら八雲紫を襲う。魔力ならぬ妖力が消費されているのだが、やはり精霊を介するだけあって規模の割に消費が軽い。やっぱり便利だなぁ。わたしも使えたらよかったのに。

 

「大したことないわね」

 

精霊魔術が炸裂した跡地を見遣ると、そこには結界を四重に張った八雲紫が佇んでいた。…ま、防御だってされるよね。

 

「きゅっ」

 

ガシャァン、と薄いガラスが割れるような音が四重に響く。極一部の『紅』と違って完全な『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』だ。『目』の数が、そして精度が違う。

防御が空いた瞬間に跳び、肉薄して懐に潜り込む。打撃は碌に効かない?どうせ傷はすぐ治る?知ったことか。

 

「『形や大きさを自在に変える事が出来る程度の能力』と『密と疎を操る程度の能力』。…癪だが『奇跡を起こす程度の能力』で一応補助しとくか」

 

大きく引いた右腕が急激に巨大化、変形、変質する。眼前の獲物を喰らわんとズラリと並ぶ牙。その姿は龍の咢。目を見開く暇があったら避けたほうがいいよ。手加減出来そうにない。既に手じゃあないからね。

ガヂン、と噛み合わさった牙が鳴る。…口の中に触感がない。ちっ、逃げたか。奇跡なんぞに頼るもんじゃあないなぁ、やっぱ。

右腕を元に戻しつつ、わたしはふわりと着地する。空間把握の範囲に八雲紫らしき存在はいるのだが、やけに遠い。旧都のほぼ端じゃあないか。

『距離を操る程度の能力』を使用し、現在地と八雲紫の位置を結び、その距離を大幅に縮める。そして一歩踏み出した。

 

「…あれ?」

 

届いてない。半分程度しか進んでいない。能力は問題なく使用出来ている。だが、いくら足を踏み出しても一向に八雲紫との距離が詰まらない。むしろ、徐々に近付き辛くなっている。

そして、今更になって空間把握の範囲が縮小していることに気付いた。具体的に言うと、わたしが先程結んだ点を中心として八雲紫に向かって三分の二程度の半径の球体状に把握出来る程度。…いや、徐々に拡がってはいるが、これも一向に八雲紫まで届かない。

 

「…ようやく、貴女を捕らえたわ」

 

そんな八雲紫の隠しきれていない歓喜が内包された言葉がわたしの鼓膜を揺らした。

 


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