東方幻影人   作:藍薔薇

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第44話

「うぅ~、弾幕ごっこなのに殴ったり私をぶつけたり箒振り回したり…」

「いいじゃないですか、個性的で。それに、もう終わったことですから引っ張らないでくださいな。それよりわたし、訊きたいことがあるんですよ」

「……何?」

「まずは、最近あったおかしなこととかないですか?冬が長引く理由になりそうなもの」

「一応言っておくけれど、私は冬を楽しんでいただけだよ?」

「知ってますよ。自分で言ってましたからね」

「あとは…、特にないかな」

 

うーん、霊夢さんの勘を信じるなら手がかりになるものがここら辺にあるんだけどなあ…。

 

「じゃあ言い換えようかな。春が来ない理由とか知ってる?」

「さあ?春告精が来ないからじゃない?」

「春告精?」

「春が来ることを教えてくれる妖精。この子を見たら私は春眠を始めるの。――あ、そうだ。そういえば変なの拾ったんだよね」

「え?ちょっと見せてもらっても?」

「私には必要ないしあげるわよ」

 

そう言われて手渡されたものは、瑞々しい花びらだった。こんな寒いところに花びらだけが萎れることなく残っているのは何とも不思議である。

 

「ありがとうございます。次、というより最後になりますね。貴女はわたし以外のドッペルゲンガーについて知っていそうですね。些細なことでもいいから教えてくれると嬉しいんですが」

 

もし、本当にいるとすると、そのドッペルゲンガーが人間の里に行ってしまったらわたしと勘違いされて処刑されてしまう。もし、そのことを知ってしまうことがあったら目覚めが悪い。

 

「ええー、あんまり覚えてないし教えたくなーい」

「お断りって言ったことを引き摺ってるならそんな荷物捨ててくださいよ。どんな僅かなことでもいいんですから」

「どうしてそんな必死なんだか…。まあちょっとだけなら。私の知ってるドッペルゲンガーはもっと大人しいって言うか無口でフラフラしてるんだけど」

「無口?フラフラ?」

「探そうと思うなら苦労すると思うわよ?」

「…?はあ、そうなんですか?」

 

苦労するとは思えないんだけどなあ…。自分と同じ顔をしている妖怪を探すだけなのに。けれど、そのドッペルゲンガーをわたしが見たときはどのような顔に見えるのだろうか。わたしの素の顔が映るのか、それとも鏡を挟んだように互い違いに映しあってしまっておかしなことになってしまうのか…。

 

「それじゃあ、冬を終わらせるのならさっさと終わらせてね~」

「あ、はい。それでは」

 

そう言うと何処かへ飛んで行ってしまった。手渡された不思議な花びらを眺めていたら、いきなり背中を叩かれた。

 

「宣言通りだな」

「ええ、宣言通りです」

 

弾幕を消し飛ばすのと被弾零。しっかりと宣言した通りだ。多少は実力を認めてくれたようで、その表情から嫌悪は感じなかった。

 

「何の宣言か知らないけど、さっき何か渡されたでしょ?見せなさい」

「え?ああ、これですか?萎れていない不思議な花びらですよ」

「…萎れない花びら、ね。何か関係はありそうだけど、今は何も分からないわね。返すけれど、無くさないでね」

「はい、分かりました」

 

うーん、この花びらが手がかりになるのかな…?持っていると不思議と温かくなってきたような気がする。

 

「おい幻香、ちょっと私にも見せてくれよ」

「どうぞー」

「……やっぱり似てるな」

「…?何にです?」

「いや、家の前にこれと同じようなやつが落ちてたんだ。この異変と関係あると思って一応持って来てるんだが。ほれ、返すぜ」

「うーん…。これを五枚集めれば春になると思いますか?」

「そもそも桜の花びらは五枚ってわけでもないぜ?種類によっちゃあ十枚超えるやつもある」

「じゃあたくさん集めれば?」

「さあな。おっと、もう霊夢がイラついてるぜ。こりゃとっとと切り上げたほうがよさそうだ」

 

焚火に雪を被せてしっかりと鎮火しておく。その辺の木に燃え移ったりしたら大変だからね。

 

「松明として持っていかなくてよかったのですか?」

「レティさんが行っちゃったから耐えれないほどでもないかなと。それに火打石はあるから枝さえあればいつでも作れますし」

「そうですね。それでは行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

「で、次は何処に?」

「そうねえ…、何処に――あれ?こんなところに里なんかあったっけ?」

「え…?さ、里…!?」

 

そう言われて周りを見渡してみると家、家、家。中から生活音が全くしないので、どうやらこの辺りに人間はいないようだ。つまり、人間の里ではない、と思う。

 

「おいおい、ここは人間みたいなのが棲みそうだなあ」

「みたいの、ですか?」

「ああ、猫とか犬とか狐とかな。空き家があったら我が物顔で棲みつくぜ」

「わたしの家って結構開けていることが多いですが、そういう動物は来ませんねえ」

「魔法の森にそんな棲みつくような動物居ねえよ。それに、動物は完全に気配だとか匂いだとかが抜けてないとまず棲みつかない」

「なら安心ですね」

 

家に置かれている食料を盗られることはなさそうでよかった。まあ、盗られても問題なさそうな量しかないときのほうが多いような気がするけど。

真っ直ぐ飛び続けること十数分。人間の里ならこの速度で進み続ければ端から端へ飛べるほどだろうか。この里が特別広いのか、それとも――。

 

「おかしいですね?そろそろ里を抜けてもいいと思うんですが」

「…もしかして迷ったかしら?」

「えぇー……」

「ここに迷い込んだら最後!」

「あ、何か知ってそうな人が――ん?何処かで見たような?」

 

まあいいや。化け猫の類は里に入れた頃にたまに見ていたから、それの誰かに似ていたのだろう。

 

「それはともかく迷い家へようこそ」

「霊夢さん、迷い家って何です?」

「迷い込んだら偶然見つけることがある廃屋」

「つまり?」

「迷い込んだら最後、二度と戻れないわ!」

 

真っ直ぐ飛んでいたつもりなんだけれどなあ…。

 

「どうして迷ったんでしょうね?」

「吹雪で視界悪いからだろ」

「風が強いのでふらついて方向がいつの間にかずれてしまったのでは?風向きも大分変わっていますし」

「まあ、霊夢さんに付いて行ったのでわたし達が迷った理由は霊夢さんになるんでしょうけれど」

「ちょっと聞き捨てならないこと言うじゃない。確かに迷ったけれど、迷い家に着くのは幸運なのよ?」

 

迷ったのに幸運?迷い家に何かあるのかな?

 

「迷い家に何があるかは知りませんがあの化け猫、どうします?」

「私がやりましょう」

「お、前やった時より出来るようになってるのか?」

「さあ?どうでしょうね」

 

咲夜さんが何処からともなくナイフを取り出し、化け猫に対峙する。霊夢さんは既に近くの空き家の屋根に座って観戦する気満々のようである。

 

「これだけ寒いなら猫は大人しく炬燵に丸くなっていればいいのに」

「そんな迷信信じちゃ駄目だよ!」

 

炬燵か…。今年の冬は寒かったから、次の冬が来るまでに慧音と妹紅さんに相談して炬燵を作ってもいいかもしれない。実物があれば楽だけど。

 

「大体野良猫はどうするのよ」

「大人しく保健所に駆逐されればいいんじゃないかしら?浄土の世界は暖かそうだし」

「人間が?私達を?無理無理、絶対無理。あんなのが私達に盾突こうなんて」

「そう、なら試してみる?スペルカード戦を申し込むわ。被弾三回、スペルカードは三枚でいいかしら?」

「かまわないよ?人間なんかが勝てるわけないんだし」

 

ここにいては邪魔になると思い、霊夢さんの隣に腰を下ろした。魔理沙さんも同じように待機する。

鋭く三本のナイフを投げ、化け猫がそれを避けつつ真っ赤な弾幕が花開く。さて、咲夜さんはどんなスペルカードを使うのだろう?楽しみだなあ…。

 


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