東方幻影人   作:藍薔薇

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香織視点。
知的生命体が創られてすぐの小話。


戦え、競え、そして勝て

主様は世界に空けられた穴を塞ぎ終え、今はこの世界の様々なところに知的生命体を創り終えました。主様はとても楽しそう。世界はこれから大きく動こうとしています。

 

「…はぁ」

「…ぅう」

 

けれど、私はそれを素直に喜べる気分じゃなかった。隣にいる真白も、私と同じように沈んでいる。私達は突然襲来した者にいとも容易く殺されてしまった。私は、私達は、無力です…。

ふと主様が何か考え事をしていると、突然現れたヘカーティアと嫌な顔をしながら話し始める。それを見て、私はそっと目を地面に逸らした。

 

「…ねぇ」

「何ですか…?」

「…弱いね。…私達」

「ですねー…」

 

真白の声に対し、半ば上の空のまま答える。私達の口は再び閉ざされ、何かするでもなく落ち込んでいた。挫折。私は折れてしまったのだ。

塞ぎ込んだまま、昼と夜が二、三度回る。思い返すのは、私達がこの世界でやって来たこと。あの頃は、ただひたすら二人で競い合っていた。主様の従者として私の方が優れているんだー、って示したかったんだ。

 

「あーあ。一番とか、二番とか、馬鹿みたいですよねー…っ」

「…うん」

 

けれど、駄目だ。成す術もなかった。何も出来なかった。私達の身体は粉微塵になって辺りにぶちまけられたのだ。主様のために私がするべきこが、何一つ出来なかったのだ。こんなに悲しいことはない。

 

「もっと、強くなりたいなぁ…」

「…うん」

「もっと、強くならなきゃなぁ…」

「…うん」

「私達二人なら、なんとかなったかな…?」

「…ううん」

 

分かってる。二人いても、意味なんてなかった。羽虫の一匹や二匹、大して変わらないようなもの。私達は、あまりにも弱過ぎた…。

何をするかも思い付かず、ぼんやりとした目で地上を見下ろした。主様によって創られた知的生命体が、至る所にいくつかの集団を形成していた。彼らは、早くも自分達が生きる場所を作り始めていた。生きる糧を得るために動き出していた。

それを見ていると、目の前が少しだけ、ほんの少しだけ明るくなったような、そんな気がした。

 

「けれど、私達なら…、十や百じゃない私達なら、変わるかな?」

「…分かんない。けど、やろう」

「うん、やろう。だから、まずは私達二人でっ!」

 

あそこには、希望の種が無数に芽吹いているのだから。

 

 

 

 

 

 

傷心からようやく復帰し始めた矢先、珍しく主様が私達に命じました。曰く、住む場所創るの忘れてたから貴女達で用意してみて、とのこと。確かに、主様はこの世界でずっと野晒し生活でしたね…。しかし、どうして私達に命じられたのでしょうか…?

 

「ま、そんなの関係ないですけどねっ」

「…期限、三十日。…長い?…短い?」

「どうなんでしょう?けれど、建てるならやっぱり主様に相応しい豪華な社がいいですよねっ」

「…どうする?」

 

そう言われても、私達には主様のような創造能力はありません。せいぜい、既に存在するものを加工するくらいしか…。しかも、私達二人だけでは間に合うか心配です。

 

「なら、皆に協力してもらいましょう!」

「…皆?」

「ここにいる、主様の世界を生きる皆に!」

 

…そうです!私達二人だから不安なんですよっ!ここには希望の種が何百何千といるではありませんか!

見渡せば、拙いながらも集落を形成している集団がいくつもある。彼ら彼女らに協力してもらって、それはもう素晴らしい社を作るのですっ!

 

「私はこっち側へ話に行きますから、真白は反対側をっ!」

「…分かった。それじゃ、行ってくる」

 

パン、と右手を合わせて私達は二手に分かれました。そして、私は少し飛んだ先にある集落へと急降下。中心にあった広場に派手な音を立てて着地し、軽く周辺を見回す。…おぅ、視線がたくさん。

しばらくその場で佇んでいると、色黒な大男が威圧的な雰囲気を纏いながら私の元へ近付いてきました。きっと、この集落で最も地位が高いものなのでしょう。多分。

 

「オゥオゥ!何もんだテメー!」

「香織です」

 

グイ、と顔を近づけてくる大男に微笑みながら私の名を名乗る。主様の名を継いだ、大切な名前を。

 

「俺は豪だ!んで、香織さんよぉ…。突然落ちて何の用だ、アァン!?」

「主様が住む場所を建てたいんですっ。それはもう、立派な社をっ!」

「ほぉーぅ、立派な?」

「立派な!」

 

そう言うと、豪と名乗った方はニヤリと頬を大きく吊り上げた。そして、グルリと私に背中を向け、周囲の人々へ声を張り上げる。

 

「野郎共ォ!我らが創造主様の住まう社、建ててやろうじゃあねぇかぁ!」

「「「オォーッ!」」」

 

よかった。ここの集落の協力は得られそうです。さて、私はさらなる協力を得るために次の集落へと向かうことにしましょう。

 

「それでは、よろしくお願いしますね、豪さんっ!」

「オゥ!任しときな!」

 

力強い言葉を受けて、私は次の集落へと飛び立ちました。次の集落も協力してくれたら、それはとっても嬉しいなっ!

 

 

 

 

 

 

そうやって、私達は二日ほどかけて全ての集落を飛び回り、そして全ての集落から協力を得られました!皆が皆、主様のために社を建ててくれるのですっ!

 

「あ、あれー…?」

「…おかしい」

 

けれど、それはそれぞれの集落で、でした。おかしい…。私の考えでは、皆が協力し合って一つの素晴らしい社を建設するつもりだったのに…。

けれど、既に基礎部分まで作り終えてしまった集落もあり、これを崩してください、なんてとても頼めません。

 

「真白、どうしましょうっ!?」

「…これは、どうしようもない…?」

 

目を逸らさないでっ!…あぁ、やっぱりこっち見ないでっ!違うんです!こんなつもりじゃなかったんですっ!説明不足だったのは認めますから!

頭の中がグルグルと回ってしまう。えぇと、どうしたらいいんでしょう?どうすればいいんでしょう?ここから私達がたった一つを選ぶなんて、他の集落に申し訳ないです。だけど、どれも使わず新しく建てましょう、だなんてとてもとても…。

そんな時、ピカン、と一つの閃きが浮かびました。

 

「私達が選ぶから迷うんですっ!ここは皆に選んでもらいましょうっ!」

「…どうやって?」

「決まってるじゃないですか。戦って、勝ち残った集落にですよっ」

 

けれど、私の中では少し違う理由でこうしようと思い浮かんだ。私達二人じゃ駄目だった。だから、皆で強くなってもらおう。そのために、皆で競い合って、皆で高め合って、皆で強め合って…。

そうすれば、二度と主様に無様を晒すことはないと思うから。

 

「すぅー…っ」

 

大きく息を吸う。肺と喉に意識を集中させると、その部位が普段とは比べ物にならないほど強化される。

 

「皆の衆ーッ!」

「…っ!」

 

叫んだ。それはもう、思い切り。全力で。隣にいた真白が耳を塞ぎながら私を睨んでいるけれど、こればかりは許してほしい。ごめんねっ。

 

「主様の住まう社は、貴方達が決めるんだーッ!」

 

すると、近くの集落から喝采が聞こえてくる。きっと、遠くの集落にも届いているはずだ。

 

「戦え!競え!そして勝て!勝者に栄光を授けようーッ!」

 

 

 

 

 

 

「ふざけんな」

「「…ごめんなさい」」

 

絶賛反省中です…。二人並んで綺麗に正座。主様、かなり本気で怒ってますよね。これは…?

 

「別にね、それぞれの場所で社を作らせて競わせることは構わないんだ。けれどさ、戦死者が出たんだよ、戦死者が!それも一人や二人じゃなくて、集団丸ごとだよ!せっかく創造した生命を、魂を昨日の今日でこれだけ散らせたのは流石にわたしも怒るよ…?」

 

はい、私もここまで過激な結果になるとは思っていなかったんです…。煽った私が何言ってるんだ、って言われそうですね。本当に、本っ当にごめんなさい…。

目をきつく瞑り俯いていると、私の額からこつり、と軽い音がした。目を開いてみると、目の前には主様の握り締めた拳。ほんの少しだけ痛む額に触れていると、隣の真白にもこつりと握り拳が当たった。そして、大きなため息を吐きました。

 

「…まぁ、結果がどうであれ貴女達に任せたのはわたしだ。だから、これ以上は言わない。後は自分達で反省して」

「…はい」

「…うん」

 

そう言うと、主様は地上へと下りていきました。その途中でヘカーティアが主様の元に現れましたが、それよりも反省です。

最終的に、主様が全集落に蘇生を行う巫女を創りに回ったそうです。面倒をかけて申し訳ありませんでしたっ!

 


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