東方幻影人   作:藍薔薇

5 / 474
第5話

バギャアァッ!という爆砕音で目が覚めた。目に飛び込む景色が普段と違って、本棚だらけで驚いたが、大図書館に泊まらせてもらったことを思い出す。

それにしても、何なんだろうさっきの轟音?近くにいたパチュリーさんに聞いてみようかな。

 

「おはようございます」

「ええ、おはよう。申し訳ないけれど、朝食はちょっと出せそうにないわ」

 

昨日とは違って、息が詰まるような雰囲気を放っている。

 

「何があったんですか?」

「…どうやら、襲撃者が現れたそうよ。美鈴がやられたわ」

「え?あの凄い蹴りを放った門番さんが?」

 

あれだけの体術が出来るなら、負けるとは思えないんだけど…。

 

「スペルカード戦を挑まれたみたい。彼女、あんまり得意ではなかったはずだから」

「そうなんですか…」

「とりあえずここで待機していたほうがいいわ。単独で出会ったら何をされるか分からない」

 

どうやら、かなり面倒なことに巻き込まれてしまったようです。とりあえず布団をたたんで、複製を創る。昨日は諦めかけたけど、頑張ってお持ち帰りするんだ。凄い寝心地良かったし。

少し落ち着いてから、詳しく聞いてみると、紅い霧を止めようと各所を探して回っている人が襲撃してきたそうだ。おそらく、ここにいる誰かが原因ではないかと当たりを付けているだろうとのこと。その襲撃者との応戦に妖精メイドさんのほとんどが使われていると言っていた。だから、朝食を準備することは難しいと。襲撃者に攻撃されないようにこの大図書館から出ないようにしてほしい、と最後に言われた。

大体事情が分かったので、大人しく待機していることにするが、昨日と同じ服を着続けているのは、あまり好ましい状況ではない。やはり妖精メイドさんのメイド服を頂戴するしかないな…。しかし、周りには見当たらない。残念…。

少し待ったら、相当慌てた様子の妖精メイドさんが軽食を持ってきた。クッキーのような調理をせずに済むものだったので、その時間すら惜しいのだろう。パチュリーさんと軽食を分け合いながら、妖精メイドさんをちょっと呼び止め、メイド服を掴み複製する。うん、なかなか上手く出来てる。外見に違いはほとんどない。妖精メイドさんに「ありがと」といったら「いえいえ」と笑って返された。こんな非常事態でも、笑顔を絶やさない妖精メイドさんに少しほっこりした。

メイド服を手に、本棚の陰に隠れて着替えることにする。着方が分からなかったけれど、無理矢理着た。さっきまで着ていた服は、妖力として回収した。襲撃者に会ってしまった時のために、妖力は少しでも多いほうがいい。

本棚の陰からから出てパチュリーさんに現状を聞こうとしたら、突然出入口の扉が爆発した。煙の中から、二人の人が歩いて入ってくる。一人は紅白の巫女服を着た女性――紅白巫女と呼ぼう――、もう片方は黒の三角帽に黒の服、その上に白いエプロンを着ている女性で、いかにも魔法使いらしい服装だ――白黒魔女と呼ぼう――。

 

「扉はちゃんと開けるものですよ…」

「ちゃんとノックしたじゃない」

 

あれはノックとは言わないよ、紅白巫女さん…。

 

「お、いい本がたくさんあるな!後で貰ってくか」

「持ってかないでー」

「持ってくぜ」

 

司書であるパチュリーさんの前で堂々と泥棒宣言。勇気あるなあ…、あ、わたしも言ってたわ。

視線をキョロキョロと動かし、わたしに気付いた白黒魔女さんが、少し驚いた顔を浮かべた。そして、わたしに人差し指を向ける。

 

「あー!魔法の森でたまに見るそっくりヤロー!」

「は?何言ってんの、どこがアンタにそっくりなのよ」

 

事情を知らなければ確実に混乱するだろう襲撃者二人の会話。このまま喧嘩で同士討ちしないかなー…、しないな。

気にせず話を進めることにしよう。笑顔を浮かべて話しかけることを心がける。

 

「ここに何の用ですか?」

「紅い霧の首謀者退治よ。さっさと出しなさい」

「ここにはいないわよ」

「なら、アンタらから聞き出すまでだな!」

 

そう言ってすぐ白黒魔女がわたしに話しかけてきた。

 

「アンタ、こんなところで働いてたんだな。知らなかったぜ」

「いえ、違いますよ?」

「その服、ここのメイド服だろ?誤魔化すならもうちょっとマシな言葉にしたほうがいいぜ?」

「あ」

 

しまった。着替えたことが余計な誤解を生むことに…。

すると、パチュリーさんが白黒魔女を睨みつつ口を開いた。

 

「彼女はお客さんよ。あなた達と違ってね」

「おー、アンタも誤魔化すつもりか?」

「そんなメイドなんかどうでもいいじゃない、スペルカードでまとめてぶっ潰してやるわ!」

 

やはり出してきたか、スペルカード戦…。門番をそれで突破した、と聞いた時から出会ったらやることになるだろうと思っていたけれど、実際やるとなると手足が震えてくる。武者震いではないほうで。

そんな私をパチュリーさんが一瞥して、わたしを庇うように腕を出した。

 

「彼女はあくまでお客さんよ。やるなら私が二人ともやってやるわ」

「ふうん、庇うぐらいなんだしソイツが首謀者かもしれないわね。見逃すわけにはいかないわ」

 

どうしよう!このままだと襲撃者二人とパチュリーさんが戦うことになる。パチュリーさんは喘息持ちだから激しい運動は得意ではないだろうし、相手はあの門番さんも倒すほどの実力者。一人では明らかに荷が重いと思う。

なら、私のやるべきことは一つだけだ。パチュリーさんの腕を除けて前に出る。

 

「いえ、パチュリーさん。白黒魔女はわたしがやりますよ」

「貴女まだ…」

「百も承知です。わたしはパチュリーさんに無茶させたくないだけですから」

 

そう言うと、パチュリーさんは納得したようで紅白巫女に視線を向けた。わたしは白黒魔女に歩を進める。ついでに、ちょっとした挑発のつもりで彼女の三角帽を複製して被る。遠目で見たから再現度は低いが、気にしない。今着ているメイド服は、黒ベースで白エプロン。つまり、白黒魔女さんと色合いが似ている。そっくりヤローというくらいだから、似ている姿があまり好きではないだろうと思う。

 

「おまっ!そんなことして私の親戚と思われたら迷惑なんだよ!」

 

うん、似ているのがあんまり好きではなさそうだ。よし、挑発をしよう。する理由は十分にあるのだから。

 

「そう思うのはあなただけですよ襲撃者2号」

「私は襲撃者じゃない。霧雨魔理沙、ただの魔法使いだぜ」

「そうですか。ならわたしは五月雨魔理奈としましょうか」

「だー!そんないかにも『今決めました』って名前名乗るんじゃねーよ!しかも私そっくりの!」

「そうカリカリしないでくださいよ、カリウム採りましょ」

「カルシウムだろ!あーっ、私と同じ顔して落ち着かねーっ、さっさと始めるぞ!」

「被弾3回、スペルカード3枚でいいですね?」

「あー、いいよ!瞬殺してやるからな!そっくりヤローッ!」

「その言葉!そのまま返してやるわ!泥棒魔女!」

 

挑発の目的は、意識をパチュリーさんから外すことと、相手の集中力を欠くこと。これは成功したと見ていいだろう。

霧雨さんは竹箒に跨り、宙に浮かぶ。私を見る目には、明確に怒気が含まれているのを感じる。ヤバい、勢いに任せて挑発しすぎたかも?

わたしは慄きつつ、戦闘用妖力塊――わたしはこれを『幻』と呼んでいる――を周りに創りだす。相手の現在位置の近くを通ることで移動を妨害する、阻害弾用を4個、追尾弾用、直進弾用、炸裂弾用を各2個ずつの計10個だ。まだまだ増やせるけれど、少しずつ増やしたほうがいいだろう。

さあ、初めてのスペルカード戦。最初から勝てるとは思っていない。が、最初から勝てるようなのもいないと思う。ならば、勝てないくらいが丁度いい。だけど、それなりの悪あがきはさせてもらいましょうか!

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。