東方幻影人   作:藍薔薇

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第51話

「あぁー、痛たた…」

「大丈夫ですか?幻香さん」

「ん?治癒っぽいことは出来るから大丈夫、かな?」

 

被弾した個所に手を添えて妖力を流す。被弾した場所の痛みは引いたが、未だに頭痛が引かない。このスペルカードは要検討かな?自分の意識が端のほうへ押し込まれて別の何かが詰め込まれたような感覚。自分の体を動かそうとして別の何かが動き出すような違和感。もし次使う時が来るなら、二体までにしておきたい。

 

「それに、顔色が悪いようですが…」

「あー…、妖力使い過ぎたからかも」

 

咲夜さんから見て顔色が悪いってことは、わたしの顔色の悪さ加減が咲夜さんの顔に反映されているのか、咲夜さん本人の顔色が悪いのか…。うん、前者ですね。咲夜さんは何処からどう見ても健康そのものだし。

複製を創る際に過剰な妖力を入れる。正直、これだけで動かせるとは自分でも驚きだったのだが、今考えてみれば一体に対する妖力使用量が多すぎた。もう少し減らしてもよかった気がする。この辺りの調整も把握しないと損しかしなさそうだ。

この辺りは暖かいので、肩から先の袖を回収する。ほんの僅かかもしれないが、気分的にはマシになった。

突然後ろから肩を掴まれた。驚きつつも振り返ると破顔した魔理沙さんがいた。

 

「よっ!なかなかいい作戦だったぜ!」

「そうですか?もうちょっと考える時間があればもっといいのが思いつくと思いますけど…」

「私がいい作戦だって言ってるんだからそれでいいんだよ!」

 

無茶苦茶な…、と思いながら話をしていたら、霊夢さんもこっちにやってきた。…うん?なんか顔が…。

 

「ちょっと魔理沙ァ!」

「ウゲッ!何すんだ霊夢!」

 

物凄い形相の霊夢さんが即行で魔理沙さんの胸倉を掴みあげる。おおう、これが噂の般若ってやつか…?これは、近づいたら駄目なやつだ…。

 

「私がいたのに放つか普通!」

「霊夢なら大丈夫だって信じてたぜっ!」

 

確かにそうかもしれないけれど、本人の前で言うか普通。それに思い切り右手の親指を立てているし、とてもいい笑顔だ。当然、悪い意味で。

 

「アンタねぇ…!」

「痛っ!おまっ、霊夢!分かった!私が悪かった!」

「分かればいいのよ、分かれば…ね?」

 

そう言って手を離すと、魔理沙さんは咳き込んだ。どれだけ力込めたのよ霊夢さん…。

 

「おいお前達…」

 

突然、ルナサさんがこちらへフラフラと近づいてきた。正直言って、今にも倒れてしまいそうな感じだ。他二人は、と思ったらどうやら気絶しているようである。

 

「何かしら?」

「私達を倒して、何をするつもりだ…?」

「あ?聞いてなかったのか?」

 

確か、魔理沙さんはお宝探しだっけ?

 

「花見しに行くんだよ。これからは人様の話を聞き逃さないようにな?」

「そうね。お花見楽しみですもの」

「肴は準備出来るかしら?」

「出来るんじゃないですか?お花見、楽しみですね」

 

ルナサさんの横を通り過ぎながらそう語りかける。三人はそのまま穴のほうへと向かったが、わたしは隣で一度止まった。

 

「ま、こっち側のだけど…ね?」

 

そう言ってすぐにこめかみに向かって最速の裏拳を放つ。グゥ…、と言った呻き声と共にルナサさんは倒れた。

 

「何してんの!早く行くわよ!」

「あっ、すみませーん!」

「残党狩りなんかしなくていいだろ?」

「いやー『邪魔者は放置するな』って言われてるものでして」

「…邪魔者か?」

「わたしにとっては」

 

まあ言われたことなんかないんですけどね。けれど、起き上がって穴に入ってきて挟み撃ち、なんてことにはなりたくない。

 

「嘘はいけませんよ、幻香さん?」

「…何で分かるんですか咲夜さん…」

 

 

 

 

 

 

穴の向こう側は薄暗く、何故だか長居してはいけないような気がする場所だった。目の前には向こう側が見えないほど長い階段があり、この先に黒幕がいるはずだと歩き出す。

 

「霊夢さん、これ何ですか?」

 

白くて細長く実体がなさそうな何かを指差す。さっきから近くを通り過ぎる度にヒヤリとして鬱陶しい。

 

「幽霊」

「幽霊?つまりここって」

「そうね。多分冥界」

 

冥界って死者が来る場所だったはず…。わたし達大丈夫かな?

 

「多分生きてるから大丈夫だろ」

「多分…」

「間違いなく生きてるから大丈夫よ」

「証拠は?」

「さあ?」

「ないんですか…」

 

とりあえず、生きているってことにしておこう。そう自分に言い聞かせながら階段を上ること数分。ようやく開けた場所に着いた。

そこには、白髪の少女が一人いた。近くには幽霊が浮かんでいて、腰に二本帯刀している。その少女がわたし達を見て嫌そうな顔を浮かべながら口を開いた。

 

「皆が騒がしいと思ったら生きた人間達だったのね」

「生きた、ってことは本当に冥界なのね」

 

どうやら本当に冥界らしい。そう考えていたら、いきなり居合いの構えを取り出した。

 

「ちょうどいい。貴女達のなけなしの春を全て頂くわ!」

「あっ、いいですよ?」

「え?」

 

まさか本当に貰える、なんて考えてなかったのだろう。素っ頓狂な声を上げて呆けている。

 

「おい幻香!本当に――もがっ」

「ちょっと静かにしててくださいな」

「ナイス咲夜さん」

 

咲夜さんの速やかな対応に感謝しつつ、春と呼ばれる花びらをつまみながら少女へ歩み寄る。

 

「はいどうぞ」

「え、あ、ありがとう…?」

 

そして少女の斜め前で止まり、春を手渡した。よし。

 

「春符『炸裂花吹雪』」

「きゃあ!」

 

わたしが宣言した瞬間、少女の手にある春が炸裂する。当然だ。何故ならその春はわたしの複製なのだから。過剰に含んだ妖力をさっきと同じように炸裂弾に全て変化させた。近くにいるわたしにも被害が出ると思ったが、複製、つまり妖力塊を触れれば回収出来るわたしは、自分の放つ弾幕も触れたものから回収することが出来るので無傷だった。

 

「せいっ!」

「痛ッ!」

 

突然春が炸裂したこととそれと同時に現れた弾幕によって少女が驚いている隙に、少女の後頭部に手を添えてから両脛に思い切り蹴りを放った。

 

「ブガッ!?」

 

そして、そのまま後ろに倒れ込む。わたしは空いている手で受け身を取ったのでほとんど被害はないが、少女は勢いよく顔面を地面に叩きつけられた。非常に痛そうである。

後頭部を押さえながら急いで立ち上がり、背中を踏みつける。そして、もう片方の足で右手も踏みつけておく。ただし、動きを封じるためなので必要以上に力は込めない。

 

「さて、三人とも奥へどうぞ」

「そう。行くわよ」

「ええ。頼むわね幻香さん」

「おい!お前はどうすんだよ!」

「決まってるじゃないですか。足止めですよ、足止め」

 

あの騒霊演奏隊とのスペルカード戦で分かった。正直言って、わたしはあまりにも弱い。わたしは脱落したのに対し、二人は全く被弾していないのだから。黒幕に会っても邪魔にしかならなさそうである。

 

「それに、異変は人間が解決するのでしょう?帰りに武勇伝でも聞かせてくださいな。面白いものを期待してますよ?」

「…分かった。負けんなよ?」

 

三人が奥へ行ったことを確認してから、踏んづけている少女に話しかける。

 

「さて、名前は?わたしは鏡宮幻香と言います」

「…魂魄、妖夢」

「目的は?」

「…春を集めて西行妖を満開にすること」

「ふーん…。まあ、このままにしておいてもいいんだけどね。ちょっと賭け事をしよう」

「賭け…?」

 

そう言って魂魄さんの顔の横に春の複製を十枚ほど落とす。

 

「わたしの春を賭けて勝負しましょう」

「……どうせ偽物だろう?」

「けれど、もし持っていたら、を考える貴女は受けざるを得ない」

「くっ…!」

 

歯噛みした嫌な音が聞こえたが、気にせず話を続ける。

 

「まあ受けないならそれなりのことを貴女にしてからこの冥界から出て行こうかと思ってるんですよ。もちろん、今持っているかもしれない春と一緒に。さて、どうします?」

「………分かった」

 

やっぱりね。受ければ確率で春を手に入れることが出来るが、受けなければ確定で手に入らないのだから。

背中と右手から足を離してあげてから賭け事、スペルカード戦を申し込む。

 

「当然賭け事はスペルカード戦。貴女が勝てば春を持ってれば渡しますよ。貴女が調べてもいいです」

「貴女が勝ったら?」

「考えてませんでした。その時決めますよ」

 

正直言って、このスペルカード戦は足止めのためのスペルカード戦。もちろん勝利してもいいのだが、勝負中にあの三人が黒幕を倒してくれてもわたしの勝ちなのだから。

 

「スペルカードは三枚で被弾は三回、至って普通なルールです」

「さっきは油断したが瞬殺してくれる!」

「瞬殺ですか。怖いですねえ…」

「…妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!」

 


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