東方幻影人   作:藍薔薇

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第58話

「頑張るぞー!」

「「「「「「おー!!」」」」」」

「いい!?アタイ達は最強だー!」

「「「「「「「最強だー!」」」」」」」

 

七人が円陣を組んでいるのを見ていると、とても楽しみにしていることが伝わってくる。勝ちとか負けとかにこだわっていない感じが。しかし、そのメンバーを考えてちょっと危機感が芽生えた。

だってさ、ミスティアさんで鳥目、ルーミアちゃんで暗黒、ルナちゃんで無音。これってかなりヤバい状況じゃない?勝てる気がしなくなってきた。

 

「だ、大丈夫ですか?七人も一斉に相手するなんて…」

「大丈夫大丈夫全員に勝ったことあるからいけるいける大丈夫さアハハー」

「全然大丈夫じゃないみたいですね…」

 

大ちゃんに心配されながら、ルールを思い返す。こっちはスペルカード三枚被弾三回。あっちはスペルカード一枚被弾一回。ただし、あっちは被弾しなければ負けじゃない。負けたら弾幕使用禁止、妨害禁止、能力解除。

うーん…、広範囲かつ高威力の一撃を叩きこんで、本人の前で言ったら怒られそうだけど鈍臭いルナちゃんを真っ先に落とせれば勝てるかも。それが駄目なら何とか視認出来る範囲まで接近して殴り飛ばすか…。

けど、これは確実ってわけじゃない。何か、対策が必要かな…。

 

 

 

 

 

 

案の定、開始と共に視界は不明瞭で、音の無い世界へと変貌した。しかし、八目鰻を食べていたからか、そこまで不明瞭というわけではない。月も星も見えないし、七人の姿は見当たらないけれど。

今見える範囲で安全な位置に移動してから『幻』展開。相殺弾用を十五個と撃ちたいときにすぐ放てるように二十個待機させる。相殺弾用からも放てるのだが、わたしの『幻』は一度はなってから少し経たないと次の妖力弾を放てないので、保険にというわけだ。

弾幕を『幻』に任せ、両手に妖力を溜める。それと同時に両腕が淡い紫色に発光し始める。この動作も大分慣れてきたかな…。最初の頃と比べると段違いに速い。

 

()()()()()()()()()()()()!」

 

広範囲と急接近、どっちを選ぶか迷ったわたしは、欲張りにも両方選ぶことにした。

左手に溜めた妖力を後方へ解放する。その妖力はマスタースパークのように勢いよく、しかし必要以上に消費しないように細めに。普段なら自分がその場から動かないようにするのだが、今回は違う。体を妖力の推進力に乗せ、その速度は普段の飛行速度の何倍にも加速する。

迫る弾幕は避けようともせず『幻』の相殺弾に頼る。それでも消し損じたものは待機している『幻』でカバーする。

 

「…()()()!」

「……!?」

 

視界に人影が映った、と思ったときにはその姿が視認出来るほどに接近していた。その表情から感じることは驚愕、そして歓喜。口が動く。多分、スペルカード宣言。

 

「……『……………』!」

 

突如、黄色く輝く妖力弾が現れた。その大きさはかなり大きい。このまま突撃すれば被弾してしまう。障害になるのはリグルちゃんの右側。そこにあるのは邪魔だ。待機している『幻』を使用し、普段は放たないだろう大きさの妖力弾を放つ。『幻』から再度放てるようになるのに少し時間がかかりそうだが、相殺出来たので問題ない。

この勢いのままに蹴りでも放ったら怪我では済まなそうなので、その横を通り過ぎる瞬間に相殺用の『幻』の一つから最速の一撃を放つ。被弾したかは見ることが出来なかったが、ちゃんと当たっているはずだ。…そう思いたい。

二秒ほどそのまま進むが、人影も弾幕も来なくなった。なので左手からの妖力を止め、右手の妖力を解放し、無理矢理方向転換する。体にかかる負荷が凄い。魔理沙さんはよくもまあ平然とこんなことが出来るなぁ、と感心してしまう。

 

()()()()()!」

「……!?」

「………!」

 

目の前に現れたサニーちゃんとスターちゃんに『幻』からの一撃を加える。

 

「…()()()!?」

 

が、妖力弾は二人の姿を何の抵抗も無く貫通し、煙のように消えてしまった。…多分、二人のどちらかの能力を使ったんだろう。前にも突然消えたことがあるし。

仕方ない。二人は放って置こう。また別の機会に撃てばいい。

ある程度進んで見当たらなかったら、妖力を止めて、もう片方の手に溜めた妖力を解放し方向転換。そうすることで場を縦横無尽に駆け回る。

 

()()()!」

「………?」

 

ルーミアちゃんの背中を視認し、即狙撃。被弾したことを何とか視認出来たので、暗黒を使われる心配がなくなった。

しかし、その後はなかなか見つけることが出来なかった。飛んできた弾幕の方向に方向転換しても、既に別の場所へ移っているようだ。

…よし。弾幕の方向なんか気にせず行こう。その方が見つかるような気がしてきた。

 

()()()()()()()!」

「……!?」

 

スペルカード終了まで残り僅か、といったところでルナちゃんを見つけた。右手に残った妖力がもったいないのと、無音の世界を作ったという腹いせにルナちゃんに向かって溜まっている妖力を解放する。

 

「きゃああー!」

「あ、聞こえた」

 

久しぶりに聞く音はルナちゃんの叫び声だった。まあ、あれだけの妖力の濁流をまともに食らえば仕方ないか…。

被弾を確認出来たのはルーミアちゃんとルナちゃん。被弾したかもしれないのはリグルちゃん。もしかしたら、推進力のための妖力に被弾している、なぁんてこともあるかも。

地面をガリガリと削りながら着地。さて、何人残っているかな…?えーと、液体をカップに注ぐ音、フランさんの歓声と拍手、溜め息、会話、咀嚼音、その他たくさん。…分かんないや。

 

「まずいよ、ルナちゃんやられちゃった…」

「えー?ルナがやられるなんていつものことじゃん」

 

ふむ、ミスティアさんの言っていることは正しい。だって、声が聞こえれば、そこに撃てばいいんだから。

 

「うわぁ!危なぁ!見えないって言ってたじゃん!嘘だったの!?」

「見えないはずだよ!だけどねえ、幻香って耳がやたらいいの!声とか飛翔音とか発射音とか服の擦れる音で場所を特定出来るくらいには!」

「えぇ!?それってヤバくない!?」

 

まあ、服の擦れる音で特定出来るのはかなり近くないと駄目なんだよね。妖精って飛ぶときに独特の音を出すのがいるから分かりやすい。

 

「あはは、ミスティアさんとサニーちゃんはいるみたいですね。サニーちゃんの後ろにはスターちゃんも」

「うげっ!バレてるー!」

「私声出してないのに!」

 

…鎌にかけたら簡単に引っかかっちゃった。

 

「アハハ!スターったらお馬鹿なの!?」

「なぁ!?チルノなんか3+5も分からなかったくせに!」

「『かきごおりみずあじ』なんて変なの出したくせに!」

「へへーん!今なら3+5も分かるもんねー!…えーとね、9!」

「…水味?」

 

何それただの氷じゃん…。それと、答は8だよ…。とりあえず、チルノちゃんもいるみたい。

大ちゃんの声が後ろのほうから聞こえてきた。えーと「お勉強ちゃんとさせないと…」か。…頑張れ大ちゃん。

 

「3+5が9!?馬鹿じゃないのー!?」

「何だとー!一番最初に負けたくせにー!」

「何だとー!3+5も分かんないくせにー!」

「ちょ、ちょっと今は止めて!」

「負けたら邪魔しないって約束でしょー?」

 

ふむ、リグルちゃん、ルナちゃん、ルーミアちゃんはちゃんと被弾してたみたい。よかったよかった。

わたしが一枚使ったんだ。残った四人はまだ使っていないから、これから使ってくるはず…。

 

「スター!行くよ!」

「ええ!私達の力、見せつけましょう!」

「日符『アグレッシブライト』!」

「星符『スターライトレイン』!」

 

うん、やっぱり使ってきた。後ろのほうから「あの、私も…」と聞こえたが気にしない。

降り注ぐ妖力弾。だけど、二人合わせてもさっきの禁弾「スターボウブレイク」よりも圧倒的に薄い。

発射音が所々から聞こえる。それは大体円状だ。つまり、その中心にいる!…はず。

 

「あっ!痛い!」

「サニー!?きゃぁ!」

「ふう、スペルカード使用中はそっちに集中しちゃいますからね」

 

弾幕を張ることに意識を向け過ぎれば避けることを怠る。これは自分も経験したことだ。だからよく分かるよ。

 

「ああもう!チルノ!私達も行くよ!」

「よっしゃ行くぞー!」

「はは、二人まとめてかかってきなぁ!」

 

視界に人影が映る。この状況なら接近してくることは殆どない、と思っていたのだがそういうわけでもなかったみたい。

勢い良く腕を振り上げたチルノちゃんがわたしに向かって一直線に飛んでくる。

 

「氷塊『グレートクラッシャー』!」

「複製『グレートクラッシャー』!」

 

氷塊とその複製がぶつかり合い、大きな音を立てて砕け散る。その隙に『幻』から弾幕を放つ。

 

「ふっ!」

「…へぇ、もう出来るようになったんだ」

 

チルノちゃんの目の前に氷が現れる。その中にはわたしの放った妖力弾がそのまま凍っている。そして、その氷は儚く割れた。わたしの妖力弾と共に。

わたしが大ちゃんを通して教えたこと。『避けれないなら止めればいい』。弾幕を凍らせればいいじゃん。動きを止めれば避ける必要はないよ、って。もう出来るようになってたとは驚いた。

 

「けどね、わたしが考えた方法なんだ。対策も既にある!」

 

『幻』から通常の弾幕を放つ。

 

「はぁっ!――え?」

 

そしてすぐに『幻』から細長く、貫通力に特化した針状の弾幕を放つ。それは、目の前にあるわたしの弾幕を包んだ氷を砕きながらチルノちゃんに迫る。中で動きを止めていた弾幕も遮るものが無くなったからか、一緒に飛来する。

 

「うぎゃあ!」

「ふふ、教えられたことからさらに先へ。生き抜くために必要なことですよ」

 

さあ、あとはミスティアちゃんだけだ。正直、ミスティアちゃんのスペルカードは厄介だ。使われる前に片付ける!

 

「こうなったら!『ブラインドナイ――」

 

スペルカードの宣言。その瞬間に弾幕は存在しないことが多い。ミスティアさんも大体そうだ。

なら、声が聞こえた瞬間に一気に距離を詰める。右腕を引き絞りながら。

 

「ハァッ!」

「――えっ!?ちょっ、殴ッ!?」

 

捻りを利かせながら思い切り胴体に向かって拳を叩きこむ。当たった瞬間に引き戻したので痛みはあんまりない、はず。

見上げれば、満天の星空と僅かに欠けた月が美しく輝いている。

 


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