東方幻影人   作:藍薔薇

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第6話

霧雨さんが竹箒に跨りながら、星型の弾幕を放つ。追加で薄緑色のミサイル型の直進弾と青白いレーザーを2本放ってくる。こんなに濃い弾幕を放ってくるなんて想像していなかったよ!わたしの今の弾幕の2倍から3倍はあるよ!そんなわたしの薄い弾幕はほとんど動かず、体を掠めるようにして避けられてしまっている。しかし、わたしはそんな簡単に避けることが出来ない。出来るだけ弾幕の薄い場所に大きく動くように心がける。

 

「はっ!隙だらけだぜ!」

 

すると、高速の星型弾が顔面に向かって飛んでくる。しかし、避ける余裕がない。わたしは反射的に左手で顔を守る。そして――、

 

「なにい!?」

「そんなに急がないで下さいよ。勝負はまだ始まったばかりですよ?」

 

左手に視界に映っていた本棚の本を創りだして――背表紙しか見えなかったので表紙が何も書かれていない――防御する。悪あがき作戦その1だ。幸い、貫通力は低かったので、左手に当たることもなかった。体に当たらなければ被弾にはならなかったはずだから、問題ないよね?

だけどこれは相当分が悪い賭けだった。貫通力が高かったら被弾していたし、そもそもわたしが複製したものが現れる場所は、掌の上か複製しようとしたものの隣だけだ。咄嗟に左手を当たる場所に動かせたからよかったが、間に合わなければ被弾することになったのだ。

真ん中あたりまで抉れた本を妖力として回収してから『幻』を倍に増やす。こんなのは気休めにしかならないと思うけどね。

さっきの防御で霧雨さんが何を思ったのかは知らないが、弾速が速くなった。体感では2倍速ぐらい。もしかしたら、速度を上げれば防御しづらくなると考えたのかもしれない。

そろそろ回避が難しくなってきた。ならば、悪あがき作戦その2!

 

「さらばっ!」

「あっ!てめ!逃げんじゃねー!」

 

逃走!本棚の間の通路に全力で駆け込む。通路が細いから、左右からの攻撃はほとんどなくなり、ほぼ直進系の弾幕しか張れなくなったと言っていいだろう。しかし、細くなった分避けづらいだろうし、頭上からの攻撃には注意しないといけないけどね。

通路の幅は、腕いっぱいに広げたわたし二人分より少し細いくらい。だが、正面にほとんど集中出来るからか、さっきより避けやすい。

 

「面倒くせえ!魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

霧雨さんの1枚目。そのスペルカードは、大型の星型弾を大量展開するというとても分かりやすいものだった。しかし、この細い通路で大型はつらい!通路のほとんどを埋め尽くしてるよ、これ!

たまらず上方に飛んで回避、本棚の上に着地する。しかし、まだスペルカードは続いてるため、間を抜けるように回避をしようとする。が、抜けた先に別の星型弾が迫っていた。咄嗟に飛んで避ける。だが、避けた先にも別のが。これ、この場で避けるの無理そうだな…。避けることを早々に諦めて、遠くへ離れることで広くなった星型弾の間を抜ける。基本的に、スペルカードの時間は30秒らしい。私の感覚では、まだ10秒くらいしか経っていない。しかも、どんどん量が多くなっているような…、うん、多くなってる。しかし、この状況はわたしのスペルカードが生きる状況だ!

 

「鏡符『幽体離脱・静』!」

「うおっ!なんだ!?」

 

瞬間、わたしの視界に映る弾幕が倍になる。私の弾幕も霧雨さんの弾幕もまとめてだ。増えたのは全てわたしの複製で、創られた場所――元の弾の隣――で静止している。そして、相手の弾と複製がぶつかり合って相殺され、こちらに来る弾をかなり消すことにに成功した。相殺されずに残って静止しているものは、回避の邪魔になってくれるだろう、多分。

こっちに弾が来ないうちに追尾弾用『幻』を5個増やす。これで計25個。どこまで出せるかは試したことがないから分からないけれど、あと5個ぐらいで限界だろう。

そしたら、大型星型弾の嵐が止んだ。どうやら時間切れになったようだ。チラッと霧雨さんを確認すると、表情がかなり凄いことになっている。あ、これまずいやつじゃない?

 

「お遊びはここまでだぜ、そっくりヤロー…」

 

霧雨さんの口から、1オクターブ低い言葉が漏れる。その予想を裏切ることなく、弾幕の量は増え――星型弾幕は2倍くらい、ミサイル弾は4倍くらい、レーザーは8本に増えた――、速度はさっきまでのはお遊びだったと言わんばかりに加速している。

すぐに本棚の上から、通路に降りる。すると、霧雨さんは通路の上からドバドバ撃ってくる。咄嗟に本棚から本を引き抜き、頭上を動かしながら複製を繰り返すことで壁を創る。

 

「痛っ!」

 

が、ミサイル弾が呆気なく本を貫通し、わたしの左腕に被弾する。相当痛い。

 

「へっ、被弾1っと!」

 

霧雨さんが何か喋った気がするが、本の回収もせずに急いで通路から抜け出す。ここまで弾幕が濃くなったら、通路より空中のほうが被弾率は低そうだ。

 

 

 

 

 

 

「ふう、勝負ありね」

「コホッ、まいったわ」

 

私と霊夢のスペルカード戦は、お互い被弾はしなかったが、私のスペルカードを全て避けきられたことで勝敗が着いた。しかし、そんなことよりも幻香が心配だ。彼女のほうはどうなっているのだろう?

 

「大丈夫かしら、あの子…」

「ん?あっちまだ終わってないの?」

 

どうやらまだ勝負かついていないようだ。遠くの本棚の上に座り、様子を窺う。

 

「痛っ!」

「へっ!被弾1っと!」

 

どうやら被弾してしまったようだ。相手の白黒魔法使い――霧雨魔理沙と言っていた気がする――の攻撃はかなり激しい。実際、彼女は攻撃を完全に『幻』に任せて、彼女自身は一切攻撃していない。

何時の間にか私の横に霊夢が腰かけ、呟く。

 

「んー?アイツ、避け方が雑ね。まるで素人みたい」

「ええ、実際素人ですもの」

 

返事をされると思っていなかったのか、少し驚いたようだ。

 

「初陣があれじゃあ幻香も大変ね…。氷の妖精と遊ぶ約束をしたって昨日言ってたのに」

「氷の妖精?あー、霧の湖のやつが言ってた約束ってアイツのことだったの」

 

さっきまで勝負をしていたのに、普通に会話をしているこの状況は少し不思議な感じだ。まあ、あちらにとっては、相方の終了を待つ暇潰しかもしれないけど。

 

「それより、さっき言った初陣って本当なの?」

「ええ、そうよ。ついでに、妖力弾の威力と種類、弾幕を一昨日、スペルカードは昨日私と考えたばかり」

「冗談でしょう?さすがに」

「私は嘘はついてないわ。弾幕のほうは知らないけれど、スペルカードは本当よ。一緒に考えて、明日練習しようって約束したの。けど、練習する前に貴女達が来たからアイデアが形になる前ね。もし、スペルカードを使っているならぶっつけ本番というやつね」

 

霊夢は相当驚いたようだ。目は見開かれて、口は軽く開いたままになっている。

会話が少し止まったので、幻香のスペルカード戦のほうを向く。幻香は、本棚の上で出来るだけ弾幕の薄いところを探しながら大きく動いている。しかし、避ける場所が見当たらなくなったのか、相手から遠ざかるように逃げ始めた。

 

「あのくらい避けれないの?普通」

「貴女を基準に考えないの」

 

 

 

 

 

 

まずい。こっちの攻撃全然当たんないよ…。霧雨さんの弾幕はどんどん激しくなってきているから、わたしは避けるのでいっぱいいっぱいだ。悪あがき作戦その3で、25個の『幻』は、撃つ弾の種類を全部炸裂弾に変えた。炸裂すれば、十数個の細かい弾に分裂するから、弾の数だけ見れば、今までで最も多い。だが、誘導弾がないから当たりにくくなっているかもしれない。だけど、どうせ避けられるのだ。しかし、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。量が多ければ、偶然当たる可能性は高くなるだろう。

 

「どうした?真似れるのは顔だけか?」

 

霧雨さんから挑発が飛んできたが、気にしない。ていうか、気にしてられない。こっちは返事をする余裕があったら、避けるのに集中しなきゃいけない。が、避けた先に高速の星型弾が飛んできた。そして三角帽に穴を開け、通路に落ちていった。体に当たってないから被弾ではない。しかし、霧雨さんは発射したであろう指先をわたしに向けつつ、ニヤついているから、挑発のつもりだろう。だけどそんな挑発に乗ってる暇あったらわたしは避けるのに集中しますよ!

近づいて来れば、逃げるように遠ざかることを繰り返す。そうして時間を稼いでいたら、霧雨さんが苛立った顔を浮かべながら、なにやら正八角形のものを取り出した。道具を使ったスペルカードかな?そのまま竹箒の穂に押し付け、口を開く。

 

「彗星『ブレイジングスター』!」

 

すると、竹箒の穂から膨大な魔力が放出され、霧雨さんが白い光を放ちながら急加速してこちらに突撃してくる。咄嗟に横へ跳ぶが、髪の毛が数本持ってかれた。なにあの速度!ていうかあの魔力で壁にとても大きな穴が開いてしまっている。隣の部屋が丸見えだ。修理大変そう…。

そんなのんきなことを考えていたら再びこちらに向かってくる。妖力弾を放ってみるが、すべて弾かれてしまった。このスペルカードの間無敵ってこと?

 

「なら、止めるしかないかな?」

 

私はその場でしゃがみこむ。左手を地面、つまり本棚に置く。そして、霧雨さんがこちらに3度目の突撃をしてきた。その彼女に右手を向ける。

 

「くらえッ!」

 

目の前に腕いっぱいに広げたわたし20人分くらいの幅がある本棚が創り出される。これだけ幅があれば、彼女の突撃が停止して、スペルカードが強制終了になるだろう。

 

「はっ!甘いな!」

「え?」

 

威勢のいい声が本棚の向こうから聞こえてくる。そして、すぐにバギッと木材が粉砕される音が響いた。その音は、止まることなくこちらに近づいてくる。本棚の回収もせずに逃げ出す。複製を創るのは一瞬だが、妖力として還元するのは大きさによって時間が変わる。この大きさだと、2秒か3秒はかかる。そんな悠長なことをしていたら、あの突撃をくらってしまう。

隣の本棚に着地してから見てみると、創った本棚は既に上下に分断されていた。霧雨さんは見当たらない。やばい、見失っちゃった。何処にいっ――

 

「ガハッ!」

 

突然、背中に衝撃が走り、宙を舞う。一瞬、何が起こったのか理解出来なかったが、視界に急停止した霧雨魔理沙の姿が映り、彼女の突進をくらったと理解する。そのまま吹き飛び、3つくらい隣の本棚に落下する。

 

「ふうー、ギリギリだったが、当てれてよかったぜ。被弾2だぜ、もう後はないぞ?」

 

足元がふらつくが、無理矢理立ち上がる。視界が揺れてぼやけているが、知ったことではない。『幻』を限界であろう30個に増やす。すべてを炸裂弾にするのは止めて、阻害とか直進とか追尾とか関係なく、完全なランダムにした。弾速はかなり早めにする。急に弾幕の性質が変われば、少しは動揺して被弾するかもしれないし。

 

 

 

 

 

 

お互いに弾幕を撃ち合い、避け続けて1分ほど経っただろうか、

 

「あっ…!」

 

いきなり私の脚から力が抜ける。それと同時に、全ての『幻』が溶けるように消え去ってしまう。その場で膝を突いてしまうが、このままでは被弾してしまう。動く両手で体をずらし、本棚から落下することで回避する。しかし、着地すらまともに出来なかった。

 

「ハァ…、ハァ…」

 

急いで息を整える。脚が動かなくなった原因はもう分かっている。さっきから弾幕を回避するために大きく動き回っていたし、避けきれないと思えば後方へ移動することを繰り返した。さっきのスペルカードのダメージも脚に来ているだろう。『幻』が消えた原因は、単純に妖力切れだ。妖力弾は撃ち続けていたし、スペルカードでは相当量の弾を複製した。防御のために複製した本は一部回収しなかったし、本棚も回収出来なかった。残された妖力は、生命を維持するためのを除けば、2つか3つ弾が撃てる程度しか残っていない。

動かない脚を鞭打ち、本棚を支えにして無理矢理立ち上がる。すると、前方に彼女が下りてきた。顔にはかなり余裕が浮かんでいる。そらそうだよね。この状況で反撃が来るとは思わないだろうし、実際反撃出来ない。

 

「さて、終わりだな。恋符『マスター――」

 

そういいながら、さっきの正八角形のものをわたしに向けた。おそらく、さっき推進力になっていた膨大な魔力を打ち出すスペルカードなのだろう。

だが、あれだけの攻撃だ。視界は当然狭くなるだろう。右手に一つだけ妖力弾を作る。形は貫通力に特化させるために、可能な限り細く、鋭くする。3-0で終わるよりも、3-1のほうがいいと思うよね?

 

「――スパーク』ッ!」

 

瞬間、視界が白一色に染まる。わたしは右腕を真っ直ぐ伸ばし、針状の妖力弾を撃ち出す。その弾は、魔力の濁流に飲まれることなく進んでくれるだろう。

 

世界が光で埋め尽くされる。そして、スイッチを切り替えるように、わたしは闇に沈んでいった。

 


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