東方幻影人   作:藍薔薇

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第62話

異常な妖力量を持っていると知って、早一ヶ月。もう既に夏といったところかな。蒸し暑くなってきた。

その間、わたしが普段活動する場所にはやたら石ころが増えた。…わたしが増やした。茸狩りしているとき、蛇を捕獲したときに、紅魔館へ行ったときに、霧の湖へ行ったときに、道すがら何処にでもあるような、誰も拾わなさそうな石ころを複製し続けた。そしてそのまま地面に放置。

非常に地味だし、一つ一つの回復量は微々たるものだけど、無いよりはいいかな、と続けている。

 

 

 

 

 

 

昨日食料も採集したし、特にやることないから精霊魔法の基礎でもやろうかと考えていたら、勢いよく扉が開いた。

その音に驚いて、扉に目を遣ると何故か魔理沙さんがいた。

 

「よっ。邪魔するぜ」

「邪魔するなら帰ってください」

「何だよ釣れないなー」

 

わたしの言葉なんか全く気にせず、深々と椅子に腰かけた。しかも、我が物顔で踏ん反り返って。わたしの家にはお茶などないので、汲み置きしてある水をわたしの前に置き、一口飲む。

 

「客に対して何も出さないのかよ。自分だけ飲みやがって」

「…じゃあこれでも飲みます?」

 

水では物足りないと思い、棚に置かれている瓶の一つを手渡す。

 

「お、何だこれ。いい色してるじゃん」

「毒」

「…何の?」

「紫陽花から抽出したものですよ。パチュリー曰く、飲めば嘔吐や痙攣、昏睡や呼吸麻痺なんかが起こるんだそうです。残念ながら実用的じゃあないですね」

「ま、貰っとくぜ」

 

魔理沙さんがスカートの中に瓶を仕舞うのを見届けながら、残りの水を飲み干す。あれを何に使うかちょっと気になる。…決まってなさそうだな。

棚の上には、作ったけれど使わないものがたくさんある。いつか使うかもしれないけれど、今は実用性のないものばかりだ。毒なら接触したら反応するくらいじゃないと使えない。欲を言うならガス状になって舞うなんてのもいい。

 

「ところで、何の用もなしに来たわけではないでしょう?」

「ああ。気になるか?」

「いえそれほど」

 

正直帰ってほしい。早く精霊魔法の基礎をやりたいんだよ、わたしは。

 

「おいおい、そう言うなよ。頼まれた身にもなってくれ」

「頼まれた?…まあ聞きましょう」

「ふぅ、聞き逃すなよ?二日後の夜に宴会するんだ」

「へー、宴会ですか。突然ですね」

「そういうこった。お前も参加するか?」

 

宴会ねえ…。参加する人によるかな。…お酒飲みたくないけど。

とりあえず、場所と参加する予定の人について聞いてみた。

 

「場所は博麗神社。とりあえず来るのは私と霊夢、レミリアと咲夜とパチュリー、アリス、妖夢と幽々子だ」

 

へえ、パチュリーが来るんだ。大図書館から出る必要がないって前は言ってたけど、外にも興味が出てきたのだろうか。きっと、魔理沙さんやアリスさんといった魔法使いに興味があるに違いない。

それと妖夢さんも来るんだ…。背中踏みつけるなんてことしちゃったから、あんまり顔合わせたくないんだけど。この機会に仲直りでも出来たら嬉しいな。

けれど、それよりも気になることがある。

 

「妖夢さん達って冥界から出ても大丈夫なんですか?」

「あー、お前は知らないのか。何でもこっちとあっちの境界が曖昧になったらしくてな」

「…大丈夫なんですか?それ」

「さぁ?誰も文句言ってないし大丈夫だろ」

 

わたし達が冥界に入ったから、ということではないことを願う。

 

「で、どうする?参加するか?」

「お酒飲まないでいいなら」

「おいおい、酒の無い宴会なんて魔法が使えない魔法使い以下だぜ、と言いたいが、そういやお前酒嫌いだったな」

「まあお酒は持っていきますよ?参加してもいいなら」

「よし来た!出来るだけ多めに頼むぜ!何せ無尽蔵に飲む奴がいるからな!」

 

無尽蔵…ですと?大丈夫なのかな…。

 

 

 

 

 

 

「――ということなんだけど、ミスティアさん」

「へえ、幻香が宴会をねえ」

「お酒飲まないけどね」

「お酒嫌いって言ってたもんね」

 

綺麗な星々が夜空を飾る中、屋台の椅子に腰かけている。

 

「それで何しに来たの?何も買わないで椅子に座られるのもちょっとね」

「じゃあ、三本くださいな」

「よしっ!八目鰻三本ね!」

 

一銭銅貨を手渡すと、八目鰻の串刺しを三本取り出し、早速焼き始めた。

 

「で、どうしたいの?」

「お酒持ってなかった。だからお酒を買いに来た」

「…致命的だねえ」

 

二日後、と言われたけれど、お酒なんて持ってなかったことに気付いたのは夕方になった頃。精霊魔法の基礎に集中してて、それ以外のことを考えている余裕なんてなかった。

だから持っていそうな人、ミスティアさんに急遽会いに来たわけだ。

 

「茸、魚、蛇あたりと交換出来たら嬉しいんだけど」

 

今手持ちにある交換材料はこれくらいだ。物々交換に応じてくれるかは知らないけれど…。

 

「うーん…、どれも微妙…」

「美味しいですよ?」

「知ってるけど、屋台では出さないからねぇ」

 

一応物々交換は可能みたいだけれど、お気に召さなかったらしい。

これど、ここの屋台で出すのって八目鰻と名も知らぬお酒だけだよね…。八目鰻とかどうやってとってるか知らないんだけど。せっかく美味しいのを出してるんだから他にも色々出せばいいのに…。

しかし、交換出来ないことにかわりはないのだ。現実を受け止めよう…。

 

「しょうがないかな…。みりんでも持っていくか…」

「みりんって」

「調理酒だし」

「飲むものじゃないでしょう?」

「彼女達なら平然と飲みそうですし」

「飲むんだ…」

 

特に魔理沙さん。勝手なイメージだけどね。

 

「ま、買えないなら何とかしますよ」

 

紅魔館に行ってもらうか?…いや、レミリアさん達も参加するから駄目だろう。慧音か妹紅さんに貰うか?…慧音が来るのは四日後だし、妹紅さんはいつ来るかもわからない。

そんなことを考えながら、ふと目をミスティアさんに向けると、ミスティアさんも何か考えているように見えた。

 

「うーん、幻香は友達だしなー…」

 

今から作る…無理。そもそも作り方知らない。人間の里に入れないのがこれほど面倒だとは…。

突然、木を思い切り叩く音が響き、驚く。な、何事…?

 

「よしっ決めた!これはサービスだよ!」

 

そう言って取り出したのは「雀酒」と書かれた一升瓶。そのままわたしに押し付けてくる。

いや、タダで貰うのってちょっと悪いんだけど…。

 

「いや物々交換しようって」

「いいのいいの!普段一緒に遊んでくれてるお礼なんだから!」

「…そんな気持ちで遊んでるわけじゃあ…」

「じゃあ連勝記録更新中の景品とかってことで!」

 

ここまで言わせてしまったのも悪かったかな…。ミスティアさんの好意を素直に受け取ることにしよう。

 

「すみません、ありがとうございます」

「気にしない気にしない!ほら、焼けたよ!」

「ありがと」

「ふふっ、どういたしまして!」

 

あー、相変わらず美味しいなあ…。けど、実は八目鰻を食べるとどうしても里のことを連想してしまう。刺された腹部に妙な疼きを思い出してしまう。

 

「あとね、この雀酒は私が復活させた伝説のお酒なんだから。味わって飲ませてね」

「…いいんですか?そんな凄そうなの」

「いいの!まだ量産はしてないけれど、これからする予定なんだし。試供品みたいな感じで」

「試供品ですか。それならタダでもよさそうな気がしてきました」

「こうでも言わなきゃ幻香は気にするでしょう?」

「あはは、景品として試供品を受け取った。そう考えることにしますよ」

「ま、効果はお楽しみってことで」

 

ん?効果?このお酒って飲んだら何か起こるの?雀だし、翼でも生えてくるの?何それ怖い。

 


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