東方幻影人   作:藍薔薇

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第70話

「あ、暑っつい…」

 

いよいよ夏本番、といったところか。朝から体中が汗ばむほどの暑さだ。魔法の森というじめついた環境がさらにわたしを不快にする。ああ、切実にチルノちゃんが欲しい…。あの子が近くにいると途端に涼しくなるから。

いつものスープモドキを飲み干し、すぐに外へ出る。室内という閉め切った場所よりも快適だから。…僅かに。

しかし、やることがない。本当にない。やることが思いつくまで、石ころを複製して樹に軽く投げ続けることで暇を潰す。一ヶ所に当て続けるのはなかなか難しい。

 

「あ、そうだ」

 

木の根元に小さな石の山が出来るくらいの時間は考え、霧の湖に行くことにした。あそこは比較的涼しい。それに、チルノちゃんがいればさらに涼しい。

 

「そうと決まれば、っと」

 

近くに生っている果実をいくつかもぎ取り、霧の湖へ向かう。善は急げ、だ。

 

 

 

 

 

 

「あれ、大ちゃんだけ?」

「おはようございます、まどかさん。今日はどんな用で?」

「おはよう、大ちゃん。ちょっと涼みに来ただけなんだけど…」

「ああ…。チルノちゃんなら『カエル退治に行く』と言ってそれっきり…」

「…いつから?」

「えーと、二日前?」

 

カエル退治に二日も必要かな…?いや、そんなはずないと思う。

 

「…もしかして迷った?」

「…かもしれないですねー…」

 

そして苦笑い。心配はしているようだが、何処か諦めたような感じだ。

まあ、チルノちゃんがいないなら別の方法で涼を取る。靴を脱ぎ、両足を湖に入れ、岸に座る。わたしに続いて同じように大ちゃんも座った。ああ、冷たい…。

 

「で、大ちゃんは探さないの?」

「二日くらいならよくあることですし、明日には戻ってくると思いますから」

「戻って来なかったら?」

「探しに行きますけれど…。一緒に探してくれますか?」

「場所によるかな」

 

もしも人間の里にいるようだったら、わたしは絶対に行かない。わざわざ里の人間共と戦闘をしに行くなんて御免だ。

 

「魔法の森のほうへ行ったんですけれど…」

「チルノちゃんは見なかったけれどなぁ…」

 

一昨日は『幻』をより多く出せないか試していた。結果は四十個よりも多くなると妖力弾が不安定になった。ちょっとだけだけど増えたようだ。さらに妖力弾の形状の幅を試していた。結局、色は紫系で形は球体から針状くらいしか出来なかった。大きさはかなり幅があるんだけどなぁ…。その後は、ひたすら食料を探していた。普段よりも多く茸が取れたと思う。

昨日は慧音が来て、里の話を聞いた。過激派がまた増えたとか。もしかしたらこのままある程度増えるかもしれないとのこと。別の考え方をすれば、押し隠していたものを曝け出しただけだとか、押し殺していたものが溜まり過ぎただけだとか。

それと、双子が産まれたことをあまり嬉しくなさそうな顔で言った。理由は『片方、見た目で出来のよくなさそうな方を捨てたから』。昔から双子は忌み子としてあまり好かれていなかったらしいのだが、今回の場合の原因はわたしだ。なんと、双子の片方、出来の悪そうな方が禍の手先扱いになったらしい。だから里の外へ捨てた。不吉だから。…きっと、既に人食い妖怪か、肉食獣にでも食われてしまったのだろう。聞いててあまりいい話じゃなかった。

 

「そうですか…」

「うん?」

 

近くにある複製がこっちに近付いてきている。これは…石ころかな?どうしてどこにでもありそうな石ころが動く?ちょっと考えて結論を出す。これが最も可能性が高いと思う。

 

「誰かこっちに来る」

「え?誰ですか?」

「…石ころを拾うような人」

「……範囲広すぎませんか?」

 

わたしだって分かってる。けれど、それ以外の情報はない。まあ、何の変哲もない何処にでもあるような石ころを拾うような人、というのは限定されると思う。多分子供。気に入ったものは石ころだろうと葉っぱだろうと何でも拾うし。

うん?少し背中がひんやりする。

 

「あれ?まどか?」

「チルノちゃん?」

「あ、おかえりなさい」

 

両手いっぱいに氷づけにされたカエルを抱えたチルノちゃんがいた。その氷の中の一つに石ころが混じっていた。ふむ、拾ったわけではなく、偶然混じってしまっただけのようだ。考えた結論が外れてちょっと悔しい。

やけに嬉しそうなチルノちゃんがその氷漬けのカエルをわたし達に見せびらかした。その数、十七匹。

 

「どうだ!このアタイの活躍!」

「うん、凄いね。だけど流石にやり過ぎ…」

「どうせだから食べましょうか」

「え!?食べちゃうんですか!?」

 

梅雨時にちょっとだけ食べたときはそれなりに美味しかった。鶏肉みたいな味だったと思う。

チルノちゃんが氷漬けにしたカエルはかなりの大きさで、食べることが出来そうな部分は多そうである。

 

「新鮮なら生で食べれると思うけれど…」

「な、生…」

「えー、アタイのカエル食べるの?」

「そっ、そうだよねチルノちゃん!チルノちゃんのだし食べちゃうなんて」

「美味しそうだからいっか!」

「チルノちゃーん!?」

 

チルノちゃんから承諾を得てから、氷漬けカエルを一つ割る。中から出てきたカエルは何とか生きている様子。悪いとは思うけれど、首をもぎ、指で腹を裂き、中の内臓を取り除く。脚をビクビクともがいていたが気にしない。

 

「うっぷ…」

「大ちゃん、気持ち悪いなら見なくてもいいんですよ」

「あ、もしかしてビビってるの?」

「はいはい、チルノちゃんは勇敢ですねー」

 

嫌悪感を抱くのは人それぞれ。些細なことや強引なことで嫌うことなんてよくあること。カエルの解体を好き好んで見る方が少ないと思うけれどね。

皮を引っ張り、取り除く。そして湖の水を軽く洗う。ここまですると、ようやくカエルは動かなくなった。

 

「チルノちゃん、先食べます?」

「食べる!」

「ち、チルノちゃん大丈夫…?」

「大丈夫大丈夫!なんてったってアタイは最強なんだからー!」

 

そう言って一口。よく噛んで食べているあたり、普段からちゃんとそうやって食べているのだと思う。

 

「うん、いける」

「え」

「カエルが嫌なら果実がありますから、そっち食べててください」

 

そう言うとわたしが持ってきた果実を食べ始めた。非常に美味しそうに食べている。…さっきまで気持ち悪そうにしていたのに、普通に食べれるのを見ると、かなり肝が据わっているように感じる。

もう一個も同じように解体し、わたしも食べることにした。

 

「たまにはこういうのもいいよね」

「あー、美味しかった!」

「ありがとうございます、まどかさん」

「果実のこと?気にしなくていいよ」

 

残ったカエルはどうするか、と考え、僅かに溶け始めた氷を見た。しかし、その表面を流れた水滴を見た瞬間、全く関係のない事が思い付いた。

ものに触れて複製する際に流している妖力。離れていても形も含めて把握出来る複製。複製は妖力塊。つまり妖力。複製する前に流していた妖力は形を知るためだと予想していた。

そこまで考えたところで肩を揺すられた。

 

「まどかさん?どうしたんですか?」

「あ、え、大ちゃん?」

「急に黙ってしまったので心配になって…」

「ちょっとね。思い付いたことがあったんだ」

 

もしかしたら、出来るかもしれない。視覚も聴覚も失った状態で、空間を把握する方法。今度試してみよう。その前に誰かに聞いてもらった方がいいかな?慧音、妹紅さん、パチュリー。この三人の中で、確実の会えるのはパチュリーだ。明日の予定は決まった。

 

「まどかー、もっと食べたいぞー」

「いっそのこと全部食べちゃいます?」

「そうする!」

「…美味しいなら、一匹くらいなら食べてみようかな」

「お、大ちゃん頑張れ!」

 

残った十五匹のカエルはわたしの手によって解体され、三人のお腹の中へ入った。気味悪がっていた大ちゃんが七匹も食べていたことにはちょっと驚いた。そんなに美味しかったかな?

 


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