東方幻影人   作:藍薔薇

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第8話

「ここ何処…?」

 

わたしは現在進行形で紅魔館という迷宮を彷徨っている。どうしてこうなった…。

あの大図書館に行くときは、咲夜さんに付いて行ったのだが、帰りはわたし一人だけだ。しかし、道順は覚えていたのだけど…。

そもそも、大図書館から出たときに見える壁が記憶とは全く違っていたのだ。きっと、襲撃によって破壊されたのを修理する際に、周りの壁もまとめて改修したからだと思うけれど。だけど、あまり気にせずに記憶にある道順を沿って歩いていた。

その結果、目の前に壁が現れた。つまり、壁ごと改修したついでに、通路を改築したのだろう。

なので、記憶を頼りにするのを諦めて、思いつくままに歩き続けた。右へ曲がり左へ曲がり階段を上りまっすぐ進み左側に見えた階段を降りて――。

かれこれ3時間は歩いていると思う。何だか薄暗いところに着いてしまった。少し寒気がする。目の前には左右に分かれた通路。とりあえず、通路を左に曲がる。

 

「鉄格子…いや、扉だ。これ」

 

目の前にかなり陰湿な扉があった。扉には、錆びついて少しこげ茶色に変色した鉄格子まで付いている。何が入っているんだろう…。

すると、扉の向こうからガサガサと音が聞こえた。つまり、中に動くものがあるということだろう。

もし喋れる人ならば、ここから出る道を知ってるかも…、いやないかな?改築されてたし。けど、地下道からの脱出口とかがあるかもしれないし…。

わたしは扉に近づく。鉄格子に付いている南京錠は、掛け金が錆び、朽ち果てて取れてしまっている。他に施錠されているものは見当たらない。

とりあえず2回ノックをする。かなり低くて曇った音が通路に響く。

 

「………だぁれ?」

 

中から幼い女の子の声が聞こえてきた。え?幼い女の子?どういう事だろう…。何だか猛烈に嫌な予感がする。

恐る恐る扉を開ける。お、重い…。

開けた瞬間、腐った肉のような臭いが鼻に入る。鼻をつまみつつ、部屋に入ることにする。お邪魔します…。

内装は、まともなものは赤黒いカーペットだけ。他にあるものはどれもこれも壊れてしまっている。お腹から爆発したようなぬいぐるみ、脚の折れた椅子、天板が破裂した机、粉砕された壺――。

そんな中、破裂したぬいぐるみに抱き着いている小柄な少女がいた。その少女は、真紅を基調とした半袖とミニスカートを着ている。濃い目の黄色い髪をサイドテールに纏め、ナイトキャップを被っている。病的なまでに白い肌。血を流し込んだような真紅の瞳。背中には、七色の結晶のようなものがぶら下がっている不思議なもの。

そして、歪なまでに歪みきった、狂気しか感じさせない笑み。

ヤバい。見ただけで分かる圧倒的なプレッシャー。体が委縮して、脚が震える。頭の中にある警報がガンガン鳴っている。

 

「生きた餌を見るのは初めてだなあ…。しかも私そっくり」

「え、餌…?」

 

声まで震えきっている。対して、あちらはかなり嬉しそうだ。言葉をそのまま受け取れば、わたしはあの幼い少女に食べられてしまう、ということだろう。もしかしてこの少女…、

 

「…吸血鬼……」

「あ、知ってるの?おねーさん。そうだよ。私、吸血鬼」

 

拝啓、信愛なる慧音先生。わたしは本当に吸血鬼に会ってしまったようです。

絶望感しかない。事実を認めたくない。このまま死にたくない。なら、何とか生きる道を探さないと…。逃げる…、は無理。吸血鬼の身体能力から逃げ切れるとは思えない。

とりあえず、友好的に挨拶でも。時間を稼がないと。考えるための時間を。

 

「こんばんは。わたしは鏡宮幻香と言います。あなたは?」

「え?私、フランって言うの。フランドール・スカーレット」

「そうですか、よろしくお願いしますね、フランさん」

「うん、美味しくいただくよ、幻香」

 

駄目だ。時間稼ぎにもなりそうにない。

すると、フランさんが突然腕を組んで、口を開いた。

 

「このままじゃ大きくて食べにくいなあ…。どうしよう…」

 

どうやら、私の食べ方を考えてるみたいです。この隙に生き抜く道を模索し――。

 

「そうだ!とりあえず解体(ばら)そうかな!」

 

そう言って開いていた右手を勢いよく閉じた。瞬間、わたしの右腕が爆散した。痛みは感じない。

 

「へ?――ァァァアアアアアア!」

 

しかしすぐに、これ以上の痛みがこの世に存在するのか?と疑うほどの激痛が全身を走り、床にのた打ち回る。咄嗟に左手で右腕を抑えようとするが、その右腕があるべき場所になかった。何処かに吹き飛んだのかと思い、涙で歪んだ視界で辺りを見回すが、何処にも見当たらない。

 

「あー、ちょっと強すぎた。これじゃあ肉塊も残らないや」

 

そんな呑気な声が部屋に響く。とりあえず右腕を探さないと…。いや、それより創ったほうが早そうだ。

迸る涙を左腕で拭う。腕に付いていた血で顔が赤く染まったが、気にしていられない。目を見開き、目の前で笑っているフランさんを見詰める。

 

「そんなに見詰めてどうしたのー?――へ?私?」

 

そして、創る。わたしは生き物の複製は出来ない。しかし、似たようなものなら創れる。人間なら、凄く似ている人形みたいなもの。花なら、瓜二つの造花になる。今回もその例から外れることなく、生きていない人形のようなフランさんが出来る。

当然現れた自分自身にそっくりなものに驚いたようだ。目が真ん丸。しかし、そんなことはどうでもいい。創り出した彼女の右腕を切断する。切断面は、筋肉や血管などなく、肌と同じ色をしている。切り取った右腕は、長さ重さ共にわたしのものに足りていない。が、知ったことではない。失われた右腕の代わりに、血が流れて続けている右肩に無理矢理ねじ込みつつ、妖力で止血。相当痛いが我慢し、右腕に妖力を流して、動くか確認。よし、動く。痛みも大分引いた。残った彼女は妖力として回収する。

フランさんが、何やらはしゃぎだした。興味深いものを見る目でこちらを見る。

 

「うわー!腕治したよ、おねーさん!凄いなー!これならおねーさんずっと食べられそう!」

「残念ですが食糧問題解決は出来ませんよ」

 

そう返すと、露骨に残念そうな顔を浮かべる。口を尖らせても「つまんないー」って言われても、無限食料は出来ないんです…。

とりあえず、原理は分からないけれど、右腕が爆発したのは、フランさんの能力だろう。ものを爆発させる程度の能力とか、ものを破壊する程度の能力とか、そんな感じだと思う。右手を握ったら爆発したから、その行動が発動条件だろう。確実ではないけれど。

けど、相手能力なんか今はどうでもいい!とにかく今は生き抜く方法、せめてわたしが死なないようにする方法――。

 

「あ…」

 

思わず声が漏れる。あるじゃん。最近やったばっかりじゃん。なんで忘れてたんだろう。

死なない決闘。スペルカードルール。

これに賭けるしかない。あとは運に任せるのみ!

 

「あ、あのですね?実は餌になるために来たわけじゃないんです」

「えー、そうなのー!?」

「ええ、そうです。今日は貴女に新しい遊びを教えるために来たのです」

 

フランさんは、今まで話した感じだと精神年齢は相当低い。年齢は知らないけど。なら、遊びという言葉に少しは反応があると思うけど…。

 

「え?新しい遊び!?本当?」

 

かかった。後は、長所を強く見せて短所はうまく隠すか、長所のように聞こえさせる。ついでに、自分に都合のいいように少しだけルールを言い換える。

 

「はい。今、幻想郷で大流行の遊びです。その名はスペルカードルール」

「どんな遊び?」

「基本は1対1の決闘。お互いの得意技などを使ったスペルカードを見せ合う美しさを重視した決闘です」

 

フランさんは黙って聞いている。早く続きを、と目が言っている。

 

「ですが、相手を怪我させないというのがルールにあります」

 

本当は、不慮の事故は考慮しないみたいなことが書いてあるけれど、基本は怪我させないものだ。なら、このぐらいの言い換えは問題ないだろう。

チラリとフランさんを見る。少し不満そうな表情を浮かべる。部屋の内装や彼女の能力と思われるものから予想するに、かなりの破壊魔だと思う。このルールはやっぱり不満だったかな。

 

「えー!つまんないよそんなの!」

「ですが、何度も遊べるってことですよ?」

「ん…うーん……」

 

フランさんが腕を組んで考え始める。たぶん、スペルカードルールがいいのかどうかを考えているんだろう。

破壊出来ないから、何度も遊べると言い換えることで、短所を長所にすり替える。何度も食べれるかもということに興味があったみたいだし、長く使えることに興味を持つと思った。

長い間考えていたフランさんだけど、結果が出たみたいだ。

 

「うん、面白そうだね!その遊び!」

「ええ、とても面白いですよ。じゃあ、詳しいルールを説明しますね」

 

 

 

 

 

 

「うん、大体分かった!じゃあ、今からやろう!」

 

説明が終わったらすぐにそう言った。だけど、それは無理。そもそも弾幕の威力調整が出来ると思えないし…。

 

「それは、また今度にしましょう。相手が傷つかない弾を撃てないといけませんし。わたし、この右腕は応急処置で完全に治ったわけではないですし」

「うーん…、こうなるならしなきゃよかったかも」

「一ヶ月あればちゃんと治ると思うので、そうしたらまた来ますよ」

 

まあ、治せる人を知っている人を知っているだけだけどね。

 

「うん、分かった!約束だよ!」

「はい」

 

ふぅー……。助かった。

フランさんは早速弾の威力の練習をしている。的にされている破裂したぬいぐるみがかわいそうだ。スペルカードも考えているのか、何やら炎を纏ったごつい剣を取り出したり、四人に分裂したりもしている。ていうか、フランさん、わたしみたいな能力もあるの?けれど、わたしと違って生きている複製。一個体ごとに意思があるように見える。少し、羨ましいな…。

とりあえず、ここから出よう。

 

「それでは、また来ます」

「あ!またね、おねーさん!」

 

無邪気な笑顔を浮かべて大きく腕を振っている。わたしは軽く微笑んで扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

さて、生きて出てこれたことはいいけれど、帰り道が分からない。

そう思っていたら、近くから足音が聞こえてきた。おそらく一人。誰だろう。

 

「あ、そっくりヤロ……ん?お前右腕縮んだ?あとその血痕」

「名誉の負傷ですよ」

 

霧雨魔理沙さんだった。右手にはとても長い縄を持っていて、後ろの通路に続いている。どうしたんだろう。この奥にはフランさんしかいないと思うけれど。

今のわたしの右腕は、フランさんの複製だ。左腕より明らかに短いし、肌の色が違うように見えるだろう。霧雨さんの肌は健康的な肌色だが、この右腕は病的なまでに白い。違和感もあるだろう。

すると、霧雨さんが口を開いた。

 

「そういや、このあたりでフランドール・スカーレットってのを見なかったか?」

「ええ、会いましたよ。そっちの通路の左側の扉の向こうです」

 

そう言うと、すごく嫌そうな顔を浮かべた。

 

「まさかその血痕、フランドールに?」

「大丈夫ですよ。貴女は怪我しませんって」

 

さっきスペルカードルールを教えたばかりだ。そして、すぐに遊びたがっているフランさんなら、怪我をする要素はほとんどない。と、思う。

 

「そうか…?ならいいんだが」

「それより、ここから安全に出たいんですが…」

「あー、十六夜が全部改築したって言ってたしなあ…。ならこの縄辿ってけ」

 

そう言って縄を渡してくれた。そして「持ってくなよ?」と釘を刺される。大丈夫ですよ、持っていきません。

 

「ありがとうございます。霧雨さん」

「ああ、それじゃあな」

 

霧雨さんと別れて、縄の横を歩き続けること一時間。やっと玄関が見えてきた。良かった…。

そのまま紅魔館を出て、宙に浮く。早めに慧音に会いにいかないと…。

 


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