東方幻影人   作:藍薔薇

85 / 474
第85話

『幻』展開。最遅から最速まで、十段階の速度の直進弾用、追尾弾用を各二個ずつ。計四十個。わたしの両側に二十個ずつ綺麗に並べているから、見た目もそれなりによくなったと思いたい。

 

「怪我も気絶もなしですよ。案内出来なくなりますから」

「分かってる!おねーさん、私がそんな加減を誤る子に見える?」

「見えます。『間違えちゃったっ!』って言いながら紅魔館の庭を壊滅させたのはどこの誰ですか…」

「むー…。反省したからいいじゃん!」

「庭の整備、結構大変だったんですよ?ま、反省してるならそれでいいかな」

 

レミリアさんと名前も知らない妖怪兎へのちょっとした不満はあるようだが、それ以上のものが溢れそうな気配はない。つまり、必要以上の破壊が起こる危険性は低い。きっと大丈夫だろう。

それに、目的地である永遠亭は病院だ。ちょっとくらい怪我しても、生存していれば何とかなりそうである。腕を一日で生やすようなところだし。

 

「がー!何かもう勝ったような言い方!」

「ええ、正直負ける気がしませんね」

「私一枚使うから、おねーさんはもう一枚使っていいよ!」

「分かりました。それじゃあ、楽しみましょう。きっと楽しい遊戯になりますよ」

「最早遊び感覚!」

 

何を言っているんだ。元々スペルカードルールは遊びだ。楽しまないでやるなんて…よくあるな。霧の湖で遊ぶときは結構楽しんでるけど。しかし、そんな特殊なのはわたしくらいだろう。

 

「兎符『ラビットカリキュレーション』!」

 

そう宣言した妖怪兎から放たれたのはたった一つの真っ白な妖力弾。大きさはそれなりにあるが…野生の兎くらいかな?まあ、ラビットって言ってるし、そのつもりなのだろう。しかし、カリキュレーションって何?そんな難しい英語、慧音は教えてくれなかったよ。

 

「あ、跳ねた」

「ちょっと可愛いかも」

 

重力に従った山なりの軌道を描き、地面に接触。そして、まるで兎の如く跳ねた。跳ねたときにわたしのほうへ軌道を変更したところから、追尾型妖力弾と予想出来る。

 

「けど、たった一個じゃなぁ…」

「…!おねーさん!」

「え?…うわっ!増えた!?」

 

フランさんの驚愕した声を聞き、咄嗟に周囲を見渡すと、さっきまで一つだった妖力弾が六つに増えていた。そして、ニヤニヤと笑っている妖怪兎の顔がむかつく。

 

「ま、気にせず撃墜させますか」

「了解!えりゃっ!」

「ギャー!?ちょっと多くないかな!?」

 

いいえ、これでも普段のフランさんです。どんなに妖力弾の数が多くても、きちんと間隔が揃った美しい弾幕を放てるのはちょっと羨ましい。『幻』はそれなりに努力して、現在は四十五個までなら安定して使える。頑張った、わたし。しかし、統一性とか、規則性はまだあまり出来ない。そんなことすると弾幕が薄くなるって考えると、何だか努力する気が失せてしまうのだ。

 

「ん?また増えた…?」

 

いつの間にか、相手の妖力弾が三十を超えていた。数えてみたら三十六個。…あ、また増えた。その三十六個全てから五つの妖力弾が零れ落ちる。そして、同じように地面を跳ねる。

…ちょっと待て。ここまで十秒に僅かに満たないくらい。増えたのはおそらく三回。つまり、約三秒に一回増えている。スペルカードの時間は三十秒。つまり、九回増殖する。一回で六倍に増えてるから、六の九乗。つまり………――、

 

「せ、千万!?」

「な、何!?おねーさん、急に大声出して!」

「うげっ!バレた!?」

 

その数なんと一〇〇七七六九六!まずい!さっさと打ち消さないと!

 

「けどもう遅い!ほらほら、もう千を超えたよ!」

「しょうがない、殲滅ですね」

 

打ち消しても、三秒で六倍に増えてしまう。僅か三秒で一二九六個を打ち消せるとは思えない。なら、こうするしかないよね?

一気に急上昇し、地面を見下ろす。妖怪兎も、フランさんも、弾幕も全て視界に収まるこの位置なら問題ない。

 

「鏡符『幽体離脱・滅』」

「ウサッ!?どっ、どうして…!」

「隙あり一撃!」

 

その油断が隙を生む。フランさんの放った一撃は、確かに妖怪兎の胴体に被弾した。ここから見た限り、服も破れていないようだ。ちゃんと加減出来ているようでよかった。

 

「ナイス、フランさん」

「おねーさんならそうするって思ってた!」

「フランさんならその隙を狙ってくれるって信じてましたよ」

 

フランさんの元へ降り立ち、お互いの手を合わせる。

 

「うぅ…、何で急に消えたの…。それに全部…」

「落胆してるとまた当たりますよ?それで貴女は負けますが」

 

地面に膝を打ち、その両手も地面に付けて四つん這いになっている妖怪兎に容赦なく妖力弾を放つ。しかし、流石兎と言ったところか、勢いよく跳躍して回避して見せた。これで終わったらつまらないので、これでいいのだが。

 

「ねえ、おねーさん」

「何ですかフランさん」

「壁、お願いね?」

「…ああ、分かりましたよ」

「ならよろしく!禁弾『カタディオプトリック』!」

「ま、好きなように放ってください。ちゃんと当てますから」

 

フランさんが放つ五つの妖力弾。その妖力弾の後ろを付いてゆく中、小の妖力弾。その全てが確かに妖怪兎へと迫る。

 

「そんな愚直な弾幕、当たらないよ!」

「そうですか。じゃあ、背中に目を付けて出直してください」

「え?――うぎゃっ!」

 

避けられた妖力弾のうち、一つの軌道に竹を一本複製した。竹は円柱なので、ちょっと不安だったけれど、ちゃんと思った方向へ跳ね返ってよかった。

禁弾「カタディオプトリック」。壁にぶつかると跳ね返る弾幕を放つ、閉鎖空間で真価を発揮するスペルカード。しかし、ここは両側に竹があるとはいえ、それなりに開けた通路。地面はあるが、上空は偽物の月が輝く夜空が広がっている。普通ならそのスペルカードは半分の威力も出せないだろう。

だが、わたしの複製能力があれば違う。その弾道に、壁を複製すればそこで跳ね返る。規則的に反射するはずの妖力弾も、一瞬で不規則になる。それに、わざわざ壁でなくてもいいのだ。ある程度硬い物なら、石ころだろうと跳ね返る。そして、そこら中にある竹は十分な強度を持っている。

あちらは二回被弾した。つまり、わたし達の勝利だ。

 

 

 

 

 

 

「さ、案内してもらいましょうか」

「ちぃっ!絶対にしてやるか!私は逃げ――」

「知ってた。だから逃がさない」

 

妖怪兎を囲むように竹を複製する。その隙間は、たとえ兎になろうと通れないほど細い。そして、竹は円錐状に複製したので上から抜けることも出来ない。

 

「うわっ!また急に…!」

「はい確保」

 

驚いて動きを止めている隙に、竹を一本回収しつつ右手で首根っこを掴む。そして、左手で妖怪兎の服を複製し、フランさんへ手渡す。使い方はすぐに伝わったようで、捻じって紐状にし、それなりの強度になったものを後ろ手に縛る。

 

「捕まったー!それもアッサリ!」

「さ、案内してください」

「ねえ、私達が勝ったんだからいいでしょう?約束は守るものなんだよ?」

「約束は破るも――」

「ならわたしも約束破って腕の二本や三本くらい引き千切りましょうか」

 

出来るだけ感情を殺し、普段よりも数段低い声を出して脅す。正直、こういうのはあまり好きじゃないけれど、コイツから案内するという意思は一切感じられなかった。

 

「え、おねーさん…?」

「冗談ですよ。怪我はさせない。ましてや腕なんか引き千切らない。けれど、約束を破るなら、フランさんならどうします?」

「約束破ると、お姉様は私を部屋に閉じ込められるからなー…。どうしよ」

「同じように地面にでも埋めて閉じ込めます?」

「…いいのかな?それって」

「じゃあ紅魔館に持ち帰ってフランさんの部屋に同じように閉じ込めるとか」

「今から戻るなんて嫌」

「ですよねー」

 

フランさんとこの妖怪兎への対処を話していたら、急に暴れ出した。逃げないように力をより強く込める。

 

「分かった!案内する!するから首離して!さっきからどんどん強くなってるから!」

「嫌」

「即行拒否!?」

「だって離したら逃げるじゃん」

「逃げない!約束は守るから!だから離して!」

「…しょうがないなー」

 

首から右手を放す。

 

「ハハー!馬鹿め!今度こそ――」

「知ってた。だから逃がさない」

 

左手に複製しておいたナイフを首元に押し当てる。息を飲むような音が聞こえたけれど気にしない。

 

「さ、案内してください。ね、いいでしょう?」

「………はい…」

 

ナイフを離すが、もう逃げるつもりはなさそうだ。安心して付いて行くことにする。

これで永遠亭に無事に到着出来るはずだ。よかったよかった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。