東方幻影人   作:藍薔薇

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第9話

チルノちゃんたちの上を飛んでいたら、こちらに手を振ってきた。手を振り返すけれど、弾幕ごっこはまた後で。悪いけれど、今は急いでいるんだよ。ごめんね。

途中で本とか布団を置いてきたことを思い出して少し悲しくなりつつ飛び続けること1時間、人間の里に到着した。もうかなり暗くなってきたけれど、非常事態だ。慧音の家の扉を乱暴に叩く。

 

「慧音ー!今いるー!?」

 

…返事がない。いつもならすぐ返事が返ってくるのに、どうしたんだろう…。

里の中を走り回って探し出す。片腕が軽くなっていてすごく走りにくい。里には人間がちらほら歩いていた。普段なら話しかけたりなんかしないけど、すれ違う人全員に慧音を見たかを聞く。ほとんどの人に逃げられたが、二人の少年が、迷いの竹林へ行ったのを見た、と言った。気づいたら、既に太陽は沈みきり、月明かりが里を照らし始めた。

とても美しい、満月だった。

 

 

 

 

 

 

迷いの竹林を走り続ける。少し慣れてきたのか、里で走っていた時よりも速度が出ている気がする。

 

「慧音ー!どこいるのー!」

 

走りながら叫び続けること数十分、未だに返事がない。もしかして、あの少年達嘘ついた?

そんなことを考えていたら、視界に人影が写る。あちらもこちらに気付いたようで、わたしに歩み寄ってきた。

 

「おお、幻香じゃないか。どうした?」

「妹紅さん!」

 

藤原妹紅。慧音の友人だ。その彼女がわたしの右腕の異常に気付いたのか、怪訝な顔を浮かべる。

 

「どうした、その腕?」

「そのことで慧音を探してるんです。確か、何でも治せる医者を知っているって言ってたから」

 

そう言うと、露骨に嫌そうな顔をして、頭を掻き始めた。何か嫌なことでもあるのかな…。

 

「あー、私も知ってるが…」

「ほんとですか!?何処なんです!?」

「………まあ、仕方ないか…。慧音は今忙しいからなー…」

 

なんと。今、慧音は忙しいらしい。けど、代わりに妹紅さんがそこに連れて行ってくれるみたいだ。優しいなあ…。けど、そこにあんまり行きたくないのかな?かなり嫌そうな顔浮かべてるし。

 

「ほら、こっちだ」

 

迷いなく竹林を歩き出す。相当早い。

 

「ま、待ってくださいよー!」

 

 

 

 

 

 

凄く古そうな屋敷の門の前に着いた。けどこの屋敷、まるでさっき建てたばかりみたいに綺麗。なんとも不思議な外観だなあ…。

 

「ほら、着いたぞ。じゃあ、私はこれで」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

妹紅さんは、着いてすぐに帰ってしまった。ここまでの道のりがなかなか複雑で、ちゃんと帰れるか不安だけど、屋敷の人の誰かに帰り道を案内してもらおうかな。

とりあえず、中に入らせてもらう。お邪魔します。

庭に、妖怪兎が少しいた。こちらを見てすぐに何処かに行ってしまう。おおう、動物にも嫌われるわたし。まあ、妖怪ですけどね。

そのまま館の敷居を跨ぐ。目の前には長い長い廊下。向こうの壁が見えない…。とりあえず長い廊下を歩く。すると、近くから足音が聞こえた。とりあえず、中には誰かがいるようだ。その足音のほうに近づくように廊下を歩く。

少し歩くと、その足音の正体の背中が見えた。その髪の毛は明るい紫色で、頭には長い兎の耳がある。多分、妖怪兎だと思う。とりあえず声をかけよう。

 

「こんばんは」

「うわっ!誰ですか!いきなり」

「すみません、ここに医者がいると聞いて来たのですが…」

「医者?あー、お師匠様のことね。付いてきて」

 

そう言うとすぐに歩き出してしまう。このままだんまり付いて行くのもつまらない。何か話すことってあるかな…。あ、自己紹介してないや。

 

「わたしは、鏡宮幻香です。あなたは?」

「え?私は鈴仙・優曇華院・イナバ。鈴仙でもうどんげでも好きなように呼んで」

 

凄い長い名前だ。うどんげさんって言いやすそうだし、そう呼ぶことにしようかな。

 

「そういえば幻香さん。私とそっくりですね」

「あー、そういう妖怪ってだけです」

 

そのまま容姿について軽く説明をする。すると「面白いですね」と笑われてしまった。笑い事じゃないよ。見られるたびに逃げていく人間が多いからこっちはかなり困るんだ。

そんなことを考えていたら、いきなりうどんげさんが私をジロジロ見始めた。

 

「うーん…、何処を怪我しているんですか?右腕が短いようですが…」

「その右腕ですよ。ホラ」

 

そう言って、右腕を妖力として回収する。すると、ギョッと目を見開いて、右肩を凝視した。でしょうねー。急に右腕が消失したら誰でも驚くだろうし。まあ、どうせ医者さんの前で消すつもりだったんだ。それが少しだけ早くなった、それだけ。

 

「右腕の欠損…」

「はい、おかげで動きづらくて」

 

呟くような言葉に、出来るだけ明るく返す。しかし、うどんげさんの表情はかなり深刻だ。そして、口早に質問を重ねた。

 

「まず、いつ欠損しましたか?場所は?原因は?傷口はどのようになっていましたか?既に止血してあるみたいですが、止血作業はどのように?後――」

「うわー!ちょっと多いですよ!少しずつ話してくださいうどんげさん!」

「あ、すみません…。つい」

 

そんなに一気に質問されても答えられない。けれど、とりあえず聞かれたのは答えることにする。

 

「まず、右腕爆破から1日経ってないです。場所は紅魔館の地下で、原因は多分フランさんの能力。傷口は…見てません。止血は妖力で無理矢理」

「え、爆破?」

「はい、内側からボンッ!って」

 

急にうどんげさんの顔色がサーッと青くなる。想像でもしたのだろうか。あれ、凄く痛かったなあ…。

 

「まあ、次。その時の衛生環境は?」

「さあ。その場ですぐにやったので」

「多分、あんまり良くないわね…」

 

あの状況で消毒できる人はすごいと思うけど…。わたしには出来ないね!

その後も幾つか質問されながら歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

うどんげさんが急に立ち止まった。

 

「と、着いたわよ。お師匠様の診療室」

「ここに医者さんが?」

「ええ、お師匠様ー!患者さんですよー!」

 

そう言いつつ扉を開ける。中には一人の女性がいた。真っ白な髪の毛に青色の帽子に赤い十字架が描かれた帽子、左右で赤と青にキッチリ分かれたかなり特徴的な服を着ている。この人が医者さん?

 

「どうしたの優曇華?…それが患者?」

「はい、お師匠様」

「そう。じゃあ、こちらに座って頂戴」

「あ、はい」

 

医者さんの前の丸い椅子に座るように促されたので、座らせてもらう。不思議な触感だ。どんな素材なんだろう…。

 

「さて、怪我はその右腕の欠損?」

「はい、そうです」

「じゃあ、軽く触診するわね」

 

そう言って右腕に触れる。かなりむず痒い。医者さんが眉をしかめる。

 

「…かなり乱雑な処置ね」

「あー、その時は殺されかけていたので」

「そう。大変だったわね」

 

そんな会話をしながらも、診察が続く。よく分からない道具を使うこともあった。

 

「ふう、大体分かったわ」

「この腕、治りますか?」

 

すると、医者さんの表情が変わった。

 

「…治すわ。私の医者としてのプライドをかけて」

 

そう言う医者さんの表情は真剣そのもの。すぐにうどんげさんに何やら指示を出した。「はいー!」と言いながら、慌てて部屋を飛び出していった。そして医者さんはわたしのほうに向き、何処からか棘の付いた透明の筒状のものを取り出た。そのままその筒状のものをわたしの首筋に突き刺した。

 

「痛ッ!…あれ?視界が…」

 

しかいがぼやける。まるできりがかかったみたいだ。なんだかあたまもはたらかない。それに、とっても、ねむくなってきた。なんで、だろ、う………。

 

「目覚めたときには、ちゃんと治して見せるわ。安心して眠りなさい」

 


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