「ソノコ ヲ 放シナサイ!!」
新たに背後より聞こえた声にサウロンが振り返ると、彼が左手に抱える幼子と姿形も
肌の色もよく似た女性が艤装を展開し、彼を睨みつけていた
だが今抱える幼子と同じく、彼女も全身に生々しく決して浅くない傷を作り
苦しそうな呼吸を繰り返し、その展開した艤装もボロボロに朽ちており状態で言えば
“轟沈寸前”である
(ほぉ、この幼子と同じ気配をこの者にも感じる 内に秘めたる力も劣らずのようだ)
彼は腕に抱く幼子と目の前で大事な妹を取り戻すべく威嚇を行う彼女を交互に見やり
その内に隠された力を見抜いていました
恐らく自らに向けられている鉄の筒より火薬を用いた類の攻撃を行うのであろうことも感じ取り
彼が以前いた
「ソノコヲ…ホッポヲ放シナサイ!!…サモナイト……ウゥッ!」
睨みつけていた彼女は苦痛に顔を歪め、脇腹を抑え膝を付きました
展開していた艤装も消え、深く荒い息を繰り返しています
状態から相当な無理をしていたようですが、彼の腕の幼子と同じく
生命の限界を迎えたようです、右手で抑える脇腹からは鮮血が流れ出しています
「オネガイ…私ハドウナッテモイイカラ…ソノコダケハ……ッッ!!」
己の消えゆく命など顧みず、彼の腕に抱かれる幼子を救わんと震える左手を向けてきます
(この世界、そしてこの者達の存在・・・・益々もって面白い・・・フフフフフ)
彼は転生せし新たな世界に益々持って湧き溢れ抑えられぬ好奇心に僅かに笑みを浮かべました
そして右手に握られた槌を幼子に向け再び振り上げました
「ヤメテエエエエエエエエッッ!!!!!!」
それを見た彼女は悲痛の叫び声を上げ、立ち上がろうとしましたが最早限界など既に
超えている彼女の体は意思に反し言う事を聞きませんでした
「安ぜずともよい、生命を奪う気など無い」
彼の右手に握られし槌が幼子に振り下ろされました
その瞬間、眩い光が発せられ幼子を包み込みました
膝を付く彼女は溢れる光に一瞬目を閉じましたが、ゆっくり目を開けその光景を見つめました
(暖カイ・・・ソシテ何テ優シイ光ナノカシラ)
陽の光も届かぬ暗き深海を根城とする彼女達、深海棲艦は日中の海上でも活動出来るとは言え
基本は陽の光を嫌い、その活動も夜中若しくは日光を遮る悪天候の時等が多く
又、その秘めたる力を大いに振るうことが出来るのです
しかし今その幼子を包み込んでいる光は激しさも光独特の痛々しさも全くなく
只々優しく不思議と懐かしさを感じさせました
そして光が収り幼子を見ると、体中にあった傷は消え弱々しかった息遣いも穏やかになり
潰えようとしていた生命の鼓動も力強く脈打っているのを感じました
「・・・・・・・ポ・・・?ココハ・・・ドコ・・・?」
意識を取り戻し、目を覚ました幼子は周りをキョロキョロと見回しました
「オ前ハダレダ・・・?アレ?オネエチャン??」
自分が抱き上げられている事に気付くと同じく、目の前にいる姉の存在にも気付きました
「ホッポ!!・・・・クウゥッッッ!!!!」
目を覚ました妹に安堵と歓喜の表情を浮かべましたが襲い来る激痛に再び顔を顰めました
「オネエチャン!?オネエチャン!!!クソッ!離セ!!オネエチャンガ!!」
ジタバタと暴れサウロンの腕から抜け出した幼子は姉へと駆け寄りました
「ホッポ・・無事デヨカッタ・・・・」
彼女は妹を抱きしめ涙を溢れさせました
「オネエチャン・・酷イ怪我・・・アイツ等!!ホッポダケジャナク オネエチャンマデ!!」
「大丈夫・・大丈夫ヨ・・コレクライ何デモナイワ・・・・貴方が治シテクレタノ?」
姉の状態を心配する妹の頭を優しく撫でながらサウロンを見上げました
「アリガトウ・・コノコヲ助ケテクレテ・・ソノコハ・・・ワタシノ大事ナ妹ナノ」
彼女は妹を救ってくれた彼に感謝の意を述べました、先程まで向けていた敵意は既にありません
「ポ?オ前ガホッポヲ・・?」
キョトンとした顔で幼子もサウロンを見上げました
「ダメヨホッポ・・・・助ケテクレタ人ニ向カッ「ダッタラ!オネエチャンモ助ケテ!!」」
サウロンをお前呼ばわりする妹を諌めようとした姉の言葉を遮り幼子は彼の足元に駆け寄り
目に涙を溢れさせ懇願してきました
「ホッポヲ助ケテクレタノナラ、オネエチャンモ助ケラレルンデショ?!
オネガイ!!オネエチャンヲ助ケテ!!助ケテクダサイ!!」
ついに落涙させ、その両目を両手で覆い泣きじゃくりはじめました
彼は幼子を一瞥すると姉である彼女の側に近づきました
「其方、名を何と申す?」
彼は彼女の名を問いました
港湾「・・・ワタシノ名ハ・・・港湾・・港湾棲姫ト呼バレテイルワ・・・アノコハ北方・・北方棲姫・・」
彼女、港湾棲姫は自分と妹、北方棲姫の紹介をしました
「港湾棲姫、汝は己の救命を望むか?」
暗き御座の冥王は港湾棲姫に訪ねました
港湾「・・・・・・・ワタシハ・・・」
港湾棲姫は目を泣き腫らし自分を見つめる妹を見やりました
先程垣間見た妹を救った奇跡を思い出し、そして眼前の彼から感じる神秘の力に
諦めていた己の生命が再び火を灯しました
港湾「助ケテ・・・ワタシハ・・・生キタイ!!」
「良かろう、汝の望みは今叶えられた」
冥王の右手に握られし槌が港湾棲姫に向け振り下ろされました
(よもやこの“技”と“力”を使う日が来ようとは・・・メルコール様に仕えて以来か?)
彼が右手に握りし純白に青の美しき細工を設えた槌
それは
かの
かの者はヴァラールの一柱、偉大なる工人アウレに仕える
アウレに仕える者達の中でも特に秀でており教える業の全てを吸収し
アウレの仕事を大いに助け、またアウレ自身も彼を深く愛しておりました
その遥か古の時代、アウレ直々により賜ったのがこの槌なのです
(駄目元で試しはしたが、この力も再び使えようとは思わなかったが・・・)
白と青の入り交じた聖なる“
節々の激痛は消え、鮮血は止まり全ての傷が見る見る塞がり力が溢れるのを感じました
(私ノ体ガ・・・全テガ・・・癒サレテイク・・・イツマデモ感ジテイタイ光・・・)
光の波に全てを委ねながら港湾棲姫は意識を手放しました
という訳で、第三話でした。
アウレから貰った槌&癒しの能力は独自設定となっております
次話も来週中に執筆できれば良いのですが・・・・(-∀-`; )